ヤサマシクエスト
とある城の離宮にて
王妃「本当に襲ってくるのですか…… 今夜本当に……」
王様「あぁ モノカキシコク中央は陥落して魔王に乗っ取られたそうだ」
王妃「可愛い坊やがこんなに安心して寝てるというのに……
危険はもうすぐそこまで迫って来ているのですね」
ヨーミ「王よ! 窓の外を! 魔物共が攻めて来ました!」
王様「いよいよか…… お前は娘を連れて地下道から逃げろ」
王妃「アナタはどうなさるんですの?!」
王様「私も元はこの国の騎士の端くれ!!
そこらの魔物なんぞに引けは取らぬわぁ!!!!」
ヨーミ「さぁ王妃こちらへ!!」
王妃「アナタぁぁぁあああああああ!!」
城の裏側からフード被って逃げる三人
しかし空を飛んでいた魔物達に発見され
魔王「よくやったヨーミよ 間者としての働きを褒めてやる」
ヨーミ「有り難き幸せです魔王様」
魔王「王妃へのトドメ…… なかなか気分がよいぞ?
赤子の処分も任せたぞ これで勇者が現れることもない」
ヨーミ「御意に!!」
引き返す魔王軍
取り残されたヨーミは川近くにて
バスケットに入った赤ん坊を砂利の上に置いてナイフを構える
赤子「ンギャァンギャァ!!」
ヨーミ「泣かないでくれよ…… 殺しにくいだろ?」
今日は朝から雨が降っていて
川の増水と流れの速さは 子供一人殺すには十分だった
ヨーミ「ハハハッ! 死ぬ! 死ぬに決まってる!!
短い間でしたがお別れです〝かなえ姫〟!!」
自分で殺すことを躊躇い
彼はバスケットを川の上に優しく浮かべる
どんぶこっこ~どんぶらこと入れ物は激流を器用に乗りこなしていて
せめて姿が見えなくなるまでにはと 兵士ヨーミにとっても願ったりだった
世界は魔王によって人々の暮らしは絶望となる
交易の要となる【旧モノカキシコク中央】は魔王城が聳える支配の中心地となり
方々から招集命令をかけて貴族・職人・隊商問わず無作為に万人が集められ
魔王軍からの与えれた重労働を強いられる日々が続いた
苦痛の歳月はあっという間で 黒雲に包まれたかつての都市はすっかり荒廃し
されど気が遠くなる時間は魔王軍に抵抗する微かな光を生み出してた
《《 ヤサマシクエスト 失楽園の戦士達 》》
身を寄せ合って助け合わねば暮らせない
魔王城の下には 家とは言えない廃墟を住処にする者もいれば
裏路地では頭上にシートを貼って雨だけ凌ぐ場所を家と呼ぶ者達もいた
表の商店街では瞳が死んでいる商売人達が
自分と家族の生活費だけを考えて今日も死に物狂いで働く
勿論それだけ貧しいことを示唆する光景は痛々しく
それに同情している暇などない窃盗も日常茶飯事であり
カゲイヌ「こら待たんかい泥棒これぃ!!!!」
狐猫「へっへ~ん! 盗られる方が運の尽きなんだよっ!!」
リンゴの詰まった子樽を頭に乗せ
一列に並ぶ出店の天幕を兎の様に跳んで逃げる狐猫
人気の無いところまで店主をまくと
既に同じく盗みを働いていた二人と合流する
狐猫「すげぇな兄貴達は…… 獲物の質と量が段違いだぜ!!」
夜中「私は金属器一個で狐猫はリンゴ……
プリンニキに至っては銃五丁と宝石付きの短刀三本だぜ?!!」
プリン「えぇ…… ですが私達が至福を得るということは
同時に誰かを不幸にしている いつも通り感謝の祈りを捧げましょう」
狐猫・夜中・プリン「ドゥ~~ランダ~ドゥ~ランダ~」
