File.38 ごっこ遊び
寒すぎて頭が発情期の猫
とにかくうるさい
あと始めての三人称です初めて書く
読みにくかったらすみません、これ一人称でかける気がしない
「じゃあ大人らしく逃げマース 」
女装癖の怪異の能力。
動く壁へと逃亡を図ろうとするが、
「あはっ!! 」
不可避の暴力がそれを許さない。
瞬きの間に叩き込まれる拳が壁を破壊。
生み出されたベルトが女装の顔を削ぎ、再生した顔へ削り取った肉を蹴り飛ばした。
「はやっ 」
加速する暴力の化身。
ぬいぐるみの腸を蹴り抜き、トラウマの顔面を殴り潰してなお止まらない。
「流石に 」
「舐めすぎですよ〜?? 」
崩壊の歩み。
床は崩れ、空中に浮いた暴力を細かな瓦礫がミンチへと変える。
傷は治れど痛みはある。
人間は痛みに弱いと、怪異は本能で知っていた。
だが知らなかったことが一つ。
「さて……テンション上げて行きましょ? 」
苦しみを紛らわす方法を、人は熟知していることを。
「モルヒネ 」
咲の注射針。ドラックにも似た快楽の本流。
理性の溶ける甘い液体。
知性のない笑みが弾ける。
「ひひっ!! 」
暴力は咲を殴り飛ばし、その加速でぬいぐるみに飛びついた。
手を回し、くすぐるような吐息で囁く。
「ニトロ 」
「ひっ!? 」
炸裂、爆発。
細切れになったぬいぐるみは再生する。
だがその隙に、咲は狂うようにはしゃいだ。
「エタノール! アセトン!! トルエンベンゼンニトロ!! 」
撒き散らされた可燃性の霧。
それが炸裂、部屋全土を呑む炎となってすべてを焼き払う。
「きみが「死」の影の谷を歩むなど、「死」にも言えまい 」
このタイミング、全員の耳が爆音で潰れた瞬間。
スーツの男は密かに詠唱を始めていた。
この部屋の怪異を、すべての意思をシャットダウンさせる技を放つために。
だが
「……っ!? 」
黒煙と異臭の向こう。孤独の目が、こちらを覗いていた。
「息詰目 」
呻きをトリガーに、生命の内側を爪が食い破った。
不快、異物、死。
その感覚に怪異は足を止めた。
だが
「「ハハッ!! 」」
覚悟を決めた咲と暴力は止まらなかった。
暴力は女装の髪を掴み、振り回し、引きちぎった頭皮でスーツの目を潰す。
咲は剥がされた頭に酸をかけ、目の前に現れた家族をチェンソーで八つ裂く。
「肉体は治ってもさ、心は治らないんじゃない? 」
トラウマの血しぶき。それを突き破り、崩壊の手が咲の胸へ迫る。
だが触れられる直前、咲の胸は爆発した。
(自分から……爆発させた? )
崩壊の腕は空いた穴へと吸い込まれ、穴越しに放たれた暴力の拳が、薪を割るように腕を壊した。
((なるほど ))
人の知恵を持つバケモノが暴れる中、スーツと白衣の怪異は冷静に思考を回していた。
(暴力の怪異……際限のない自身の強化と周囲の弱体化 )
(それで私たちを動けなくして、岩か箱かに入れて再生できなくするんでしょうね〜 )
(怪異の源は恐怖だ。だから融通の効く能力なんてことは有り得ない。永遠と殺意のようにな )
(こちらが致命傷を喰らった瞬間に治癒の解除はできない。でも暴力のせいで思うように動けないし、無理に動いても孤独が無差別に攻撃する )
((なら、ヤツらに穴を開ける ))
「どれ位の人が死んだのなら、多くの人が亡くなったことに気づくのか 」
詠唱、孤独に向けられた悪意。
それを察知した怪異たちは、自然とターゲットを孤独に絞った。
「友よ、答えは風に吹かれている 」
「っ!? 」
スーツは笑い、自らの首を狩る。
自殺をトリガーに発動する、道連れの一撃。
孤独の肉体はサイコロ状の集合体となり、バラバラと崩れ落ちた。
死も傷も治癒される。
だが隙は生まれた。
「真城!? 」
振り返ってしまった咲の頭に、崩壊の手が触れる。
「よそ見 」
咲の頭部が崩壊、再生まで意識を失う。
「あははァ!?? 」
狂気に呑まれた暴力は止まらない。
崩壊とぬいぐるみの肉は、紙のように千切られ、撒き散らされた。
けれどその肉片の向こうに、
「っ!! 」
親が現れた。
その頭はすぐに殴り潰されたが、それは罠だった。
「あっ 」
彼女は誘導されたのだ。
足元は開き、穴に落ちていく。
そこから這い上がるのに数秒。
咲の意識はまだ返らない。
この瞬間、孤独は孤立した。
「あぁ゛!! 」
