File.16 化膿した夢
「あー……やっぱパンドラと似てんな 」
真城と別れたあと、あの地下研究所を思い出しながら薄暗い廊下を進む。
ここは敵が作った場所だ。
なの構造がパンドラの地下とほぼ同じだ。
(えっーと……なんか漫画で見たな )
人差し指を指揮棒のように振りながら記憶を整理する。
そしたら頭の中で、タコの先生がE組で頑張る作品が浮かび上がった。
(あー思い出した。対テロの構造だこれ……内部を複雑にして、攻め込まれても占拠されにくいようにしてるんだっけ? あと壁にある溝って、シャッターのヤツじゃん。でもシャッターの一つや二つ降りてないって事は……コイツらの裏に、協力者が居るな )
そう考えなきゃ、辻褄が合わない。
いや間違いの可能性はあるけど。
(たぶん、なんかの取引で造らせたんだろうなぁ。そうじゃなきゃ、シャッターなんて機械的なものを怪異使うヤツらが使うはずねぇし。んじゃつまり……協力者は怪異を使えないのか? いやそれは確証ねぇな、敵側も怪異使えないヤツは居るだろうし )
んーっと、首を捻る。
するとバキバキ音が鳴った。
クソ痛い。
(まぁでも、右に来て正解だったな。パンドラと同じ構造ならこの奥に……絶対アレがある )
「ん? 」
薄暗い。
廊下の奥。
そこからガチャンガチャンと、鉄同士が擦れる音が聞こえてくる。
(おっ? なんだモビルスーツか? )
「侵入者だな? 」
曇った声とともに出てきたのは……防護服とガスマスクに身を包み、タンク付きの噴霧器を手に持つ人間だった。
(いやホラゲーだったわ )
「そうだぜ硫酸男。ちなみに侵入者はどうすんの? 」
「えー……そりゃあ 」
シューッと、何かを圧縮するような音とともに、
「溶かし殺すに決まってんだろ!!? 」
煙が通路中に撒き散らされた。
「おっ? 」
煙に触れ、濡れたと感じた腕。
その瞬間には皮膚は溶け、赤い肉が痛みとともに顔を出した。
(閉所+広範囲攻撃かぁ、容赦ねぇ。しかも目に入ったらたぶん失明すんなぁ。んじゃやる事は一つ )
霧の中にぼんやりと見える人影。
目を閉じ、それに向かって突っ込む。
「っ!? 」
顔が溶ける。
鼻の中が焼ける。
唇が歪む。
だが死ぬ訳じゃない。
死ぬほど痛いだけだ。
「お前! イカレてんのか!? 」
「それだけが取り柄なもんでなぁ!! 」
墳霧機の横振り。
を屈んで躱し、敵のガスマスクを掴む。
そして、
「てめぇも溶けろ 」
マスクを剥ぎ取る。
すると見えた。
満面の笑みを浮かべる、黒い髪をした男が。
「バーかっ!! 」
「っ!? 」
ガスが、吹き出た。
防護服の中から。
水たまりができるほどの量が。
顔は防いだ。
けど両腕がぐにゃりと歪む。
「残念だったなぁ!! 防護服着てっから喰らうとでも思ったか!? 俺自身に薬物耐性があんだよ!!だから効か」
「じゃあ 」
皮膚が熔けてヌルヌルする腕を、敵の顔に巻き付けて、
「溺れろ 」
水たまり。
もとい薬品たまりに、そいつの顔を叩きつける。
「ゴボッ!! てぶっ!!? 」
髪を掴み、頭を抑え、全体重をかける。
水たまりは一センチほどしかない。
だが人を殺すには十分だ。
「ゴバボ!! 」
新たに大量の薬品が散布される。
頭皮も溶け始めた。
でも、
「安心しろ……死んでも離さねぇよ 」
敵はもがく。
手足をばたつかせて。
だが防護服のせいで上手く動けないらしい。
俺の腕を掴む手もツルツル滑ってる。
「あーラッキーだよ、お前の対戦相手が俺で 」
「ガジユッ!! お゛お゛ぼっ!?? 」
「真城は知らねぇけど、彩音とお前は相性悪いからな 」
「〜〜〜!! るぅ〜〜〜!!! 」
「あと塩酸みたいなので助かったよ。神経毒だったらオカャカだった 」
「ぶぶっ!! ぐぶっ!!! 」
「それとお前、広範囲攻撃だから単独行動だろ? 残念だったな、誰も助けに来なくって 」
ビクビク、ビクビク。
敵の体は痙攣を始めた。
ちょっとエロくて困る。
「あー? 死んだ? 答えてくれよ? 」
「………… 」
「死んだな、ヨシっ!! 」
顔から手を離し、さっさと先にすす
(あっ? )
ガシッと、足を掴まれた。
「これでジヌと!!! 思うわ」
丁度いい位置に首があったから、踏み潰した。
足裏で。
木の実を踏んでしまった時とよく似てる。
「……最初からこうすりゃ良かったな 」
念の為もう一度踏みつけ、通路を進む。
当たり前だけど身体中痛い。
シャワー浴びたい。
あー頭に風感じる〜。
大丈夫これ禿げてない?
