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怪異子葬  作者: エマ
6/44

File.6 地獄へ



 次の日の朝。


「歩くん、キミは自分が何したか分かってるかな? 」


 学長室で、俺は正座させられていた。


(なんか最近こんなばっかだな〜 )


「聞いているのかい? 」


「ハイ、タイヘンスミマセンデシタ 」


「わー、キミ棒読みが上手だね 」


 ニコニコ笑う学長。

 とりあえず俺も笑ってみると、バンッと机を思いっきり叩かれた。


「キ! ミ! の! せいで!! 校舎の壁が半分も焼けたんだよ!? 窓ガラスもほぼ全滅、もうちょっと申し訳なさそうにしたらどうかなぁ!? 」


「……わざとじゃねぇし 」


「はァァァァァァァァ 」


 クッソ長ぇため息が学長室に響きわたる。


「……問題児だとは思ったけど、ここまでとはね 」


「はい? 」


 小声がよく聞こえなかったが、なんか毒吐かれた気がする。

 ちょっと言い返したい気持ちもあるが、今回に関しては俺が百悪いからなんも言えねぇ。


「まぁいいさ。槌子が避難誘導してくれたから怪我人も死傷者もゼロだし、子供の責任を負うのも大人の役目だからね 」


「じゃあ帰って」


「ただし!!! 次同じことがあったら問答無用で退学にするからね? 死傷者が居なかろうと、キミが生徒を危険に晒したことには変わりない 」


 めちゃくちゃ正論で怒られた。

 そのせいでマジで言い返しできない。


「……すみませんでした 」


「んっ……じゃあ寮に戻りなさい。反省文は忘れないように 」


「はい、失礼しました 」


 冷や汗をかきながら扉を閉め、重たい気持ちで廊下を歩く。


(怒られた……怒られたなぁ〜 )


 真面目に怒られたの、なんか久々な気がする。


(怒られた〜……怒られたなぁ……殴られたわけじゃないないから別にいいけど……なんか気分悪ぃ )


 とりあえず壁に寄っかかって、気持ち悪さを我慢する。

 ここがトイレなら絶対吐ける自信あるわこれ……


「歩、大丈夫? 」


「あー大丈夫……って哀花!? 」


 後ろから背中をさすられたと思えば、哀花の透明な髪のいい匂いがしてきた。


「うん、僕だよ。というかなんで学長室から? 」


「いやァ昨日、事故って校舎の壁半分焼いちゃって 」


「ほんと何してるの…… 」


(うわぁぁん、哀花から引かれた!! もう無理死にたい!!! なんなら今すぐ死んでこれからずっと覚えてもら)


「まぁ怪我とか無くて良かったよ。ところで歩って、替えの服とかないよね? 」


「あぁ、家に埋めれちまったし。なんで急に? 」


 そう聞くと、哀花はすんなりと答えた。


「じゃあ明日、一緒に買い物に行こうよ。制服着て買い物は危ないからさ 」


 えぇっとなに?

 買い物に行こう?

 一緒に?

 買い物→一緒に行こう→男女で→デート……デート!!?

 実質デートじゃんこれぇ!!


「ん? もしかして嫌だった? 」


「いや違う!! あぁ違うってのは嫌じゃないって意味で、とりあえず行きたいです!!! 」


「ふふっ、なんで敬語なの? 」


「あっ……すまん 」


 テンション上がりすぎて、なんか訳分からんこと言ってしまったァァァ。

 恥ずかしすぎて死にたい。

 コンクリに埋まりたい。


「じゃあ明日行こうか、土曜日は任務休みだし 」


「あ、あぁ! なんなら今日でも」


『緊急任務!! 』


 突如、警告音が話に割り込んできた。

 すぐさま時計を見ると、俺の方には通常任務が。

 哀花の方は緊急任務という赤文字が浮かび上がっていた。


「ごめん歩、急いで行かなきゃ 」


「あぁ、俺も行かなきゃいけねぇ 」


「……気をつけて。また明日会おう 」


「哀花も気をつけろよ 」


「うん 」


 そそくさと哀花は俺の隣を通り過ぎ、俺も目的の場所へ向かう。

 時計に浮かび上がった場所……昨日、真城と行ったあの駅に。




「でえっと……あんた誰? 」


「ヒィっ!? 」


 駅に着くと、なんか知らんやつが居た。


 目が隠れるほどの紫色の髪をした女は、駅の隅で頭を抱えて震えている。

 同じ制服を着てるからパンドラの生徒だと思うが……どうもこいつが学生には見えない。


 刀も背も胸も足も、とにかくデカい。

 というかしゃがんでるハズなのに、存在感が凄まじい。

 膝の上に乗る、でっかい脂肪のせいで。


「わ、私は彩音(あやね)と言います。所属部隊はあなたと同じで……す、好きな物は」


「いやそこは興味ねぇよ 」


「ヒィッ!? 自分から聞いてきたのに!? 」

 