聞きなれた呻き、怪異は爪の殺意に感染する。
肉は裂けるが皆は笑っていた。
死なないと分かれば、この不快感に止まる必要は無いのだ。
「怪異解析 」
「っ!? 」
再生しかけた肉片に手が触れる。
今まで隠れていた白衣の少女、暴喜の怪異。
その能力は触れた怪異を解明するもの。
解明したということは、理解したということ。
理解したということは、再構築できること。
再構築できるということは、壊せるということ。
「怪滅遺魂 」
真城の怪異は破壊された。
感染の能力により、体が再構築されるまで数秒。
「バーイ 」
真城の頭部は引きちぎられ、それはわずか数センチの穴にねじ込まれる。
しかしその穴は、黒い暴力が殴り壊した。
「アハハはっ!!! 」
「しつこいよォ!! 」
今まで貯めたぬいぐるみの傷。それは反射し、暴力の腹と顔に底なしの穴を開ける。
けれどその穴に手が触れ、瞬時に傷は塞がった。
「おはよっ 」
咲の覚醒、真城の怪異化の再構築も終わった。
暴力による広範囲の弱体化も機能している。
わずかな勝機が見えた。
だがそれは、悪意によって魅せられた中身なき光だった。
「「「っ!!? 」」」
人間の足が止まる。
呼吸も。
酸欠だ。
「こういう時は怪異で良かったなって思うよ 」
女装した怪異は男のように濃く笑う。
彼は空調システムを操り、この部屋の空気を遮断していた。
空調機能がダウン、咲の爆発により著しく酸素濃度は低下。
「くっ 」
咲は酸素マスクを無数に生み出す。が、それはぬいぐるみと崩壊によって簡単に砕かれた。
「そんな暇ナイヨ〜!! 」
「苦しそうだね 」
酸欠、手足のしびれ。
咲は酸素ボンベを落としたが、それを噛み潰したのは暴力。
「っ!? 」
酸素を直に吸い上げ、膨張した筋肉から放たれる拳は崩壊とぬいぐるみを貫く。
「む? 」
暴力によって生み出された菜箸がスーツの目を潰す。
蹴りはトラウマの内蔵を潰し、シなるベルトは白衣の頬を壊し、喉を潰すほどの大声は女装の怪異を吹き飛ばした。
「はぁ……っう 」
けれど暴力は限界を迎えた。
吸収する力はすべて、自分の怪異を増強させる。
増強した怪異は余裕を奪い、あのトラウマすらも増幅させる。
力に耐えきれなくなった体は自壊を始め、それでもなお戦う彩音は、自分がもっとも成りたくない存在、虐待する者へと変わりかけていた。
「いやぁ怖いね〜 」
しかし怪異たちの傷は無慈悲にも癒えた。
とても身勝手な、無楽の力によって。
「水? 」
一歩踏み出した怪異は、絡みつく液体に足を取られた。
それは生理食塩水。
「ショック 」
「っ!? 」
全員の体を走る電流。怪異の足が止まる。
電子分解によって一時的に酸素濃度が上昇、それを吸い込んだ孤独はクジラのように高く飛び上がり、天井に火花を弾けさせた。
水素は空気よりも軽い。
天井に溜まったそれは爆炎と変化し、崩壊した天井とともに巨大な孤独が落ちてくる。
天井の崩落により、新鮮な空気が部屋を満たした。
ショートしたAEDが止まり、咲は動き始めていた。
けれど怪異たちは珍しく真顔で、全員等しく目を見開いていた。
(あぁこれは……マズイな )
怪異たちはそう思った。
今の今まで、彼らは油断を味わっていた。
ただなんと無く、眠れば明日が来るような根拠の無い油断を。
それに彼らは飽き、次の感情。
焦りという新しい味に飛びついた。
「廻異化 …… 」
「暴喜 」「後鬱 」「危慰 」「別顔 」「崩壊 」 「感涙 」
「「「「「「の怪異 」」」」」
演じていた人間性を忘れ、怪異に廻り咲いた異形。
その幼稚で強大な悪意は孤独と瓦礫を切り裂き、この場に似つかわしくない陽光が地下を照らした。
「さぁ…… 蜻ス荵槭>を!?? 」
声すら忘れた異形。傷も体力も快復した怪異たち。
それを前に無楽は、静かな悪意を送り返した。
「怪異化 」
そもそも、怪異たちが出した答えは的外れだった。
咲たちは怪異の拘束など狙っていない。
ただ能力の分からない怪異たちから殺されず、来るべき時まで耐えていただけだ。
虐待をされる子供が救われることを待つように。
虐待をされる子供が救われることを待つように。
「愛の怪異 」
その場に現れたのは、奇しくも同じ。
子供を傷付け、子供を救う。
学長であった。
「穴人・歪 」
