File.25 沈む日
今知ったんですがハイキューって面白いですね
彩音と街中を歩いてると、道端の人が手を挙げるのが見えた。
「あっ、歩 」
「おう哀花一週間ぶりぃぃい!!! 」
うひょぉぉぉ一週間ぶりの生哀花だァァァ!!?
その髪その目その格好、最っ高に興奮してきたァァァ!!!!
「うん久しぶり。二人はデート帰り? 」
「いやまぁ……うん 」
「はい!!! 」
「そっか。じゃあ行こ 」
相変わらず哀花は興味がなさそうに、俺たちを案内する。
まぁそういう塩対応なとこも好きなんだけどなぁァァ!!!
つーかあの帽子、俺がやったヤツじゃん!!
嬉しいなぁァ贈り物使ってくれるって!!!
「ここだよ 」
案内されたせっまい路地にある店。
その看板には、なんか骸骨が乗ってた。
いや看板にHellとか書いてんだけど?
つーか周りの装飾品、海外ホラー映画でよくある占い店みたいなんだけど?
なして鹿の頭蓋飾ってんの危なくない?
「ちなみにここなんの店? 」
「焼肉店らしいよ 」
「はえ〜これが? 」
「これが 」
「……マジかぁ 」
とりあえず扉を開けた。
瞬間、飛んできた何かが耳横をかすった。
路地に突き刺さったそれはナイフだった。
「……えぇ 」
「ハッハッハ!! 大丈夫かいお客さん!!! 」
快活な笑い声とともに奥からやってきた女。
どう見たってソイツはヤンママだった。
プリン頭の金髪に青い目。
漫画のヤンママってこんな感じだよなを詰め込んだようなヤツだ。
「すまんねぇ! ビリヤードしてたら手が滑っちまったよ!! 」
(せめてダーツしろよ…… )
「いやそれは良いんですけど…………あの、なんで裸にエプロンなんですか? 」
「悪いかい? ここは私の店だからねぇ!! どんな格好をしようと自由さ!! 」
「あの……歩さん。警察呼びましょうか? 」
「いやそれは俺が困る!! 今日出所したばっか!!! 」
「なんだいボーズ? 悪いことでもしたのかい? 」
「爆弾で街ぶっ壊しました!! 」
「アホかい 」
「その格好のヤツには言われたくねぇ!!! 」
「細かい男はモテないよ。あっ、ちなみにニップレス貼ってるからこぼれてもだいじょう」
「も〜ヤダこの人!! 狂人が一番嫌いだよ俺!! 」
「あの、私たち予約してるんですけど 」
ナイス! 話を縦からぶった切ってくれてありがとう哀花!!
「予約? あぁ、真城くんの連れかい。一番奥の席にいるからさっさと行きな!! 」
そう言われ、とりあえず奥の席に向かう。
つーかもう疲れた。
帰りたい。
帰って爆弾制作したい。
アレ持ってないと不安なんだよなぁマジで。
「おっ、悪いな二人とも 」
第一声謝罪で出迎えてくれたのは真城だった。
つーかここ掘りごたつなのか。
昔風の店だなここ。
「つーか、なんで飯? 」
「それは」
「お礼とお詫びよ 」
真城の後ろからひょっこり、咲が顔を出した。
いつものツインテールはなぜか下ろしてる。
「その、この前拐われたでしょ? それで助けに来てくれたからって感じ 」
「あ〜なる 」
「歩……その略し方やめた方がいいぞ? 」
ポンっと、ビミョーな顔をされながら真城が肩を叩いてきた。
えっ、なんで?
「とりあえずまっ、みんなお疲れ様! 」
「「「お疲れさま〜 」」」
真城の掛け声とともに、咲が肉を焼き始めた。
彩音は肉が焼けるまで待ちの姿勢。
真城はタレを。
哀花はお冷をくんでいる。
俺はする事がない!!
