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怪異子葬  作者: エマ
17/44

File.16 化膿した夢



「あー……やっぱパンドラと似てんな 」


 真城と別れたあと、あの地下研究所を思い出しながら薄暗い廊下を進む。

 ここは敵が作った場所だ。

 なの構造がパンドラの地下とほぼ同じだ。


(えっーと……なんか漫画で見たな )


 人差し指を指揮棒のように振りながら記憶を整理する。

 そしたら頭の中で、タコの先生がE組で頑張る作品が浮かび上がった。


(あー思い出した。対テロの構造だこれ……内部を複雑にして、攻め込まれても占拠されにくいようにしてるんだっけ? あと壁にある溝って、シャッターのヤツじゃん。でもシャッターの一つや二つ降りてないって事は……コイツらの裏に、協力者が居るな )


 そう考えなきゃ、辻褄が合わない。

 いや間違いの可能性はあるけど。


(たぶん、なんかの取引で造らせたんだろうなぁ。そうじゃなきゃ、シャッターなんて機械的なものを怪異使うヤツらが使うはずねぇし。んじゃつまり……協力者は怪異を使えないのか? いやそれは確証ねぇな、敵側も怪異使えないヤツは居るだろうし )


 んーっと、首を捻る。

 するとバキバキ音が鳴った。

 クソ痛い。


(まぁでも、右に来て正解だったな。パンドラと同じ構造ならこの奥に……絶対アレがある )



「ん? 」


 薄暗い。

 廊下の奥。

 そこからガチャンガチャンと、鉄同士が擦れる音が聞こえてくる。


(おっ? なんだモビルスーツか? )


「侵入者だな? 」


 曇った声とともに出てきたのは……防護服とガスマスクに身を包み、タンク付きの噴霧器を手に持つ人間だった。


(いやホラゲーだったわ )


「そうだぜ硫酸男。ちなみに侵入者はどうすんの? 」


「えー……そりゃあ 」


 シューッと、何かを圧縮するような音とともに、


「溶かし殺すに決まってんだろ!!? 」


 煙が通路中に撒き散らされた。


「おっ? 」


 煙に触れ、濡れたと感じた腕。

 その瞬間には皮膚は溶け、赤い肉が痛みとともに顔を出した。


(閉所+広範囲攻撃かぁ、容赦ねぇ。しかも目に入ったらたぶん失明すんなぁ。んじゃやる事は一つ )