 声が高いせいで聞き取りづらいしうるさい。

 なんか微妙に話食い違うし、声掛けただけで怯えるし……こいつほんとに戦えんのか?


「なぁ……そこの嬢ちゃんたち 」


「ん? 」


 俺の背後からかすれた声がした。

 すぐに振り向けば、そこに居るのは小太りしたおっさんだった。

 ヒゲも髪も汚れが固まっている。

 歯も汚ぇし、体も汚ぇし、酸っぱい臭いもする。

 一週間くらい風呂に入ってない時の臭いだ。


「なんか用か? 」


「食べ物……金でもいい。何か恵んでくれねぇか? 」


「俺なにも持ってねぇぞ? 家無くなったばっかだし」


「そんな訳ねぇだろ!? 」


 断った。

 それが何故か、おっさんの逆鱗に触れたらしい。


「お前らパンドラの生徒だろ!? 金持ちの、俺らを見捨てた奴らの末裔が!! 」


(何言ってんだこのジジイ )


「そこの女もそうだ!! 」


「ヒィッ!!? 」


「いい肉付きしやがって!! 俺たちを見捨て食う飯はそんなに」


 子供が大人に怒鳴られている。

 その光景が俺の頭に記憶(いたみ)を呼び起こした。


 誰も助けてくれない家の中で、子供が大人に殴られている。

 そんな記憶が。


(うぜぇ )


 銃を抜いて安全装置を外し、トリガーを引く。

 発射された弾はジジイの耳横を通り過ぎ、ホームの壁にめり込んだ。


「……なっ!? 」


「あー悪い。お前の後ろに怪異が居てな 」


「ふざけるな!! そんな言い訳」


「次は、お前の眉間に現れそうだ。はやく逃げた方がいいぞ? 」


 ニコッと歯を浮かせて、その頭に銃口を向ける。

 それだけでクソ野郎は一目散に逃げ出した。


「この……ゴミクソ共が!! 」


(はいはいベタな捨て台詞ご馳走様でしたっと )


「ちょちょちょちょちょっ!!? 」


 ひとまず銃をしまうと、彩音からすげぇ勢いで胸ぐらを掴んできた。

 ついでにデカくてムニっとしたものが腕に当たった。


「……何? 」


「何じゃありませんよ!? 人殺そうとしたり銃持ってたり、あなたなんなんですか!? 」


「哲学か? 」


「違いますよぉぉぉぉ!!!! 」


「冗談冗談、銃は買った 」


「買ったって、ここ日本ですよ!? 」


「路地裏とか壁の近くで売ってるぞ? 銃火器は怪異に効果薄いから安いし 」


「ちょ、えっ……それ犯罪 」


「だから内緒にしてくれ 」


 鼻の前で人差し指を立ててお願いするが、彩音は魂でも抜けたような、白い顔をしている。


「ナイショって……ハンザイソレ…… 」


「おっ、電車来たな。行くぞ 」


 そんな彩音を置いて、さっさと電車に乗りこむ。

 電車は相変わらず誰もいない。

 まぁ座り放題で助かるが。


『出発致します 』


「ちょちょちょちょちょっ!!! 」


 出発直前になると、やっと彩音が乗り込んできた。

 その姿はなんというかこう……凄かった。

 二つの塊がすげぇバルンバルンしてたし。


(触ったら気持ち良さそうだなぁ )


