File.39 横領
メンヘラになりたいですが自分は無価値だと思ってるので腹筋します
目指せビスケット・ハンマ
(なんで生きてるんだっけ? )
自分に問う。答えは見つからない。
(なんで死なねぇんだよ!!!! ……生きる価値はあるのか? )
頭痛の度に、死にたい欲求が溢れてくる。
でも俺は生きている。
スーツ野郎に頭を撃たれた。心臓をえぐられた。手足もねじ曲がっている。
(なんで俺が生きて、あの人は死んでる? ……死んでない、良かった? なんで死んでない死ね!!! )
頭を壁にぶつける。リスカするみたいに。
弾を撃ち込まれた穴からピュピッと、血と液体が気持ち悪く吹き出す。
でも足りない。痛みよりも胸が苦しいんだ。
「あっ 」
長い通路を歩いてたどり着いた。
最初に来た入り口。人を小豆みたいに潰して殺す工場に。
「ははは!!! 」
発音するように笑って、人が入った箱を押しのけて。
そのままプレス機に潰された。
ーーー
「壊れ! なさいよ!! 」
何度も、ハンマーで壁を殴り付けるが壊れない。
当たり前だ。これは哀花の怪異。
壊れることはない、不変の氷。
でも何とかしなきゃ、このまま全員。
酸欠で死ぬ。
このままじゃ、哀花が仲間殺しになってしまう。
「……咲? 」
「えっ? 」
氷の向こうに、青白い顔の哀花が見えた。
「なんで……閉じ込められてるの? さっきみんなと避難したって電話で 」
「電話? 何言って 」
「キャー痴漢よ〜! 誰か助けて〜!! ……てな 」
空中に現れた四角い映像。
そこから哀花の声がした。が、確実に別人だ。
「誰? 哀花の声でふざけないで 」
「ははっ、そんな状況でも他人の心配か。うんうん、美しいな。あぁすまない、俺は黒幕だ。怪異と協力し〜、子供を使って実験し〜、咲ちゃんの声を使って哀花に仲間殺しをさせた科学者だ。名は〜……まぁ適当に読んでくれ。xでもジェーンドウでもいいぞ? 」
ヘラヘラと喋り続ける軽薄で不愉快で謎のクソ男。
でもそれより危ないのは、
「あっ……僕……せい…… 」
哀花だ。
手も息も、瞳孔すら震え、過呼吸を起こしてる。
「哀花!! 私たちは大丈夫! だから」
「自分が殺したって言う事実を受け止めなさい? あぁそれとも、仕方がなかったって言い訳する? 犯罪者みたいによ 」
「黙りなさい!! 」
私の声でヘラヘラヘラヘラ笑うクソ。
頭を抱えてうずくまる哀花。
今すぐ何かを言いたい。でも閉じ込められたのは確かだ。
(歩の能力で、いや永遠の氷は消えない。というかアイツは無事なの? まかさ巻き込まれて)
「ごめ……僕なんかより、みんなの方が……なんで僕が生きて…… 」
「哀花!! 」
「あ〜うるせ。とりあえずミュートっと 」
氷に映る哀花が消える。
そして、薄ら笑いの男が視界全面に映し出された。
「邪魔が入ったが……まぁ丁度いい。話でもするか 」
吐き気すら感じるほどの不快な笑み。
氷の中では屈辱を噛み締め、その顔を睨みつけることしかできない。
「そもそもお前たちは計画知ってんの? 知ってっから今来たんだよな? 」
「……知らないわよ 」
「じゃあ歩とかいうクソか〜……よし、バカでも分かるように説明しよう 」
椅子を回し、笑みを浮かべるクソ。
今はその顔や歯、青い目の色ですらも不快に思える。
「まず俺はな、怪異化に目を付けたんだ。人を怪異に変貌させる現象……いやマジでアレは凄まじいよ。ただの怪異よりも、人間の方が知能や意思がある。その分数値は強力に〜……あぁすまん、話がそれたな 」
「バカの話が回りくどいって知らないの? 」
「何も出来ねぇヤツに言われたくねぇよ……あぁ悪い、バカの相手をするべきじゃねぇな。んでまっ、怪異化は強力な分デメリットがある。それは時間が経てば怪異に体を蝕まれることだ。そこで俺は考えたんだ!! それを、他人に使えねぇかなって 」
「……デメリットだけを他人に押し付けるってこと? 」
「そうそう! その通りだ!! 」
上機嫌。まるで始めて話を聞いてもらったように、男は椅子の車輪で走り回る。
