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怪異子葬  作者: エマ
13/44

File.12 裏切り中なう

新章スタートです!!



「あら〜!! カワイイじゃないあなた〜 」


 路地裏にひびくはオネェの独特な高音。

 その逞しい腕は一人の生徒を壁にめり込ませ、ピンクの唇はちゅぱちゅぱ鳴り、無駄に長くしたまつ毛はパチパチとウィンクしている。


「っ……ぐ!! 」


「なぁに? その反抗的な目は? 」


 馬の尾のように美しい金髪を撫でながら、黒いスカートを履いた男は笑う。

 それとは正反対に、赤髪の生徒はギロリとオネェを睨んだ。


「テメェらが居るから……人が死ぬんだ 」


「あら〜何? 自分たちの事は棚に上げて、正義をきどってるつもり? 」


「死ね!! 」


 死にかけの人間が放つ、渾身の蹴り。

 それはオネェの顔面を深々と抉った。

 が、


「あら。蹴られる私も美しいわね 」


「っ!? 」


 ノーダメージ。

 鼻血どころか、瞬きすらせず、オネェは攻撃を受け止めた。


「さて取引。パンドラの情報をくれるなら逃がしてあげても良いわよ? 」


「テメェらに渡すとでも思」


「まぁそうよね 」


 図太い血管が浮かぶ腕。

 その指先は頭蓋にめり込み、


「がっ……あぁ!! 」


 グチュ……生々しい水音が路地裏にひびく。


「うーん、血に濡れる私も美しい 」


 人間だった者を捨て、オネェは手を叩いた。

 すると路地裏の影から、一人の男が現れる。


「うわグッッロ。脳みそ出てるじゃないっすか!! 」


「私の美貌を傷付けた報いよ。さっさとその死体を運びなさい 」


「う〜いめんどくせぇ 」


「少しくらい本音は隠しなさ……あら? 」


 オネェは首を傾けた。

 仲間の顔をすべて覚えてる自分が、この男の顔を知らなかったから。


「あなた……新人? 」


「えぇそうっすよ。それが何か? 」


「なら合言葉くらい分かるわよね? 」


 オカマはカマをかけた。

 新人であれば、自分が知らなくても納得ができる。

 だがもし合言葉すら知らないのであれば、こいつはスパイと言う事になると。

 そう一瞬で判断した。


「……急に何を」


「次誤魔化したら殺すわよ? 」


「……はぁ 」


 ピンクの髪を持つ男、空無 歩(からなき あゆむ)は観念したように手を合わせ、


「誰もが住める楽園へ。我が魂たちを導き、零れた悪意を正したまえ……これで良いっすか? 」


 その黒い目でオネェを睨んだ。


「……あらごめんなさい。私ったら勘ぐりすぎたみたい 」


 申し訳なさそうに謝るオネェに対し、歩はケラっと、幼い子供がするような笑みを浮かべた。


「お気にならず。じゃあ死体片付けるので、足元失礼しますね 」


「あーごめんなさいね〜 」


 そうして歩は死体を引きずり、路地裏の闇に消えていった。



「私ったら、柄にもなく緊張してるのかしらねぇ 」


 一人残った路地裏で、オネェは笑う。


「まぁ今焦っても仕方ないわね。計画はもう始まってるんだから 」


 そう、オネェの言う通りだ。

 計画はもう、始まっている。




ーー



「飯はうまいか〜? 」


 リビングの方に目をやると、美味そうに肉を食べる咲たちが目を輝かせていた。


「美味しいわよ 」


「美味しい。やっぱり真城のご飯は美味しいね 」


「変わらない味で安心します!! 」


 咲に哀花に彩音。

 三人からいっせいに褒められ、俺も鼻が高い。


「ありがとよ。そう言ってくれると作ったかいがあった 」


