File.5 はじまりの怪異
「なぁ 」
「言うな 」
隣にいる真城はそう言うが、俺にはどうしても気になることがある。
「なんで俺たち……正座させられてんだ? 」
「……言うな 」
でこぼこな道路で二人して困惑していると、とうとうあいつやってきた。
チビなのに高圧的に腕を組み、ピンクのツインテールを揺らしながら、俺たちをガンを飛ばず女。
真城と同じ討伐隊メンバー……接木 咲が。
「新人……なにか私に言うことあるんじゃないの? 」
「え〜……腕を治して頂き、アリガトウゴザイマシタセンパイ 」
「はっ? なめてんの? 」
「ナメテナイデス 」
チビなのに、チビなのにめちゃくちゃ怖い。
顔が引きつって、なんか変な声が出る。
女は好きだけどこういうタイプはマジで嫌いだ。
「まぁいいわ。それより真城 」
「……はい 」
「なんであんたが居るのに、新人の腕が無くなってた訳? 」
「……オレの判断ミスでした 」
「私が来るの遅れてたら、失血で死んでたわよ? 」
「……分かってる 」
「……はぁ、分かってるのなら良いわ。幸いにも次はあるから、気をつけなさい 」
「……ありがとな 」
「いいわよ別に 」
(う〜ん、ちょっと待て? )
とある違和感に首を捻ってると、急に咲が俺の前にやってきた。
恐怖で肩が強ばる。
けれど咲は優しい手つきで、俺のくっ付いた腕を触りはじめた。
「新人。痺れるとか違和感があるとかは無いの? 」
「アッ、ナイッス 」
「ならいいわ。でも違和感があるなら連絡しなさい、すぐに治してあげるから 」
そう言い、咲は番号が書かれた紙を俺の胸ポケットに入れた。
(あれ〜こいつ……めちゃくちゃ良い奴じゃね? )
「ところで真城。死体はどこにあるのよ? 」
「いいって、オレが回収する 」
「変な気を使わないで。汚れ役を押し付けるほど堕ちちゃ居ないわよ 」
「……それでもだ 」
ヘラっと笑って真城は走り出す。
けれどその背を追いかけることは無く、むしろ咲の目は真城のを見送っている。
しかもその頬は少し赤い。
「……ほんと、バカなんだから 」
(あーなるほど、惚れてんのなこいつら )
少し上を向いて考える。
たしか特別部隊には、男が俺と真城だけらしい。
という事はだ。
真城と咲が完全にくっ付けばライバルは居無くなるわけだ。
(よーし、アイツら応援するか!! )
「待たせたな〜 」
ふと気がつくと、もう真城が帰ってきていた。
「はえぇな。てか死体は? 」
「こんなか 」
ポケットから取り出された赤い飴玉のようなもの。
覗き込んでみれば、なにかブツブツとしたミンチみたいなのが見える。
「怪異ってのは普通、物に宿らせて使うんだ。んでこのカプセルにもそれが入ってて、死体を保管できる 」
「物資とか生きた人間もか? 」
「いや無理だ。圧縮してるからバキバキになるぞ 」
「へ〜 」
「とりあえずまぁ、任務終了だ。お疲れさん 」
肩をポンっと叩かれた。
なんだか……兄豁サ縺ュ
「ところでよ 」
「ん? 」
帰りの電車に揺られる中、真城の重い声が聞こえた。
その黒い目は暗く、手は落ち着かなそうに握ったり離したりを繰り返している。
真城の隣いる咲も、同じような顔をしている。
「大丈夫……なのか? 」
「なにが? 」
「いや……初めてなんだろ? 人を殺したの 」
「あ〜 」
別に気にしてなかったが、そう聞かれるとなんだか胸が痛むような…………気すらしない。
「平気だ。仲いいヤツならまだしも、知らねぇ敵だし。あそこで躊躇ったら俺たちのどっちかが、死んでたかもしれねぇしなぁ 」
「……すまん 」
「なんで謝んだよ。俺もお前から助けてもらったじゃねぇか 」
気遣いとやらをやってみるが、真城は黙ったままだ。
やっぱり慣れないことはやるもんじゃないな。
「まぁ……頼むから一人で抱え込まないでくれ。辛かったら周りを頼れ……死なないでくれ 」
