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怪異子葬  作者: エマ
14/44

File.13 無価値なる最強




「ハハハッ!!! 」


 狭い駐車場。

 暴れ回る筋肉。

 それによって砕ける車。

 コンクリの壁。

 投げられるスクラップとコンクリの破片。


(単調ね )


 その破片一つ一つを見極め、引き付け。

 それを足場に、飛ぶ。


死療(しりょう) メス 」


 右手に生み出した小さなメスで、襲い来る筋肉の筋を切る。

 ダランと落ちた肉。

 それを踏み台に、本体へと突っ込む。


「なんのっ!? 」


 さらに肉が増殖。

 けれどそれらは動かなかった。

 いや、動けなかった。


「神経毒よ 」


 本体とのすれ違いざま。

 その一瞬で、首に注射器を撃ち込む。


「これ……はっ!? 」


「それも神経毒……バトラコトキシン。まぁかいつまんで言えば」


「ぐっ……いっ……ぁっ!!!! 」


 増殖した筋肉たちはいっせいに収縮し、反り返り、痙攣するように跳ねる。


「それ一本で、大人200人分の致死量よ……っ!? 」


 安心。

 の中に。

 悪寒が


「効かんなぁぁぁ!!!! 」


 赤いムチのような一撃。

 腕で防、げない。

 腕は吹き飛び、横腹。

 内蔵は抉られ、駐車場の壁を突き破って、外に吹き飛ばされた。


再構成(クイル)


 空中で手足を治療。

 踵と左手で勢いを殺す。

 大事はない。

 でも、


(毒が効かない……治癒? いや)


「抗体ね 」


「その通りだ 」


 駐車場の壁が吹き飛び、筋肉に身を包む敵が出てきた。

 それはさっきよりも巨大で、肉は禍々しく蠢いている。


「私は成長の怪異……『ミミズ肉』!! 無限に増殖し、無限に進化を続ける力!!! 分かるか? 貴様では私を殺せない!!! (ゆえ)に私が暗殺を任せられた!!! 」


 確かに一理ある。

 無限に進化を……抗体を造られ続ければ、私に決め手は無い。

 けど、


「ねぇ知ってる? 」


 大人しく死んでやるつもりは無い。


「医者ってのはね、救い方を知ってれば殺し方も知ってるのよ? 」


「っ!? 」


 右手に生み出した三本の毒メス。

 それを同時に投げ、敵の腹に命中させる。


「効かん!! 」


 だが一瞬で抗体が形成され、空気を裂くような横の一撃が来る。

 それを屈んで躱すと後ろの家が吹き飛ぶ。

 が、その間にも毒メスを投げ続ける。


「小癪な!! 」


 暴れ回る筋肉。

 でも動きは単調。

 肉体がどう動くかを知ってれば、躱すのは容易い。


 抗体を作るには相当なエネルギーが居る。

 ならば未知の毒を体内に蓄積させ続ければ、向こう側が先に限界がく


「っ!? 」


 足元に駆けた悪寒。

 空中で身をひねる。

 アスファルトにヒビが走り、地面から筋肉の触手が突き出てきた。


(危な)


 一瞬の安堵。

 その隙を狙うように、全方位の筋肉たちから、ニチャッと糸を引く口が開いた。


「しまっ」


『『『『アッ!!!!!! 』』』




 全方位から。

爆音。

 何も聞こえない。

 平衡感覚(へいこうかんかく)が……鼓膜が。


(っ!! )


