剣聖と近衛騎士が模擬戦をすることになりました
な、なんで、皇太子がここにいるのよ!
私は叫びたかった。
それにあいもかわらず、歯の浮いた台詞言ってくれているし。
ここにいるということは碌なことではない気がする。
「お会い出来て光栄ですわ」
私は理性を総動員して、言ったのだ。
顔がひきつっていたと、後でトムが言ってくれたけど、そんなの当たり前でしょ!
皇太子は手を差し出してきたんだけど……
ええええ! 私をエスコートしてくれるって言うの?
こんなの他の貴族令嬢達に知られたら、なにされるか判ったものではないじゃない。公爵家から追い出された私と政略結婚しても仕方がないし、何がしたいんだろう?
一番考えられるのは、美人局だ。初な私に優しい言葉をかけて、騙して婚約させて、ゲームのように婚約破棄。私を公爵家に引き渡して、公爵家に恩を売って、そのついでに今売り出し中の傭兵バスターズを取り上げる。私がいなくても、皆優秀だから、帝国の1個師団くらいの役には立つ。こんなところかしら。
ゲームにはなかったけど、私は悪役令嬢なんだから、皇太子が代わっても、フラグはありそうだ。
私はムッとした。いくら箱入り娘だからって、皇太子の胡散臭い笑みには騙されないわよ!
私は咄嗟に後ろにいた、セドの手を取ったのだ。
「さあ、セド、行きましょう」
「えっ、お前は、皇太子にエスコートされたら、ギャー」
余計なことを言うセドの足を思いっきり踏んでやったのだ。
「お、お前! 後で覚えていろよ!」
「良いから、今は私をエスコートして!」
涙目で文句を言うセドに、私が襟首を掴んで引きつけて必死に頼んだのだ。
「それが人に物を頼む時の態度か?」
セドが怒って言ってくれるが、
「あなた、女の子の弱みに付け込んでそんな事言うの? 最低!」
そう涙目で言ってやったのだ。
これは効果てきめんだった。セドには良くは思われていないと思うけれど、私もオレオレ詐欺のかけ子で色々演技を磨いたのだ。いくら嫌っていても可愛い女の子の涙目は、多少セドにも効果があったらしい。
セドは眉を下げたが、
「えっ、でも、皇太子はとても不機嫌そうだぜ」
と言ってきた。皇太子がなんで機嫌が悪いか私も良く判らなかったけれど、元々この皇太子は何を考えているか良くわからないのだ。
なにか弱みを握って私からこの傭兵バスターズを取り上げるつもりなんだろう。
「前の皇太子の廃嫡に私が噛んでるから、何か仕返しがしたいのよ」
私は適当に理由を見繕った。
「本当かよ?」
「私とちゃんとやってくれたら、私に対して無礼な態度取った事を全部許すわ」
信じてなさそうなセドに、取引条件を持ち出す。
「えっ、でも、それはこの前大聖堂治すのでチャラになったんじゃ」
そうだった!
でも、ここは誤魔化すのよ!
「それはスカートの中を見たことよ」
「おい、ここで余計なことを言うな」
なんか皇太子の目が鋭く光ったのを見て、セドは私の口を塞ごうとした。私が笑ってかわす。
「その彼は誰かな? キャロライン嬢」
皇太子が鋭い視線をして聞いてきたのだ。
「彼は私の好きな人、いえ、婚約者なんです」
私は最初は彼氏だと言おうとしたが、ここは貴族社会だ。婚約者にしたほうが良いだろう。
それを聞いて皇太子が固まった。
「「「ええええ!」」」
全員ガン見で私とセドを見るんだけど、団員は皆変な顔をしている。
やばい!
ここはエイッとセドの足をまた思いっきり踏んだ。
「ギャッ」
足を抑えてセドが叫ぶ。
私は必死にセドに合図する。
「お前な! 後で覚えていろよ」
セドが呟いているが今は無視だ。それに後でなんて、都合の悪い事を覚えている訳ないでしょ!
「そんな、セドとキャロライン様が付き合っていたなんて」
涙目のエイブがいるが、ここは皇太子フラグを折るためには、仕方がないのよ。エイブには後で謝ることにして、
「殿下。彼が我が『傭兵バスターズ』のエースのセドリック・バースですわ」
私が皇太子に紹介したのだ。
「我が別荘へようこそ、セドリック」
皇太子はセドに手を差し出した。セドがそれを握る。
「私はあまり記憶が良くなくて、バースというような貴族家が、この大陸にあったという記憶がないのだが」
皇太子は何か嫌味を言ってくれた。
私はその言葉に完全にプッツン切れたのだ。
傭兵は地位名誉よりも、全ては実力なのだ。
帝国のボンボンの軍隊じゃない。
「殿下。我が傭兵団に身分は関係ないですわ。力が全てですから。彼の能力はあなたの後ろに付いているお飾りの近衛10人分以上の実力がありますわ」
やんわりと私は皇太子に言ってやったのだ。
「何だと」
「生意気な」
途端に後ろの近衛連中がいきり立つのが判った。
「殿下、その後ろの元剣聖と是非とも勝負させて下さい」
近衛騎士達が声をあげ始めたのだ。
これは良いことだ。
「良いですわよ。我が傭兵バスターズのエースが帝国の近衛風情に負けるわけはありませんから」
私は大見得を切ってやったのだ。