「ほら歩、食べなさい 」
「えぇ……俺最初〜? 」
「アンタが一番、頑張ったからよ 」
「いや真城は敵引き付けたし、彩音は命かけてくれたし、なんなら咲と哀花居なきゃ俺死んでたし」
「いいから食べなさい! 」
ポトッと、焼かれた肉を皿に投げられる。
出されたから一応食う。
が、やっぱり味がしない。
柔らかい弾力が不愉快だし、噛むたびに出てくる脂が口にこびり付くし、なんなら肉の熱さしか舌で感じられない。
その不快感が飲み込むまで続くんだ。
やっぱ食事は拷問だ。
「美味いか? 」
飲み込むと同時に、真城が聞いてくる。
「あ〜…………あぁ、肉が違うのか? 」
「おう、ここの店は肉の質が高ぇんだよ。高級店に引けを取らない 」
「へ〜、つーかあの痴女は真城と知り合い? 」
「痴女っておま……お世話になってる人だ。あんま言わないでやってくれ 」
「そっか 」
「ほら彩音、焼けたわよ 」
「わ〜いいただきます!! それとご飯は」
「頼んであるわよ。もちろん大盛りでね 」
「ありがとう咲! 大好き!! 」
「はいはい。ほら真城も哀花も 」
「「咲も」」
「食べろ 」
「食べて 」
哀花たちは楽しそうに会話して、食事も楽しんでる。
でも俺は肉の不快感を我慢することで精一杯だ。
「歩さんもお米どうぞ! 美味しいですよ!! 」
「……さんきゅー 」
彩音から受け取った米を食べる。
固めに炊いてあるせいで、昔食べた虫の卵みたいだ。
プチプチ弾け、味のしない生暖かな汁が舌にシミ出てくる。
「そういえば真城 」
「ん? どした? 」
「私のお願い、考えてくれた? 」
「ぶっ……今!? 」
「だって今じゃないと永遠にはぐらかれそうなんだもの 」
「いやそこまでヘタレじゃねぇよ!! まぁ……2週間くらい欲しいけど 」
「なんの話ですか? 」
「いやそれは」
「私が真城に告った。それで返事待ち 」
「……なんて言うかさ、今足の周りを埋められてる気分だ 」
「あら、じゃあはやく答えないと窒息しちゃうわね 」
「………………お前ってそんなめんどくさかったっけ? 」
「良いじゃない。元はと言えばアンタのあの言葉が悪いんだし 」
「わ〜暴論 」
「真城さん、女性を待たせるって、すっごくヒドイ事ですからね? 」
「真城ってヘタレなの? 」
「お前ら…… 」
「あぁ、悪ぃけどさ!! 」
立ち上がって、真城に声をかける。
「トイレどこだ? 」
「あっ、ここ左に行ったとこだ 」
「さんきゅー 」
急いで右に行って店を出る。
少し進むと、丁度良いことに排水溝もあった。
「……ェッ 」
ドポドポ、胃液ごと食べ物を吐く。
胃液の苦味だけが喉と口に残っていく。
(あ〜……なんでこうなんだろうな )
俺は普通に出かけて、普通に食事をしただけだ。
なのに吐いてる。
バカか? アホか?
普通に生きてるハズなのに苦しいなんて、生きてる価値なくないか?
(あ〜死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。死ねよ死ねよ、生き恥過ぎるだろクソが。哀花たちみたいになんで怪異持てねぇんだよ。さっさと寄越して人を殺させろ。んで………………アイツらの隣に立ちたい。哀花を守りたい )
「大丈夫? 」
声。
顔を上げる。
そしたら……水を持った哀花が居た。
「えっ、女神? 」
「哀花だよ? 」
「いやそうだけど……つーかなんで水? 吐くこと分かってた? 」
「うん。吐きそうな顔してたし 」
「マジかぁ。そんな分かりやすかったかぁ。もうちょい隠す練習しないどっ!? 」
「良いから飲んで 」
「むごっ!? 」
口!? 口にコップ押し付けられてる!!
飲まなきゃ溺れるが!?
拷問!? いや哀花に殺されるなら別にいいけどボボボボッ
「………………ぷはぁ!! 死ぬかと思った!!! 」
「大丈夫? 」
「うんエホッ! エホッ!! 肺!! 肺に水入ってげほっ!!! 」
「そそっかしいね 」
うぉお! 罵倒されながら背中撫でられてる!!
最高じゃねぇかオイ!!!
「あぁぁ……ありがとうな 」
「いいよ別に。僕にはこんな事しかできないから 」
「……こんなかそんなか知らねぇけどよ、俺を助けてくれたのは事実だ。だからありがとう 」
「……じゃあ今度からは吐かないでね。無理だったら咲に言って 」
「……前から思ってたけどさ、なんで哀花ってそんな自己肯定感低いんだ? ……あっ 」
哀花の辛そうな顔を見て、やってしまったと悟った。
だって自己肯定感低いのなんて、だいたい三択だ。
過去で失敗を起こし続けたか。
自分を信用できないか。
他人から否定され続けたか。
勘だけど哀花は……三番目だと思う。
「あぁぁごめんな!! ほんとごめん!! 余計なこと聞いてほんと…………ごめん 」
「そんなに謝らないでよ。むしろ鬱陶しくてごめんね、なんか不幸自慢みたいになっちゃった 」
「……それは違うだろ。自慢じゃなくて事実だ。辛いのもな 」
「……ほんと歩ってさ、自分に厳しくて他人に優しいよね 」
「…………おまえ言う?? 」
いやマジでお前が言うのそれ!?