 咲の隣に座り、俺も飯を食う。

 だし巻き玉子に鶏モモ肉のスパイス焼き。

 あと咲の入れたコーヒーに焼かれたパン。

 そして周りには仲間が居る。

 これ以上幸せな飯を、俺は知らない。


「そいや彩音、なんか凄いイメチェンしたな 」


「えっ、そうですかね? 」


「いやほら、髪とか耳とか 」


 彩音の耳にはたくさんのピアスが開けられ、綺麗な紫色の髪には、黒い髪が入り交じっている。

 あれ、どうやって染めたんだろうか。


「確かに急だね。大丈夫? 何か悩みごとでもあるの? 」


「いや違いますよ哀花さん!? あっ、悩みごとと言うか……迷いごとはありますけどぉ 」


「……? 」


「そういえば、歩と任務行った後からだよね? ピアス開けたいって言い始めたの 」


 哀花の何気ない一言で、リビングはピシッと凍り付いた。




「……やめときなさい 」


「えぇ!? 」


「否定はしねぇけどよぉ……もうちょっとゆっくり決めたらどうだ? 」


「いや何がです!? というかなんで知ってるんですか!!? 」


 わっかりやすく騒ぐ彩音。

 その肩を優しく、哀花の腕が掴んだ。


「歩はやめといた方がいいよ。ちょっと気持ち悪いから 」


「いやそれはそうですけど!! でもあの歩さん!!? 」


 彩音の目線の先。

 俺の後ろ。

 いつからか、ダルそうな歩が立っていた。


(えっ、いつから!? 気配まったく感じなかったぞ!! )


「いやぁ……悪いな。人の悪口で盛り上がってる所に来ちまって 」


「いや……すみません 」

「ごめん 」

「それは悪い 」

「新人、さっさと朝ごはん食べなさい 」


「あっ、うっす 」


 ブレない咲の言う通り、歩は白い食器に卵と肉を乗せ、哀花の隣に座った。





(気まず…… )


 俺たちの自業自得とは言え、ふっつうに気まずい。

 しかも歩とは付き合いが短い。

 この状況、どういう話題振ればいいんだ……


「ご馳走様でした〜 」


 気まずさの中、歩が手を合わせた。


「はっ? もう食い終わったのか!? 」


「あぁ 」


「新人……もうちょっと味わって食べなさい 」


「え〜、だって 」



『緊急任務発生!!! 』


 頭蓋にひびくような警報。

 それは俺たちの時計から、いっせいに鳴り響いた。


『至急、中央グラウンドに集合。これは全生徒に向けての任務である。繰り返す、全生徒に向けての任務である 』


「ただ事じゃないみたいだな 」


「そうね、急ぎましょう 」


 バタバタ飯をかき込み、すぐにグラウンドに走る。

 そこには数千の生徒たちが、キッチリ等間隔に並んでいた。

 まるで軍隊みたいだ。


「え〜、全員集まったかな? 」


 その中央で、前田学長がメガホンを持って話している。

 学長直々に、しかもこんなに生徒を集めて。

 こんなこと今までで一回も無かった。


(今から何が起こるんだ…… )


「え〜、混乱してるだろうけど結論から言おう。今日この東京に敵が攻めてくる。数は二万ほど、その全員が怪異を宿してる犯罪者たちだ。東京を守るためにそいつらを殺して欲しい 」


「……はっ? 」


 いきなりの大規模任務。

 とうぜん生徒たちは理解できないようにザワついた。

 正直俺もびっくりしてる。

 けれど学長は平然と話を進める。


「根拠は二つ。最近パンドラの学生が殺される事件があってね、その犯人の死体の記憶を調べた所、大規模進行が起こると分かった。二つ目は、今日だけ異様に怪異の出現率が低い。なんならボーダーライン出現の怪異はゼロだしね 」


