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怪異子葬  作者: エマ
1/44

File.1 始まりの亀裂



「なぁオイ!? 調子乗ってんだろお前は!!! 」


 頭を殴られた。

 腹にはかかとがめり込み、その蹴りはコンクリートに倒れたとしても止まらない。


「っ!! 」


 咄嗟に隠し持っていた銃を構える。

 だと言うのに、主犯格の男はニタリと……余裕そうな笑みを見せ、


「そんなもんがよォ 」


 ガンッと放った弾丸は、いとも簡単に躱された。


「当たると思ったか? 」


 ミジッと、頭蓋がきしむ音がした。

 それが何度も何度も、俺を囲む奴らが飽きるまで続く。

 これが俺の日課だ。


「じゃ〜な、落ちこぼれくん 」


 しばらくして、奴らはどこかへ行ってしまった。

 ボーッと、コンクリートの上で寝そべり、そのままグッと伸びをする。


「…………あー!クソ痛かった〜!!! 」


 身体が伸びる気持ちよさを感じながら、首を捻って骨をバキバキと鳴らす。


 ポケットにしまっておいた鏡を見つめると、元々酷かった顔がまためちゃくちゃになってる。

 赤い髪はボサボサ、女みたいにクリクリした黒い瞳は赤く腫れているが……まぁ、俺なんかはこれくらいがお似合いだ。


「つーか、今日はいくら盗れたんだ? 」


 鏡を仕舞い、今度は折り曲がった金を取り出す。

 これはもちろん、殴られてる途中で盗ったものだ。


「しっかし馬鹿だな〜アイツら、金減ってることに気付かねぇのか? 」


 優しい馬鹿どもをバカにしながら、とりあえず金を数える。


「一、二、三、五……八枚か。上等だな 」


 夕食のピザ二枚に、フライドチキンとポテト、あとは帰りに買い食いしても貯金に回せる……ほんとラッキーとしか言いようがない。


「よっと 」


 学校の柵を乗り越え、そのままマーケットへ向かう。

 昔はこの辺に、渋谷とかいう大規模な都市があったみたいだが、今はこじんまりとした売り場しか残ってない。


(まぁ日本ほとんど消えたしな〜。あーぁ、俺ももっと広い日本に住みたかったよ )


 位置情報を頼りに街中を歩いてると、嫌でも見えてしまう。

 北海道から鹿児島、東京と千葉以外を覆い尽くす黒い影が。

 それもこれも、ぜんぶ怪異のせいだ。


「あっ、ここか 」


 マーケットに着くと、いつも通りの光景が目に入った。

 虫のようにうじゃうじゃ動く人溜まり、目がチカチカするほど大量の電子機器店、そして巨大な交差点の上に設置されたうるせぇ巨大モニター。


 そこには、隊服を着た高校生くらいの奴らが、無数の怪異と戦う映像が映し出されている。


『ご覧ください、彼らの勇姿を。この狭い日本で戦う子供たちを。この国は怪異によって滅亡寸前でしたが今は違う。彼らが戦い、私たちがその手助けをする。その人の繋がりこそ、今の日本に必要なものなのです 』


 心のこもっていない台本通りのうたい文句。

 それを全部無視し、とりあえず店番をしてるアンドロイドに向かって、


「ダブルアイス! チョコとストロベリーで!! 」


「承知しました。代金を用意して、しばらくお待ちください 」


「へーい、しばらくお待ちしま……おっ? 」


 金を取り出した瞬間、右頬に悪寒が走った。


『怪異発生!! 怪異発生!! コード……『赤子』!! 』


 ガーガーと耳を割るような警告音。

 それと共に、辺りの街灯はいっせいに青い火花を上げた。


 一瞬にして暗闇となった交差点の真ん中では……足を包丁で滅多刺しにされる男がうずくまっている。


「足……私の……あじぃぃぃぃ!!!!? 」


 それに跨っているのは、赤いレインコートを着た女。

 下半身は無く、腰に生えた巨大な二本の腕で立っている。


 上半身はただの幼い少女のようだが、その顔は焼け爛れたように歪み、目の周りには溢れた眼球が垂れ下がっていた。


「逃げろぉぉ!! 」

「怪異だ! 怪異だァ!!! 」

「はぐれないで!! 」


「なぁ待ってくれ!! 助けてくれ!!! 」


 いっせいに人溜まりは無くなり、血だらけの男だけが取り残された。

 