腹と胸と頭。人に必要な部位すべてに穴を開けた、人に似ただけの白い歪。黒い穴。
その集合体がゆたりっ、意思のない操り人形のように歩みを進めた。
死にかけの、悪意だらけの、傷だらけの、大人の言うことを聞かない、聞き分けが悪い、哀れで悲しい子供を。
今度は救うために。
「穴埋・身篭 」
ここから始まるのは醜い争い。
心に空いた穴と、人の感情が産んだ醜態。
そのどちらが、どちらかを呑むだけの戦い。
苦しんだものが勝つだけの、不幸自慢な戦い。
「ここは? 」
怪異たちは、狭いリビングに居た。
折れたクレヨンが転がり、苦痛を知らない子供をあやすための、奇妙な温もりが満ちる部屋に。
「……? 」
スーツの男は困惑した。
何故か自分の姿が、人に戻って居るのだから。
ほかの怪異も同様に、捨てた自分の姿に戸惑っていた。
「みんな 」
えずく様な甘い声とともに、鍵が掛けられた部屋の扉が開く。
「ご飯の時間だよ 」
「ひひっ!! 」
出口に立つ、盆を持つ学長。
その腹をぬいぐるみであった、赤髪の少女は殴った。
ポコりと可愛らしい音が鳴り、大人は無傷。
ただの平手打ちが、血の通っていないハズの頬を赤く染めた。
「……えっ? 」
「ダメでしょ、暴力なんて。さぁ座って、ご飯を食べるよ 」
困惑する少女の頭を撫で、学長は皆を席に付かせた。
「うっ 」
盛られた料理に、怪異の胃は拒絶するように吐き気を生み出す。
それはただの料理。卵焼きに野菜炒めに少しの肉。
けれど怪異は人の食事を摂取できない。
「こ、これは」
子供が弱音を漏らすより速く、大人はその頬を叩いた。
「……頑張って作ったんだから、ちゃんと食べて欲しいな 」
大人はニッコリと歯を見せて笑い、少女となった怪異の頭を撫でる。
恐怖で支配された、歪の食事が始まった。
「うっ 」
「えっ 」
当然、怪異は胃液らしきものを吐く。
それを大人はそっと手で救い、形の残った料理を摘み、そっと怪異の口前に運んだ。
「たべて 」
「えっ……あ…… 」
拒もうとした。けれど怪異は叩かれる暴力を知っていた。
だから震えながら、料理で汚れた指を子供の力で噛み、ゆっくりと最悪な食事を呑み込んだ。
「いい子 」
ヨダレにまみれた指で、大人は怪異の髪を撫でた。
歯を見せ、喜びを示すには歪な笑顔で。
「なるほど、愛の怪異とはよく言ったものですね 」
白衣を着る少女は、食事を口に落としながら笑う。
数十万という人を研究した知能は、この怪異に抗っていた。
「子供はどんな愛も拒めない。虐待を教育としての愛と仮定し、それを私たちの精神に注ぎ込む。良いですね〜。肉体は再生するのなら、精神を殺す。ふふっ、とても最悪な愛ですね 」
笑う少女に、大人はそっと手を伸ばした。
彼女らは怪異。恐怖や悪意を糧にする。
暴力という悪意を受ければその力は強くなり、それを続ければ、この歪な空間に穴を開けることが出来る。
だが、
「ダメだよ、子どもがそんなふうに喋ったら 」
矯正の前では、子供の言い分など不要でしかない。
少女は頭を撫でられ、元の精神は無へと消えた。
「うん! ごめんねお母さん!! 」
「うん、いい子 」
都合のいい子供となった白衣の少女は、産まれたてのヒヨコのように大人へとすり寄る。
そして大人は、歪で優しい笑みを浮かべた。
「さぁみんな、たべよう 」
怪異たちは食事を摂らされた。
「汚れちゃったし、シャワーも浴びようか 」
風呂に入れられた。
「離せ!! 」
「ダメだよ、大声を出したら 」
「……うん、ごめんなさい 」
また一人、子供が増えた。
「「「「「お母さん 」」」」」
母に依存する子供が増え、それに大人は微笑みを返した。
「さぁ、もうこんな時間だ……寝なきゃね 」
狭い居場所を取り合うように、五人の子供は布団の中へと潜り込んだ。
そこは取り合いをしなければ手足が出るほどの、小さな布団。
誰かが凍えなければならない布団。
そこから一人、赤髪の子供が抜け出した。
小さな手は扉を押し、トントンとフローリングを叩きながら、リビングへと向かった。
そこには大人が居る。笑って子供を出迎えた。
「おや? 眠らないのかい? 」
「あいにく、怪異は眠らないのでな 」
スーツを着ていた子供は、大人の前に座る。
それは咎められることなく、大人は湯気が立ち続けるココアを子供の前に差し出した。
