悪役令嬢に転生したのを思い出しました
私はキャロライン・オールドリッチ、この世界最大の版図を持つ帝国の公爵家令嬢だった。
小さい時は花よ蝶よと、とても大切に育てられたのだ。
そうお母様が生きている間は……
でも、私が五歳の時にお母さまが亡くなって、ガラリと変わってしまった。
お母様が亡くなると同時に継母が母違いの妹ともに屋敷に乗り込んで来た。
継母はお父様の愛人だったようだ。
父は口うるさいお母様を疎んでいたようで、継母を迎え入れるなり、私の居場所はなくなった。
私は寂れた納屋に行くように言われたのだ。
「お継母様。そんな事を言うなんて酷いわ」
世間知らずの私は何も知らずにそう主張した。
パシーン
次の瞬間、その女に思いっきり頬を張られたのだ。
幼い私にとってそれは衝撃的なことだった。
そのショックで吹っ飛ばされて、ガツンと机に頭を打ったのだ。
その瞬間だ。凄まじい量の前世の記憶が頭の中に蘇ったのだ。
私はあまりの事に意識を無くしてしまった。
私は前世、オレオレ詐欺のかけ子をしていた。おじいちゃんおばあちゃんに電話して騙す役だ。見た目地味な私は超氷河期の日本で大学を出ても就職できなかった。契約社員を転々としていて、入った会社がオレオレ詐欺をしていたのだ。
聞いていない!
私は叫びたかった。
でも、それを知った時はもう逃げ出せなかったのだ。
監視がついてどうしようもなかった。
そんな私の上役みたいなのがセドだった。
私達は名前ではなくてニックネームで呼び合っていた。
彼の本名は知らない。犯罪者集団なのだからお互いの名前は知らないほうが良いだろうと言われていた。ちなみに、私はキャロルだった。セドは嫌みな上司だった。
何かある度に注意されて、嫌みを言われた。
まあ、私が不注意な点が多々あったからだが、おれおれ詐欺に注意深くも糞もないだろう。騙される方からしたら、不注意な方が良いはずだ。と私は心の底で思いながらも、郊外の研修施設のようなところで私達は仕事をさせられた。
建物の中では自由にしていいと言われていたけれど、閉じ込められた生活で、私は本当に逃げ出したかった。いろいろ逃げ出す準備はしたけれど、中々機会がめぐってこなかった。
でも、その日は何故か見張りが少なかった。
私はこれをチャンスとして二階の窓から逃げ出したのだ。
でも、私は甘かった。降りたとたん警戒していた男に見つかってしまった。
それも私をいつも虫けらを見るような目で見ていた凶暴な男だった。
私は必死に逃げたが、その凶暴な男から逃げ出す事なんて、出来る訳はなかったのだ。
私が男に追い付かれた時だ。
男がナイフを手にしたのだ。
男はニタニタと笑っていた。あたかも人を殺すのが嬉しいように……
その目は狂気に染まっていた。こいつは昔から私を殺したくて仕方がなかったのだ。
私は殺されると思った。
私が目を閉じた時だ。
「止めろ!」
大きな声がした。
ドシンと言う音はしたが、私に痛みは訪れなかった。
はっと目をあけると、その私と凶暴な男の間にはセドがいたのだ。
な、何故、セドがここにいるの?
私には理解できなかった。
更には、セドのお腹には狂信者の突き刺したナイフが刺さっていた。
セドはそのナイフを掴んで離さないようにして、私に叫んできた。
「逃げろ!」と。
私は必死に走ったのだ。
死にもの狂いで駆けた。
でも、道を曲がった瞬間だった。
前から飛ばしてきたバンに跳ね飛ばされて、私は意識をなくしてしまった。
それからの記憶はなかった。
結局私はそのまま死んでしまったのだろう。
その車が組織の車かどうかは知らなかったが、せっかくセドが助けてくれたのに、私は助からなかった。
セドは仕事中は嫌味な奴だったけれど、最後は命を張って私を助けてくれた。
でも、なんで助けてくれたんだろう?
私には不思議だった。
ハッと気づいた時、私は寂れた納屋に一人で寝ていた。
世話をしてくれる使用人は誰も周りにはいなかった。
そして、私を庇おうとした使用人は次々に首になって、私の今までいた位置は妹に取って代わられた。
そして、私の専属の使用人は誰もいなくなり、私は食事すら満足に食べられなくなったのだ。
納屋に食事はほとんど持ってこられなくなり、本来なら私は餓死していたかもしれない。
何しろ、私は今まで使用人に傅かれて生活していた公爵令嬢なのだ。それが誰もいなくなったら生きていくことなんて出来るわけなかった。
でも、私には前世の記憶が蘇ったのだ。
そこでは普通に料理をしていた。
というか交代で料理当番をやらされたのだ。果ては、洋服の繕いとかも平気でさせられた。
「女だから出来るだろう」
嫌味なセドが言ってくれたのだ。女だからって出来るわけ無いでしょ! 今は男女同権よ!
私は声高に言いたかったが、気の弱い私は言えなかった。
仕方がないから他の女の子に聞きながらやったのだ。
本当にブラック企業だった。
でも、それが今生きてきた。嫌味なセド、有り難う!
まともな食事はたまにコックたちが継母等から隠れて私に差し入れしてくれた。
私は面白半分に妹が持ってくる腐ったパンは捨てて、料理人達が持って来てくれた食事は美味しくいただいた。後の食材は、食料庫に忍び込んで、自分で調達した。
納屋には簡単な調理具があったから、それで調理したのだ。
主に簡単に作れる鍋とかだったが……
一度調理室に忍び込むのを料理長に見つかってから、料理長は黙って食料庫の鍵を私にくれたのだ。私は見つからないように食料庫に潜り込んで、朝早くと夜遅くに料理をして食べていたのだ。
でも、納屋に軟禁されているのは同じだった。
私は日中は納屋で大人しくしていた。
私は暇なので図書室から本を持ち出して読むようになったのだ。
そんななかで、私はこの帝国の皇太子がジークフリートと言う名前だと気が付いた。年は私の一つ上だ。私はその名前に何故か惹かれた。どこかで聞いたことのある名前だ。
そして、自分の名前はキャロライン・オールドリッチ、そう思ったときだ。
「ああああ!」
私は大声をあげていた。
この世界が前世で私がプレイした乙女ゲーム『帝国のピンクのバラ』の世界だということに気付いたのだ。
それも私がその中の悪役令嬢、キャロライン・オールドリッチだということに!