「でも怪異化には莫大な恐怖が居る。そして指向性も。あぁ指向性っていうのは……まぁ向きみたいなもんだ。水は穴が空いた方に流れてくだろ? 」
「教えられなくても分かるわよ 」
「あぁすまん。お前は頭が良かったな。俺の周りはバカばっかでほんと……話を戻す。そして俺はこう考えた、莫大な恐怖を個人に向ける方法を。それが……テレビだ 」
「……なるほど 」
点と点が繋がった。
恐らくコイツは
「あぁ待て待て、言わせてくれ。お前らを殺人犯と祭りあげれば、恐怖が生まれる。そいつらが街中の人間を殺し回ってますと分かれば、恐怖に指向性が生まれる。そしてそれが国中で流れてみろ……恐怖が流れるのを感じるだろ? 」
「しかもそれに事実は関係ない。報道さえすれば恐怖を煽れる……バカが考えたわりには効率的じゃない 」
「……アハハっ! 考えが浅いなぁ咲ちゃんよォ!! 」
氷の中に、耳が割れるほどの笑い声が乱反射する。
そしてクソ野郎はこう言った。
「怪異あるこの世界には、恐怖に垣根がない。つまりだ、この恐怖は国境すら越える……分かるか!? 戦争という根幹が、兵器という存在が! ひっくり返るんだよ!! 」
ムカつくが、認めるのがクソほど不快だが。
その言葉に焦ってしまった。
「つまり……一度でも恐怖を煽ることができるのなら 」
「世界中の人間、誰であろうと!! 怪異に変化させ殺すことができる 」
コイツは作ったんだ。
銃を、戦車を、ミサイルを覆すものを。戦争の主力、その存在を揺るがすものを。
国境を越えて人を暗殺する、兵器を。
「まぁ色々大変だったがな。恐怖を煽れても、基盤の恐怖が足らなきゃ意味がねぇし。恐怖の理解を進めるのにすら、怪異の協力やサンプルがあったとしても数十年かかった。だが! 完成した!! この技術は戦争を変え! 俺の名声となってくれる!! きっとこれからさっきずっとずっとずっっっと!! 俺の名は続いていく。そして俺を散々馬鹿にしたヤツらに知らしめてやるんだ。お前らの方が馬鹿だったぞって 」
「……長い 」
正直、こいつにどんな過去があろうが、興味もないしどうでもいい。
でも、
(なんで私にそんな話をした? )
考える。今私はなにも出来ない。
そんな状況でこの話を……恐怖が足らない? いや焦る理由がな……邪魔が入った?
(……まさか! )
遅れてやってきた恐怖。と同時に、地面がグラグラと揺れた。
まだ足りなかったんだ。その兵器を動かす恐怖が。
けれど今、私の恐怖で、感情で。
それが満たされた。
「さぁお披露目と行こうか!! 新兵器の全貌を!! 犠牲者は咲ちゃんと……それに殺される馬鹿どもだ 」
不快な笑い声とともに画面が移り変わる。
底が見えない巨大な穴。
その中央にはDNAを示すような歪な螺旋。
腐った手足や髪のついた生首で形成された螺旋は、肉の糸を引きながら回転している。
そこには止めどなく、ドロドロにすり潰された肉たちが落とされていく。
けれどその真ん中。
地獄の中心のような場所に、彼は居た。
「……おい待て待て! なんでお前がそこに居る!! 」
「歩? 」
「いぇーいみんな見てる〜? 今回が最終回だ 」
(何して……配信? )
歩は身体中から折れた骨を咲かせている。
なのにカメラを回し、死体たちの上で寝そべった。
「これぜ〜んぶ、俺が殺った。んでこれからお前らもこうする。首洗って待ってろよ。じゃな 」
カメラを投げ捨て、歩はこちら側を見て笑った。
「馬鹿かお前? 通路を複雑化しても、運送ルートが単純なら意味ねぇだろ? 」
「肉をすり潰すように出来てんだぞ!? なんで死んでねぇんだ!! 」
「頑張った……つーかそんなこと聞いてる暇あんのかぁ? 」
「あぁ!? 」
「お前らが貯めた恐怖が、怪異の力が。ぜ〜〜〜〜んぶ……俺に向いたんだぜ? 」
配信。嘘の言葉。
そして脳裏に思い浮かんだ、あの言葉。
『人生で怪異の力使えたら良かったって思うことがあるからだな 』
(まさかっ!! )
「テメェ!! 」
歩の目的。
それを今、理解した。
「廻異化 絶望の怪異 」
