File.14 ムカ着火ファイヤー!!
「おっ、キタキタ 」
スマホの画面に映る位置情報。
スパイしてた時に、敵の靴に付けてたものだ。
その反応が路地裏を突き進んでくる。
「えっ…… 」
蓋の隙間からギリギリ見える、銀髪の綺麗な女。
そいつは焼死体の前で崩れ落ち、焼けた腕にそっと手を伸ばした。
「嘘……なんで……なんで死ん」
「おはよう!! 」
隠れてたゴミ箱から飛び出し、
「ございます!!! 」
鉄パイプで思いっきり女の後頭部を殴りつける。
「あー……おやすみだったな 」
まさに一発KO!
歩クルーシオ(鉄パイプ)を前に、女は痙攣する暇もなく倒れたのだ!! 〜完〜
……っと。
「さーって、こっからどうすっかなぁ 」
女の靴から発信機を回収し、ちょっと首を捻ってみる。
俺は単独で動いてる。
しょーーーじきパンドラの生徒に会いたくは無い。
誰が敵かわかんねぇし。
いや哀花には会いたいが。
うーむ、うーむ……どうするべきかなぁ。
(昨日色々準備したけどなぁ、しょ〜〜︎↑じき↓これで良いか不安だなぁ。まぁ失敗したら俺が死ぬだけだし! ぶっつけ本番、当たって砕けろで行きまShow!! )
血の付いた鉄パイプ。
それで壁をガリガリ〜ポポポポ削りながら、発信機の場所へ向かう。
さァァァァァて、楽しい楽しみ殺し合いの始まりだ。
♢
「……はっ? 」
私は壁に向かっていた。
二人の仲間と別れて。
真城という男を殺すために。
それなのに、仲間に付けたマーキングが消えた。
イヤな予感。
すぐにマーキングが消えた場所に向かえば、
「おっ、さっきぶりッスね〜。金髪オカマの馬野郎 」
血塗れた鉄パイプを持つ赤髪の少年が、路地裏が出てきていた。
その左手は焼け焦げた腕を握っている。
「……アナタ 」
「そそっ。俺、空無 歩 は裏切り者で〜す。これ革ジャン着てたヤツの腕だよ〜。あと銀髪の綺麗なおネーサンは奥で寝てる。死んでないと良いなぁ 」
ニパッと明るい笑み。
それは少年のように元気で、少女のように可愛らしく、ピエロのように不気味だ。
なぜ、死人の腕を持って、ここまで笑っていられるの?
(いや……そんな事はどうでもいい )
「分からない事だらけだけど、アナタが敵だって事はよく理解したわ 」
腕を広げ、筋肉で盛り上がった背から、錆びた鉄の触手を生成する。
「アンタは……ここで殺」
「ちょーち待ってえ!! 先に聞きたいことがあるんだけどさぁ 」
急な大声。
いや構うな。
すぐに殺
「楽園送りって計画、知ってる? 」
「……はっ? 」
予想外の一言。
足が止まる。
「あ〜知ってるクチか。まぁ、誰もが住める楽園へ〜って言ってるからそうだよなぁ 」
指で顎を突つきながら、歩はンーっと首を捻る。
けれどそれはおかしな事だ。
「なんで……あんたがそれを 」
「ちなみにさ、なんで急に動き出した訳? 楽園に行く方法見つかったから? いや見つけたってより、材料に目星が着いたのか 」
当たってる。
いや、だから……
「なぜ計画を知ってるの!? あの計画は書類を見つけたあの方と、それを知らされたごく一部の者だけなのに」
「あー、やっぱ書類残ってたかぁ。入り口コンクリで固めるだけじゃダメだったかぁ。燃やすべきだったなぁ 」
訳が分からない。
それになぜ。
知ってる。
隠された基地の入り口が塞がってたことを。
まさか……
「いや……そんなハズは。あの計画を知ってるのは、私たちと……当初の計画メンバー17人のだけなハズ 」
「いや違ぇよォ? 俺を合わせて18人だ 」
