表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

異世界召喚ネタ

一般人に異世界転生は荷が重い 〜転生悪役令嬢はヤンデレに捕まりました〜

作者: 橘みかん

テンプレかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。

.........。


................。


うちは、なんになってしもたんやろか。


まさか、乙女ゲームの悪役令嬢とか、嘘でっしゃろ。


ほんまに、どうしたらええんでしょうなぁ。


神様、一体何してくれはりますの。


かつての言葉。

かつての発音で思う。

懐かしい京ことば。






私は小説をこよなく愛する京都人だった。

ラノベで知った乙女ゲームも少々嗜む普通の高校生である。

ハマったゲームはヴァンパイアの世界のゲーム。

推しはドSキャラ。


そう。

ドSキャラのアンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック。


お察しの通り私、ルルーシュ・ハンプシャーの婚約者だ。


アンリはもれなくヒロインに攻略される。


..............。


えらいことなってしもたなあ、では済まないのである。


アンリはヒロインに恋をした後、私の血を吸い付くす鬼畜キャラである。その鬼畜さと闇感がうけるキャラなのである。




じゃあアンリとの婚約を破棄すればいいのでは?


そうは問屋がおろさないのがこの異世界。


ヴァンパイアが高等種族としてもてはやされる中、我々人間は...平くいえば餌である。


そして餌にも美味しい餌とまずい餌があり...私の家系は美味しい血をもつ家系なのである。

美味しい血の囲い込みのために我がハンプシャー家は子爵家として生かされている。


そして私はハンプシャー家の中でもかなり美味しい血“華の血”を持つ少女なのだ!


ちなみにヒロインは“華の血”の1段階上、“蜜の血”を持っている............。


まあそれは置いておいて。


そしてそれは私がヴァンパイアの中でも尊い方に嫁ぐ(一生血を提供する下僕になる)ことを意味した。


こちらからの婚約破棄は不可能である。


再度言おう。


婚約破棄は不可能である。


私にできるのはアンリに媚び売って媚び売って媚び売りまくることだけである。


ただし私はアンリルートの内容を一切覚えていない。

攻略は不可である。




危機ですやん。

いや危機ですやん。


詰み。

チェックメイト。

乙です。


こういうしょうもない言葉ばかり覚えている自分を恨みたい。


転生はラノベの中だけで充分である。


まじでな。















「ねえルルー。血、ちょうだい?」


まさか私が断るわけないと思っているのか、アンリは私の服のボタンを外し始める。


「アンリ様。」


私はそーっとアンリが首のボタンをとる手を剥がし、自分の左手の袖を捲った。


「どうぞ、手首から。」


えー、とアンリは口を尖らせる。


「ルルーのケチ。首から飲んだ方がたくさん飲めるのに。」


えー、ととがらす口は美しいし、どこからどう見てもみめうわしい美青年の頼みを断るのは非常につらい。


しかし!

しかし!


首!すなわち頸動脈!


ゲームでアンリは私の頸動脈にくらいつき、私を抑え込み、冷たい目で私の血を啜るーーと知っていると。


頸動脈から啜られるのは、微妙に嫌なわけですよ。


しかも!


頸動脈から啜られると魅了魔法にかけられるらしく。


私はゲームの悪役令嬢のごとく、アンリさまぁ、なんて言って、アンリを追いかけ回すくだらない女に成り果てるわけである。


私がリアルで好きなのは!

ちょっといけずで線の細い年上の京男子であり!


断じて、ショタな甘可愛いヴァンパイアではないのである!



ドSですらないってどういうことですかーー!


ねえ神様ーー!









そんなルルーシュ。16歳。デビュタントである。


乙女の憧れ!ドレス!

ア・ラ・フランセーズ!


などと喜べるのはほんの一瞬。


壁に手をついて嘔吐寸前。源氏物語ミュージアムの体験教室で着た十二単より重い。


クソ重い。


これ着て動けるのすごすぎる。


あとね。


暑い!