一通り踊りが終われば昼飯に入るのが兄妹達の決まり事
生もの以外の盗品は闇市で売り捌く生活をして暮らしているのだった
狐猫「生きる為とはいえ悪行は辛いですねぇ」
夜中「生き残りは私達だけなんだ…… 〝勇者〟を見つけるまではな……」
プリン「さっさと食って市場に向かいます 高い酒が売れ切れてしまう」
夜中「ホントプリンニキは煩悩全開だなぁ」
プリン「髪がフサフサになったときから決意してる 自由に生きようと」
狐猫「また髪の話してるし……」
プリンが盗品を詰めたリュックを背負い
闇市から買い溜める物を積むリアカーを夜中と狐猫が
準備が出来た三人は早速出掛けたのであった
この国全体は常に異臭が漂っている
道端に死体が転がっているのも日常だ
川には何が混入しているかなど判かったもんじゃない
それでも飲んでいる奴の口からもまた異臭が漂う
しかしそんな慣れた場所でもいつもと違う臭いが
狐猫「ボヤ騒ぎですね~」
夜中「魔王軍の逆鱗にでも触れたかな?」
贔屓にされている二階建ての武器屋が丸々業火に包まれているではないか
真っ赤な炎の中で出て来るのは悪魔系のモンスター達
人助けしてやろうかと思う狐猫の肩を押さえるのはプリン
プリン「余計なことに首を突っ込むな…… あの世で同胞が泣くぞ?」
狐猫「ゴメン…… 衝動でつい……」
武器屋の店主は魔王軍に捕らえられ
檻から漏れ出る悲痛の叫びは各々の耳に嫌でも雪崩れ込む
木村竜史「助けてくれポン!! 殺すなっポコポン!!!!」
夜中「見てらんねぇ…… 早くここから移動しよう」
ふくよかな頬を柵の奥から出して助けを求める木村竜史
そんな彼の顔に槍の柄でグリグリ押し込むイタズラデビル
イタズラデビル「大人しくしないと悪戯しちゃうぞぉ?!」
木村竜史「ヒィィィィィ!!!!」
狐猫「やっぱり僕助けて来ます!! 見捨てたんじゃ大師に怒られちゃう!!」
夜中「どうしますプリンニキ?」
プリン「まぁあれくらいなら弟でもなんとかなるだろ……」
腰の後ろにぶら下げていた二本のマジックチャクラムを取り出した狐猫
蝶の様に軽快に舞い 力を込めて青紫の刃を放つ
狐猫「イバラキからシコク漫遊記!!!!」
イタズラデビル「ななっ!! 何事だぁ!!?」
チャクラムは旋回してイタズラデビルの両肘に命中
したかと思われてたが 既の所で握りつぶされた
狐猫「そんな……」
白くま〝 人間一匹に何を手間取っている…… イタズラデビルよ 〟
崩壊する建物内部より瓦礫を吹き飛ばしながら現れたモンスター
それは狐猫だけではなく夜中やプリン
周りの住民ですら音に聞いた敵側の将であった
イタズラデビル「ジャージャジャァ~~ン!! 今回は白くま様も一緒なのだ~~!!」
プリン「まさか魔王軍幹部〝六軍王〟の一角ですか……」
強敵のお出ましとなれば圧倒的に状況が変わってしまう
プリンは狐猫を抱き上げ 夜中の背中を叩いて全力で逃げの一手を取った
しかし白くまの猛獣の様な目つきは けして三人を逃がさない
白くま〝 勇者伝説で語られる 縁の地の一つ【ドゥルダ郷】
彼の険しき聖地より赴きなさった不穏分子共を……
易々と逃がすと思うかぁ!!!!? 〟
何処からともなく双刃剣が飛んできて白くまの手に収まる
白くま〝 我は邪白熊王〝白くま〟!!!!