ピエロのようにうっすらと笑いながら、歩は胸に手を当てる。
まるで演劇を始めるように。
お辞儀をするように。
「お前は……なに? 」
「いやぁ日本変えるって約束しちまった、ただのゴミだよ 」
「……質問を変えるわ。アンタは、何が目的? 」
臨戦態勢。
コイツは危険だ。
野放しにはできない。
「いや〜さぁ、お前らの目的って哀花を……いや、怪異特別討伐隊の全滅だろ? じゃなきゃアイツらが前線にやってくるこのタイミングで仕掛けに来ないもんな? 」
「……… 」
話になってない。
でも、それは半分当たってる。
「アイツら良い奴なんだよ〜。普通なら自分でいっぱいいっぱいの癖して、他人に逃げろだの生きろだの平気で言うんだ。だから人を殺したら絶対落ち込んじまう。まぁ、という訳で 」
ゆるらっと、歩の体を揺れ、
「アイツらの罪は、ぜんぶ俺が被ろうと思って……る〜ん〜……だ!!!! 」
そのまま突っ込んできた。
だが遅い。
「遺鋼 五寸」
「ムカ着火!! 」
私が攻撃。
するよりはやく。
黒い粉が空中にばらまかれ、
「ファイヤ!!! 」
「っ!? 」
ライターの火花。
それが引火し、炸裂した。
(火薬!? )
爆音。
光。
一瞬怯んだ。
瞬間、
「あっちぃぃなぁぁあ!!! 」
髪を燃やす歩が、爆炎の中を突っ込んできた。
その手には……銃が!!
「っう!? 」
放たれた二発。
硬化した腕で弾く。
「ほいプレゼント!! 」
焼けた手も飛んでくる。
それも弾く。
カチャンっと、音が鳴った。
垂れる黒い糸。
その先には、黒い玉。
(手榴弾!? )
「っ!? 」
身構える。
爆発。
しない!?
「オモチャだよバーーか!!! 」
飛んでくる蹴り。
それを額で受け、両腕で足を抑える。
「かった!? 」
(このまま折っ)
「プッ!! 」
歩の口から煙。
赤い。
これは……
「いっ!? 」
「唐辛子入りの毒霧なう!! 」
痛い。
目が。
見えない。
「グッパーイ!! 」
首に足が巻き付く。
無理やり目を擦る。
目の前には、
「オカマ野郎 」
銃口が見えた。
鈍い音が三発。
だが、
「うるさいわワねぇ 」
肌で受け止めた弾丸は、地面に落ちた。
「まっ!? いやちょ!? 」
歩の背。
それを肉ごと掴み、全力で
「ふん!! 」
投げ飛ばす。
「あー!! 俺のいちばん美味いところがァァァ!!? 」
(なんなのよ!! こいつは!? )
背中の肉がえぐった。
それもごっそり。
なのに歩はヘラヘラ笑い、着地し、錆びた触手をヒラヒラ躱し続ける。
なぜ動ける。
なぜ躱せる。
なぜ当たらない。
なぜ怪異を使わない。
異様、異変、異質。
何もかもが不気味。
何もかもが不明。
コイツは……誰なの? なんなの? 何を知って何処まで
「ん? これもしかしてさぁ 」
ピタリ、歩は足を止める。
笑いながら。
とうぜんその左腕を触手が挟み、捻りきった。
「はっ? 」
攻撃したのは私。
なのに鉄の触手は膨れ上がり、ゴム風船のように破裂した。
(何!? これがアイツの能力!!? )
「あーやっぱそうだ、データで見たヤツじゃねぇか 」
二歩、間合いを広げる。
追撃はない。
腕を失ったというのに、歩は肩を震わせてケラケラ笑う。
それはまるでピエロのようだった。
「遺鉄……能力は硬化と生成と……なんか。たしか抜き忘れられた五寸釘とか、回収されずに遺った殺人鬼のナイフが元だっけ? 」
(なぜ知って!? )
「硬化は分が悪いんだよなぁ。という訳で、 」
とつぜん。
歩は私に背を向け、
「じゃなっ!!! 」
全力で逃げ出した。