 霧の中にぼんやりと見える人影。

 目を閉じ、それに向かって突っ込む。


「っ!? 」


 顔が溶ける。

 鼻の中が焼ける。

 唇が歪む。

 だが死ぬ訳じゃない。

 死ぬほど痛いだけだ。


「お前! イカレてんのか!? 」


「それだけが取り柄なもんでなぁ!! 」


 墳霧機の横振り。

 を屈んで躱し、敵のガスマスクを掴む。

 そして、


「てめぇも溶けろ 」


 マスクを剥ぎ取る。

 すると見えた。

 満面の笑みを浮かべる、黒い髪をした男が。


「バーかっ!! 」


「っ!? 」


 ガスが、吹き出た。

 防護服の中から。

 水たまりができるほどの量が。


 顔は防いだ。

 けど両腕がぐにゃりと歪む。


「残念だったなぁ!! 防護服着てっから喰らうとでも思ったか!? 俺自身に薬物耐性があんだよ!!だから効か」


「じゃあ 」


 皮膚が熔けてヌルヌルする腕を、敵の顔に巻き付けて、


「溺れろ 」


 水たまり。

 もとい薬品たまりに、そいつの顔を叩きつける。


「ゴボッ!! てぶっ!!? 」


 髪を掴み、頭を抑え、全体重をかける。


 水たまりは一センチほどしかない。

 だが人を殺すには十分だ。


「ゴバボ!! 」


 新たに大量の薬品が散布される。

 頭皮も溶け始めた。

 でも、


「安心しろ……死んでも離さねぇよ 」


 敵はもがく。

 手足をばたつかせて。

 だが防護服のせいで上手く動けないらしい。

 俺の腕を掴む手もツルツル滑ってる。


「あーラッキーだよ、お前の対戦相手が俺で 」


「ガジユッ!! お゛お゛ぼっ!?? 」


「真城は知らねぇけど、彩音とお前は相性悪いからな 」


「〜〜〜!! るぅ〜〜〜!!! 」


「あと塩酸みたいなので助かったよ。神経毒だったらオカャカだった 」


「ぶぶっ!! ぐぶっ!!! 」


「それとお前、広範囲攻撃だから単独行動だろ? 残念だったな、誰も助けに来なくって 」


 ビクビク、ビクビク。

 敵の体は痙攣を始めた。

 ちょっとエロくて困る。


「あー? 死んだ? 答えてくれよ? 」


「………… 」


「死んだな、ヨシっ!! 」


 顔から手を離し、さっさと先にすす


(あっ? )


 ガシッと、足を掴まれた。


「これでジヌと!!! 思うわ」


 丁度いい位置に首があったから、踏み潰した。

 足裏で。

 木の実を踏んでしまった時とよく似てる。


「……最初からこうすりゃ良かったな 」


 念の為もう一度踏みつけ、通路を進む。


 当たり前だけど身体中痛い。

 シャワー浴びたい。

 あー頭に風感じる〜。

 大丈夫これ禿げてない?

 いや頭骨見えてるわ、これ。


「なんのおっ……ヒッ!? 」


 なんかさぁ……ウィンって開いた扉からさぁ……白衣着た男が出てきたんだよ。

 でもひでぇんだよそいつ。

 初対面なのにさぁ、バケモノ見たような顔してくんだよ。


「な、なんだお前は!? 怪異!!? 」


「しつれれいだなァ……喰っちまうぞ? 」


「や、やめてくれ!! たすけ」


 ふざけようと思った。

 でもめんどいから銃で撃ち殺した。

 つーか武器(コレ)、さっき使えば良かった。


「あっ 」


 死体が挟まって、ウィンウィンうるさい自動扉。

 その奥。

 棚に並べられた、ちょうど人の頭が入りそうなカプセル。


「みっけ 」


 間違いない。

 楽園に行くための装置だ。


「さて、壊して咲見つけに行くか 」


 スっと、歪んだ右腕を伸ば


「いないいない〜 」


 そうとした瞬間、声が


「バァ!! 」


 目の前に、ロリの顔が見えた。




「ようこそ 」


 次の瞬間、知らない場所にいた。

 黒い部屋。

 いや箱の中か?


「夢の世界で 」


「じゃあおはよう 」


 漫画で見たことあんだ。

 だから銃で自分の頭を撃つ。



「……ん? 」


 目が覚めると思ったんだけどなぁ……

 頭が半分吹き飛んだまま、死ねてない。

 えぇぇ痛いんだけど。


「驚いた〜。夢って聞いただけで自殺する人なんて初めてだよ 」


 紫髪のロリは言う。

 口元を両手で隠しながら。

 クスクスと笑いながら。


「でもダメだよ。それだけじゃ」


 細い指が、パチンとなる。

 それだけで黒い箱は開き、上から人の顔を持つライオンが、空を覆うほどに降ってきた。


「悪夢は終わらない 」


「あぁこれ悪夢か 」


 ライオンの爪が右腕を削ぎ、人の歯が頬や足を食いちぎる。

 抵抗する。

 だがだんだん自分が無くなってきた。

 リョナラー大歓喜の四肢欠損状態だ。


(……あれ、これって )


 そんな中、彩音の言葉を思い出した。


 怪異を操るのは人だ。

 なら、想像力には限界がある。

 なのに敵はこの量を操れてる。

 具現できてる。



 ……そういう事か。


「なるほど、これトラウマか 」


 トラウマというインスピレーションが、この量の具現に力を貸してるんだ。



「……えっ? 」


「獣……暴力性か? んで人の顔、でも顔にバラツキがあるのが集団への恐れ。そして一匹だけ、解明度の高い顔があるのは…………お前、こいつから殴られたことあるのか。虐待か? 」