「大丈夫だ。自分から死にはしねぇよ 」
とりあえず笑ってみた。
それに、周り相談なんて死んでもしねぇ。
だって話したところで、理解されるわけが無いから。
「ただいま〜 」
三人で無事に寮へ帰ってこれた。
が、真城だけは慌ただしく、リビングに置かれた鍵や紙をまとめている。
「どした? 」
「ちょっと報告したいことがな。ほら、アイツ死ぬ間際に変なこと言ってたろ? 」
「あー 」
頭をかたむけ、無理やり記憶を掘り起こす。
たしか……『誰もが住める、楽園へ』と。
「まぁ気になるだけだ。そこまで深く考えんな 」
「そっか 」
「じゃあ行ってくる! お前らはしっかり休めよ!! 」
「あんたもね 」
「おう 」
そう言うと、真城はどこかへ行ってしまった。
「ふわァァ……じゃあ私は寝るわね。夜通し任務に行ってたから 」
「そっか 」
「あんたも寝なさいよ。初任務だったんでしょ? 」
「まぁ 」
あまり眠たくないし疲れてないが、これといってやる事はない。
だから咲と一緒に階段を登る。
「おやすみ。また明日ね 」
「ウッス 」
咲が部屋に入るのを確認し、俺も自室の扉を開ける。
「やぁ。おかえり 」
するとそこには、あのクソ学長が居座っていた。
「キミに」
すぐさま扉を閉め、とりあえず携帯を耳に当てる。
『もしもし? 事故ですか? 事件ですか? 』
「事件ですねぇ! なんか自室に知らない女の人が」
「ちょおい!!! どこに掛けてんの!!!! 」
飛び出してきた学長から携帯を奪われ、電話を切られた。
どう考えたってこいつが悪いのに、なぜかその顔は青ざめ、肩で呼吸をするほど焦っている。
「なに? 」
「じゃないよ!! なに学長を警察に突き出そうとしてるのさ!!? 」
「どう考えたってお前が悪いだろ!! 自室開けたら女の人って、今どきのホラー漫画でもねぇぞそれ!!! 」
「新人!!!! うるさい!!!!!! 」
「「あっ、すいません 」」
部屋の奥からやってきた怒鳴り声に肩が跳ね、反射的に謝ってしまう。
そういえば咲、寝るとか言ってたな……
「……コホン、とりあえず来てもらうか 」
「どこに? 」
小声でそう聞き返すと、耳打ちでギリ聞こえるような小声でこう言われた。
「パンドラの地下……研究所さ 」
「なぁ、長くねぇか? 」
「若いんだから文句言わない! 私の方が疲れてるよ!! 」
ゼーハー言いながら、クソ学長は小さな足で階段を降りていく。
かれこれ五分くらいは降りたはずなのだが、まだ研究所のけの字も見えない。
いや、『けんきゅ』ら辺までは見えてんのか?
「つかエレベーターはねぇのかよ? 」
「機械は基本的に置いてないね。私たちの中にある怪異で壊れちゃうから 」
「あーそっか 」
「まぁ冷蔵庫とかは、高いお金出して怪異耐性のあるものを買ってるけどね……ほんと外国に回すんじゃなくて、国内に回して欲しいよ 」
「なー 」
そんな話をしながら、階段をおりていく。
すると見えた。
緑色の鋼鉄で造られた扉が。
「ぜェ……こ……ここが……ちょっと待って」
クソクソの学長は壁に寄りかかると、苦しそうに深呼吸を始めた。
その姿はあれそっくりだった。
これを言うのは失礼だとは思うが、まぁクソ野郎だし気にする必要はねぇか。
「ババァ見てぇだな 」
「ババァとか言わないでよ!! 私まだ30だよ!? 」
(の割に背が低いな…… )
しょーーーーーじきコイツの年齢とか興味ねぇし。
コイツの顔を見るくらいなら、このよく分からん壁の穴数えてた方がまだ有意義だ。
「ハイハイハイお待たせしましたっす〜……どういう状況っすか? 」
「だれお前? 」
ギギっと扉が開く音とともに、知らない声がした。
そこにはヨレた白衣を着た金髪の男が居た。
ボサボサな金色の髪に、ボーボーな髭。
なのに顔は若く、制服を着れば学生と見間違えるレベルで幼い。
というかなんで目がガンギマってんの?