(うわ〜あの怪異キッも……つーか俺もどうやって逃げよ )


「おっ? 」


 ぼんやりと逃走ルートを考えてると、向こう側から生徒二人が走ってくるのが見えた。

 その隊服は俺と同じもの。

 たぶん同級生だ。


「討伐班到着!! これより怪異の討伐に当たります!!! 」


「おいよそ見をするな! はやくあの男性の救助を!! 」


(あーアイツら死んだな。ん? )


 ふと後ろを振り向く。

 すると店のアンドロイドがショートしているのが見えた。


「ラッキー! 大盛りにしよ!! 」


 今なら防犯カメラも警備機器も機能していない。

 そのうちに一番大きなコップを取り、好きだったアイスをたらふく盛り付ける。


「なぁあんた!! 助けてくれ!!! 」


 そうしてると、悲痛な叫び声が聞こえた。


「どした〜? 」


 声の方には、ボロボロと涙を流す男が俺の方に手を伸ばしている。

 よく見れば、生徒たちはもう居ない。

 いつの間にか怪異の腕の中には、丸め込まれた赤い隊服と肉片があるだけだった。


「あんた怪異狩りの学生だろ!? 頼む!! 死にたくないんだ!!! 」


「あー……俺怪異狩りの才能がないんで、ムリっすね 」


「あんまりじゃねぇかそんなの!! なぁ頼む!!!まだ俺は!!!! 」


 んなこと言われても無理なものは無理だし、知人でも無い奴を助けてやる理由は無い。

 だから、


「じゃっ!!! 」


 巻き込まれないうちにさっさと逃げた。

 そして帰る途中で、ピザのセットとドーナツをバケットいっぱいに買ってきた。


「いやー大量大量、あの馬鹿どもには感謝だなぁ 」


 すっかり暗くなった。

 怪異が出ないうちにさっさと鍵を取りだし、赤い屋根をした一軒家に入る。


「たーだいま〜!! 」


 誰の靴も置かれていない玄関。

 そこに持ってる箱をすべてぶちまけ、そのまま座って手を合わせる。


「そんじゃま、いっただきま〜す 」


 チーズがのびる出来たてホヤホヤのピザにかぶりいた。

 瞬間、玄関の扉がぶち壊れ、吹っ飛んできた何かが、廊下の奥へとぶち当たった。


 それは……人だった。


 青みがかった透明な白髪に、赤く鋭い目。

 顔は中性的で、男か女かも分からない。

 だが美形なのには間違いない

 というか女だったら、すっげぇタイプだ。


「……最近の泥棒はダイナミックだな 」


「泥棒じゃないよ!! 討伐部隊!!! 」


「あっ 」


 ふわふわするような優しい声とともに、そいつは飛び起きる。

 すると見えた、アイツの服が。


 白と黒が入り乱れた隊服、金の桜の紋様が刻まれた刀。

 あれは日本一の怪異専門学校のもの……


「『パンドラ』の生徒か? 」


「そうだけど……というか! なんでここに一般人がいるの!? 警告音(アラート)聞いてないの? 」


「ん? 」


 ピザを飲み込み、慌ててスマホを見る。

 が、何度スイッチを押そうが画面は動かない。

 なんなら起動すらしない。


「あー……壊れてるわ。ちょっと前に怪異に遭遇したから 」


「はぁ……ならしょうがないね。とりあえずアナタを危険区域から出す。ほら行くよ、怪異がやって来ないうちにはやく」


「あ〜……悪いけど、もう来てる 」


 笑いながら指さした方向には、ユラユラと揺れる白い人影が立っていた。

 それがこちらに近付き、一瞬……強く揺らめいた。


「ほわっ!? 」


 咄嗟にスマホを投げつけた瞬間、白い影はそれごと家を両断。

 ズリュズリュと壁が擦れる音とともに、俺の家は崩れ落ちた。


「あっぶねぇ 」


 間一髪で体を反らせた。

 それが出来てなきゃ、今頃はこのスマホみたいにぶった切られてる。


「のわっ!? 」


「一旦引く! 喋らないで!! 」


 いきなり襟を掴まれると、そのまま屋根の上まで投げられた。

 このまま落ちる……と思えば、今度は空中で抱きかかえられ、気がつけば数件離れた屋根に着地していた。

 