「過去。そこに精神を閉じ込め、退化させるという能力かな? いや……退化というより、成長だな 」
「うん。知能が低いものを、私の都合がいい子供へと変質させるんだ。だからキミたちが怪異に戻るのを待った。普通は怪異化した人に使うんだけどね、キミ達に効いたのはほんとラッキーだったよ 」
「理にかなっているな。進化よりも退化する方が難しい……ただ、皮肉もいい所だ 」
「……そうだね。子供を守りたいと思ってるのに、この能力は知能が低い子供ほどよく効く。ほんと怪異は……融通が効かないね 」
子供はココアを啜る。不味さを感じながらも、怪異は察した。
これは自分に入れられたものでは無いと。
帰らぬ誰かのために、入れられたものなのだ。
「過去に失ったものの代用品として、敵を閉じ込める。そして共生関係を強制させる。親が死ねば、子も死ぬように。子が死ねば、親の心は死ぬように。代用と共生。それがこの怪異の本質か 」
「だからもう出られない……お互いにね 」
優しく、けれど歪に。学長は笑う。
「そうか……終わりか 」
「うん 」
子供は遺書を書き終えたように低い天井を見上げる。と同時に、景色が変わる。
ココアが乗ったテーブルには、三人分の食事が並べられていた。
テーブルの下にはしまい忘れた電車のおもちゃが転がり、描きかけの絵には、つたない文字で『ママとパパ』と書かれている。
何もかもがやりかけの部屋。
誰かの帰りを待つ過去。
それはもう、二度と動かない。
「ねぇ、なんとなくの質問だけどさ。過去に囚われた人間は、生きていると言えるかな? 」
「生物で言えば、生きているだろう。だが、人として言えば死んでいるだろう 」
「なぜ? 」
「人は学ぶ生き物だ。新しいことを試し、失敗し、その苦痛や後悔を踏み潰して前へ向かう。それが生きるということ。だが過去に生きる人間は、何もを学んでも過去しか見ていない。それは停滞……死と言って過言ではない 」
「……ふふ、怪異なのに人に詳しいんだね 」
「観察したからな 」
テレビが付き、消える。
電気が消え、付く。
インターホンがなり、そのまま無音がひびく。
鍵が開く、閉まる。
停滞した大人は、涙をこぼして笑った。
「さぁ、もう寝なさい 」
母親として、代用品の子供に言い聞かせるように。
けれど子供に拒否権は無い。
それが分かっているから、洗脳された子供は静かに笑った。
「うん、お母さん。また明日 」
「うん。また…… 」
「明日…… 」
現実の学長は怪異たちを抱きしめ、うわ言を呟いて笑っていた。
咲の治癒によって外傷は無い。
けれど意識は、遠い穴だらけの過去に囚われた。
「……学長 」
血を吐きながら、怪異から引きずり出した真城を引きすぎりながら、咲はゆっくりと学長を抱きしめた。
咲の治癒は自分だけには効きにくい。
真城と彩音も怪異化の侵食で動けない。
今この状態では、死にかけの咲しか行動ができない。
「みんな、帰りましょ。哀花は大丈夫だろうし、歩は…………たぶん大丈夫。だから、帰ろ 」
言い聞かせるように、自分を説得するように、三人を担いで咲は進む。
進んだ。瞬間、
「えっ? 」
地面を引き裂く永遠の氷が退路を断つ。
不幸なことに、咲たちはこの氷に呑まれなかった。
ゆえに彼女らは永久に。
閉じ込められた。
説明不足補足委員会下っ端の説明コーナー
完全に理解したワー系ニキネキさん達はボマーに気をつけてスルーしてください
愛の怪異の代用っていうのはまんまの意味です
お気に入りの人形を無くしたから適当な人形の髪を染めて、手足をけずって無理やり同じような身長にしてキャッキャっと遊ぶような感じです
学長さんの場合はそれが子供でした
あと作中描写できませんでしたチクショーーーですが、学長さんの怪異化詠唱はクソ長です
なので戦闘する前に言っておく必要がありました
内容は開かない扉とかお腹を空かせた靴箱とかそういう系です
あっ、ちなみにですが酸欠状態のときは咲さんが大量に作った酸素マスクで酸欠を防いでます
その後に彩音さんが暴れたので怪異側も気づいてません
咲さんナイスプレイ
あと書くことあったっけ?
分かんない
とりまカルマ、コーヒー飲んで寝ます
寒くて情緒不安定fuck
あと初めての三人称で疲れた
皆様体にはお気をつけーて