 言わんとしてる事は分かる。

 むしろ事前に察知できて助かったまである。

 だがなぜ、なぜ今なんだ。

 こういうのは前から確認しておくもんだろ普通。


「さて、君たちに問おう 」


 そんな困惑をよそに、胡散臭く笑う学長はそっと手を伸ばしてきた。


「この任務は人を殺すもの、だから強制じゃない。それでもこの東京を守りたいという生徒だけは残りたまえ。それ以外は……ゆっくり休むといい。今日は休校にするからね 」


 その言葉と共に、ほとんどの学生がグラウンドから姿を消した。

 俺たちはとうぜん残るが、その中に歩も残ってるのが意外だ。


「歩、危ねぇから帰ってた方がいいぞ? これ普通に危険な任務だからな 」


「それならいつもと変わんねぇじゃん。あと殺しは俺の得意分野だ 」


「うーん……まぁ辞めろとは言わねぇけどよぉ 」


「大丈夫ですよ! 歩さんめちゃくちゃ強いですから!! 」


 隣から割り込んできた彩音。

 俺たちの中で2番目に強い彩音がそう言うのは、凄い意外だ。


「じゃあ……まぁ、自分が助かることだけ考えろよ 」


「あぁ、お前もな 」


「残ったのは1000人くらい……かぁ。じゃあ、作戦を説明しよう!! 」


 残った俺たちはグラウンド中央に集められ、作戦を言い渡された。



『中央突破隊』

 敵軍に突っ込み、数減らしと敵の統率を崩すことが目的。

 メンバー

      俺。


『待機隊』

 統率が乱れてから行動。浮いたコマの殺害が目的。

 メンバー

      彩音 知らない生徒五人。


『空襲隊』

 敵の行動次第、あるいは敵陣壊滅のための部隊。

 メンバー

     哀花。


『最終隊』

 任務のボーダーライン。負傷者の治療および、後方射撃による援護を目的とした部隊。

 メンバー

      歩 咲 その他全員の生徒。




「おいちょっと待て!! これ哀花たちの負担デカすぎだろ!!? 」


 そう叫んだのは歩だった。

 その手はすでに学長の胸ぐらを掴んでいる。


「そうは言ってもねぇ……正直これがベストだと思うんだけどなぁ 」


「はぁ!? これあれだぞ!? 新人に仕事押し付けて先に帰るクソ上司じゃねぇか!! 」


 ますますヒートアップする歩。

 ひとまずその両腕を掴み、とりあえず学長から手を引かせる。


「大丈夫だ。むしろ俺たちの怪異は単騎の方が動きやすい 」


「……そうなのか? 」


「あぁ。パンドラ(いち)の討伐隊の実力……あんまりなめんなよ 」



 そこから作戦は実行された。

 向かった先は怪異と人間の国境……その近くの街。


 そこで俺はひたすら走り続けている。


『あーあー、聞こえるかな真城くん 』


「あっ、はい聞こえます 」


 耳に入れた通信機からは学長の声が聞こえる。


『街の避難は済んでいるからね。一般市民のことは心配しなくてもいい。自分が生き残ることだけ考えなさい 』


「えっ、いつの間に済ませたんですか? 」


『君の報告を聞いて()()の事件を思い出してね。警察やら国に要請して手早く終わらせたよ……もうあの事件は繰り返したくないからね 』


「さっすが学長。じゃあ」


『ヒィン!! 』


 異音。

 風が逆巻く。

 というより風が斬れるような音。

 が、近付いて


「よぉ!!! 」


「っ!! 」


 骨の髄が軋むような蹴りが、頬を抉った。


「おっ? 」


 間一髪。

 手をクッションにした。

 敵を。

 男を投げ飛ばす。


「ハハッ! 今の防ぐとかやるな!! 」


 着地した男は緑色の髪をした青年だった。

 歳は俺と同じくらい。

 服は薄汚れた白いシャツと青いズボンを履き、その顔はニタニタと笑っている。


「俺の名は」


「いや名乗らなくていい 」


 だが興味は無い。


「あっ? 何言って 」


「これから死ぬヤツの名前なんか、聞く価値ねぇよ 」


 抜いていた刀を納める。

 そこでやっと気がついたらしい。

 小さな小さな傷が、自分の左足にある事に。

 

「俺の怪異は増殖と感染……まぁ言わなくても分かるよな? 」


 そう聞くと、名前の知らない男は青ざめていく。


「ふ、ふざけるんじゃねぇ!! こんな終わり方」


『真城くん!? 大丈夫かい!! 』


「あっ、平気っすよ学長 」


 耳の通信機に手を当て、もがき苦しむ男の隣を通り過ぎる。


「アっ」


「今終わったとこなんで 」


 バチリ……男の体は弾け、体内から現れた五本の刃が首や足を串刺しにした。


『さすが"速贄(はやにえ)”、頼りになるね 』


「その異名、ダサいからやめません? それより目的地は」


『あぁ。そのビルの屋上だよ 』


 ビルの壁に刀を刺し、壁を蹴って刺し、それを繰り返す。

 そのまま屋上を登りきると、向こう側に見える道路。

 そこに不審な集団が見えた。


 その数は二千ほど……いやその奥にまだ居る。


「学長、ほんとに良いんっすか? 」


『あぁ。水路も止めてある……思う存分にやるといい 』


「了解 」


 刀についた人の爪。

 それを指先で抜き取り、ピンッと街中に弾く。


遺棄爪(いきづめ)