「なんで…… 」


 信じられない。

 そんな顔をしながら、ロリは口を隠す。

 それも癖だろうな。

 たぶん、表情を出すことへの恐怖だ。


「なんでって? そりゃあ 」


 もう面倒くさくなってきた。

 だから欠損した腕で、笑顔で、


「見たら分かるだろ? 」


 獣の顔面をぶち抜く。

 それだけで獣の群れは一瞬で消えた。




(ん? 体が治ってる? 夢だからか? )


「あの……!! 」


「あっ? 」


 気がつくと、目の前にはロリがいた。

 その手には赤い薔薇束が抱えられている。

 顔も赤い。

 黒い目も涙ぐんでる。


 あぁうん! すっごいヤな予感!!


「私と……結婚してください!!! 」


「やっぱそうだよねぇ!! でもヤダ!! PTAだかSCPだかから苦情来るもん!!! 」


「知りませんよ! 付き合えば一緒じゃないですか!? 」


「法律って知ってる!? やだよ未成年淫行で捕まってニュースに流れるの!! つーか出会って五秒で求婚すんじゃねぇ!!! そんな事するヤツの気が知れねぇわ!!!! 」


「あー酷いこと言いましたねぇ! 罰としてお付き合いから始めましょうホラ!! 」


「ホラじゃねぇよロリ!!! 」


「なんですかイケメン!!? 」


「お褒めに預かり光栄ですがお断りだボケ!! 俺には心に決めた哀花ってヤツが居んだよ!!! 」


 名も知らないロリは、急に目を丸くして下を向いた。


「哀花……泡魅 哀花……じゃあ、そいつを殺せば良いの? 」


「ぶち殺すぞメスガキ 」


 こめかみから、ブチって音が鳴る。


 ニコッと歯を見せるメスガキの笑顔。

 それに前蹴りで答えようとした瞬間、ドロっと足が融けた。


 立てずに倒れた俺を、クソロリは笑顔で見下してくる。


「ここなら私のが強いよ? 」


「バーか。ここが夢だって分かれば、対処はあんだよ 」


「例えば? 」


 笑って、中指を立て、想像する。

 哀花の顔を。


「明晰夢♡ 」


 哀花の顔。

 顔。

 顔。

 顔が浮かび上がる。


 天井壁地面空中。

 すべてを埋め尽くすように。


(あー……ここは天国だな )


 笑う顔拗ねる顔落ち込む顔ふんわりした髪を触る仕草。

 最高に可愛くて興奮してくる。


「うっわ〜……なにこれ 」


「哀花無限増殖化成功だな 」


「いや気持ち悪いよ!! というか、これで何がかわ」


「上、見てみろよ 」


 ケラケラ笑いながら、哀花の顔が埋め尽くす空を見上げる。

 やっぱりそうだ。

 空間にヒビが入ってる。


「夢ってのは記憶の整理だ。頭の中の出来事だ。じゃあこの空間を、脳のキャパを超える情報量で満たせば」


「ぶっ? 」


 ロリの鼻から、血が吹き出した。

 目からも涙のような血が流れていく。


「脳はパンクし、夢から覚める 」


『なんで助けてくれねぇんだよ!! 』


「あっ? 」


 夢が崩壊する中で、自分の声が聞こえた。

 崩れる哀花の顔の奥に、目から血を流す、昔の俺が居る。


『なんで見てくれねぇ!! 否定したのはお前らだろ!? なのになんで自分のことから目を背けて!! 俺を否定す』


 うるさかったから、自分を撃ち殺した。



「さぁ、目覚めだ 」



「っ!! 」


 目が覚めた。

 目の前にロリ。

 夢を再展開される前に、今ここで殺


「ねぇ 」


 銃を向けた。

 なのにロリは泣いていた。

 大粒の涙を零しながら、ボロボロと。


 そのせいで明らかに……遅れた。


「キミも……同じなんだね? 絶望したことがあるんだね 」


 銃をパなした。

 躱された。

 飛びつかれ、顔に、貧相な胸を押し付けられた。

 