ヨーロッパは高緯度でそこそこ寒いから平気なのかもしれない。でもこの乙女ゲームは完全な“ナーロッパ”。

わりかし湿潤なこの社交シーズンにこのドレスは拷問。


「お嬢様!お美しい!」


そりゃそうでしょうよ。


侍女の言葉にげっそりと同意する。


面の皮は化粧で2、3枚増えてるし、腰は吐くほど絞られてる。胸は布を突っ込まれて、ばっちりだ。


アンリは用意したドレスは流石の最高級品。

まあアンリはかなり尊いバンパイヤだしぃ。


「今日の舞踏会で1番お美しいのは間違いなくお嬢様でございます!」


そりゃね。

当然やね。


“アンリの婚約者“より目立とうとする奴がいたら完全なアホだ。

私がしがない子爵令嬢でも、アンリは雲の上のヴァンパイアなんだから。

アンリの婚約者を貶めるなんて恐ろしいこと、できる人がいたら見てみたいものである...。


「...吐きそう......。」


ねえ、私の内臓大丈夫...?

ねえ、私、すっごく不安...。










綺麗とかまばゆいとか君の美しさには花も恥じらって引っ込んでしまうとか歯痒すぎるお世辞を受けた後、私はアンリの馬車に乗った。


車もあるんですけどね。

よく故障するので使いません。











「アンリ・ド・トゥールーズ・ロートレック並びにご婚約者様のおつきぃ!」


かなしきかな、ルルーシュ・ハンプシャー。

名前すら呼んでもらえない。


ナーロッパなのに男尊女卑なんだ...。泣


「ルルー。みんながルルーの綺麗さに見惚れてる。」


アンリが優しく微笑む。


美青年ですね...。


私は控えめに微笑むに留めておく。


アンリの婚約者に注目するのは当たり前だよ。


赤ワイン片手に挨拶回りをしていると。

今まで全く交流のない男爵家が近づいてきた。


交流のない家がお近づきになる時、普通なら誰かに仲介してもらうのだけど。彼らはイケると思ったのだろう。


「初めまして、アンリ様。」


まさかのファーストネーム呼び。

まさかの私を完全無視。


そんな度胸ありすぎる男爵家は、クロード男爵家。

ヒロインのいるお家だ。


「どちら様かな?」


きらりと紫の瞳を瞬かせて、アンリが問う。


こんなこと言われると怖くなって私なら逃げるんだけど。

さすがはヒロイン!へこたれない。


「私はアメリア・クロード。蜜の血を持つ男爵令嬢です。」


そして自分で自分を紹介したヒロインの勇気ある行動に敬意を。嫌味じゃなく敬意を。


いやぁね、他府県の人ってすぐ私らのこと嫌味っぽいとかおっしゃる。こっちとしては婉曲に表現しただけの人間関係を円滑に進めるツールなのに。


言葉は同じ音でも意味が違うことはよくある。

それくらい察せたほうがよろしいんとちゃいます?


「......蜜の血?」


アンリがこちらを見るのだが。


これは何を求められているのでしょうか??


「ええと...私との婚約を解消して、彼女と結び直されますか?ハンプシャーとしてはいつでも応じますが...。」


アンリの瞳が失望に染まる。


間違えたんだ。

何かを間違えた。


「あの...?アンリ様のお望みのように。いかようでも。」


ああああやばい。

ルート覚えてないのが悔やまれる。


後悔先に立たずとか言うけどやはり後悔後悔後悔だ。


死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。




くらぁ。


気が遠くなってきた.........。
















「ルルー。ルルー!」








体を起こしたそこは雪国だった。


いやほんと何言ってるかわかんないよね。

うん。私も。


パロディとかじゃないから。

パロディでももっとマシなこと言うから。


舞踏会の会場に吹雪が吹いている。(物理)


「貴様...!よくもルルーを貶めたな。お前如きがルルーの代わりになれるとでも思ったか。」


血の底を這うような声は事実アンリから出ている。

アンリのせいで精神的にも吹雪である。


ひっと後ずさる金髪碧眼ヒロイン。

絶望に目を見開いてる。


アンリ。あんた一体何したの?


