File.36 ドロップ・ドリップ
寒くて脳みそ終わってます
ふぁっきゅーですよふぁっく
「ねぇ、真城くん 」
ちぎられた俺の片腕から滴る血。
それを玩具のように振り回しながら、サイドテールの怪異はニタニタと笑った。
「私は崩壊の怪異。すべての弱点を知覚し、それを狩ることができる。キミの腕も弱点を突けばこの通り……タルトみたいにちぎれる訳だよ 」
「うるせぇな 」
もうその腕は感染している。
爪を増殖させ、瞬きの間に怪異を串刺しにする。
「話の続きだよ 」
だが怪異の笑みは消えない。
「私は弱点を知覚、そして動かすことが出来る。私の弱点をどこか遠いところに隠せば不死身にもなれる 」
(自分の弱点をなぜ教える? 条件? 時間稼ぎ? 情報が足りなさすぎる )
「これを踏まえて質問だよ。人が触れられたくない弱み……過去のトラウマ。それを触れればどうなるかな? 」
「っ!! 」
一瞬。
頭に光景がよぎった。
あの記憶。
狭い狭い、檻の中が。
「ほら想像したァ 」
頭に乗せられた手。
それを弾くように全身から爪を増殖させる。
質量で部屋は押しつぶれ、落ちる瓦礫ですら増殖する爪で呑み込む。
(触れることがトリガーなら、距離を取り続ければ)
「いいの? 仲間が感染したら、一発で死ぬよ? 」
目の端で動いた手。
すぐに爪で切り落とすが、その奥に体は付いていない。
(腕だけ!!? )
「もしキミが仲間を殺したら、すぐに心が折れそうだね 」
ふわりと抱きつかれ、首元に指を当てられた。
背から爪を伸ばして串刺しにするが、やはり手応えは無い。
擬似的とはいえ不死身は不死身。
刺すか斬るかしか出来ない俺とは相性が悪い。
けど少し、安心してしまった。
(コイツが咲たちのところに行かなくて、ほんとに良かった )
俺は引き止めるだけでいい。
どうせもう長くない命だ。
精一杯、咲たちのために使わせてもらおう。
♦
「うひひゃあ!!! 」
耳障りなクマぬいぐるみ。
肥大した腕を振り下ろされるだけで、コンクリートがクッキーのように砕け散る。
(私の敵、こんなんばっかね!! )
「さ〜きチャン! 今は私の番だよ〜 」
ぬいぐるみからひり出された血のワタと包丁。
瞬間、死が頭によぎった。
「っ!? 」
体を回転させながら斬撃を避け接近。
その途中で腕を切り落とされたが、そのままそれを投擲。
「ん? 」
手で視界を塞ぎ、生み出した注射器を腕越しにぬいぐるみの頭へ注入する。
「死寮 苛性ソーダ 」
高濃度のアルカリ性薬品。
それを注入された顔面は歪み、ぬいぐるみは肉の涙をこぼし始めた。
「頭シュワシュワする〜 」
けれどノーダメージだ。
「あっそ 」
すぐに顔面を蹴り、ニトロで自分の足ごと爆破。
その反動で距離を取り、欠損した手足を再生させる。
「イヒヒ〜、効かないよー 」
(ノーダメージ……って言うよりかは、内部まで薬が通ってないわね。ぬいぐるみだから血中に入れても全身に回らない。いやそもそも、なんでここまで相性が悪い? )
「……あんた達の目的、時間稼ぎでしょ 」
「ん〜? 教えると思う〜? 」
「冷静アピールしてんじゃないわよ、怪異風情が 」
ぬいぐるみの表情は動かない。
でもワタの攻撃はあからさまに雑になった。
「人と組んでるってことは、どーせ私たちの情報は知ってるんでしょ? ならなんで不利な相手じゃなくて、半端なアンタしか用意しないのよ。人の真似事なんかしてないで、獣らしく浅ましく来ればいいのにね 」
「ダマレ!!! 」
膨れ上がった肉は六本の巨大な腕となり、その全てに雑で巨大な出刃包丁が握られる。
こいつは私と相性が悪い。
パワーも上。
だけど、
「あんたらねぇ 」
負けて後悔する苦しみに比べれば、大したことじゃない。
「私たちを舐めすぎよ 」
「っ!? 」
天井に生み出した大量のチェンソー。
その雨に撃たれながらチェンソーを拾い、血と刃が敷き詰められた地獄を駆ける。
「しぃィィネ!!! 」
肥大したぬいぐるみが、触覚をもがれたアリのように暴れ回る。
その度に肉は削れ、再生し、チェンソーの刃が血を撒き散らす。
「しぃぃぃぃ 」
躱す。
それだけで人形の肉は削れる。
躱す。
それだけで私の背や首の肉をチェンソーが削ぎ落とす。
だが私は治せる。
今だけは、私が有利だ。
「っうぅぅ!! 」
足を削りながら距離を詰めると、接近を拒むように肉が肥大化する。
「それしか脳がないの? 」
チェンソーを突き刺しながら駆け、そのまま肉の装甲を削ぎ落とす。
そして見えた。
血肉の中に埋まる、古びたクマのぬいぐるみが。
「死ね 」
唸るチェンソーが血潮を吹き、クマに詰まった肉のワタが膨れ上がるようにこぼれる。
そこで目があった。
「さ〜きちゃん 」
光を反射しない、ぬいぐるみの黒い目と。
けれどその中には、私の顔が映っていた。
「今度はキミの番だよ 」
「っ!??? 」
視界が潰れた。
黒に。
攻撃を受けた感じはなかった。
反射?
