顔に痣のある私を迎え入れてくれたのは、成金で視力がものすごく悪い夫でした。
「…私に縁談、ですか?」
「ああ。目の病気で視力が著しく衰えた成金の男が、お前が欲しいとのことだ。…苦労もあるだろうけれど、絶対に幸せにしてもらいなさい。いいね?可愛い可愛いルーヴルナ」
「ありがとうございます、お兄様…!」
私はルーヴルナ。男爵家の長女。父と母は若くして亡くなり、男爵家は兄が継いだ。兄には綺麗なお嫁さんと可愛らしい息子と娘がいる。妹もいるが、綺麗な妹は既に嫁いでいる。こちらも優しい夫と可愛らしい息子と娘がいる。
一方の私。私一人が実家に残っていた。兄も兄嫁も生まれながらに顔に痣があり、どこにも貰い手がない私のことを疎ましく扱ったりしないでくれていた。家でゆっくり過ごせばいいと兄の仕事の手伝いをさせて家に置いてくれていた。
妹もどこにも貰い手がない私を気遣って、自分の夫のツテで事務処理の仕事をくれていた。おかげで私は男の人と同じくらいには仕事ができる…と思う。あと、事務処理の仕事をもらえていたおかげで実家に住まわせてくれている兄に生活費を払うことも、貯金もできている。
「まさか私に結婚ができるなんて…」
一生独り身のつもりで貯蓄していたから、すごくありがたかった。夫となる方には誠心誠意尽くそう。そう思った。
「貴女がルーヴルナ様ですね。私はシャルルと申します。今日から貴女の夫となります。よろしくお願いしますね」
「はい、シャルル様。よろしくお願いします」
「私は目があまりよくありません。ですが、身の回りのことは従者にやってもらっているのでそこは心配要りません。ただ、貴女に手伝って欲しいことがあります」
「なんでしょうか?」
「私の会社での書類関係です。社員を信頼していないわけではありませんが、さすがに自分の目で書類を確認できないのは怖くて」
「お任せください、シャルル様」
やはりというか、夫となるシャルル様は私の事務処理の能力を買ってくれたらしい。ならば私としても頑張ろうと、そんな決意を固める。
「それと…」
「はい」
「…私は目が悪くなってから、色々と騙されたりしていて。それでも会社は守れて貯蓄もまだまだあるのでなんとかなっていますが。…爵位も貴女と結婚するために買った形ばかりの男爵位で、領地も持ちません。そんな私ですが、どうか本当の夫婦として愛し合いたい。よろしくお願いしますね」
驚いた。てっきり事務処理の能力を買われただけだと思っていたから、本当の夫婦として愛し合いたいと言われてとても嬉しい。
「はい、シャルル様!誠心誠意、愛を育みます!」
「ふふ、優しい方ですね。貴女と結婚出来て良かった」
こうして私達は、二人で結婚式も挙げず書類だけ提出して夫婦となった。
シャルル様との新婚生活は、穏やかなものだった。シャルル様の身の回りのお世話は、従者がやってくれる。私はシャルル様のお仕事をお手伝いする。シャルル様の会社はなんだかんだで上手くいっていて、私がお手伝いするようになってからさらに業績が伸びた。シャルル様のお金の管理も、たまにシャルル様に頼まれて確認しているが問題なく貯まっている。
シャルル様はただ会社にお金を貯めるだけでなく、必要以上に貯まれば従業員にボーナスを出したり、有給をあげたり、新しい従業員を雇ったりして従業員にお金を還元している。また会社の顧客にキャッシュバックなんかもしたりして、会社の顧客にもあらゆる形で還元したりする。
家のお金も同じく、必要以上に貯まれば従者含めて使用人たちにボーナスを出したり、有給をあげたり、近所の孤児院や養老院に寄付をしたり、シャルル様本人や私のための服や靴を仕立てたり装飾品を買ったりしてお金を社会に循環させている。
「ルーヴルナが嫁いできてくれてから、会社の方もより順調に成長しています。ルーヴルナは私の目であり、幸運の女神ですね」
「ふふ、シャルル様ったら」
そんな自分だけでなく社会のことも考えているシャルル様だから、私は心から尊敬している。シャルル様も私との結婚を機に、視力の悪さにつけ込んでくる悪い人に騙されることもなくなったので貯蓄も十分に出来て、私を幸運の女神だと言ってくれる。
そんなシャルル様は目が悪いので、私の醜い顔の痣も知ってはいるが気にしていない。むしろ積極的に私を褒めて、必要だと言って癒してくれる。むしろ私にこそシャルル様は必要不可欠だ。
そして最近、私にはシャルル様の子供ができた。シャルル様は目が悪いけれど、四六時中一緒にいる私の不貞を疑われたりはしない。というか四六時中一緒にいるので疑われる理由もない。
「子供は、男の子も女の子も欲しいですね」
「この子はどちらでしょうか」
「どちらでもきっと、愛おしいことに変わりはありませんよ」
お腹を優しく撫でるシャルル様に、私はこの人と結婚出来て良かったと心から思った。
「そういえば、最近新設したルーヴルナの始めたボランティア団体はどうです?」
「はい、とても上手くいっています!」
「それは良かった」
シャルル様は、私にお小遣いをくれる。シャルル様の妻としてのお小遣いと、書類関係のお手伝いの報酬としてのお小遣い。私には結婚前に貯めていたお金が充分にあるので、シャルル様から貰っているお小遣いはシャルル様のように社会貢献のために使おうと決めていた。
最初は孤児院や養老院に寄付も考えたけれど、それはシャルル様がやっている。シャルル様からの寄付で孤児院や養老院は充分回っているみたいなので、ならば新しい社会貢献活動をしようとボランティア団体を設立してみた。
それは障害のあるお金があまりない方の介護を、無償で提供するボランティア団体。ただし介護従事者の方にはボランティア団体から充分な報酬を支払う、という形。小規模な団体なのでシャルル様から貰えるお小遣いで運営は上手くいっている。
「ルーヴルナの活動はとても立派です。小規模な団体だと聞いていますが、利用者の方は皆感謝してくれていると聞いていますよ」
「それは良かった!」
「ルーヴルナの慈善活動のおかげで、会社の評判がさらに良くなりました。顧客もさらに増えたので、ルーヴルナのボランティア団体のためにもお小遣いをアップしてもいいですか?」
「ありがとうございます、シャルル様!」
なんと私の慈善活動は、巡り巡ってシャルル様の会社の評判をあげたらしい。お役に立てて、本当に嬉しい。
「愛していますよ、ルーヴルナ」
「私も心から愛しています、シャルル様!」
背伸びして、シャルル様をぎゅっと抱きしめる。シャルル様も抱きしめ返してくれる。とっても幸せ!
その後三男四女に恵まれて、さらに会社も成長し、家のお金もさらに貯まって、私達と関わりのある人みんなにたくさんの幸せがもたらされることになるなんて、この時の私達は何も知らずにただ目の前の幸せだけを大切にしていた。