「……はっ? 」
(なぜ逃亡? 急に!? いや……逃げるのならそれで良い。私は当初の目的通りに真城を殺…… )
逃げたアイツの方向。
そこには仲間のマーキング反応が。
(まずい!! 死体を持ってかれたら計画がバレる!!! )
全力で地面を蹴り、逃げる歩に追いつ
「今ならなんと! 一本受け取ると」
く寸前、歩はさっき飛ばした左腕を投げてきた。
「もう一本付いてくる!! 」
(ジャマっ!! )
腕で弾く。
するとカチャン。
腕の先端に、また黒い玉がついていた。
(二度も引っかかるワケな)
「あゴメン 」
瞬間、右頬に熱が
「それ本物〜 」
『ゴウンッ!!! 』
爆音から頭を殴られた。
内蔵も。
硬化し、腕で爆風を防いだから傷は浅い。
だがヤツを見失った。
(どこに……いや、アイツは私たちの死体を狙ってる。なら先回りしてヤツを狩る!! )
待ち伏せを警戒しつつ、最短距離で。
路地裏を突きすす
『コンニチワ!!!!!! 』
十字路。
の右から声が。
「っ!? 」
硬化した腕を振り抜く。
コンクリは砕け、声がした木箱は砕けた。
でも出てきたのは、
(ボイスレコーダー!? )
「ボッシュートになりますっ!!! 」
左。
の頭にドロップキックをぶつけられた。
硬化で防いだ。
けれど吹っ飛ばされ、何処か暗い場所に突っ込んだ。
(ここは……工事現場? )
「俺怪異もってねぇからさぁ!! 化学に頼ろうと思う!!! 」
ピッと、リモコンの音。
辺りからは粉が落ち、舞い……そして歩はマッチを擦り、
「粉塵爆破♡ 」
「っ!!!? 」
熱。
痛み。
爆音。
耳鳴り。
硬化で……ダメージは無い。
でも耳が聞こえな
「ェイ 」
遠くで声が。
なにかかけられ。
臭い。
「お背中かちかち山にしますねぇ 」
擦られたマッチが。
私に。
燃え広っ
「っうう!!!? 」
「MP消費ナシって最高だなぁ……あっ? 」
全身が燃える。
皮膚が溶け落ちる。
それでも硬化で耐え、前に進み、歩の首を掴む。
「この……程度で……殺せるとオモウナ 」
「じゃあ圧死で 」
ピって。
音。
上から……三本の鉄骨が。
「ぐっ……うっ 」
「あら〜、死ねてナイナイや。ほんと不幸だなぁお前 」
生きて……る?
でも体が……鉄骨に挟まれて……
硬化で潰れてない。
能力を解かなければ、まだ……怪異化で
「ジャーン。これ、鉄工用ドリル 」
「……えっ? 」
「遺鋼ってさぁ、体を鉄並みの硬度にすんだよなぁ。だから、」
ギュルギュル、目の前のドリルが……回り出す。
「これで脳みそ掻き回したいと思う 」
「……はっ? 待ちなさいよ……なんでそんな」
「うるせぇ!! オカルトが物理に勝てると思うな!!! ……いや工学だったわ!!!! 」
待って待って待って。
ドリルを人に向けるなんておかしいでしょ普通に考えででででで
皮膚がが削れ削れ削れ骨が骨が骨が骨がいつ死ぬ死ぬ死ぬいつ死ぬ死ぬ死ぬ死にたく死にたくたくたくいや死にたく死にたく死にたくブジュルルル
「oh......脳みそシェイカーwhat 」
♢
「情報ありがとね〜、おネーサン。歩ジキジキジキにお礼言うわ 」
「……… 」
浴槽にうつ伏せで浮かぶ銀髪のお姉さん。
それにお礼を言い、さっさと壁へ向かう。
(ん〜、妙だなぁ )
その途中、変な違和感が頭に引っかかった。
俺はそもそも、コイツらを追ってきたんじゃない。
ついでだ。
地下を蠢く、異様な気配の。
だがあのオカマと戦ってる時に気配は消えた。
たぶん怪異だろうが……なぜこのタイミングなんだ?
偶然?
