健気な厄災女を見て、変態国王から仕える相手を変えようと思いました
俺は破壊されつくした宮殿の跡地に来ていた。
キャロラインの攻撃で王宮の大半と宝物庫と武器庫は壊滅していたが、何故か食糧庫は地下にあったからか丸々助かっていた。
そして、その食糧庫に貯蔵させてあった食料を使って、その夜は祝勝の宴が開かれたのだ。
その前に、俺は国王陛下の使者としてキャロラインの元へ遣わされた。
「エイブ。此度は古代竜が暴れて退治するのに、剣聖が時間をかけすぎてしまって申し訳なかったわ。おかげで王宮を破壊されてしまったでしょう。剣聖が修理を手伝うからちゃんと使ってやってね」
キャロラインがいかにもすまなそうに俺に話してきた。
「おい、待て! 王宮を破壊したのはお前だろうが」
剣聖が横からキャロラインに文句を言ってきた。
「アンタがとろとろしていたからでしょ。一撃で古代竜くらい倒せなくて、何が剣聖よ。ねえ、竜ちゃん?」
キャロラインが傍の爬虫類に声をかけていた。
これはキャロラインの攻撃の余波を受けて真っ黒こげになっていたトカゲだ。
洗ったのか今は緑色をしていた。
見た感じトカゲなのに、何で泣き声がひよこなんだか良く判らなかったけれど……
「ピー」
トカゲはいかにも馬鹿にしたように剣聖を見て頷いていた。
「き、貴様」
剣聖はキャロラインの言う竜ちゃんに襲いかかろうとして
「セドは野蛮ね」
とキャロラインは竜ちゃんを胸に抱いてセドの視線から隠していた。
「いや、まあ、剣聖殿に修繕を手伝っていただけることになって陛下も大変恐縮しておられました」
俺はそう言っておいた。
「陛下は壊したのだから剣聖だろうが、何だろうが、手伝うのは当然だろう」と言われていたが、正直に話す必要は無い。
「まあ、それはご丁寧に。陛下にはお礼を言っていたとお伝え下さい。剣聖にはちゃんとさせますから」
キャロラインは再度保証してくれた。
「ところでキャロライン。陛下が此度の討伐の御礼に今夜でも祝勝会を開きたいと言われているのだが、是非とも立役者のキャロライン殿には参加して頂きたいと」
俺はキャロラインを誘った。
「それは大変ありがたいお話ですが、今は復興に大変でしょう。そのようなお気遣いは不要ですわ」
「いやいや、これから復興するにあたって喝を入れる意味でも、皆のやる気を出させる意味でも祝勝会は必要なんだとか、言われまして、ご参加いただけませんか」
キャロラインからは絶対に断られるなと陛下には釘を刺されていた。
「まあ、そこまで言われるのならば、仕方ないですわね」
キャロラインは笑ってくれた。
この笑顔がまぶしい。
俺はとても良心の呵責を感じた。
「キャロライン、何があるか判らないので、十二分に注意して参加してほしい」
俺はキャロラインに精一杯伝えられることを伝えたのだ。
「まあ、エイブがそう言って心配いただけてとてもうれしいわ。一応二人もボディガードはいるから大丈夫よ」
キャロラインは笑ってくれた。
「二人のボディガードですか?」
一人は剣聖だと思うが、もう一人騎士がいるんだろうか?
俺がキョトンとしていると、
「もう一人のボディガードは私の目の前におられるではないですか」
俺が不思議そうにしていたので、キャロラインが言ってくれた。
「目、目の前って、俺か?」
「そうよ。エイブ。いざとなったら守ってくれるんでしょう」
俺はそのキャロラインの瞳に再度射抜かれたのだ。
そうだ。ボケ国王よりもキャロラインだ。
ボケ国王はキャロラインを薬漬けにして奴隷にするとか抜かしていた。
そんなゲスの言う事など心清らかなキャロラインの前では聞く必要はない。
そんな事をこの俺様が許せるわけはないではないか。
俺はここまではどちらにつくかとても迷っていたのだが、キャロラインにつくことにしたのだ。
心優しい、キャロラインの操を守ることのほうが、ボケ国王の欲望よりも大切だ。
なあに、この国最高の魔術師は俺なのだ。俺がキャロラインと組めばこの国相手でも楽勝で勝てる。
俺は心を決めたのだ。
リンジ王宮に指定された侯爵タウンハウスは屋敷は人て溢れていた。
まあ、巨大な王宮が無くなったから仕方がないだろう。
俺は陛下に首尾の報告に行くと帝国の宰相の使者と陛下が何やら言い合っていた。
「元々帝国からの紹介で『傭兵バスターズ』を紹介頂いたのですぞ。奴らか我らの王宮を破壊してくれた責任はどうしてくれるのですか」
「どうと言われましても、古代竜を退治するためには仕方がなかったのではないですかな。幸いなことに王都の大半は無事でしたし、城壁は剣聖が手伝ってくれるということではないですか。不幸中の幸いでしたな」
使者が笑って言ってくれた。
「何をおっしゃっていらっしゃるのですか。王宮の修繕費や破壊され尽くした宝物の保障はどうして頂けるのですか」
「それは免責事項でしょう。確かにあの場で古代竜を攻撃しないと今頃王国は無くなっていたのです。王宮だけで済んで良かったということではないですか」
使者は平然と答えていた。
「そんな訳無いでしょう」
更に使者にすがろうと陛下はしたが、
「私の役目は一応果たしましたからな。これより早急に帝国に帰って報告しなければなりません」
「いや、使者殿、少し待たれよ」
そう、陛下が叫んだ時は使者はもう部屋を出ていた。
「お、おのれ、あの古狸目。好きなことを申しおって」
陛下はじたんだを踏んで悔しがった。
「エイブか、首尾はどうだった」
陛下が俺を見つけて聞いてきた。
「一同揃って祝勝会に参加するそうです」
「そうか。よし、これで準備は万端だな」
陛下はいやらしい笑みを浮かべた。
「酔い潰してベロンベロンの状態にするのだ。その後は皆奴隷にしてやる。魔術師団長。準備は良いな」
「はっ、陛下。でも宜しいのですか? 帝国が何か言ってこないか多少気になりますが」
「『傭兵バスターズ』の面々はさっさとおかえり願ったのだ。帰ったあとのことまでは我々は感知せずとな」
陛下は高笑いした。
「あの生意気なキャロラインめ。よくも俺の宝を破壊してくれたな。
宝物の分を自らの身体で払ってもらうわ。一生涯かかっても返せないがの」
陛下はそう言うと高笑いしたのだ。
俺はそれを見て、再度この王に仕えるのを止めようと決意したのだ。