やはりショタっぽく振る舞っていたのは仮の姿。今この時。真の姿である鬼畜andドS属性が出てきたのである。


「アンリ様。」


そおっと呼びけた。

こわいこわいこわいこわい。


赤く染まった瞳はこちらを見据える。


「なんだ。」


普段なら、「なぁに?」とか「どうしたの?」とかなのに...!


「あの......たぶん...怖がられてますよ...?」


みなさんに。


アンリは「それがどうした」と言いたげな顔で私を一瞥。


ゲームを全く覚えてないからわからないけど、これは、「悪役令嬢溺愛ルートに入った」と言うことでいい?

オッケー?


よしよしよくやった私。


いくらなんでも血を吸い殺されるとか嫌だし。


「あの...アンリ様。」


煩わしそうに私を見る。


ねえこれほんとに溺愛ルート?

ねえ大丈夫かな。


こう言うのって私の言葉だけは聞いてくれたりしない!?

しないの?


こう言うのを自意識過剰って言うんですね!?


ええいままよ!

もう痛い子で結構!これでも無理だったら、諦めますとも!


「帰りませんか?私の血は“蜜の血”には遠く及びませんが...アンリ様に捧げますから。」


ここに長時間いるのは精神安定上よろしくないんです!


赤く染まったアンリの瞳が細められた。


ひぃっ怖っ。


獰猛な目に私は小動物になった気になる。...実際ヴァンパイアからすれば人間は小動物みたいなもんだけど。


「ルルーに感謝しろ。お前たちは命拾いした。」


あのですね、アンリ様。私の推しの鬼畜でドSなアンリ様。そのお言葉だと、私死んじゃうかんじ?


私生贄?ねえ神様仏様あとなんとか様!

どうして私の人生こんなにハードモードなんですか?


震えが止まらない(寒すぎて)私をアンリがお姫様抱っこで抱える。

すごく素敵なんだけど何故かときめかないわぁー。


アンリは何もなかったように会場を後にした。
















馬車に乗るかと思われたアンリは、会場から出た瞬間、踵を2回地面に打ちつけた。


転移魔法である。


私は急激な吐き気と共に見知らぬ家の見知らぬ寝台の上に着地した。多分アンリの家のアンリの寝台だろうけど。


「ルルー。吸うぞ。」


私の返事を待たずにアンリは私の首に口を寄せる。


「夜会はいいな。首が出ている。」


デイドレスは露出が少ないけど、夜会は出してなんぼの世界。首なんか防御力0である。


「魅了は、かけないで...!」


私の平凡すぎる茶色の瞳に暗示をかけようとするアンリを止める。アンリに依存したバカな女になるのはお断りだ。


「かけないとお前がしんどいぞ?」


確かに。首を齧られるわけだし。


「それでも、なんです。」


ふうん、と面白くなさそうに相槌を打ったアンリは一応私から視線を外した。


そして。なんの躊躇いもなく。


首に唇を寄せる。


くるであろう痛みに備えて目をぎゅっとつむる。


「ん...!んんっ...っつぅ。」


痛い...けど。思ってたよりましだった。


10秒くらい我慢しただろうか、アンリが口を離して、舌で私の首を舐める。


「美味しい。」


掠れた声で囁かれたその言葉は、私をくらりとさせるには十分だった。


ぐったりと寝台に身を投げた私を見てアンリは満足そうにドレスに手をかけた。


え?

ドレスに手をかけた?


ちょちょっちょっと待て、お兄さん。

このゲームはR指定ないんですよー。


慌てて身を起こした私を押し倒して、アンリはむっつりと私を見た。


「コルセットを締めすぎだ、ばかが。内臓を痛めるだろ。」


真の姿(?)に戻ったからかな。流れるような罵倒を披露。


ありがとう、と言う前にさらにアンリが口を開く。


「もう一生ここから出さない。俺に囚われてろ。」


まさかのヤンデレ属性取得済みーー!