魔王様の崇高な理想を邪魔立てする害虫を排除する者だ!!!! 〟
プリン「チッ!」
プリンは夜中の首の襟を掴み進路を右へ
脇道の路地に入り込むが図体のデカい白くまも無理矢理こじ開けて付いてくる
暗い裏道の先にある 光が差す出口を突っ切る白くま
そこに三人の姿はあらず 横をキョロキョロと見渡すその頭上には
プリン「灼熱の塵となって安らかに成仏をして下せぇ」
上階へと登っていたプリンの翳す掌底の先には
空に神々しく浮く小さい太陽が出現していた
プリン「鍋奉行!!!!」
建造物群の隙間を埋める火の海は
白くまを含め全ての物体を消し炭にした
狐猫「やった…… 魔王軍の幹部を倒したぁ!!」
夜中「そんなわきゃぁねぇだろ!」
屋上から傍観する三人はすぐにその場から離れようとする
だが 身を焦がしながらも 蒸発する血生臭い息を吐きながらも
器用に建物の壁を這い上がって白くまは追い詰める
プリン「狐猫ぉ!! 夜中ぁ!! 逃げろぉぉぉぉおおおお!!!!」
白くま〝 人間共ぉぉぉぉおおおおおおお!!!! 〟
脆い部分を引っ掻いて登る速度は予想を大きく上回り
自慢の鋭い鉄製の鉤爪は振り返るプリンの眉間ギリギリまで迫った
先端がギラつくそれは 光る片手剣の逆光から成るものだと気付かぬ間の刹那
白くま〝 裂・恵乃智!!!! 〟
???「干天雨読!!!!」
実質トドメと言っても良い
背後への不意打ちは紛うことなき引導
鞘に収める凜とした少女は
動くだけで香りを残し 余韻に浸らせる者の心全てを癒やした
プリン「まるで聖女……」
???「まだまだ和みの時代は迎えられない…… 耐えて暁風を浴びて下さいね」
少女が去ろうとするがプリンは呼び止める
プリン「名前を聞かせて貰えないか?」
かなえ「名乗る程の者ではないですが…… 〝かなえ〟と言います」
プリン「……!?」
かなえは建造物群の隙間に生じる暗がりに消えてしまった
引き返して来た狐猫と夜中に一瞬の出来事を伝える
夜中「かなえって…… まさか【ユグノア】の?」
プリン「あぁ間違いない…… 王様が女の子にも関わらず
トンヌラって名前を付けようとしたのは有名な話だからね
その印象で彼女の名前はすぐに覚えていた」
狐猫「じゃぁあのコが…… 〝勇者〟?!!」
プリン「確証は無いが やっと有り得る人物が見つかりましたね!」
自分達の目的が身近にいることに喜ぶ三人
下に降りて取り敢えず身を隠そうと皮の布を買おうとする中
とある一人の男性が声を掛ける
カゲイヌ「やっぱりお前だったかリンゴ泥棒!!」
狐猫「ヒィィィ!」
急いで夜中の後ろに隠れる狐猫
しかしカゲイヌの態度は一変して笑みを浮かべていた
カゲイヌ「竜史の奴を助けてくれた一部始終…… 見てたぜ!
そんな魔王軍と戦っているお前らに紹介したい場所があるんだ!!」
ひょっこりと現れたカゲイヌ
盗品のリンゴを返したものの空気は緊迫していたが
いきなり自分の店に連れて来られては
沈んだ空気と暗影が重なる無人の店内は息が詰まるようだ
カゲイヌ「商売なんて在って無いようなもんだが……
木を隠すなら静中の森ってな!!」
カウンターの裏にポツリと存在する木製のハッチ
グイッと扉を持ち上げるカゲイヌは先に入って行った
三人は不審に思いながらも顔を覗かせると
カンテラにマッチで火を灯しているカゲイヌが
