表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪異子葬  作者: エマ
2/44

File.2 ちゃいますねん



「うっへ〜、家ボロボロじゃん 」


 哀花のお仲間から治療を受け、とりあえず私物を取りに帰ったは良いが……家はもう、人なんて住めないレベルで崩壊していた。


「歩、大丈夫? 」


 パキパキと瓦礫を踏んでると、後ろから柔らかい声がした。


「俺は平気。しっかしすげぇな、折れた腕がもう動く 」


「ふふっ、僕の仲間は優秀だからね 」


 透明な髪を触りながら哀花は笑う。

 だが潰れた俺の家を見るやいなや、その顔はサっと青ざめた。


「親戚とか……宛はあるの? 」


「無い。適当にネカフェで過ごす 」


「いやそれは限界があるだろうし……僕の家に来ない? ここから近いし 」


「えっ、ヤダ 」


 哀花は断られることが意外だったのか、目をまんまるとさせた。


「なんで? キミから見ても好条件だと思うけど 」


「普通に考えてろよ!? ほぼ初対面! 名前知っただけの関係!! それなのに家に招かれてみろ!! 普通に気持ち悪いだろそれ!!! 」


「そうかな? 僕だったら行くけど…… 」


(俺がおかしいのか? ……これ )


 あくまで普通のことを言ってるはずだが、哀花は納得いかなそうに首を捻った。

 かと思えば、俺の胸ポケットには、メモのようなものがいつの間にか入っていた。


「まぁいいや。あとでその住所においで 」


「ん〜??? 耳着いてんのお前? 」


「……? 付いてるけど、見て分からないのかい? 」


(……はァァァァァ????????? )


 人の話を聞かず、人を煽って自分の意見しか言わない。

 あれ、こいつって思ってるよりヤベェやつ?


「じゃあ僕は仲間の加勢に行くから、気をつけてね。はいこれ予備のスマホ 」


「いやおい」


「また後でね 」


 そう言い残し、哀花はどこかへ行ってしまった。


「……すぅぅぅぅぅぅぅぅ後でシバく 」


(えぇぇえぇなにコレ〜??????? )


 あれからしばらくして、住所の場所に着いた。

 まではいい。

 問題なのは、その家だ。


「広すぎんだろ…… 」


 学校のグラウンドが八つくらいは入りそうな庭。

 そこに建てられた、校舎並みのデカさがある屋敷。

 それをグルリと囲む柵には、すべて防犯カメラとセンサーが付けられている。


「ん、来てくれたんだね。嬉しいよ 」


 豪邸に目を奪われてる途中、後ろから肩を叩かれた。

 当然そこには、ニパッと笑う哀花。

 と、無駄に縦長な黒塗りの車があった。


(あ〜思い出したわ……泡魅って有名な資産家じゃねぇか )


 歴史で習ったことがある。

 怪異が現れたその昔、すべてを電子機器に頼ってた国のほとんどが経営破綻した。

 が、泡魅一族が怪異でも壊れない電子機器を開発したとかで、外国とか富裕層にバカ売れして有名になった……だっけ?

 興味無さすぎて詳しいところは覚えていない。


「何してるの? 冷えるから入ろうよ 」


「あっ、すー……ちょっと心の準備してまーす。よし、行きましょうか 」


 心構えはバッチリだ。

 これ以上、驚くことは絶対にな、


「お待ちしておりました、哀花様 」


「執事だ! 執事が居る!! 」


 あったわ。

 なんなら玄関先でもう驚いてしまったわ。

 だって漫画でよく見る、ガチムキ金髪イケおじ執事居んだもん。


「グリース、地下を開けといて。今から案内するから 」


「かしこまりました。今宵も怪異狩り、お疲れ様でございます 」


「えっなに? 地下? 今からコンクリ詰めされんの? 」


「コンクリ詰め? 変わった趣味してるね 」


「はぁぁぁ 」


 冗談通じない人と話すって疲れる。

 そう思いながら哀花に案内された階段を下りる。


「長くね? 」


「長いよ 」


「……何この中身のない会話!? 気まずいんだけど!! 」


「もうすぐ着くよ 」


「無視っ!? 」


 俺コイツきらーい。

 無視する男とかまじまじのマジできらーい。

 むしろ命の恩人じゃなかったらくたばってもいいゾ〜これ。

 