 蠢く筋肉。

 から腹を握りつぶされ、地面に何度も叩きつけ、られる。

 その度に再生。

 でも治癒の重ねがけはマズイ。


 効果が薄くなる。

 いずれは死ぬ。

 ならせめて……これだけは、




「はっ? 」


 辛うじて投げれた、一つの注射器。

 それはヤツの首に刺さった。


「フンっ。この程度の毒、効くわ…………あっ? 」


 ヒューヒュー。

 すきま風のような音が、敵の喉から聞こえ始める。

 辺りの口からはゴボっと白い泡が溢れ、すべての筋肉は痙攣を始め、敵はもがき苦しみ始めた。


「ガッ……ヒュッ!! 息……がっ!! 毒、は……効かナっ 」


「それは毒じゃないわ。ただの症状よ 」


 握りつぶされた体を治し、血まみれの手で髪をほどく。


「抗体による過剰反応……アナフィラキシーショック。馬鹿みたいに抗体を増やしたのが仇になったわね 」


「ガッ……アッ 」


「まぁ気道に直接穴を開ければ息はできるけど 」


 必死に、敵は自分の喉を掻きむしる。

 だが成長し続ける肉がそれを邪魔していく。


「あんたには無理そうね 」


「ヒィッ……ヒャッ!! 」


 もがき、何度も首を引っ掻き、敵は叫び声を上げながら、



「まったく、面倒な患者だったわ 」


 ビチャリと倒れた。

 まだ生きてはいるけど時期に死ぬ。

 だから今やるべきなのは、


(速く後衛隊と合流しなくちゃ……ん? )


 お腹が熱くなった。

 目を下ろすと、ちょうど子宮の辺り……を、ミミズのような筋肉が貫いていた。


「なんっ」


「逝っただロウ!!? 」


 宙に持ち上げられ、そのままコンクリートの壁に打ち付けられる。

 折れた背骨。

 穴のあいた腹。

 それは治る。

 でも、


「マズイ事になったわね 」


 筋肉に身を包む巨人はさらに大きく、肥大し、赤い筋肉は紫色に。

 顔に収まらず、すべての筋肉からはギョロギョロと目が蠢く。

 あれは死に際の足掻きじゃない。

 進化したんだ。


(わた)しは進化を続け()!! (わたし)は……霧敵(むてき)ダ!!! 」


「へー、じゃあ 」


 空から降ってきた聞き覚えのある声。

 その主は増殖する筋肉に着地。

 血まみれの手で肉を掴んだ。


「その力、俺に寄越せよ 」


「っ!! 」


 筋肉はボコりと膨れ上がり、破裂し、その中から本体が出てきた。

 細い手足を持つ、ガリガリな男が。



 いや……それよりも、


「なんでここに居るの! 新人!! 」


 なぜか歩がここに居る。

 まさか……私を追いかけて?