 汗まみれで肩で息をする彩音も、なんというかエロかった。

 根暗コミュ障高身長巨乳とか、最近の漫画でも見ないくらいで、属性過多にも程がある。

 嫌いじゃないが。


「ところで……お名前ゲホッゲホ!! ……聞いてハヒュー……ませんでしたね 」


(あゆむ)だ。とりあえず落ち着け 」


「はい…… 」


 話すことも無く暇だから、とりあえず時計を見た。

 針は9時10分を示してる……なんとも言えない時間だ。


「あっ。ところで今回の任務ってなに? 」


「あっえっと、……時計の横のボタン押してください。説明映像が流れます……から 」


「助かる 」


 言われた通りにボタンを押せば、ブゥンっと映像がホログラムのように浮かび上がった。

 聞こえる声はクソ学長のものだ。


『キミ達の任務は東京内での失踪者捜索、および原因怪異の排除だ。失踪者は34名、共通点は9時の電車に乗っているということのみ。調査隊の連絡で怪異の仕業で間違いないが、その調査隊すらも音信不通となった……健闘を祈る、どうか無事に帰ってきてくれたまえ 』


 音声が切れる。

 今回の任務についてはだいたい理解できた。

 だがメッセージの中で少し、気になる点があった。


「彩音。なんか変じゃねぇかこれ? 」


「フェッ!? な、なにがですか? 」


「だってよ。34人失踪って分かってんのに、対応がおせぇだろ。5人か10人失踪でも大事件なのに、なんでここまで放置された? 」


 ただそう聞いただけなのに、彩音の表情はどんよりと曇った。


「か、怪異解明に時間を費やしたからだと……あとは 」


「あと? 」


「たぶん……ホームレスだからだと思います 」


 首をかしげ、彩音の方を見る。


 ホームレスだから無視した?

 確かに捜索される事は少ないだろうが、電車に乗った人間が消えたんなら、すぐに探すはずだ。

 不正乗車の可能性もあるんだから。


「えっと……えっ? 分かんないんですか? 」


「知らん 」


「あの……失礼ですけど学校は…… 」


「底辺高校の電子科に1年半 」


「あっ、低学歴だからか 」


(あれ? こいつ思ったより口悪ぃな )


 少しピキっと来たが、正直事実だから何も言えない。

 そうこうしてる内にも、彩音は暗い顔をしたまま話を進めていた。


「東京、千葉。この二つだけが今の日本ですから、人が住める場所に限りがあって……だからホームレスが多いんです、お金持ちがたくさんの土地を買い占めちゃいましたから 」


(あー。だからさっきのクソジジイ、めちゃくちゃ必死だった訳か )


「ホームレスになっても、安全な寝床の取り合い。食べ物を巡っての喧嘩。最悪、人を殺す事でしか生きていけない人たちも居るのに、権力者は何もしてくれない。むしろホームレスが居なくなる事を望んでる…… 」


「つまりアレか。ホームレス失踪を放置してたら、思ったより事が大きくなって、今慌てて対応させてるってことか 」


「たぶん……そんな感じかと 」


 へー、そんな事があったのか。

 まったく興味がなくて知らなかった。


「どう……思いました? 」


 彩音は暗い顔を傾けて、そう聞いてくる。


「なにが? 」


「いやその……ホームレスについて 」


「あぁ。めちゃくちゃどうでもいいと思ったよ 」


 ガンっと、何かが割れる音がした。

 ふと気がつけば耳の横を太刀が貫通し、その柄は彩音の巨大な手によって握られている。


「急にどうしたよ? 」


「お前みたいな奴が多いから……私は…… 」


 彩音は大粒の涙をこぼし、ボロボロ泣いている。

 どうやら答え方を間違えたらしい。


(まぁでも、どうでもいいってのはホントなんだけどなぁ )


 正直、どこで誰が死のうが興味がない。

 世界の裏側で知らないおじいちゃんが病死しました、はい泣いてくださいって言われてるようなもんだし。

 そんなことを考えるんだったら、自分の人生のために生きたい。


「ん? 」


 ボーッと電車内を見渡してると、ある物が目に付いた。

 それは4人分の靴だった。


「ちょっ、話はまだ」


「おい、グロいのダメならこっち見んな 」


 その靴からは血が滴り、扉の前で均等に並べられている。

 現実では有り得ないような不気味な光景。

 だから靴たちをいっせいに蹴り飛ばす。


「骨……じゃねぇな 」


 靴からこぼれた赤い液体。

 そこから出てきた白いものは……歯だった。


(……スプラッター映画みたいだな )