 風が舞い上がり、ヒラヒラと回りながら落ちる爪は、地面に落ち、弾けた。

 そして無音が、死の音が、ゆっくりと街を呑んだ。


「『鳥葬(ちょうそう)』 」



 一人、先頭の誰かが喉を押えて苦しみ始めた。

 それに二人、近付いた。

 そして弾けた刃が二人を傷付け、そいつらも弾け、それに巻き込まれた奴らも弾け、弾け弾け弾け弾け弾け。

 鳥も、虫も、ありとあらゆる生命が弾け続け。


 赤い液体と串刺しにされた肉片を残して、人の命は街から消えた。

 今の感情は……派手な花火を見終わった後みたいだ。


『おつかれ真城くん 』


「俺はこれからどうしたら良いですか? 」


『一旦待機でお願いできるかな? 何か変わった事があれば可能なかぎり通信で伝えて欲しい 』


「了解 」


 そこで通信が切れた。



「……ふぅ 」


 何もすることが無くなったからか、手が震え始めた。

 俺が殺した。

 その重みがズッシリと手に乗っかってきたから。


「……でもコイツらを生かしておけば、何人も死んだかもしれねぇんだ。誰かの家族を……俺の仲間を……咲を、傷付けたかもしれねぇんだ 」


 そう言い訳したら、震えはいくらかマシになった。

 でも胸には違和感が残ってる。


 これを続けてたら、俺の心は壊れるんだろうか?

 ……殺しておいて壊れるか。

 身勝手だな。


「……クソ 」


 震える右手。

 その伸びた親指の爪。

 それを噛み切り、吐き出し、湿った爪を刀にくっ付ける。



 あぁクソ……こういう時、傍に誰か居て欲しい。

 独りは……辛いんだ。




ーーー



『真城…… 』


『ん? あぁ咲、見送りか? 』


『絶対……帰ってきなさい。手足もげてでもね。いくらでも治してあげるから 』


『……ははっ、頼もしいな 』



「うーん…… 」


 落ち着かない。

 貧乏ゆすりも止まらない。

 作戦が始まってからずっとこんな調子。


(真城と彩音は無事かしらねぇ )