にしてはタイミングが良すぎる。
分からない。
けど分かったことはある。
(パンドラは……敵だ )
奴らは楽園に行くための材料を探していた。
でもパンドラは、敵の情報をすべて隠していた。
死体の情報を抜いているのに。
攻めてくるから守ってくれと。
そうとしか言わなかった。
だから考えられる事は一つ。
パンドラは奴らが探す材料である何かを、生徒に知られたくないんだ。
一から十まで言う理由はないだろうが、おかしいだろ。
ろくな説明もせず、命だけ掛けてくれなんて。
子供を使い捨てにする気満々じゃねぇか。
(あー……パンドラ爆発して全員殺そうかなぁ。いやぁでもなぁ……それでアイツらに変なトラウマ残したらやだなぁ……ん? )
ジリリ、ジリリ。
大道に備え付けられた公衆電話が鳴っていた。
これあれか?
ドラマとかアニメとかにあるヤツ?
うおテンション上がってきた!!
「はーい? 」
喜んで受話器を耳に当てる。
すると声が聞こえた。
男のだ。
『ふふ……この電話を取るとは、いささか不用心 』
カシャン。
電話を切る。
女だったら喜んで続けてたが、野郎と離す趣味はない。
『ジリリリリ!!!! 』
「なに? 」
また受話器をとる。
『何じゃねぇよ! 公衆電話掛けんのタダじゃねぇんだから切ってんじゃ』
カシャン。
もう一度切る。
(いやぁ、頭のおかしいヤツも居るもんだなぁ )
「おいゴラァ!! 」
空。
から。
何かが落ちた。
「てめぇふざけんな! 俺の20円返せ!! 」
それは鉄パイプを担ぐ男だった。
髪は適当に染めたようなカピカピな金。
パッと見、俺と同じくらいの年齢だ。
「みみっちぃなぁ。公衆電話くらい100円でかけろ 」
「うっせぇ! 自販機の下とか探してわざわざかけてやったのに切りやがって!! 」
「金欲しかったらイベント会場とか行けよ。結構落ちてるぞ? 」
「えっまじぃ? じゃあ今度行くか……ってそうじゃねぇ!! 」
急に叫んだり笑ったりを繰り返す男。
あぁいう頭おかしいヤツには関わりたくないが、なー〜んか嫌な予感がする。
コイツから逃げれるビジョンが浮かばない。
「俺さぁ、お前と取引がしたいんだよ 」
「鶏ひき肉? 俺はステーキの方が好きだって 」
「いや……初耳なんだけど。つーかお前との会話ぜんぜん進まねぇんだけど!? 黙って聞けやカス!! 」
「オー!? カスはテメェだろカス!! 人にカスって言う方がゴミカスなんだよカス!!! 」
「オーケー! お前の言葉今から無視するわ!! ぜんっぜん!! 話が!! 進まねぇからなぁ!!! 」
無視すると言われた。
だから黙った。
ついでに目を別々の方向に向けて、舌をネジって上に持ち上げてみる。
そしたら、
「何黙ってんだよおい!? それとその顔やめろ!! キメェとオモロいが混ざってどう反応したら良いか分かんねぇから!!! 」
「で……用事って? 」
「急に冷めんな!! 」
と言われましても、こっち左腕ないし失血でフラフラなんだよ。
ベルトで縛ってるけど思ったより血が止まらなくてヤバいの。
さっさと話進めて欲しい。
「あー……で、さっきも言ったが取り引きだ 」
ふざけてみようと思った。
けれど一瞬。
死の匂いが、辺りの空気をパリッと乾燥させた。
「テメェを殺さないでやる。だから俺たちの仲間になれ 」
「それ前も言われたけどよぉ。お前たちって人手不足なのか? つーかお前たちの仲間殺したんだからボスが許さねぇんじゃねぇの? 」
「ボス? あぁ……ボスなら許してるぞ 」
「………? 」
変なもの言い。
と共に、ヤツは鉄パイプを振り上げ、降ろした。
瞬間、
「うへぇ 」
コンクリートの地面に。
バームクーヘンみたいな穴がグッポリと空いた。
底は見えない。
鉄パイプでこれとか……もろに喰らったら即死じゃ足りないだろな。
「さて……じゃあネタばらし 」
金髪の男は、ニヤッと笑って、鉄パイプを担ぎあげた。
「俺がボスだ!! 」
「んじゃ俺からも取り引き 」
面倒くさそうだから無視して、中指を立てて舌を出す。
「今すぐ自殺しろ。そうすりゃ殺さないでやるよ 」
「じゃあ交渉決裂 」
目の前に鉄パイプが迫
「だな 」
るより速く、取り出した爆弾を爆発させる。
「おぉ自爆か!? 」
「自作だから弱くしてんだよ!! 」
焼けながら爆風の中を突っ切り、ワイヤーを垂らしながら蹴りを放つ。
だがヤツの姿が消えた。
どこっ……ビルの壁!?