目のクマえっぐ……こっわ……
「あ〜どうもっす! 自分、『木出 槌子 』と申します。五徹目なんですけど大丈夫です!! お客様は五人ですかね!? 」
「キミは後で寝な。それと、モニタールームを借りるよ 」
「ハイです!! 」
無駄にハイテンションな木出は、スキップをしながら長い廊下を進んでいく。
一応ついては行くが……その途中で、変な違和感を感じた。
(ここ……階段とか廊下がグチャグチャだな。テロ対策してるホテルみたいだ )
「あっ。ここっす!! 」
「なにぼーっとしてるんだい? 」
「あぁ、わり 」
案内された部屋。
モニタールームと言うだけあって、そこには小さな射影機と、こじんまりしたスクリーンしかない。
「適当に座りなよ。ここでキミに教えてなきゃいけないことがあるからね 」
「教えるって、何を? 」
「始まりの怪異について……かな 」
照明が落ち、スクリーンに映像が映し出される。
水族館を泳ぐ、半壊した人間の頭部たち。
腕だけが転がる血溜まりの交差点。
トンボとカマキリの特徴を持つ怪異が、女性を悲鳴ごとむさぼり食っている光景。
それらが、いっせいに。
「キミはさ、この映像の違和感に気がついたかい? 」
「あぁ。これ作りもんだろ? こんな異様な光景、綺麗に残ってる方がおかしい 」
「そのとおり。これらはまだ、人間が怪異を造りものとして楽しんでいた時の時代さ 」
どこか暗い顔をしながら、クソ学長は話を進める。
「怪異は実在しない、けれど多くの人に認知されている。ひとりかくれんぼ くねくね てけてけ 井戸の中にいる女性。このように都市伝説としてね……でも皆、フィクションだと笑っていた 」
「それがどうして、今みたいに蔓延ってんだよ? 」
「混ざったからさ 」
映像が切り替わる。
そこは誰かの部屋で、小物やピンクのカーテン、ベットのサイズで女性の……しかもかなり幼い少女の部屋だと分かる。
そして部屋の中央には、血まみれのぬいぐるみと、一本のナイフ。
ちょうど少女くらいの形が描かれた、白線があった。
「これを見て、キミはどう思う? 」
「犯人が少女を殺した……って思うな 」
「じゃあ侵入された痕跡がなく、証拠もなく、ナイフからは少女のみの指紋が発見されれば? 」
「自殺だと思う 」
「キミの言う通り、これは少女が自殺した事件の話さ。でもこの時はちょうど、『ひとりかくれんぼ』という存在が出回ってた時なんだ 」
(……なるほど )
「事実はそうでも、周りはこう噂する。『ひとりかくれんぼ』を行った少女が、怪異によって殺されたと。噂はインターネットを介し、伝言ゲームのように広まった。あの少女は自殺願望があった、親は悪魔崇拝者だった、怪異の正しい終わり方をしなかった、ただの自殺だった。過去に怪異によって殺された事件は……複数あった。時代が進んだとしても、同じような事件が起こればまた噂される。そして恐怖は、嘘は、未知への好奇は、複数の事件と混ざり、誰かの悲しみが蓄積し、ほんの小さな形をもった。それが」
「怪異……って言ったら殴るぞ? 」
クソばか学長は驚いた顔をしているが、こっちとしてはまったく納得できていない。
「だって変じゃねぇか。銃、国、死……そっちの方が何度も恐怖をされるし、陰謀論もめちゃくちゃあんだろ? なんで怪異だけが、蔓延ってんだよ? 」
「……ほんとキミは、嫌になるほど鋭いね 」
仕方なさそうに笑う学長。
その手のリモコンが操作され、また映像が切り替わった。
水で満たされたカプセルの中にある、小さい種のような黒い点。
それは胎動のように震えていた。
「これが現実となった怪異の形……でも単体だと力が弱くてね、出来たとしてもただ周りの人間を不調にする程度。でも日本が半壊したその日、これはとある少年の中へと入り込んでいた 」
映像が変わる。
精神科のような場所で、腕を縛られた少年がベットに頭を打ち付けていた。
そのうめき声は聞いているだけで気分が悪くなるほど、苦しみに満ちている。
「彼は生まれつき精神を患っていてね、理解されない家族からは病院に叩き込まれた。その恨みが、恐怖が、苦しみが、種を育み 」