いや頭骨見えてるわ、これ。
「なんのおっ……ヒッ!? 」
なんかさぁ……ウィンって開いた扉からさぁ……白衣着た男が出てきたんだよ。
でもひでぇんだよそいつ。
初対面なのにさぁ、バケモノ見たような顔してくんだよ。
「な、なんだお前は!? 怪異!!? 」
「しつれれいだなァ……喰っちまうぞ? 」
「や、やめてくれ!! たすけ」
ふざけようと思った。
でもめんどいから銃で撃ち殺した。
つーか武器、さっき使えば良かった。
「あっ 」
死体が挟まって、ウィンウィンうるさい自動扉。
その奥。
棚に並べられた、ちょうど人の頭が入りそうなカプセル。
「みっけ 」
間違いない。
楽園に行くための装置だ。
「さて、壊して咲見つけに行くか 」
スっと、歪んだ右腕を伸ば
「いないいない〜 」
そうとした瞬間、声が
「バァ!! 」
目の前に、ロリの顔が見えた。
「ようこそ 」
次の瞬間、知らない場所にいた。
黒い部屋。
いや箱の中か?
「夢の世界で 」
「じゃあおはよう 」
漫画で見たことあんだ。
だから銃で自分の頭を撃つ。
「……ん? 」
目が覚めると思ったんだけどなぁ……
頭が半分吹き飛んだまま、死ねてない。
えぇぇ痛いんだけど。
「驚いた〜。夢って聞いただけで自殺する人なんて初めてだよ 」
紫髪のロリは言う。
口元を両手で隠しながら。
クスクスと笑いながら。
「でもダメだよ。それだけじゃ」
細い指が、パチンとなる。
それだけで黒い箱は開き、上から人の顔を持つライオンが、空を覆うほどに降ってきた。
「悪夢は終わらない 」
「あぁこれ悪夢か 」
ライオンの爪が右腕を削ぎ、人の歯が頬や足を食いちぎる。
抵抗する。
だがだんだん自分が無くなってきた。
リョナラー大歓喜の四肢欠損状態だ。
(……あれ、これって )
そんな中、彩音の言葉を思い出した。
怪異を操るのは人だ。
なら、想像力には限界がある。
なのに敵はこの量を操れてる。
具現できてる。
……そういう事か。
「なるほど、これトラウマか 」
トラウマというインスピレーションが、この量の具現に力を貸してるんだ。
「……えっ? 」
「獣……暴力性か? んで人の顔、でも顔にバラツキがあるのが集団への恐れ。そして一匹だけ、解明度の高い顔があるのは…………お前、こいつから殴られたことあるのか。虐待か? 」
「なんで…… 」
信じられない。
そんな顔をしながら、ロリは口を隠す。
それも癖だろうな。
たぶん、表情を出すことへの恐怖だ。
「なんでって? そりゃあ 」
もう面倒くさくなってきた。
だから欠損した腕で、笑顔で、
「見たら分かるだろ? 」
獣の顔面をぶち抜く。
それだけで獣の群れは一瞬で消えた。
(ん? 体が治ってる? 夢だからか? )
「あの……!! 」
「あっ? 」
気がつくと、目の前にはロリがいた。
その手には赤い薔薇束が抱えられている。
顔も赤い。
黒い目も涙ぐんでる。
あぁうん! すっごいヤな予感!!
「私と……結婚してください!!! 」
「やっぱそうだよねぇ!! でもヤダ!! PTAだかSCPだかから苦情来るもん!!! 」
「知りませんよ! 付き合えば一緒じゃないですか!? 」
「法律って知ってる!? やだよ未成年淫行で捕まってニュースに流れるの!! つーか出会って五秒で求婚すんじゃねぇ!!! そんな事するヤツの気が知れねぇわ!!!! 」
「あー酷いこと言いましたねぇ! 罰としてお付き合いから始めましょうホラ!! 」
「ホラじゃねぇよロリ!!! 」
「なんですかイケメン!!? 」
「お褒めに預かり光栄ですがお断りだボケ!! 俺には心に決めた哀花ってヤツが居んだよ!!! 」
名も知らないロリは、急に目を丸くして下を向いた。
「哀花……泡魅 哀花……じゃあ、そいつを殺せば良いの? 」
「ぶち殺すぞメスガキ 」
こめかみから、ブチって音が鳴る。
ニコッと歯を見せるメスガキの笑顔。
それに前蹴りで答えようとした瞬間、ドロっと足が融けた。
立てずに倒れた俺を、クソロリは笑顔で見下してくる。
「ここなら私のが強いよ? 」
「バーか。ここが夢だって分かれば、対処はあんだよ 」
「例えば? 」
笑って、中指を立て、想像する。
哀花の顔を。
「明晰夢♡ 」
哀花の顔。
顔。
顔。
顔が浮かび上がる。
天井壁地面空中。
すべてを埋め尽くすように。
(あー……ここは天国だな )
笑う顔拗ねる顔落ち込む顔ふんわりした髪を触る仕草。