「ほら、着いた 」


 鉄の扉を哀花は開ける。

 すると無数のガラス玉が浮かぶ、奇妙な空間が視界に広がった。


 ガラス玉の中には手があった。

 ベタりベタりとガラスに満遍なく張り付く、数百の手が。


 ガラス玉の中には耳があった。

 翼をもがれ、這い蹲るしか能のない蝶のような耳が。


 ガラス玉の中には顔があった。

 両目と口に穴が空いただけの、生を感じさせない無機質な顔が。


「ここ、怪異の研究室か 」


「知ってるんだ。じゃあこれも知ってる? 」


 哀花は机の上に座り、そっと顔が蠢くガラス玉に触れた。


「怪異を一匹殺すのにさ、何人死ぬと思う? 」


「三人くらいじゃね? 」


「あたり。能力を解明するのに最低で一人、戦ってる途中で二人死ぬ。だから最近、怪異狩りは人手不足なんだよね 」


「あぁどーりで。テレビでうるせぇほど募集が掛けられてる訳だ 」


「でもさ、怪異を消す能力があれば話は別だよね 」


(あーなる〜 )


 コイツが何を言いたいか分かったと同時、哀花は予想通り、そっと手を伸ばしてきた。


「僕と一緒にパンドラへ……怪異狩りを行う学園へ来て欲しい。怪異をこの世から絶滅させるために 」


「えっ、ヤダ 」


 普通にめんどいから断っただけなのに、哀花はポカンと目を点にした。


「怪異を絶滅させたくないの? 」


「別に、怪異に恨み持ってねぇしな。つーか野郎の言うことなんか聞きたくねぇっての 」


「野郎? 」


「男って意味だよ 」


「僕女だよ 」


 手にフニっと、柔らかい感触がした。


(えっ胸押し付けってかやわっ女ァ!!? )


「す〜 」


 息を吸い、指に吸い付くような胸から手を離し、その場で土下座する。


「一緒に働かせてください 」


「うん、じゃあよろしく 」


 我ながらチョロいと思うが、好みの女と働けるなんて一生に一度あるかないかのチャンスだ。

 断る理由はねぇ!!


「あっ、でも怪異を悪用する人を殺すことになるよ? それでもいい? 」


「あぁ。つーか給料出る? 」


「出るよ 」


「最高じゃん!! 」


 偶然とは就職を先を見つけられた。

 そんな最高の気分を味わいながら空を見ると、あの怪異たちが恐れるように俺を見ていた。


「ところでさ、コイツらどうやって捕まえたんだ? 」


「僕が捕まえたよ 」


 シンっと、怪異たちの蠢きが止まった。


 理解した。

 怪異は俺を恐れてるんじゃない。

 哀花を見て、恐怖してたんだ。


「じゃあ尚更分からねぇな 」


「何が? 」


「なんであの時、俺を庇った? 」


 ずっと考えてた。

 そして分からなくなった。


 コイツは俺よりも価値のある人間だ。

 なのに、俺が死ぬことよりも自分が死ぬことを選んだ。

 そんなの、何か裏がねぇと納得がいかねぇ。


「庇った理由? え〜なんだろ 」


「……いやおかしいだろ。なんで見知らぬ他人のために死ねんだよ!? 何か理由があったんだろ!? 」


 脳裏にチラつく過去。

 ムキになって哀花を否定しようとするが、静かな笑みが帰ってくるだけだった。


「無いよ。強いて言うなら……助けられたから。ほんとにそれだけ 」


 理由もなく、助けられた。

 それが何よりも嬉しくて、こんな人生に希望が見えたような気がしたんだ。


「ありがとう 」


「……えっ? 」


 胸の内から熱いものが溢れて、溢れかえって、抱きついてしまう。

 視界は涙でぐにゃぐにゃ……でも胸の熱さだけは鮮明に感じ取れる。


「ありがとう。本当に……ありがとう 」


「えっと……どういたしまして? 」


「失礼します。お食事をお待ちしま」


 扉が開いた音でハッとすると……お盆を持ったグリースさんとばったり目が合った。

 そして気がついた。

 ご令嬢に抱きつく男……その状況のヤバさに。


「ちょ、あの……これはちが」


「いい度胸だなクソガキ!!! 」


「ちゃいますねん!! これには理由が!! 」


「大丈夫だよグリース、急に抱きつかれただけだから 」


「めちゃくちゃ語弊ない!? あっグリースさん、その拳一旦しまっ」


 ゴンッ……頭を思いっきり殴られた。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 哀花クン女子かよ!!!! いやまって歩はやべー奴だけど哀花クンのほうがナチュラルにやべー奴にしか見えませんけど気のせい??
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