「オッエェ!!! 」


 歯の数を数えてると、後ろからビチャビチャとゲロを吐く音がした。


「おいおい、グロいのダメなら見んなって言……なんだこりゃ 」


「ふぇ? 」


 後ろを振り向く途中で、窓の外が見えた。

 そこは無数の線路が並ぶ、赤い空の世界。

 どう見たって現実じゃない。


「こっち来い 」


「えっ、なん」


「急げ 」


 彩音のきたねぇ手を取り、その巨体を引っ張りあげる。


「どこに!? 」


「運転席。この電車を止めねぇとたぶん不味い 」


 電車の怪異なんて、一つしか知らねぇ。

 駅に着く前にどうにかしねぇと手遅れになる。


「ヒィッ!? どうなってるんですかこれ!? 」


 扉を越えるたびに世界が変わる。

 窓には黒い根が張りが。

 地面には穴が開き、天井からは小さな首吊り用の輪っかが。

 まるで進むたび、地獄に近付いてるようだ。


「あそこか 」


 やっと見えた運転席には、とうぜん運転手がいた。


「おっさん! この電車止めろ!! 」


「……… 」


「おいおっさん!! ジジイ!!! 止めろ!!!! 」


 窓を殴ってるのに運転手は振り向かない。

 むしろ電車は速度が上がり、その手はマイクを手にとった。


『次は〜きさらぎ駅〜 』


(クソ!? なんでガラスが割れねぇ!! はやく壊)


「シャっ、しゃがんでくださ〜い!! 」


「うぉっ!!? 」


 背中に駆け上がった死。

 咄嗟に頭を下げた瞬間、ガラスが割れる音とともに、運転室の上半分が消し飛んだ。


「……えぇぇ 」


 ドン引きしながら後ろを向けば、そこには太刀を握りながら泣く彩音が居た。


「だ、大丈夫ですかァ!? 」


「えっ、あっ……ウン。それよりはやく電車を」


 そう言い終える前に、叩き付けられた太刀が装置をぶっ壊した。


「こ、これで良いですか!? 」


「あー……うん、OK 」


 電子科だった俺としては色々ツッコミたい。

 が、電車は減速してるし別にいいと思うことにした。

 ついでにグッジョブもしといた。


「それであのー……これからどうしますか? 」


「とりあえず外と連絡を取る。怪異の名前も分かったし、それ伝えれバッ」


「へっ? 」


 突如として、床に足が沈みこんだ。

 いや違う。

 体が床を透過してるんだ。


「くっ」


 頭が完全に沈む寸前、咄嗟に彩音の頭に腕をまきつけた。





「いったぁ!!? 」


「痛ってぇ……大丈夫か? 」


「は、はい……なんとか 」


 俺は背中を打って吐きそうなほど痛いが、彩音の方は軽傷らしい。

 頭は俺の腕がクッションになったようで無傷だ。


「えちょっ……な、なんで抱きついてるんですか!!? 」


「おごぉっ!!!? 」


 圧倒的なツッパリで押され、ただでさえ痛い背中を壁で打った。

 というか後頭部も打った。


(アイツ……帰ったら絶対……慰謝料根こそぎ取ってやるから……ナ? )


「……ぶっ。ふふっ、あははははは!!!! 」


「えっ……あっ、頭打ちました? いやあの……ごめんなさい!! ただでさえ馬鹿なのに!!! 」


「いや違ぇよ!!! 絶望すぎて笑ってんだよ!!!! 」


 目の前に広がる光景、そこは室内だった。

 等間隔に並ぶ四角い蛍光灯はどこまでも続き、黄色い壁からは湿った臭いがし、無機質で何もない部屋が永遠と続いている。


「混ざるとは聞いてたけどよォ!! これが混ざっちまうとはなぁ!!! 」


 それは約15億平方キロメートルの迷宮。

 無機質なる絶望の怪異。


Backrooms(バックルームズ) Level 0(ロビー)

 


 


 


 

 

 

 

 

 

 

 




 

はい、皆さん大好きバックルームのお時間です(*´ω`*)

 ちなみに元ネタはこちらとなっています↓

https://backrooms.fandom.com/ja/wiki/Level_0_(2)

 記事も話も面白いのでぜひ見てくださいな!!

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[良い点] キャラが濃すぎる…… 話の展開ややりとりがスピード感あっていいですね~。頭の中を映像がどんどん流れていってたのしい!
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