「大丈夫!? 」


「ん〜……初対面の奴にお姫様抱っこされてるからさ、大丈夫とは言いがだァ!? 」


「うん、無事そうでよかった 」


 地面に落とされた。

 ちょっと軽口を叩いただけなのに……こいつ殺してやろうか……


「……というか、この街どうなってる? 怪異の数が異様に多いし、あんな怪異見たことないし 」


「あぁ、あれは『くねくね』だな。直視したら頭がイカれる怪異 」


「……大丈夫なの? 調子は? 記憶に乖離は!? 少しでも不調があったらすぐに教えて!! 」


 とつぜん胸ぐらを捕まれ、唾が飛ぶ勢いで怒鳴られた。

 

「そ、それは平気。大丈夫、心配しなくていい……だから落ち着け? なっ 」


「そうか……本当に良かった…… 」


 心底安心したような、今にも泣き出しそうな。

 そんな表情をしながら、男は急に抱きついてきた。




(んぅぅ??? 今度は抱きついてきたぞコイツ〜???? )


「あ〜……ところであんた、名前は? 」


 気まずさに耐えきれず、適当に話を振ってみる。


「僕か? 僕は『泡魅 哀花(あわみ あいか)』……呼び名は名前の方がいい 」


(泡魅? な〜んか聞いたことあるような…… )


「そっちは? 」


「あぁ俺? 『空無 歩(からなき あゆむ)』 」


(あゆむ)……いい名前だね、よろしく 」


 やっと体が離れ、今度は手を差し伸ばされた。

 それを掴んで立ち上がるが、未だに哀花はニコニコと笑っている。


「ところで、怪異化はしないのか? 生身だと死ぬぞ? 」


「僕の怪異は広範囲系だからね、使ったらこの街ごと吹き飛ばしてしまうよ。そういう歩はしないのかい? 」


「俺は才能が無いらしくて、怪異を体に宿せないんだとよ 」


 そう言うと、哀花はムッと眉間にシワを寄せた。


「怪異を宿せない? 乗っ取られるならまだしも、そんなの聞いたことは…… 」


「まぁ世界は広いからな〜。そういうコトモ!!? 」


 いつからか抜かれた刀。

 それが耳の横を通り過ぎ、後ろにいたコウモリの怪異を串刺しにしていた。


「気をつけて、こいつは群れで行動する 」


「あ〜ハイハイ、分かりましたよ 」


 すぐに銃を抜いた瞬間、辺りの影がいっせいに空へと羽ばたいた。

 それらはすべてコウモリだった。


「うぉぉぉ弾ねぇぇぇ!!!!! 」


 とりあえず全弾パなしたが、数はまったく減って居ない。


(火炎放射器でもあれば良いんだけどなぁ!! )


「あっ? 」


 カサリとした感覚が左腕に走った。

 そこには牙を広げるコウモリがおり、それが閉じられた瞬間、バキリと……腕がへし折れた。


「いってぇな 」


 すぐさま腕を屋根に叩きつけ、銃で頭を殴り潰す。

 だがその合間にも、背中に、耳に、頭に、カサカサとコウモリが巻き付き、


「ちょっとごめん 」


「おっ? 」


 急に肩を踏まれた。

 その反動で哀花は飛び上がると、コウモリ達もいっせいに空へと舞い上がる。

 だがそれらは、


「単調だね 」


 たった一度の突きで、串刺しにされた。


「どんな神業だよそれ…… 」


「ん? 訓練すれば誰だって出来るよ 」


 ギィギィと断末魔をあげるコウモリたち。

 それを足で潰しながら哀花は言うが、そんなこと言われても苦笑いしか返せない。


(やっぱ才能ある奴はちげぇなぁ…… )


「腕は大丈夫? 仲間も来るハズだから、それまでは我慢し」


「ん? 」


 いつからか、俺たちの間には白い煙が立っていた。


(っうう!!? )