攻撃?
包丁。
ぬいぐるみ!
(ひとりかくれんぼ……か )
「あはははは!!!! 」
前と後ろに空いた顔の穴からドロドロ、柔らかいものが漏れているのを感じる。
脳g怖れてi……
「もう一回言おうかしら? 」
壊れる前に治す。
記憶も感情も頭を掻き回すが、チェンソーで先に頭を掻き回して気を紛らわして、柔らかいぬいぐるみの顔面を握りつぶす。
「私たちを、舐めんじゃないわよ 」
人形の周り。
高濃度の酸素ボンベを生みだしてニトロで発火。
そのまま肉に引きこもるカスを、爆風で引きちぎる。
「っうう??? 」
「私たちが苦しめば利用して、用無しになったから死ねって言うのよね? アンタらは 」
熱で垂れ下がった皮膚を治し、爆風で失明した目を潰して再生。
視力を戻す。
「子供の苦しみなんて、大人には知ったこっちゃないって言うのよね? オマエらは 」
チェンソーで切れる脚を治す。
奥歯が割れるほどの痛みは、すべて怒りに変わっていく。
「ふざけんじゃないわよ! 私たちは過去に縛られても!! 苦しんでも!! 前に進んでる!!! 幸せになるために!!! それを邪魔するなら!! 私を! 真城たちを!! 仲間を殺そうとするのなら!!! ……教えてあげる 」
血、ヒル、メスと折れた注射器。
怒りをそのまま殺意へ、殺意を歪な怒りに変えて。
ヒルが溜まる血溜まりを踏みつけ、右腕に突き刺さりまくったメスたちをぬいぐるみへ向ける。
「際限の無い怒りを。一生忘れることの無い、子供の怒りを 」
子供の怒りは一生だ。
家族への不満、教師への不満、大人になった後も死ぬまで覚えてる。
底のない不満と怒り。
それを、教えてあげる。
███
「はぁぁ……はぁぁ…… 」
黒い髪の怪異が血まみれ、涙だらけ、折れた手足でバタバタしてる。
「どこに行くんですか〜? 」
肉がこびり付いてるせいか、歩くたびに足の裏から音がする。
チャプチャプちゃん……まるであの時の血溜まりのように。
「あっ……あぁ!!! 」
頭が痛い思い出すな何も見たくない頭が頭が頭が
「このっ 」
拳が飛んでくる。
苛立ちのままにそれを殴りつけ、腕を突き破ってその奥の顔面を潰す。
「ぐぅ 」
目の前。
お母さんと歩さんの姿が現れる。
「あはっ!! 」
それが偽物だと知ってる。
だから容赦なくその顔面を潰して殺す。
「止まっ」
今度も目の前。
お父sぁ゛クソと虐めてきた男死ね男男死すが現れた。
「あぁあ!!!! 」
怒りと苦痛のまま、全員殴って壁にぶつけてグチャグチャにぶっ潰す。
「なぜ止まらない!? トラウマだろ!! 」
やっぱり記憶系の怪異死ね死ね辛い辛いから
「うるさい。死ね 」
殴り飛んだ怪異の顔面を蹴り飛ばす。
狭い部屋をボールみたいにバウンドして、目障りで黙れでうるさくて楽しい。
「私はですね、普通じゃないみたいです 」
少し冷静になった。
だから顔を治す怪異にゆっくりと近付く。
「あれだけ殴られたのに、人を殴るしか脳がないみたいなんです 」
笑顔で、血を垂らしながら、近付く。
「夜になったら泣いちゃいますし、最近情緒も終わってますし、辛いことだって知ってるのに大好きな人も殴ってしまう 」
腕に巻き付く怪異が消えたり点いたり。
古くなったテレビみたいに、私の心の中みたいに、不安定で壊れて普通じゃない。
「でも、不思議ですよね。むかしなら死にたいと思ってたのに、嫌なことをする自分なんて死ねばいいと思ってたのに!!! 今は生きたいと思ってる 」
「だから! なんなんだよ!! 」
怪異の綺麗な顔は、いつの間にか真っ黒になっていた。
真っ黒、穴の空いた顔。
その穴を殴り潰す。
「ぶぐっ 」
「好きな地獄を選んだんです。長く苦しんで死ぬ地獄を。そう決めたから、お前らは邪魔なんですよぉぉ!! 」
貫通した頭を投げ回し、地面に叩きつける。
踏み潰す。
何度も何度も何度もお団子みたいに美味しいおもちみたいに何度も何度も何度も潰して潰して潰して壊し潰す。
そして、地面が壊れた。
「うん、ムリ!! 」
「はっ? 」
ダランと垂れてた怪異の腕。
それが子供の顔に変わり、姿に変わり、そのまま逃げはじめた。