螺旋は回り、肉は軋み、宙に放たれた黒い火種が死体を。歩を。
焼き付くした。
そして一人。
生まれて初めて立ったような清々しく。
何も無くなった空間に、無傷の歩は立っていた。
「……やっと、手に入れたよ。俺が欲しかった怪異を 」
「っ!? 」
目が向く。
クソ野郎の背後に、歩が現れる。
そして映像は途切れた。
「……はぁぁ 」
歩がいつから計画していたのか、そもそもなんのために戦っていたのか。
私たちを裏切っていたのか。
そもそも仲間だと思ってたのは私だけなのか。
分からないことだらけではあるけど、一つ。
この檻の中で、言いたいことがある。
「まぁ、せいぜい生き残りなさい。あんたが居れば哀花も大丈夫だろうし……うん、頑張りなさい。歩 」
「え〜何そのお嫁さんみたいな感じ〜! 歩は私のだもん!! 」
「なっ!? 」
誰も居ないハズの後ろから声がする。
メスを持ち、振り向きざまの一撃。
けれどそれは、小さな指一本に止められた。
ふわふわとした紫色のツインテールをした子供に。
夢の怪異を持つ、私を攫った敵から。
「なんでここに…… 」
「んーーーー、哀花助けちゃうのは癪だけど。まぁ歩と取引しちゃったしね 」
「取り引き? 」
「うん! えへへ〜、楽しみだなぁ 」
意味がわからない中、子供はニコニコと笑いながら手を合わせた。
「さぁ、こんな夢からは逃げちゃおう。今からはきっと……悪夢の時間だからね 」
ーーー
「っ!? 」
ただの拳。それを確実にガードした。
なのに吹き飛ばされ、天井と床をバウンドしてやっと止まれた。
(いつの間に背後に? )
パワーも謎だが、突如として現れた歩。
フラフラとこちらに向かってくる存在。
それがイレギュラーすぎる。
「なんのワープだよ? 絶望の怪異とやらの力」
生々しい水音、右目が潰れた。
それが投げられたナイフだと気がついた瞬間、喉を裂かれ、ただの蹴りが首をひちぎった。
「マジでおめぇ……人の話聞かねぇなぁ!! 」
保険を消費。
そのまま体を再構築。
「出金徴幸 」
亜音速の五百円玉を射出。
歩の右腕を引きちぎる。
「徴収の怪異……それが俺の能力。対価を奪い、それを元に製造する。ま俺の場合、それを拡大解釈をしている。他者の怪異を奪い、自分のモノへと製造。そして命を奪えば、自身の命すらも造れる。つまり、あと俺は99回の命を持って!!? 」
話の途中なのに、俺の首を右腕の骨が貫いた。
「じゃ100回殺してやるよォ!!! 」
「話くらい聞けよクソガキ!! 」
徴収した刀を生み、音速の居合で壁を凪ぐ。
だがいつからか、視界から歩が消えていた。
「っ!? 」
真下から飛んできた蹴り。
そのまま首を折られストックが消える。
「98 」
リスポーン。すぐさま通路をナイフで埋めつくし、逃げ場のない波状攻撃を仕掛ける。
けれど次の瞬間には接近され、首を裂かれた。
「97 」
(コイツ…… )
死からの復活。と同時に首にナイフが突き刺さり、そのまま顔面を頭突きで粉砕された。
「あんがとよォ飛び道具!! 」
身体中に刺さったナイフを抜き、歩はそれを投げつけてくる。
それをガード。すぐさま後ろに飛び退くが
「95 」
両目にナイフが刺さり、回し蹴りで首を折られた。
(コイツ……本当に100回殺す気か!? )
復活。そして目の前にナイフ。
その瞬間、
「94」
『データ輸送完了 』
頭に流れた機械音。
両手に改造したショットガンを造り、トリガー引く。
「っ!? 」
爆ぜた紫色の火花が通路を壊し、この建物自体に巨大な風穴をぶち上けた。
アレを直撃しても、歩は生きている。
だが腹には巨大な穴が空いた。
「もうこの施設に用はねぇ。やっと全力で殺れるよ 」
「うるせぇ花火だなァ 」
リロード。空にミニガン精製。
ショットガンは躱されたが、空から乱射される弾は的確に歩の背を生ハムのように削り取っていく。
けれど歩は足をとめない。
(硬い? そうか。怪異の力を得た今、アイツの身体能力が上がってるんだ )
元が硬いヤツがさらに硬くなった。