「ふっ!! 」


 俺が後ろに引くよりもはやく、哀花がその煙を両断した。


「っ!? 」


 だがその煙は(デコイ)だったらしい。

 本命の白い煙が屋根を突き破り、哀花の四肢を貫通。

 その体は宙ずりで固定された。


「……油断したね。まさか遠隔型だったとは 」


 脂汗を滲ませながら笑う哀花。

 それを持ち上げるのは、白い十字架で首を吊る、黒い子供の形した影だった。


「タスケテよォ……サムィ……オナカスイタ 」

 

 レコードがバグったような不気味な声とともに、その影はバカリと口を開けた。

 子供の腕がうじゃうじゃ蠢く口の中。

 その中にゆっくりと……哀花の体は呑み込まれていく。


(……終わりだな )


「今のウチにはやく逃げ!! ……何してるの? 」


「何って、諦めてんだよ。ほら、さっさと怪異化しろよ 」


 哀花は必死そうな顔をしてるが、正直どうでもよかった。

 だから力を抜いて屋根に寝そべる。


「あんたが助かる道は怪異化だけ。だから俺ごと巻き込め


「そんなこと出来るわけ」


「あぁ、殺したくないのか 」


 下半身が呑まれたというのに、哀花は一向に怪異化しない。

 だから弾を込め、


「じゃあ死んでやる 」


 せいいっぱい笑って、自分のこめかみに銃を突きつけた。


「あっ? 」


 けれどその銃は、投げられた刀に弾かれ、屋根から落ちてしまった。


「その刀には発信器が付いてる。だからそれを持って逃げて……そしたら仲間が迎えに来るハズだから 」


「……あぁ? 」


 その善人らしい言葉に、吐き気がした。


「バカかお前は? 死ぬまで善人でいる必要はねぇだろ……さっさと助かれよ。死ぬのは誰だって怖いんだろ? 」


「いいや、私は死んでも人のために生きたい。だって私に」


 バクンと……怪異は口を閉じた。

 結局哀花は、見ず知らずの俺のために怪異化せずに、死を選んだ。


「ほんと……馬鹿なヤツだ 」


「もモっどど……ぼジぃィいいい!!! 」


 ガラスを削るような異音とともに、俺をこま切れにしようと、白い刃が暴れまわる。


 タイミングを合わせて体を伏せ、反らし、跳ね、勘だけを頼りに致命傷を避ける。

 そして腹を貫かれながら怪異の顔面を掴み、抜いた刀で、左手ごと頭を串刺しにする。


「クレルの……かラだ? 」


 傷口が怪異に触れる。

 それは体を乗っ取られることを意味する。


「ボく

   「わタし」

「のグルしみ……分かってくれるの? 」


「あぁ、分かってやるよ 」


 そう言うと、白い煙から子供の口が無数に浮かび上がった。

 それがガチガチと歯を鳴らしながら、俺の肌を噛み、


「だからよぉ 」


 煙の後頭部を掴んで、ガツンと……頭突きをぶつける。


「俺の苦しみも……理解して(わかって)くれるよな? 」


「ガッ……ギゃ 」


 一瞬、怪異は膨れ上がった。

 かと思えば、風船が割れるようにそれは破裂した。


「なんだ……コイツもダメか 」


「……っ 」


「お、お目覚めか。生きててラッキーだったな 」


 屋根上に転がる哀花。

 けれどその目は、助かった事への安堵ではなく、ただただ信じられないと言いたげな目をしていた。


「アナタは……何者? 」


「俺か? 」


 ちょっとしたイタズラ心が沸いた。

 だから刀が刺さった手で頬杖を付き、


「生きる価値のない、クズ野郎だよ 」


 気持ち悪く笑ってみせた。





 


 


 


 


 


 

 


 

 

 



更新ペースは決めてません

 適当に投稿していきます

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[良い点] はい、どもです! 読みました! 表現や話の運びがなかなか良くて、少なからず魅力がありました。 個人的にダークな作風は好みなので今後の展開次第で楽しませてくれそうです。 特にこの主人公の…
[良い点] のわぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁ!!!!!!! だーーーーーーーーーーーーーーーーーくぅぅぅぅぅぅぅぅぅっぅぅぅぅぅ!!!!!!!! 哀花クン(?)生きててよかったぁぁぁぁぁ!!!!!!…
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