「いや〜、ちょっと野暮用で〜 」


「野暮用か……ハハッ 」


 男は怪異の力を失ったというのに、余裕そうに笑い始めた。


「お前らの負けだ 」


「何言ってんだおメェ 」


「あそこには仲間がいる。俺よりも強い……俺は失敗したが、アイツは成功するだろう……学長の暗殺を 」


「っ!! 新人、速くもど」


「仲間ってこいつの事? 」


 歩はスマホを見せた。

 私からは見えない。

 でもそれを見た敵の顔はみるみる青ざめ、その目からはポロリと涙がこぼれた。


「なんで……なんでそんな酷い事が!! 」


「スナイパーって色々情報持ってんじゃん。だから吐くかな〜って。まぁその前に死んじまったけど 」


 タハッと笑いながら、歩はおちゃらけたようにピースした。


「ふざけるな人殺しが! お前らだけ!! なぜいつも罪に問われファ」


 敵の、口に、銃が、押し込まれ、


「大丈夫だ。これは正当防衛だから……俺は罪に問われない 」


 ガンッ……乾いた音がひびいた。




「だいじょぶか〜? 咲 」


 何も出来ずに呆然とする中、血まみれの歩がこっちに手を差し伸べられた。


「う……うん。それよりその血はなに!? 傷があるならすぐに見せなさい!! 」


「でぇじょうぶ、ぜんぶ返り血で俺は無傷だ。つか他人より自分の心配しろよ。お前のが重症だろ? 」


「自分の傷は自分で治せるからいいの。でも他人は離れてれば治せない……だから心配してるだけよ 」


「……そうか。まぁそれで心壊すなよ 」


「ありがとう。でも余計な心配よ 」


 歩の手を掴み、赤い水溜まりの上に立ち上がる。

 とりあえず仲間と合流できたから、すぐに二人で後衛隊を目指すことにした。

 でもその途中、


「なぁ、この作戦って変じゃね? 」


 歩がそんな言葉を漏らした。


「変……って言うのは? 」


「事前報告がない割にさ、なんか用意周到じゃね? 避難も済んでるし。だから学園側では話が進んでて、生徒たちにはずっとこの事を、秘密にしてたって事になるだろ? 」


「それは生徒を守るためじゃないの? 情報を持ってたら狙われるし……もしくは、裏切り者が居るか 」


「裏切り者かぁ……まぁその線が一番あるな。咲の居場所とか速攻でバレてたし。ほんと裏切り者とか許せねぇよなぁ!!! 」


「急にうるさいわね。でもそれは同感 」


 歩にそう言ってしまうが、その気持ちは私も同じだ。

 裏切り者は自分のためだけに動き、他人を蹴落とし、私の仲間を殺す者。

 だから許さない。

 そんなヤツ、見つけ次第私が殺してやる。



「……何笑ってんのよ新人。キモイわよ 」


「いや別に〜? 」


「そう…… 」


『それはすべてを呑み、すべてを恐怖で包み込む 』


「「っ!? 」」


 ふっと、辺りが暗くなった。

 影に入ったらじゃない。

 空が、夜になってる。


『怪異化 』


 内蔵を揺らすような地響き。

 辺りを見渡せば、すぐに見つかった。

 闇のように黒く、現実感のない影の巨人が。


『夜の怪異……帳喰(とばりぐ)らい 』


「うおデッケ。50mはあるなっ!? 」


 呑気な歩の襟を掴み、すぐに走り出す。

 この距離は不味い。

 近すぎる。


「おい咲!? あれ怪異だろ? なら俺が触れたら消せるって ! 」


「そうじゃないわよ!! 喋ってる暇が走りなさい!!! 」


「なんで? あの敵、そんなにヤバいのか? 」


「ヤバいのは敵じゃない!! 死にたくないならとにかく走る!!! 」


「あ〜? 」


 説明してる、暇は無い。

 とにかく走れ。

 ヤツから距離を。

 1mでも遠く。


 あれが降ってくる前に。

 最強が……来る前に。



ーーー



「……おっきな敵だなぁ 」


 バラバラうるさいプロペラの音。

 乗る時に渡された耳当てをしてないと、鼓膜が破れちゃいそう。


『哀花くん、聞こえるかな? 』


 耳当てから音がする。

 学長の声だ。


「はい 」


『避難は済んだ。やっても良いよ 』


「分かりました 」


 扉を開き、旋回するヘリコプターから飛び降りる。



「一人、それは孤高であった 」


 逆巻く風。

 落ちるのは怖いと思ってたけど、別にそんな事は無かった。


「故郷を守るため、血の滲む訓練を詰み、自らの時間を使い、最強と成った。けれどその力は異端とされ、守るべき故郷に殺された 」


 頭の裏に映像が流れ、槍で刺される痛みが全身を襲う。


「一人、それは孤高であった。

 自らを美しくするため、すべての誘惑を断ち、楽しさを忘れ、それでも耐え、誰もが羨む美貌を手に入れた。けれどその美しさは異端とされ、醜く残忍に焼き殺された 」


 頭の裏に映像が流れ、ジリジリ焼かれる痛みが足元を蠢く。

 でも平気だ。

 この程度の痛みに耐えられなきゃ、私は最強になれないから。

 最強でない僕に、価値なんてないから。


「彼は諦め、彼女は嘆いた。けれどその努力を知る者は、世界を恨んだ。そして祭り上げた……世界を滅ぼすため、彼らを、永久なる偶像として 」


『あっ? なんっ』


 すぐ近くに、夜の巨人が見える。


「怪異化 」


 僕の身体にヒビが走り、どうしようもない痛みと共に、全身が砕け散る。

 そして産まれた。


 ウェディングドレスに身を包み、黒いヴェールで頭を飾る、長い白髪の自分が。


「美しき異端、永遠(とわ)の怪異……『両面美躝(りょうめんびだん)』 」


『お前が!! 』


 何もない空中に着地した瞬間、夜をまとう膨大な剣が、巨人によって振るわれた。


『哀花か!!! 』

 