私が半殺しの餅にした死体を置いて。
「あっ 」
冷静に考えてれば当たり前だった。
この怪異たちは人じゃない、借り物の姿なんだ。
頭や心臓を潰した程度で、死ぬわけがない。
「待っ」
「あとお願い!! 死にたくないよ〜!!! 」
もう一度潰すより早く、足場が縦に回転した。
鉛筆削りの中みたいに。
暗い闇。
明るくなる。
目の前には……
「咲? 」
「彩音!? なんでここに居るの!! 」
右腕を血まみれにした咲が居た。
「えっと……本物? 」
「疑うなら殴ってみなさいよ。治すから 」
「あっ、そう言うのは本物だ 」
「大丈夫かい? みんな 」
咲とは反対側から声。
そこには片腕のない前田学長が、息を荒くして立っていた。
「怪我は無い? それは返り血? 」
「学長さんの方が重症じゃないですか! 」
「動かないでください、治しますから 」
「私は大丈夫。それより、あれから何があったの? 」
「えっと、怪異と戦って 」
「私も戦ってた。そしたら急に逃げ始めて」
「わ、私も逃げられたよ咲。急にムリだって叫び始めて…… 」
「「マズイ!! 」」
「えっ、えっ?? 」
学長と咲は、突然破裂した風船のように叫んだ。
「ど、どうしたの? 」
「敵戦力を分断、強さの確認。その次は絶対……浮いた敵を集団で叩く。私が敵なら絶対そうする 」
「えっ……じゃあ 」
辺りを見る。
ここに居ない、歩さん達を探すように。
「敵が全員、誰かのところに集まったってことですか? 」
█████████
「えーん! 顔めちゃくちゃに潰されたよ〜!! 」
「思ったより……強かったね。見てよ私の顔、まだ目の中にナメクジが居る 」
「ふーん、じゃあ真城くんが一番弱かったのかな? 歩とかいう穢れはどうだった? 」
「戦意喪失だな。頭を撃っても死ななかったし、心臓を抉っても生きてたぞ!! あれは怪異だろうが、誰の怪異なんだろうね? 」
「知りませんよもう!! こっちはあの哀花とかいうおっそろしい馬鹿を相手にしてたんですから!!! 」
「まぁまぁみんな落ち着いて。作戦通り、真城くんを虐め殺そうよ 」
(あ〜……仮装パーティーかよ )
新しい無傷の敵。
スーツの男。
キンキン声のぬいぐるみ。
なんか泣いてる金髪のガキ。
白衣着てるツインテールのガキ。
ふわふわのドレスを来た女みたいな男。
怪異に侵食された俺だから分かる。
こいつらは全員……怪異だ。
「……ハハッ。やってられっか 」
こっちは左腕がないっつーの。
失血も酷い。
足元がぐわんぐわん揺れてるし、左目もほぼ見えねぇ。
(……詰みだな )
「さて、遺言を残してくれたまえ。ベタな物でも一風変わった物でも構わない。私は人の言葉が好きだからね 」
仲間の位置が分からない以上、下手に怪異化をしたら巻き込んじまう。
だから俺がやるべき事は……
「別に。この人生に悔いはねぇからな 」
「あぁあぁ、素敵な遺言だ!!!! 」
増殖した怪異を集め、一本の刀を作る。
そして前に出る。
一秒でも、コイツらの注意を引けるように。
そうしたら咲たちが生き残れる可能性が……1%でも上がってくれたら嬉しいな。
「来いよ怪異共。俺が相手だ 」
真城くんはもうほぼ寿命がありません
半年生きれたらいい方? ですね
でも彩音さんはあと50年くらいは生きれます
この差は生に依存してるかどうかです
生きたい死にたいと思ってるから、逆に怪異の侵食を抑えていますが、いつ死んでも仕方ねーよなぁと諦めサイレントモードな態度をとってるとモリモリ怪異は侵食します
そう言う描写描きたいけど、作中に組み込めねぇデスマス
というか作中で自分が死んでも仕方ないよね〜と思ってるのは、馬鹿ボスと哀花さんと真城くんしかいません(忘れてるだけかも)
ちなみに哀花さんの寿命はゴリゴリ長いです
この差は怪異が恐れる感情を持ってるからです
というか怪異の世界で、哀花さんと歩くんがバグ過ぎて設定ムズすぎんだろふぁっくココア
あっ、寒くて死にてぇと思う時は耳を温めると多少マシになりますよ
次回は真城くんの過去回です
サザエジャンケンみたいにお楽しみに
あと真城くんの左腕、ちぎれ過ぎ問題を解決させなきゃなぁ