下手をすれば足元を救われる。
それに対応すべく、手元に筒を生み出す。
「骨円 」
その口から放たれた青い炎。
一瞬にして部屋中に炎は蔓延するが、
「93!! 」
炎を突き抜け、歩から首を握りつぶされた。
「命に保険があるってことはよォ 」
復活したと同時、歩に抱きついて爆弾の雨を降らす。
「こういう事もできる 」
人を肉に変える爆風。
それをモロに喰らったが歩は死なない。
壁際に吹き飛ばされ、そのまま駆け出した。
だが遅い。
「ちゃんと逃げろよ 」
怪異を併用し、身体能力と瞬発力を上昇。
そのまま腹を蹴り、壁に叩きつけ、その顔を蹴り抜いて壁の中へと吹き飛ばす。
「映像で見たが、テメェの厄介なとこは耐久性と怪異を壊す異能。そして不意打ちだ。不意を付けば怪異頼りの守りになる。だから接近されれば頭がゴチャついて命取りになる。だからこうする。銃火器で遠方から削り、近付けば吹き飛ばす。対策すりゃ、それだけでお前は詰むんだよ 」
「やっと……見つけた 」
「あっ? 」
壁が壊れ、視界が広がる。
そこには透明な氷が広がり中央には二人。ヨダレと涙を垂れ流すだけの哀花と、それに寄り添うように手を触れる傷だらけの歩が居た。
「歩……僕……なんで…… 」
「大丈夫だ。咲たちなら救助される 」
「どうやっ……て? 」
「まぁ気にすんな。それに、昔のことでも思い出したんだろ? 」
「……うん 」
「でもそれは今じゃない。まぁ……悪い夢みたいなもんだ。寝て起きれば、少しは薄まる。だからゆっくり寝ろ……起きたら全部、元通りだ 」
指を握り、髪先を触り、哀花に微笑む歩。
が、そんな絶好のチャンスを逃す訳にはいかない。
ライフルで歩の頭を撃ち抜き、粘性の燃料を爆薬とともに撒き散らす。
哀花は死なないだろう。
だが歩は死ぬはずだ。
「コツが分かればさ、弾丸滑りって出来るもんだな 」
けれど黒煙の中、爆音によって響く耳鳴りの中から声がした。
あの憎たらしい声が。
(コツってなんのだよマジで……? )
「なんだそれは? 」
黒煙が晴れ、あらわになったのは。
枝。
植物の枝が、ツルが、哀花だけを守るように造られていた。
「絶望の怪異の能力。他者のみの心身を癒し、俺自身の枝を生み出す。この枝は絶望の現れ……俺の血を吸い、生きる意思を奪い、咲いてしまえば根付かれたものは死ぬ。それだけの力
」
(……はっ? )
ブラフの可能性はある。だがもしそれが本当なのなら……あまりにも弱すぎる。
アイツには日本中、そして数万人もの恐怖が向けられたんだ。
配信の内容をイジれば、能力をある程度寄せることもできるハズだ。
なのに、他者だけを助け、自分が苦しみを背負う怪異だと?
(コイツは……何を考えてる? )
今までの負を覆すチャンス。それを棒に振るった歩。
けれどその表情は晴れ晴れとし、名残惜しそうに哀花の髪先を触り、俺に笑顔を向けた。
「礼を言うよ。お前のおかげで、ずっと欲しかった怪異が手に入った。あぁやっと……自分に生きてた意味を見つけられた 」
「……? ……!? 」
「だからまぁ……うん、用済みだ 」
目尻にシワがよるほどの、歪な笑み。
それに気を取られた瞬間、眉間に枝が突き刺さり、それが脳の中を寒天のように掻き回した。
「っ……キメェことしやがって 」
「さぁ、腹から声出せ 」
無数の枝を背に生やし、剣山を背負った歩は中指を立てる。
「遺言がこの世に、少しでも残るようになぁ!! 」
次の話で書きますが、この二人がベラベラ能力開示してるのには理由があります
まぁお互い怪異が不完全なんです
話長男さんは26歳の大人ですが、精神が子供のままなので不安定に怪異を扱えてます
歩くんは怪異を従えると言うよりは、怪異の力だけを横流しして使ってるだけなので、だいぶ不安定です
なので、説明して相手の中に生まれた恐怖で飯食ってる感じですね
あと不安定っていうのはうーん……例えるなら体力 筋肉 そのままで、足だけは世界一速いみたいな感じっす
なので走れば走るほど足が砕けていきます
というかマジでアイツ話長いなほんと