物理法則無視すんな!!
「さぁて、やる気満々みたいだし…… 」
ミシッ。
壁が歪み、ビルの窓ガラスたちはいっせいに砕け、
「ギアあげっか!! 」
一瞬。
にも満たない間。
身をひねるしか無い時間の中で放たれた一撃。
盾にした右腕は彼方に吹き飛んだ。
「あっ? 」
「さぁぁて 」
だが腕にはワイヤーを巻き付けておいた。
それが吹き飛び、地面に垂らしたワイヤーは巻き取られ、俺たち二人をキツく結びつける。
「片道バンジーと行こうか 」
「イイねぇ。そう来なくっちゃ 」
野郎の笑みと共に、コイツが空けた穴に飛び降りる。
「ハハハッ!! 楽しいけど考えがあめぇんじゃねぇか!? 」
ゴウゴウ風が逆巻く中、ヤツはニタッと笑い、
「俺はそんなに、非力じゃねぇぞ? 」
ワイヤーを引きちぎった。
だが、
「バーか。野郎と心中なんか誰がするかよ 」
「あっ? 」
見えてたんだ。
知ってたんだ。
だから飛び降りた。
アイツらの一撃が……当たりやすいように。
「子閉じ 」
「っ!? 」
穴に降り注ぐ光。
それを遮るように、黒い波動が放たれた。
「命壊し!! 」
「ナイスタイミング……彩音!! 」
男を彩音の一撃に向かって蹴り飛ばす。
だが、
「イイねぇ。でもなんかお前……弱くなってないか!? 」
空中で身をひねり、波動を蹴りで逸らした。
「っ!? 」
「残念だったなぁ!! 」
「うちのパーティ、まだまだ居るぞ? 」
今度は、壁中から増殖する刃が現れた。
それは俺を受け止め、数百の刃は男に迫る。
だがそれも、足で、肘で、全身で砕かれた。
「喰らわなければどうってことは 」
「じゃあ…… 」
チリン……綺麗な鈴の音がした。
「これはどう? 」
「やべっ!! 」
大好きな人の声。
と共に、上からヤバい量のクリスタルが落ちてくる。
(あれこれ……俺も死なね? まぁ哀花に殺されるなら別に良いけどぉ!? )
刃が急上昇。
体も。
クリスタルの隙間を通るように吹き飛ばされ、地上でアイツからだき抱えられた。
……哀花だ。
「おぉ、久しぶりだなこの感触 」
軽口を叩いてみるが、哀花は何も喋らない。
涙を浮かべ、そっとヤラしい手付きで、俺の先のない肩を触ってくる。
「えっ……なに? そういうプレイ? 」
「いや……死んでなくて良かったなって 」
「あぶねぇぇ!! 死ぬかと思ったァァ!!! 」
穴から飛び出てきた。
ヤツが。
「いやぁ生き埋めは流石に死ぬな。うん 」
敵。
を、目の前に、制服姿の哀花は一歩だけ前に進んだ。
それだけで辺りには結晶が張り巡らされた。
「お前が……私の仲間を傷付けたの? 」
哀花の後ろ。
そこには彩音と真城も着地し、構え、敵に牙を剥く。
形勢は覆った。
なのに敵は楽しそうに、ジェットコースターの順番待ちのように、ニタリと笑う。
「イイねぇ……イイねぇ!! ここで全員、殺すカッ!? 」
「ハイハイ馬鹿ボス。帰りますよ 」
「「「っ!!? 」」」
敵の背後に現れた、一人の女。
車椅子に乗る、糸目で黒髪の華奢な女。
そいつは耳を引っ張り、敵をズルズルと引っ張ってく。
「いででっ!! ちぎれる!! 耳が!!! 」
「別に大丈夫でしょう。どうせ治るんですから 」
「待て…… 」
シンっ……と、空気が冷える。
すると車椅子の女は動きを止めた。
哀花の顔が……怖い。
怒ってる顔も美人だなぁ!!