 空気が爆ぜるような音。

 迫る剣。

 それを人差し指を立てて、止める。




『…………はっ? 』


「僕は永遠を身にまとってるから、攻撃が効かないんだ 」


 ピンッと、指先で弾く。

 それだけで剣は吹き飛び、はるか遠くの壁の向こうに、吹き飛んだ。


「それと……ごめんね 」


『っ!? 』


 やっと気がついたみたい。

 自分の足元に、透明な氷が絡み付いていることに。


『この程度……なんっ 』


 巨人は暴れているけど、その程度では壊れない。

 巨大であるのに転ぶことすらできない。


「それにも永遠が宿ってるんだ。壊れず、私にもそれは消せない。そして」


 シャランと鳴る、黒い糸の通された小さな鈴。

 それを巨人に向かって弾くと、パラパラパラパラ、空から黒い雨が降ってくる。


 ランッ、雨が当たった箇所には小さな結晶が咲き、それはゆっくりと……巨人を呑んでいく。


「それに呑まれた者は、死ねなくなるの。小さな檻に、永久に、閉じ込められる 」


『……そんな、ふざけるなぁ!! 』


 死にたくないと叫ぶように、巨人は暴れる。

 そんな姿を見てると涙が出てきた。

 でも、この人は殺さなきゃいけない。

 ここで僕が躊躇(ためら)えば、仲間が死ぬことになるんだから。


「大丈夫……あなたの罪は、僕が背負うよ 」


『イヤ……だ。やめっ』


 無慈悲にも、巨人は結晶に呑まれ、消えた。

 そして一輪の花が僕の手元に落ちてきた。

 黒い棘を持つ、漆黒のマリーゴールドが。


失われた一つの命(ロスト・フラワー)


 花を抱きしめ、自分の背にそっと突き刺す。

 深々とささった茎は血を吸い上げ、ゆっくり……花は赤く色付いていく。


(あぁ……聞こえる )


『助けてくれぇぇ!! 』

『殺してください殺してください』

『出してくださいもうしません出してください』

『もうイヤです疲れました私は死にます死ねません』


 背から聞こえる叫び声。

 それは39本のマリーゴールド達から聞こえる。


 これは僕が殺した数。

 僕が人殺しになった数。

 これを聞いてるだけで吐き気がする。

 でも、


(僕は人殺しなんだから、このくらいの罰は当然だよね )


 こぼれる涙をぬぐい、黒い結晶に汚染された街を見下ろす。


 僕は罪人。

 だからいつか、裁かれる日が来る。

 速くそんな日が訪れると良いなぁ。



 


ーーー




「ふぅ……ふぅ……なんとか助かったわね 」


「あー死ぬかと思ったァァ……何アレ? 天変地異? 」


 ヒーハー息を切らしながら、とりあえず二人でベンチに座り込む。


「あれが哀花の怪異よ。すべてを巻き込む無差別攻撃……ちなみに言うけど、あれ一発でも喰らったら終わりよ 」


「どーりであんなに急かす訳だよなぁ。でもあんがとよ。哀花を仲間殺しにはしたくないからな 」


「どういたしまして、私も哀花に仲間を殺して欲しくないもの 」


「よぉ二人とも 」


 スタッと家の屋根から誰かが降りてきた。

 真城だ。


「真城!! 傷はない!? 」


「おぉ平気。怪我はねぇぞ 」


「嘘つき。頬が赤くなってるわよ 」


「あいやこれは怪我とかじゃなくて 」


 頬に手を伸ばしたのに、真城は身をひいて私から離れた。

 それを追いかけても、真城はどんどん遠くに逃げていく。


「ちょっ、追いかけてくんな咲!! 」

「何よ、アンタがじっとすれば済む話でしょうが!! 」


「所でよぉ、二人って付き合ってどんくらい経ってるんだ? 」


「「えっ? 」」


 急に聞かれた。

 歩から。

 別に私たちは付き合ってない。

 けどそう見られてるのは……嫌じゃない。


「いやバッ……違っ……俺たちはそんな関係じゃなっ」


「でも咲が顔赤くしてるぞ? 」


「なっ……うるさいわね新人!! 」


「わー理不尽 」


 発火しそうなほど熱い顔を、歩を叩きながら冷まそうとする。

 というか真城も顔真っ赤なんだけど!?

 これ脈アリで良いのかしらねぇ!!