 ここは最終隊の医療テントの中。

 どんな傷でも治せる私は、この中で待機を言い渡された。


 私が死ねば大きな戦力ダウンになるのは分かるけども、自由がないのはちょっと落ち着かない。

 それに仲間が命をかけてるのに、自分だけ安全地帯に居るのは、薄情者な気がしてならない。


「おーす 」


 そんな憂鬱(ゆううつ)も知らず、ズカズカとテントに入ってきたのは歩だった。


「ほい咲、水 」


「ありがとう。でも新人……私の方が先輩なんだから敬語使いなさい 」


「お前だって人の名前呼ばねぇじゃん。もっかい自己紹介してやろうか? 」


「……覚えてるわよ 」


「じゃあ名前で呼べよ!! 」


「……嫌よ 」


 ペットボトルを回し、中の水を飲む。


 新人の名前は呼びたくない。

 だってせっかく覚えて、仲良くなったとしても……死ぬかもしれないんだから。

 死ぬのなら、知らない人の方が良い。

 知らなければ、新人が死んでも辛いだけで済む。



「ちぇ〜 」


「……新人。一つ約束しなさい 」


「んっ? 」


「死にそうになったら、私を囮にしてでも逃げなさいよ? 」


「へいへ〜い。つーかそれ真城からも言われた 」


「そう…… 」


 ケラケラ笑う歩をほっとき、椅子に座り込む。

 そのままロザリオを握りしめ、真城たちの無事を祈る。


「あぁそれとさ 」


 ふと気が付くと、新人が背後に居た。

 その手には何か光るものが握られている。


「このテント、少し不用心過ぎないか? 」


「……っ!? 」


 立ち上がろうとした瞬間、椅子を蹴られた。


 そのまま転ぶ。

 バンっと風船が破裂するような音と共に、頭上を何かが通り過ぎた。




「……えっ? 」


「狙撃だ! 隠れろ!! 」


 テントの外では生徒たちが騒ぎ始めた。

 なのに歩は……転ぶ私をずっと見ている。

 薄気味悪い笑顔で。


「……あんた 」


「よっ 」


 歩は手を横に伸ばす。

 それには飛んできた剣が突き刺さり、その剣先は私の目の前で止まった。


「はやく治して〜。痛いから 」


「えっ……あっ 」


 剣を引き抜いて血まみれの腕を突き出す歩。

 すぐにその傷を触れて治す。

 でもその間にも、歩は瞬き一つしてない。


 前もそうだった。

 片腕がないと言うのに、騒ぐわけでも悶えるわけでもなく、ただ冷静に治るのを待つ歩の姿が。

 いやそれよりも、


「あんた……なんで狙撃されるって分かったのよ? 」


「いやぁそれは……勘? 」


「とぼけるんじゃ無いわよ!! そもそも……っ!? 」


 音が。

 何か重たいものが落ちてく、


「危ない!! 」


「うぉ!? 」


 腕を引っ張り、二人でテントから転がり出る。

 すると爆音と共に落ちてきた。


「……んだあのダルマ? 」

 

 それは皮膚のない筋肉に包まれた赤い肉塊。

 ネチョリと糸を引く肉は動き、3メートルほどはある人の形となった。

 その顔にも皮膚は無く、むき出しの目玉がギロリとこっちに向いた。


「お前が……接木(つぎき) (さき)か? 」


「あぁそうだぜ? 俺が咲だ 」


「……ん? 」


 突然名乗り出た歩に対し、巨人は焦るように首を傾げた。


「いや待て、女と聞いたが…… 」


「こういう見た目の女だって居るだろ? 」


「しかし俺と」


「俺っ娘って知らね? 」


 敵が侵入してきたという一大事なのに、歩が喋ってるとなんだか緩くなっていく。

 だが、


「まぁ良い…… 」


 巨人は蠢き、人を容易く握りつぶせる両腕が、グパリと開かれた。


「全員殺せば、済むことだ 」


「新人、下がってなさい 」


 歩の肩を掴み、前に出る。

 見た感じ、こいつは相当強い。

 だから新人には任せられない。


「私が殺る 」


 両手に注射器を生み出し、巨人に突っ込む。

 けれど、


「医療道具……そうか 」


 気がつけば、巨大な腕が目の前にあった。


(はやっ)


「お前が接木か 」


 バキリ、握り潰された。

 そのまま投げられ、六つの家を突き破り、硬い何かにぶつかって止まった。


 暗い……

 車がある。

 ここは地下駐車場だ。





(背骨骨折……アバラ粉砕……危なかった。心臓は無事 )


 怪異は心臓に宿る。

 だからそこさえ無事なら、


再構成(クイル)


 パキパキ。

 折れ曲がった腕やちぎれ掛けた下半身も、一瞬で再生した。


「むっ、ここか? 」


 駐車場の壁が砕けた。

 差し込まれる日光と共に、巨大な肉の塊が入り込んでくる。


「治っている……やはりお前か 」


「あら、私って人気者ね 」


「当然だ。傷を治せる怪異など貴重だ。稀有(けう)だ。だから殺す……貴様を 」


 正直、私を追ってきてくれて助かった。

 あの場で暴れていたのなら、何人もの仲間が、人が、死んで居ただろうから。


「さぁお前は……何度自分を治せる? 限界があるハズだろう? 」


「えぇ。でも…… 」


 もう一度両手に注射器を構える。

 死にかけてアドレナリンが出てるせいか、楽しくて、笑ってしまった。


「あんたを解体(バラ)す方が速いわよ 」


 私の目的はただ一つ。

 全員生きて、あの寮に戻る。

 それだけよ。




 


 

咲さんが哀花さんを心配してないのには理由があります




     _人人人人人人人人人人人人人_

     > 心配する必要がないから <

      ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄



 DES!!!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一人ずつヒロインと歩君が仲良くなっていく展開ですね!咲さんロリ美しい!(何語 注射器構えてニヤリとか変態ですね! [一言] 全員生きて帰れますように!!
[良い点] 一気に最新話まで読みました! 絶望的な世界観、立った癖のあるキャラ達、容赦の無い戦闘シーン、そして怪異のアイデアとデザイン……全てが好みドンピシャで堪りません! 歩君がイイ感じにぶっ壊れて…
感想一覧
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