遠くまで続く一本道の洞穴を淡く照らしていた
プリン「冥府への道ですかね?」
夜中「我が郷に名を轟かした大師に会えるかな……」
狐猫「一度は会ってみたい〝おっぺぇ大師〟かぁ……」
カゲイヌ「残念ながらゴールで待っているのは抵抗組織
魔王軍をぶっ殺そうって輩が集まっている闇ギルドだな
名は〝和ませ組〟 アンタら程の腕があれば歓迎してくれるだろうよ」
プリン「かなえって人もいるのか?」
カゲイヌ「フハハ…… そりゃぁ楽しみが出来て良かったなぁ!」
案内されるがまま三兄妹は洞穴の奥へと歩を進めた
食糧調達を任されているであろう荷物が積まれたリアカーを引かされて
【中央の魔王城】
かつての王が座っていたであろう玉座に君臨するは
頬杖を着いて何かに思いを馳せる現王の姿が
両角が光暈を帯び 全身の青紫の肌が恐怖を増強させている
多くの生物が彼を魔王と呼んでいた
魔王〝 計画は順調であるか? 〝地雷火王〟よ 〟
ウィズ〝 ヘラチョンペの進行性は上々 今日にも本格的に動くでしょうね 〟
魔王〝 クックックそうか…… 〟
テラスで荒廃した国を一望出来る場所がある
硝煙の匂い 血の匂い 屍肉を食らうオオガラスの鳴き声
地を這う人間を肴に飲むワインは
目的遂行間近へと迫る魔王の束の間を潤していた
魔王〝 して…… 白くまが戻って来ておらぬようだが……? 〟
ウィズ〝 イタズラデビルの報告によりますと先の見せしめの際に…… 〟
たこふらい〝 死んでませんよ 〟
謁見の間に唯一聳える巨大な鉄扉が開かれ
グレートドラゴンの首根っこを掴んで引き摺ってくるのは
ウィズ〝 あら〝八寒鮹王〟ではありませんか 〟
たこふらい〝 冀望溢れる魔王様の心中お察しします
ですが白くまがやられ その咎めを人間に振るわないのはこれ如何に……
報復を怖れて絶望に追われる愚衆があってこそ魔王軍としての泊というもの 〟
魔王〝 ならば たこふらいよ……
塵を点在させ機を窺っている和ませ組をまとめて一掃出来ると? 〟
たこふらい〝 えぇお任せ下さい
舐め腐ったゴキブリ共など一匹残らず引きずり出してやりますよ! 〟
悲鳴を上げるグレートドラゴンの首と胴体を引きちぎり
その肉をしゃぶりながら出て行く八寒鮹王
一人で行かせることに躊躇うウィズは魔王に問う
ウィズ〝 念の為に増援を用意させた方が…… 〟
魔王〝 白くまも目を覚ませば後を追わせる
それに偵察に向かわせた〝花風凜王〟も動きを見せる頃だろう 〟
両手を広げ 魔王は国中に凍てつく波動を放った
鋭い口角を広げ 牙を剥き出しに笑い
魔王〝 もうすぐだ…… もうすぐさらなる力が我が身に……
この景色をさらに業火で包み 地獄まで尽きぬ悲鳴を
まさに絶対なる混飩 〝絶飩の世界〟になるのだぁ!! 〟
そして場所は洞穴を進む一行へと戻る
古くから炭鉱として地下に脈々と存在する通称【蟻の街】
通路を歩けばキラキラ光る鉱石が
持ち帰れば億万長者待った無しなどというのは遠い昔の話だ
魔王軍が支配してからというもの 価値観は百八十度様変わり
金銀プラチナ鉱石など地上では観賞以外の価値など無い
カゲイヌ「着いたぞ! ちと熱風がキツいが我慢してくれ!!」
プリン「歩いてきた方角は分からなかったが…… 【ホムスビ山地】か?」
カゲイヌ「魔軍侵攻完了後……
大陸は中央を中心に引き寄せられたよな?