少年の腹が裂け、それは飛び出た。
数十本の……人間の左腕が。
「この世で最初の怪異……『不理解の怪異』が産まれた 」
映像が切り替わる。
今度は街中、そこで数百の腕が、数人を押し潰していた。
「怪異が人を殺した。それがネットに上がった。それだけで充分だったんだ。人が死んだという恐怖、陰謀論だと叫ぶ声、フェイクか事実かの議論。それが無数の怪異を具現化させ、人を殺し、その映像が世界へ広がり、その恐怖が怪異を爆発的に増やした 」
死ぬ人が。
殺す怪異が。
つまらない映画のようにたれ流される。
これがフィクションなら笑える。
だが現実に起こっていたとなれば、胸糞が悪いだけの映像だ。
「キミはどうして大人は戦わないのかと言ったね? 」
「……あぁ。でも今ならなんとなく分かる 」
「……それは? 」
「子供の方がストレスを感じやすく、絶望しやすい。その方が身に宿した怪異が強力になるから……だろ? 」
「その通り。あとは怪異を宿しやすいんだ。あまりにも酷いトラウマ、偏見、恐怖、絶望……それは怪異すらも蝕み、増幅し、形を変え、子供を守るように、蝕むように、おぞましく変化していく 」
映像が変わった。
隊服を身に着た子供たちが、怪異を蹂躙する姿に。
「その力は強大だ。大人たちも戦えはする。でもキミたちのように怪異を蹂躙することはできない 」
「じゃあ……今を生きるのに精一杯な子供たちに、世界の命運を任せてるってことか 」
「その通りだよ。結果的にそれは幸をなしている。怪異の数は減り、時期に日本は元の世界に戻るだろうね……子供たちの犠牲の上で 」
そこで映像が止まった。
部屋は少し明るくなり、クソ野郎の顔が良く見える。
今にも吐きそうな、青い顔が。
「で? これを見せて、俺にどうして欲しいんだよ 」
「単刀直入に言うと、キミの体を調べさせて欲しい 」
「ハイハイ〜ちょっと横失礼するッス〜 」
後ろから、あの寝不足科学者が何かを持ってきた。
机に置かれたのは、水で満たされたHの形をしたガラス瓶と小さな機械。
その中央には、映像で見た怪異の種が、産まれようと必死に脈動をつづけていた。
「これは捕獲した怪異を体内に入れる装置さ。機械に指を入れ、その中に怪異を注入……いずれそれは心臓に宿り、怪異の力を扱えるようになる。まぁキミには、この中に血を入れて欲しいだけなんだけどね 」
「それだけか? 」
「うん、それだけで分かることがあるからね 」
(あー……そういう事ね )
怪異で襲われてもいいように、ポケットに隠したナイフで左の指先を切る。
装置には反対の手を入れると、小さなゼンマイの音とともに、チクリとした痛みが走った。
赤い血が水の中を泳ぎ、怪異の種はそれを呑む。
けれど何も起こらない。
怪異が消えるどころか、むしろ胎動は激しくなっている。
「ふむ……残念だ。キミの怪異を消す力は、体質ではないようだね 」
「そうか? 俺としては良かったんだが 」
「どうして? 」
「だって体質だったら、俺のこと解剖してたろ 」
図星だと言いたげに、クソどもは目を見開いた。
「……考えすぎだよ。だって」
「一人の犠牲で人類みんなが怪異に耐性つきました。いや俺の血肉使った兵器でも作ればいい。世界にとっては、それが平和だもんな? 」
「ちが」
「違うなら、なんで地下室に連れてきたんだよ? 」
にっこりとした笑みをクソ野郎共に向けると、もう言葉は返って来なかった。
「怪異に関しては勉強になった。あんがとな〜 」
「待ちたまえ!! 」
さっさとモニタールームを出ようとしたが、手を掴まれて止められる。
その手は気持ち悪い学長のものだ。
「んだよ? 」
「図々しいのは承知でお願いする。どうか……この学園を辞めないでくれたまえ 」
辞める気はまったくないが、クズの願いに頷くのは癪でしかない。
それにコイツらは、哀花を騙して戦わせてる可能性もある。
「お前らの言うことを聞いて、なんのメリットがある? 」