最高に可愛くて興奮してくる。
「うっわ〜……なにこれ 」
「哀花無限増殖化成功だな 」
「いや気持ち悪いよ!! というか、これで何がかわ」
「上、見てみろよ 」
ケラケラ笑いながら、哀花の顔が埋め尽くす空を見上げる。
やっぱりそうだ。
空間にヒビが入ってる。
「夢ってのは記憶の整理だ。頭の中の出来事だ。じゃあこの空間を、脳のキャパを超える情報量で満たせば」
「ぶっ? 」
ロリの鼻から、血が吹き出した。
目からも涙のような血が流れていく。
「脳はパンクし、夢から覚める 」
『なんで助けてくれねぇんだよ!! 』
「あっ? 」
夢が崩壊する中で、自分の声が聞こえた。
崩れる哀花の顔の奥に、目から血を流す、昔の俺が居る。
『なんで見てくれねぇ!! 否定したのはお前らだろ!? なのになんで自分のことから目を背けて!! 俺を否定す』
うるさかったから、自分を撃ち殺した。
「さぁ、目覚めだ 」
「っ!! 」
目が覚めた。
目の前にロリ。
夢を再展開される前に、今ここで殺
「ねぇ 」
銃を向けた。
なのにロリは泣いていた。
大粒の涙を零しながら、ボロボロと。
そのせいで明らかに……遅れた。
「キミも……同じなんだね? 絶望したことがあるんだね 」
銃をパなした。
躱された。
飛びつかれ、顔に、貧相な胸を押し付けられた。
「私たちと一緒に、壁の外で住まない? 歓迎するよ 」
「その勧誘には飽きたんだよ!! 」
体を引き剥がし、溶けた拳をロリの腹に落とす。
だが拳はロリを貫通していた。
貫いたんじゃない。
体の実態が消え、透過したんだ。
「大丈夫。私たちならキミを……救えるよ? 」
「うる」
溶けた左腕を振り上げ、
「せぇ!! 」
頭に落とす。
でも手応えが無い。
ロリの姿も消えてる。
『これを奪われるなって言われてたけど、キミにならいいや。またね 』
頭に声だけがひびく、
アイツの真意は分からない。
でもとりあえず分かることはあゆ。
(……逃げたか )
手の中に違和感。
指を開けば、その中にはクシャクシャの紙が入っていた。
たぶん、外への行き方だろうな。
「……痛え 」
頭痛が痛い。
折れた拳が、折れたように痛い。
……寂しい。
でも大丈夫だ。
そう思ったところで、誰も助けてくれないのは知ってる。
「あー 」
瓶に詰めたガソリンをまいて、火をつけて、さっき殺した研究員ごと、焼く。
やっぱり火はいい。
すべてを消してくれる。
(かゆい )
溶けた頬を、溶けた爪で掻く。
そして進む。
ずるずる、ずるずる。
スライムみたいに。
ナメクジみたいに。
(待ってろよ〜? 今助けに行くぜぇぇ )
歩くたびに、風が焼けた皮膚を削いでいく。
でも止まる必要は無い。
咲を助けるんだ。
哀花のために。
アイツら仲良いんだよ。
見てたら分かる。
全員、家族みたいに仲がいい。
だからさぁ、一人でも欠けたらダメだ。
全員曇っちまう。
だから助けるんだ。
アイツらには笑っていて欲しい。
(俺も……アイツらと一緒に居たい )
「黙れよ異常者 」
零れてしまった本音を飲み干す。
丁度いいタイミングだ。
敵がたくさん見えた。
「なんの音……はっ? 」
「なんでここに……怪異が居る? 」
「いや怪異じゃねぇ! 反応は人間だ!! 」
「アレが……人間? 」
こちら歩。
これより、スニーキングミッションを開始する。
「さぁクリボーどモォォ? 脳みそ潰れないよう気ぃつけろぉぉぁおお???? 」
突然はじまる! 簡単解説のコーナ〜!!
今回は『明晰夢』について説明していくぜ
明晰夢とは!?
( '-' )ノソイヤッ!!
夢の中でこれが夢だと自覚したまま夢を見続けることだ!!
そうしていくと妄想と夢の境界線があやふやになり、想像を夢として見れる!!!
つまり空を飛んだり、好きな女の子とイチャコラ!!
貰えなかった愛も感じられるぞ!!!
詳しい原理は諸説あるが、脳波とかノンレム睡眠とかめんどくさいのが多いので省略!!!
都市伝説では無く、実際にPTSDの治療なんかにも使われたりするぞ!?
ちなみにデメリットもある!!
明晰夢を続けると現実と夢の判断がはやふやになるぞ!!
精神崩壊不可避だ!!
やりすぎには気をつけな!!
やりたい方はググってくれ!
書くのがめんどくさいんでな!!
ちなみに歩くんは明晰夢を8年くらい続けてるぞ!!
もう狂ってくるから実質デメリットナシだ!!!