国引きの悪魔ギガンテス等が海の向こうから現れたときは
こっちも思わず血の気が引いたよ」
出口から差し込む光を浴びる前から鳴り響く
溶かした鉄をトンテンカン
熱気に負けずハッスルダンス 絶望にめげず気分はヘヴン
ホムスビの噴煙に紛れて只管決戦に向けて準備を進める
製鉄と鍛冶と蒸し風呂と
和ませ組が陣取る血気盛んの地下街が広がっていた
微かに穴が開いた天井から陽光を拝める三人は
さっそく案内人 には程遠い敵意剥き出しの住人から挨拶される
???「カゲイヌの旦那からの推薦ね……
腕は確かなんだろうなぁテメェら!!!?」
狐猫「……人に名乗らせる前に自分がしたらどうだ!!」
カゲイヌ「彼女は〝ギャル在月〟さん 和ませ組のナンバー2だよ」
ギャル在月「うちの組長が期待してるとはいったが……
僧にしてはパッとしない…… ホントにドゥルダの修行者なのかい?」
夜中「身元がバレていたとは……」
ギャル在月「フン…… まぁ詮索もメンド-だしとりまシクヨロ!!」
鞘に収まる大太刀を後ろの肩に掛けてフラフラと歩いている彼女に
カゲイヌより「信用して付いて行け」とお墨付きを貰って渋々と
しかし歩く速度が遅い分 街並みを拝観することも叶い
気が付けば ちゃんと本拠地らしい建物へと到着する
ギャル在月「かなえっちゃぁん!! 連れて来たよぉ~!!」
縹「室内で騒がないで下さい…… 耳障りです」
かなえ「お待ちしておりました 今は少しでも戦力が欲しいところ……
魔王軍討伐の御助力に感謝致します」
お座敷に背を向けて正座をしている組長かなえ
そんな彼女を側で見守っているのはナンバー3の縹
今この場に抵抗組織の主力が集結しているのだ
ギャル在月「それはそうと組長よぉ 〝アイツ〟は本番で使えるのか?」
かなえ「……無理かもしれませんねぇ 出来れば戦わせたくもありません」
夜中「??」
突如頭上より少量の砂利が夜中の鼻先に降ってきた
次第に地響きが唸り始め それは生物の叫声だと気付く
かなえ「また暴れ出したのですね……」
プリン「何かいるんですか? ここに?」
かなえ「友好の印としてご紹介しましょう」
そう言って地下街のさらに地下へ
情報を抜き取る為に捕縛していた
生かして置いても危険性の薄い弱いモンスター達が
連なる地下牢に収容されていたのだ
椎茸仮面「対面の牢なら俺が話し相手になってやる
まぁ気を悪くしなさんな!
礼なら臭い飯でも奢ってくれぃ‼︎」
スラリン「僕をここから出してよぉ~~!!」
ピエール「俺を仲間にしろぉ!! 序盤の冒険では必ず役に立つ!!」
アルデンテ中村「人類は滅びない!! これ幾星霜揺るがぬ事実!!」
かなめ「おっぺぇ!!!!」
一部モンスターらしからぬ姿形をした者もおり
堪らず狐猫は質問をしてみる
狐猫「これはもはや人ですよね?」
かなえ「いいえ…… 人科人属人に分類されるモンスターです」
狐猫「いやでも……」
かなえ「モンスターなんです! 惑わされてはいけません」
狐猫「……では こちらの風船の様なポケッ…モンスターは?」
かなえ「ピンクの悪魔と怖れてましたがどうやらモンスター違いでして
野に放してもいいのですが 激辛の食べ物をあげた際に懐かれまして……
牢に収監してるというよりは飼ってる感じですね!」
雑談を挟むほど長い通路の景色は変わらず
ようやく突き当たりに辿り着いたのも束の間
密閉されてた中で身体を突き返される轟音が四人を襲う
声の正体は柵の内側にて鎖で縛られたキラーマシーンだった
夜中「キラーマシーンって大人しいイメージがあるんですが……」
かなえ「元は人間です……
魔王軍に捕らえられてしまった際に改造されてしまいました
我々は取り敢えず〝試作機01号〟と呼んでいます」
プリン「試作機?」
かなえ「あちらからしても不良品だったのでしょうね
人間としてなのか モンスターとしてなのか
悲痛な叫び声を常時発しているコレは
痛々しく哀れでとても見てられません
戦闘にも支障が出ていたのか中央の隅に捨てられていました」
耐えられない脳が蕩ける様な悲痛の叫び
しかしそれは組長もまた 深刻な表情で俯いている
プリン「知り合いなのか?」
かなえ「そうですね…… 確証は無いのですが……」
ポケットから取り出したのは銀製のペンダントが二つ
かなえ「〝誓いのペンダント〟です
遠い昔より片方は私が もう一つはある人が身に付けてました
懐かしい幼少の時代を想起させる品……
その片方をこのモンスターの足に巻き付いていたのです」
プリン「じゃぁこのキラーマシーンは……」
かなえ「……」
突如鳴る地響き
地下牢から慌てて出て来た四人の目に映る光景は
差し込む陽光の柱が美しかった天井の穴は広がり
落石によって街は地獄へと化していた
その穴より決壊したダムの如く イビルビーストの大軍が雪崩れ込む
ひなかのん「かなえ組長!! 魔王軍が攻めてきました指示を!!」
かなり「今すぐ女性と子供を坑道の入り口へ!!