「全面的なサポートを約束する。キミの力は替えがきかないんだ……単独で怪異を倒せるだなんて、それだけで子供たちの犠牲を少なくできる。だからお願いだ 」
「頷くと思うのか? 」
「あぁ。だってキミは私と同じように……怪異に家族を殺されているだろう? 」
吐き気と怒りと殺意が、胸の奥から顔を出した。
「……なんで知ってる 」
「身勝手ながら調べさせて貰った。怪異が家族5名を襲い、一人が生き残った事件を……だから」
「興味ねぇよ 」
手を払い、気持ち悪くて気色悪くて死ねばいいゴミカス野郎どもを睨む。
ここがすぐ逃げられない地下じゃ無ければ、今すぐこいつらを殺したい。
「家族が死んだ? 未来のためだ? 興味ねぇよそんなこと!! 哀花がここにいる……それで充分だ 」
扉を蹴破る。
さっさと帰る。
ホント大人は……信用ならねぇ。
ーーー
「いいんすか学長? あのガキ殺さなくて 」
頭痛がひどくて顔を抑えてると、欠伸をする槌子が声をかけてきた。
「言っただろう? あれは替えのきかない能力だ。体質的ではないなら尚更ねね 」
「そうスっか……自分は殺しておいた方がいい気がしますけどね〜 」
「まぁ……ね。良くも悪くも、彼は察しが良くて勘が鋭い。あれを説明すればむこう側に寝返る可能性もあるし、反乱因子であることは間違いないよ。でも」
釘を刺すように、槌子が勝手をしないように、そのクマだらけの顔を睨みつける。
「大人の都合で、これ以上子供の未来を奪いたくは無い。いや奪わせない。子供を守るのが、大人の役目だからね 」
「……はぁ。そんなこと言ってたら手遅れになりそうですけどね〜、遅かれ早かれ問題起こしますよアイツ 」
「それでもだ 」
「……まっ、学長命令なら仕方ないっすね〜 」
槌子はケラケラと幼く笑う。
その笑顔が子供のようで、なんだか妙に安心してしまう。
「あっ。思い出したんっすけど、さっき真城副隊長から報告がありましたよ。なぜかパンドラの生徒を狙う男が、誰もが住める楽園へ……そう口にしていたことを 」
「……それは一大事だね 」
すぐに立ち上がり、モニタールームを飛び出る。
国家と警視庁。
パンドラおよび、全国の怪異狩りに、あの事を使えなければならない。
「槌子、寝る前に研究室に連絡しておいて。彼らが動き出した可能性があるって 」
「ハイっす! 」
「さぁ、子供たちは頑張ってるんだ。大人も頑張るよ 」
これから数日は寝られそうにない。
でもそれだけで子供を守れるなら、安いものさ。
ーーー
「あー……暇 」
クソ学長、いやクズ学長のせいで目が覚めた。
そのせいで寮に戻って寝ることすらでき無い。
なんか頭もクラクラするし……あっ。
「そういや今日、朝からなんも食ってねぇわ 」
朝方に、哀花のところで食べたのが最後。
昼飯どころか、夕暮れになるこの時までなにも口にしていない。
「学食……食うか 」
学校裏をとぼとぼ進みながら、ポケットの中にあるジッポーで遊ぶ。
これはあの時に殺した男が持っていたやつだ。
(つーか敵の遺留品ってもらっていいのかな? あとで真城に聞くか )
そんなことを思いながら、火をつけたり消したり。
フタを閉じる時に鳴る、甲高い金属音がなにかと心地いい。
「あー、やっと眠くなってうぉっ!!? 」
ぼーっとしてたらすっ転んだ。
コンクリートの妙なへこみに引っかかって。
「いってぇ〜 」
幸いにも手を擦りむくだけでたすか、
「あっ 」
前を見ると、わー大惨事。
壁にかけられた垂れ幕に、ライターの火が引火していた。
ジリジリと焼ける炎は垂れ幕を上り、学園の壁にまで引火し、熱で割れたガラス片が落ちてくる。
「あー……これは……うん、やっちゃっぜ!! 」
そんなことを言ってる間にも、炎は燃え盛り続けていた。
どうでもいい情報ですが、歩くんは半年ほど精神病院に入院してたことがあります
病名は不明ですが、幻聴 自傷 妄想 奇声などが激しく、よくベットに拘束されていましたが、ある日を境に大人しくなりました
そして家族は喜びました
『笑顔が増えて明るくなった。あの子の病気が治って嬉しい』と