「なんです? 私たちは戦う意思はありませんけど? 」
「私の仲間にこんな事をしておいて……許すとでも 」
「ん〜? 」
そんな哀花の脅しを流すように、車椅子の女は首をひねりながらクスクスと笑う。
「あぁ。あなたが哀花さんですか。はじめまして、そしてまた会いましょう。それと……お姉さんによろしくお願いします 」
「っ!!! 」
波のようなクリスタル。
が、前方のビルや街を覆い、
「では 」
「じゃな〜 」
すべてを呑む寸前、ヤツらは消えた。
そして……クリスタルによって固められた街だけが残った。
「それじゃあ防衛成功を祝って……カンパーイ!!! 」
学長の声とともに、生徒たちはパーティ会場に備えられた料理に飛びついて行った。
(えっ、どういう状況? )
一旦整理してみよう。
哀花にお姫様抱っこ(ここ重要)されたまま帰り、咲から腕を治され、彩音から泣かれながら抱きつかれ、真城からすっげぇ心配したとお言葉を貰い、心配してきた学長に喧嘩売ってぇ、作戦終わってぇ、パンドラに帰ってきたら……パーティ。
パーティ!? いや意味わかんねぇだけど!!?
(まぁ喰えるなら喰うがな!! )
食べ放題用の皿を取り、山盛りのフライドポテトを皿に移す。
そして山盛りの方のポテトを持って、人混みから離れる。
(いやぁポテトうめぇぇぇ……味分かんねぇけど )
「……ぃ 」
(にしてもなぁ。旨みくらい分れば食事は楽しいんだけどなぁ )
「おい、歩? 」
「ん? 」
壁ら辺をうろうろしてると、声をかけられた。
真城だ。
「どした? 」
「いや……大丈夫かなって。誘拐されて両腕もがれたって、結構キツいだろ? 」
(あーそっか。俺誘拐されたことになってたっけ )
「ヘーキヘーキ。ちなみに真城は喰わねぇの? 」
「あぁ……まぁ、な。食欲ねぇんだよ 」
「なんでぇ? 」
「……人殺して喰う飯なんか、美味くはねぇだろ。あいや、悪いな。飯食ってる時にこんなこと言って 」
「別にヘーキ、聞いたの俺だし。でもまぁ、食欲湧いたらちゃんと食えよ? 食わねぇと死ぬぞ 」
「……ありがとな。でもまぁ、お前は別の意味で死にそうだな。ちゃんと野菜も食えよ 」
「うーい 」
半分に減ったポテト。
に塩を掛け、コーヒー片手にブラブラ壁沿いを歩く。
その途中、野菜しか喰ってない咲や、料理を物理法則ガン無視の盛り方をした彩音やらが見えた。
それが何処までもアイツららしくって笑ってしまう。
俺は味が分からない。
苦味しか感じない。
だから飯が楽しいと思ったことが少ないんだ。
でも、
(こういうの見ながらの飯は楽しいな )
そう思いながら、ベランダに出る。
ここはパンドラの六階。
談話室をパーティ会場にしたらしい。
つーかここ焦げ臭いな。
なんでなん?
なんか燃やしたのか?