だって初対面で自分の命より他人の命優先したんぞ哀花!!?
いや……俺もか。
まぁまぁまぁまぁ! 哀花は悪くねぇ!!
ぜんぶこんな話に持ってたオレがわりィ!!!
「そういえば歩ってさ 」
「んっ!? なに!? 」
「怪異が無い世界を、想像した事はある? 」
「……ある。何度もな 」
「その世界で自分は……何をしてた? 」
「野垂れ死に 」
「同じだね。僕もさ、自分が普通に生きれないって分かってるんだ 」
そう言うと、哀花は俺の隣に座り込んだ。
「怪異を滅ぼすために戦ってるのに、怪異と戦えないと生きる意味が無くなるなんて……ほんと皮肉だよね 」
「……だな 」
そこからしばらく、無言が続いた。
「えっ、なにこの間? 」
「いや……なんというかさ、歩と僕って似てるなと思って 」
「……何回も言うけどさ、今聞く? なんつーかこう……唐突過ぎないか? 」
「いや、二人きりで話す時って少ないし。デートしてる時にこんな話するのもなぁ〜って思ってたし 」
「まぁそうだけどよ…… 」
哀花は帽子を深く被って、照れてるようにうつむいた。
いや照れてないわ。
すっげぇ気まずそうな顔してるわ。
「……ごめんね。急にこんな話して 」
「いや別にぃ……気にしてないぞ? ほんとに急すぎてビックリしただけだからな? 」
「じゃあいいや 」
わ〜いきなりハシゴ外すじゃん。
外すというか、蹴落とされた気分だなぁ。
「ん〜、吐いたわりに元気そうじゃないかいアンタ 」
「ゲッ 」
ガラガラと店の扉が開いた。
かと思うと、出てきたのはあんの痴女だ。
「な、なんっすか? 」
「いやぁ別に。ほらコレ、炭酸水。吐いた時にはこれが一番だよ。隣の子にもオマケね 」
「……ありがとうございます 」
「……盗み聞きでもしてたのか? 」
「おうよ! 客から吐かれるなんて屈辱的でね、バラバラにして冷凍庫にでも並べてやろうかと思ったけど……まぁ、事情がありそうだったからね。落ち着いたら戻ってきな 」
大人にあんまこんなこと言いたくない。
言いたくないが、ここまで善意で色々されると……
「……ありがとうございます 」
「ん、じゃあ私は戻るよ。彩音という子がめちゃくちゃ食べるもんでね 」
「良い大人も居るもんだな 」
「うん、もちろん居るよ 」
「……あわりぃ! 口に出てた!? 」
「別にいいよ。じゃあ私は戻るから、落ち着いたら来てね 」
「おう、ありがとな 」
俺に手を振り返しながら、哀花も戻ってた。
一人になった路地裏で、サイダーだかなんだかを飲む。
が、やっぱり炭酸の苦味しか感じない。
でもさっきよりかはマシだった。
「ほんっっと、哀花好きだァァァ 」
絞り出すように声を出して、口に溜まったゲロを吐き出して、また炭酸水を飲んで気分を落ち着かせる。
「さて……戻るか 」
「やぁ 」
キィッと、何かが軋む音がした。
店の前、俺の隣。
いつからか車椅子に乗る糸目の女が居た。
あの馬鹿ボスとか言われてた男と一緒に居たヤツだ。
「……なんの用だ? 」
「報告ですよ 」
女は顔を上げ、白髪を揺らしながら笑う。
「計画は明日に変更。アナタの活躍を期待してますよ 」
その糸目の隙間からは、ゆったりとくすむ、金色の瞳がこちらを覗いていた。
歩くん、厄ネタしか持ってないですねぇ……
あっ、それと言い忘れてましたが哀花さんは歩くんの本名を知ってます
でも『本人が言わないんだし何か事情あるよね。よしっ』って感じでガンスルーゲンスルーしてました
あと歩くんは、脱獄の二日間のあいだに色々してます
のちのち回収させる予定です
あとストック切れた!!
もうもぅマヂ無理ゲームする!!!




