皇室の別荘に行ったら皇太子にお出迎えされました
「休み、休み!」
私はご機嫌だった。
変態の屑国王は燃やしてあげたし、その後は帝国が引き受けてくれた。
なおかつ、私が燃やしてしまった宝物庫の分の補填として金貨一万枚もくれたのだ。
これほどうれしいことはなかった。
私が壊した城壁の修理はセドとエイブに任せて、私は高原のリゾート地バーミリオン湖でゆったりとリゾートを楽しむのだ。
でも、世の中はそんなにうまくいかなかった。
「お嬢。帝国の皇室からバーミリオンの別荘に招待したいって申し出がきていますが、どうします?」
帝国との交渉役のトムが振り返って聞いてきた。
「えっ、いやよ!」
私は即断した。
「でも、お嬢、帝国は今回のシュバイツ王国の尻拭いもやってくれているし、金貨一万枚も余分にくれたんだ。招待を受けるしかないんじゃないか」
トムが嫌な事を思い出させてくれた。
「ええええ! 何とかならないの? トム」
私が嫌そうに聞くと、
「まあ、お嬢様。今回は聞いておいた方が良いのではないですか」
執事のダニーまでがそう言ってくれた。
「でしょう。それに皇室の別荘滞在ならば滞在費はただだから、是非とも受けてほしいんだけど」
会計のトムの言葉は重みがあった。
いつも物を壊してばかりいる私の尻拭いをしてくれているトムの言葉は、たまには聞かないといけないかもしれない。
でも、とても、不吉な予感がする。
「判ったわ。その代わり、セドとエイブも呼び戻して。それでいいなら受けると帝国には返事して良いわよ」
私が諦めて言うと、
「お嬢、どこの傭兵部隊の長が帝国からの招待受けるのに条件付けるんだよ」
トムが文句を言うが、
「私、キャロラインが言うんだから仕方がないでしょ」
「へいへい」
私の言葉をトムがいやいや受けてくれたのだ。
「本当に、城壁修理を手伝えって言ったり、今度はリゾート地に付き合えって言ったり、人使いが荒いよな」
途中で合流してきたセドが文句を言って来た。
「まあまあ、セド。今回はキャロライン様がリゾート地で休んで良いって言われているんだから」
エイブがフォローしてくれた。エイブは私に従順なのに、本当にセドは何時も文句が多い。
昔の恩が無ければ雷撃を浴びせてやりたい気分だ。
「良いでしょ。リゾート地で遊べるんだから。それも帝国の皇室からのお誘いよ」
「お前は公爵令嬢だから良いかも知れないが、俺達は平民なんだよ。皇室関係者のお相手するなんて絶対に無理だぞ」
私の言葉にセドは反論してきた。
「口の悪いあんたに相手しろなんて言わないわよ。それに、皇室関係者って陛下にしても他の皇子も忙しいから、バーミリオン湖なんかにいないから」
「おいおい、いきなり、皇帝陛下なんて持ち出してくるなよ。俺は口を裂かれても相手なんて無理だからな」
「あんた、元剣聖なんだから、陛下にお会いしたことくらいあるでしょ」
私が言うと、
「そんな訳ないだろう。剣聖と言っても俺は孤児院出身の平民だからな。俺が会ったことあるのは帝国の伯爵くらいだ。この前の変態国王の前でも俺は静かにしていただろうが」
セドは言ってくれたけれど、昔、私と会ったことも覚えていないらしい。
「だから大丈夫だって。絶対にいないから。いても、バーミリオン湖の駐留部隊の長だから子爵クラスだって」
私はそう思っていたのだ。
まさかあいつがいるなんて思ってもいなかった。
バーミリオン湖。
帝国の中央に位置していて、分水嶺をなしているとてもきれいな湖だ。大きさは日本の琵琶湖よりもはるかに大きい。巨大湖なのだ。
湖の位置が標高千メートルを超えているので、夏などは避暑地としても有名だった。
皇室の別荘はその湖の畔に聳え建っていた。
そう、湖畔に立つ城だったのだ。
「お嬢、見えて来たぜ」
「凄い」
「デカいな」
皆驚いていた。
私はおじいさまについて一度だけ行ったことがあった。
歴史上有名なバーミリオン城だ。
白いお城で、別名白亜の城と呼ばれていた。
昔は臨時帝都の中心でもあったこともあるらしい。
今も地域の守備をしている一個師団が駐留しているはずだ。
「おい、お嬢。駐機スペースに帝国の黒い飛行船がいるぞ」
湖畔の別荘に近付いた時にトムが報告してきた。
「それは飛行船の一機や二機いるわよ。ここは帝国の中心なんだから」
何しろ帝国は世界最大国家、軍としても飛行船を20隻くらいは保有しているはずだった。
私は平然と答えたが、
「マークは二頭の龍なんだけど」
「えっ」
私は絶句した。
そんな馬鹿な。なんでこいつがいるのよ!
「二頭の龍ってどこのマークなんだ」
セドが興味本位で聞いていた。
「ちょっと、待っていろよ、調べるから」
辞典をトムが広げようとした時だ。
「皇太子殿下のマークですな」
ダニーがぼそりと言ってくれた。
「「「えっ!」」」
全員、絶句していた。
「おい、キャロライン、話が違うじゃないか!」
セドが文句を言ってきたけど
「それは私の台詞よ! トム、話が違うじゃない!」
「お嬢、俺は誰がいるかなんて一言も言っていないぞ。お嬢が、誰も皇族はいないって言うから、安心していた方だ」
トムに文句を言ったら、逆に言い返されてしまった。
『アマテラス』はゆっくりと皇太子殿下の飛行船の横に駐機する。
タラップを下った私は思わず、固まってしまった。
そこには私の元クラスメートがいたのだ。
「ようこそ、キャロライン嬢。良くいらっしゃいました」
なんと皇太子自らが先頭で出迎えてくれたんだけど……私は動揺を隠して、にこやかに笑った。
「これはこれは皇太子殿下、まさか、殿下に向かえて頂けるとは思ってもいませんでした」
差し出した手を取りつつ私が驚いて言うと、
「キャロライン嬢がいらっしゃると聞いて、何をさしおいても、お出迎えせねばと出向いた次第です」
ハルムントの歯の浮くようなセリフに私の頬はひきつっていた。
ここまで読んで頂いて有難うございます。
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