あっ……そいや俺が燃やしてたな、壁。
「歩 」
「ん? 哀花……どした? 」
ベランダでくつろいでると、後ろから哀花がやってきた。
いやぁ制服姿の太ももとか綺麗な手とか素敵だしちょっとあるよりの胸も
「歩? 」
「あぁ申し訳ございません。それでえっと……なにかご用ですか? 」
「ふふっ。なんで敬語なの……まぁ用って言うよりかは、少し聞きたいことかな? 」
「聞きたいこと? おうなんでも聞いてくれ! だいたいは答えるぞ! 」
そう言うと、一息ついてから哀花は口を開いた。
「歩を助ける時にさ、私……一足先に着いてたの。私だけだと歩も巻き込んじゃうから 」
聞きづらそうに、歯切れ悪く。
哀花は言葉をつむぐ。
「それでえっと……聞こえたんだ。歩が……アイツらの仲間になるって 」
「そりゃあアイツらが勝手に言ってるだけだ。俺は寝返るつもりはねぇよ 」
「……ほんと? 」
「ほんとって……俺そんなに信用ない? 」
「いやそうじゃなくて……その時の歩、すっごく笑ってたから。あのバカみたいなボスと話してる時も笑ってたし……なんて言うか、私たちと居る時より生き生きしてるって言うか……だから不安、でね 」
「哀花 」
正直今焦ってる。
変顔見られた訳だし。
でもまぁ、それに対しての言葉はもう決めてあるんだ。
「俺はお前らの味方だよ。これから先、ずっとな 」
「えっ。う、うーん……いきなりそう言うこと言われると、キモイかな 」
「キモイ!? キモイって言われた!? 本心なのに!!? 」
「いやほら、本心とカッコ良さは比例しないから 」
「やめてこれ以上聞きたくない! 好きな人からのキモイがだいぶ心に突き刺さるからやめて!! 」
「ご、ごめん……でもそう言う所かな 」
「オーバーキル! 死体撃ち!! これ以上喋るなら飛び降りるぞ!? あと今度暇な時でいいんでデートしてください!! 」
「それくらいなら良いよ。じゃあ私、何か食べてくるから 」
「おうごゆっくり!! 」
相も変わらずマイペースで素敵で可愛くて大好きな哀花は、サッサッと室内に戻って行った。
(あぁぁあ、メンタル削れたァァ。えっなに? 好きな人からあんなこと言われるのこんな辛いの? 初めてのリスカと首に輪をかけてハイジャンプした時より辛いんだが? つーか哀花めちゃくちゃいい匂いしたなぁ。あー抱きついてみてぇ。いつか頭とか撫でられてぇ。いや下の方じゃなくて上の方のな。いやほんと優しいなぁ……大好きだなぁ。ずっと一緒に居る……は無理だろうけど、それなら一秒でも良いから一緒に居て、一瞬でも良いから記憶に残りてぇよ……んぁ? )
スマホのバイブ。
画面を見ると、死体に仕掛けた反応が動いてた。
(あー、やっぱちけぇな。壁の中に反応あるって事は、今日のアイツらはやっぱり陽動……か )
ポテトを食いながら画面を眺め、油まみれの指をチュパチュパしゃぶる。
移動速度からして車……だよなぁ。
あっ、反応止まった。
(大丈夫だよ、哀花 )
だからボタンを押す。
ポケットの中に入れてたヤツを。
(俺は本当に、お前たちの味方だ )
遠い遠い、街の何処かで。
爆発音。
がした。
(誰を殺そうと……な )
作中に登場するボタンや発信機、爆弾はすべて歩くんの自作です!
電子科に居た経験+市販の携帯を分解で、コソコソ作ってますw
火薬の方は花火とか買い込んで集めてます
ついでに銀髪のお姉さんは拷問した後に、殺してます
うつ伏せで風呂場に寝せ、蛇口捻りながら『溺れる前に喋ってね♡ 』と
お姉さんは目の前に溜まってく水が怖くて喋りましたが、その後キッチリ溺れさせました
だって喋ったら助けるとは言ってねぇもん!! と歩くんは死体に言い訳してます
それと奇跡的に誰も死んでませんが、歩くんが居なければ特別討伐班のうち、哀花さん以外の誰かは死んでいました
薬物耐性や硬化なんて、咲さんや真城くんに対してメタ張りすぎてますからねぇ