「お前は優しくすると婚約解消なんかを考えつくらしい。俺が今まで振舞っていた通りの可愛い男だと思っていたのか?」


鼻で笑われる。


「そんなわけがない。お前が警戒心を失って俺に首を晒すのを待ち構えてたんだ。」


低い声は脳に響く。

耳元で囁かれると胸が震える。


「お前は元から俺のものだ。」






悪役令嬢はヤンデレ監禁ルートに入ったらしいーー。










〜・〜・〜蛇足











「アンリ様?里帰りしたいのですが。」


「却下。」


瞬殺である。取り憑く島もない。

瞳はあまりにも冷ややかで、アンリの右手が私の両手首を掴んでいる。


前回の脱走未遂事件では1週間ほど手錠をつけられた。


「けれどもですね、そろそろ結婚したいんです。」


「...なんだと?」


血の底を這う声。

雪が吹き荒れる。


急いで説明しないと大変なことになるぞ...あわわわ...。


「実はですね、両親が私の結婚式を楽しみにしておりまして。結婚式はどちらでもいいのですが、アンリ様と結婚することは両親にも伝えて、承諾書をもらわなければいけません。」


私はここに問答無用の拉致監禁をされてから1ヶ月両親に会ってない。

夜会から帰ってこない娘を血眼になって探しているであろう優しい両親にはアンリの庇護下にいることを手紙で出したのだが、それでも心配はしているだろう。


「.........なるほど。ハンプシャーを招待しよう。」


私を外に出すのは絶対に嫌らしい。


















2日後。


「ロートレック様。」


父がアンリに土下座した。


「どうかルルーシュを返してください。もうこれ以上あなたのところにルルーを置いておけません。」


アンリの瞳は冷たく赤に染まっている。


お父様が、殺される...!


貧血で動かない体に鞭打って、父を庇う。

鬼畜のアンリといえどもさすがに...私は殺さない...と思いたい。たぶん。殺さない。


「ルルー。どけ。お前の父親だが、お前を俺から引き離すと言うなら容赦はしない。」


冷たい言葉に胸が冷える。

怖い。

アンリが、怖い。


「なぜルルーがこんなにも青ざめているのですか!あなたが...あなたが...ルルーの血を吸いすぎているからなのではありませんか!あまりにもむごい!ルルーは確かに“華の血”を持ちますが、その前に1人の少女なのですよっ!」


あっ。


私とアンリは顔を見合わせた。


貧血は貧血でも、今日は私の体の都合の貧血なのである。今日はその日なので、アンリは一滴も私の血を吸ってない。


「あのね、お父様。誤解なのよ。」


「いいんだ、ルルー。お父様もお母様も今日、死ぬ覚悟で来た。」


目を細めて私を見つめる父と母。


...........。


私はもう一度アンリを見た。


瞳をすっかり紫に戻してアンリは、床に片膝をついて両親と目線を合わせた。


「ハンプシャー子爵夫妻。これは俺の短慮が招いた誤解です。申し訳ありませんでした。」


尊いヴァンパイアが頭を下げるから、両親が意識を失ってしまった。


「........お前の家系は失神しやすいな。」














人事不省から脱出したお母様にこっそり告げる。


「私、女の子の日だっただけなのよ。」
















我、ルルーシュ・ハンプシャーは、夫となるアンリ・ド・トゥールーズ・ロートレックを愛することを誓う。


白いウェディングドレスの新婦は輝くように笑った。





ただし彼女が屋敷の外に出たことは数えるほどしかない。




こんばんは、橘みかんです。

お読みいただきありがとうございます。

感想、ブクマ、評価、いいね下さる皆様、いつもありがとうございます。

誤字報告、心の底から助かってます。ありがとうございます。至らぬ作者で申し訳ありません。

橘は、京都に友人がいるだけのしがない関西人です。京ことばに関しては広い心で読んでいただければ、と思いますが、おかしいところはなおしますので、ご指摘いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。


皆様、良いお年を!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