「私たちと一緒に、壁の外で住まない? 歓迎するよ 」


「その勧誘には飽きたんだよ!! 」


 体を引き剥がし、溶けた拳をロリの腹に落とす。

 だが拳はロリを貫通していた。

 貫いたんじゃない。

 体の実態が消え、透過したんだ。


「大丈夫。私たちならキミを……救えるよ? 」


「うる」


 溶けた左腕を振り上げ、


「せぇ!! 」


 頭に落とす。

 でも手応えが無い。

 ロリの姿も消えてる。


『これを奪われるなって言われてたけど、キミにならいいや。またね 』


 頭に声だけがひびく、

 アイツの真意は分からない。

 でもとりあえず分かることはあゆ。


(……逃げたか )


 手の中に違和感。

 指を開けば、その中にはクシャクシャの紙が入っていた。

 たぶん、外への行き方だろうな。


「……痛え 」


 頭痛が痛い。

 折れた拳が、折れたように痛い。

 ……寂しい。

 でも大丈夫だ。


 そう思ったところで、誰も助けてくれないのは知ってる。


「あー 」


 瓶に詰めたガソリンをまいて、火をつけて、さっき殺した研究員ごと、焼く。

 やっぱり火はいい。

 すべてを消してくれる。


(かゆい )


 溶けた頬を、溶けた爪で掻く。

 そして進む。


 ずるずる、ずるずる。

 スライムみたいに。

 ナメクジみたいに。


(待ってろよ〜? 今助けに行くぜぇぇ )


 歩くたびに、風が焼けた皮膚を削いでいく。

 でも止まる必要は無い。


 咲を助けるんだ。

 哀花のために。


 アイツら仲良いんだよ。

 見てたら分かる。

 全員、家族みたいに仲がいい。

 だからさぁ、一人でも欠けたらダメだ。

 全員曇っちまう。

 だから助けるんだ。

 アイツらには笑っていて欲しい。


(俺も……アイツらと一緒に居たい )



「黙れよ異常者 」


 零れてしまった本音を飲み干す。

 丁度いいタイミングだ。

 敵がたくさん見えた。


「なんの音……はっ? 」

「なんでここに……怪異が居る? 」

「いや怪異じゃねぇ! 反応は人間だ!! 」

「アレが……人間? 」



 こちら歩。

 これより、スニーキングミッションを開始する。


「さぁクリボーどモォォ? 脳みそ潰れないよう気ぃつけろぉぉぁおお???? 」

 





突然はじまる! 簡単解説のコーナ〜!!

 今回は『明晰夢』について説明していくぜ


 明晰夢とは!?

 ( '-' )ノソイヤッ!!


 夢の中でこれが夢だと自覚したまま夢を見続けることだ!!

 そうしていくと妄想と夢の境界線があやふやになり、想像を夢として見れる!!!

 つまり空を飛んだり、好きな女の子とイチャコラ!!

 貰えなかった愛も感じられるぞ!!!


 詳しい原理は諸説あるが、脳波とかノンレム睡眠とかめんどくさいのが多いので省略!!!

 都市伝説では無く、実際にPTSDの治療なんかにも使われたりするぞ!?


 ちなみにデメリットもある!!

 明晰夢を続けると現実と夢の判断がはやふやになるぞ!!

 精神崩壊不可避だ!!

 やりすぎには気をつけな!!


 やりたい方はググってくれ!

 書くのがめんどくさいんでな!!


 ちなみに歩くんは明晰夢を8年くらい続けてるぞ!!

 もう狂ってくるから実質デメリットナシだ!!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 臨場感。白熱バトルって歩クンはじめてモテたぁ!! それもロリっ娘!!もったいねぇなぁ!(血涙 表皮ドロッドロに溶けながら敵をぶちのめす主人公とかいねぇよ……彩音ちゃんドン引きながら乱暴に…
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