『全生徒に報告 』


 突然、私たちの時計から学長の声がした。


『敵残存勢力の八割が消滅したのを確認。一度状況整理をしたいから、全員後衛隊まで戻ってきて欲しい 』


「だ、だとよ……帰るか 」


「う……うん 」


「おっ? 自分たちの家にってか? 」


「「とりあえず黙れ!! 」

      「黙りなさい!! 」

 

 二人で歩を殴り、とりあえず後衛隊へ向かうことにする。

 その途中でも、


「なぁ咲、なんかこの作戦変じゃないか? 」


 真城もそう呟いた。


「新人も言ってたけど、何が変なの? 」


「敵の数だよ。学長は二万って言ってたのにさ、俺が……殺したのは五千、多くてそのくらいだ。少ないんだよ 」


「じゃあ今の連絡は……なに? 」


「さぁな。彩音の方にめちゃくちゃ居たか、もしくは……囮か 」


「囮って……最低でも五千人の怪異持ちが居たのよ? それを囮に使うなんてあまりにも雑すぎない? 」


「でも逆に言えばさ、残りの一万五千人くらいは自由に動かせるんだ……それで何がしたいかは分からねぇけど 」


「……一応学長に言っておきましょう 」


「あぁそうだな。あと隠れてる可能性もあるから、気を引き締めねぇとな 」


「そうね……新人? さっきから黙ってるけど聞いてる……の? 」


「ん? 」


 振り返る。

 でもそこには……誰も居なかった。


「っ!? 」


「こちら真城。空無 歩 隊員が行方不明。偵察隊に情報を回してくれ 」


 私は辺りを警戒。

 真城は報告。

 誰に言われた訳でもなく、咄嗟にそうした。

 でも、


「真城……どう思う? 」


「誘拐系の怪異だろうな。そうじゃなきゃ……音もなく消えるなんて不可能だ。だから離れるなよ 」


「……うん 」


 真城の腕をギュッと掴む。

 これなら片方が誘拐されてもついて行け、


『緊急事態発生!! 』


「今度はなんだ!? 」


 また私たちの時計から、頭が割れるような爆音がひびいた。


『壁の向こうに新たな反応が三つ出現。前線にいる隊員は速やかに退避。特別部隊のに前線に向かって欲しい 』


 珍しい学長の焦り声。

 それだけで今がどれだけのイレギュラーかは察せられた。

 でも、


(新人は…… )


「咲、歩を探してくれ。俺は前線に行く 」


「っ!? 私だって戦え」


「じゃあ歩は置いてきぼりか? 」


「っ…… 」


 真城はそう言ってくれるけど、不安でしかない。

 もし私が前線に行かなくて、それで真城が……彩音が死んだら……


「大丈夫だ。俺は強いからな 」


 けれど今は信じるしかない。

 ずっと一緒に戦ってきた、仲間を。


「うん。必ず生きて帰ってきなさいよ 」


「あぁ。お前も気をつけてくれ 」


 そこから別行動を始めた。

 けれど新人はいつまで経っても見つからなかった。





ーーー



「やっと……時間か 」


 薄暗い路地裏を進む。

 目的地は壁の中……ヤツらを殺し、俺たちの楽園を築くために。

 この目的のために、仲間を大量に犠牲したんだ。

 失敗は許されない。


「っ!? 」


 路地裏に人影が映る。

 それは革ジャンを着た黒い短髪の男……俺だった。


「……なんだ鏡かよ。紛らわしいなぁ 」


 ため息を吐き、ゆっくり息を整える。

 気が立ってるのかもしれない。

 だからもう一度深呼吸をし、スっと顔を上げる。


「ここからは……俺たちの時間だっ!? 」


 上から何かが降ってきた。

 服が濡れる。

 水?

 いや臭い。

 これは……!!


「あぁそれ 」


 上から、嘲笑うような声が、


「ガソリンだから気をつけろ〜 」


 頭に落ちてきた熱。

 が、炎と。

 成って、全身が。



ーーー



「うわぁぁぁあ゛ぁぁアァァぁッ!!!! 」


「oh……クレイジー火だるまWhatだな 」


 予想以上に燃えてビックリした。

 そりゃあ人にガソリンぶっ掛けて着火ファイアーしたの始めてだから当然だけど。

 まぁとりあえず、


「……死亡確認ヨシっ!! 」


 燃えた男が動かなくなるのを確認して、ササッと路地裏の屋上に行く。

 ここは壁の外。

 つまりは法外の地……なら、(オレ)の得意なことが簡単にできる。

 


「さぁてと……自由時間と行きますか 」


 


 


 




 

自己肯定感ナシのボクっ娘ナチュラルサイコな最強女子の哀花さん……良いよね……良い(自問自答)

 あと倫理観前世に置いてきた男も良いよね……キモイ


 ところでクレイジー火だるまWhatっていう、倒置法もびっくりなセリフはなんですか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 詠唱とネーミングの怪異アイデアのセンスが天才すぎる。
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