ここ本部は捨て ここより北北東【ネルセン宿屋地下】の支部まで避難します!!
集まった者より順に キメラのつばさを持たせて移動させなさい」
突発なアクシデントにも冷静さを取り戻す組長は武器を取り
住民に襲い掛かるモンスターを斬り捨てて猛進して行く
夜中「すごいですね…… 動揺一つ見せないなんて……」
かなえ「慣れっこですからね…… 日常茶飯事です」
狐猫「僕達も何か手伝えませんか?!」
かなみ「人民の避難が最優先です
完了するまでモンスター達の討伐を手伝って下さい」
四人は背中を寄せ合い隙の無い菱形の陣を張る
しかし敵は大群 襲われる人々全てに手を回すのは不可能
奇襲大成功な光景を高見の見物で上から刺さる視線を向けるのは
たこふらい〝 良い余興だ…… 密告野郎の大手柄って訳だ 〟
かなえ「……裏切り者がいたというの?!」
微かに聞こえてくる魔王軍幹部の呟きが組長の集中を削ぐ
後ろから攻めてくる複数体の一斉攻撃に隙を取られたが
ギャル在月「神殺し流 睦月の型 〝轍天人〟!!」
縹「岩窟錬金 穢土方天戟!!
塵界!! 廻天!!! 娑婆!!!!」
真っ直ぐな刀身が大群という一枚画を縦に裂いた
そして分裂するモンスターの残骸を横から
バクダン岩の欠片を再構築して象る月刃の槍が刺さり
爆風で一掃 土煙が晴れた頃にギャル在月と縹が余裕の表情で現れたのだ
かなえ「助かりましたお二人共……!!」
結構な数が巻き込まれ
絶望から一転してこの二人は希望を生む
プリン達もこれほど心強い戦士達を見るのは初めてだった
プリン「素晴らしい剣技と賢者を極めし錬成術……」
ギャル在月「ウチと縹は魔力が少ないからさ……
そんな褒められる事のない出来損ないなんだよねぇ~~」
縹「人に言われると嫌悪しますが……
おっしゃる通りで 足りない物を地の恵みより利をお借り申し
魔王軍と戦える力を得るため工夫して強くなろうと努力しました」
謙遜する二人を遠目に親指を噛み千切る魔王軍幹部
避難も順調に進む中 遂に自ら頭上より組長の前に立つ
たこふらい〝 ザコを蹴散らしたくらいで良い気になんじゃねぇぞ
朗報だ 白くまは復活して快復を待っているそうな
一時は黒焦げにして士気が高まっていた様だが所詮はその程度だお前ら!!
大した成果などすぐに泡と消え…… 気付けば不幸の連続だろぉ?
人間なんてそんなもんなんだ
力もねぇのに等身大以上の理想を重ねに重ねるぅ馬鹿の集まりだ!!
大人しく我等の奴隷に成り腐ればいいものを
たらたらたらたらたこたらとぉ…… 〟
ご高説垂れる幹部を前に構える六人
そんな彼等の背後より 住民の数人が避難完了の報告をしに現れる
テケリ・リ「動ける者は皆移動しました!!」
碓井彩風「死傷者多数…… 瓦礫を覗くのも辛いですぜ……」
禿柱鉄也「一応命令通り地下のもんも逃がしましたが良かったんで?」
つるよし「あとは私達のみですのでお急ぎ下さい!」
蒼咲神海「キメラのつばさは全員分確認しました」
歌うたい「幹部を目前にして 戦力は削りたいところですが……」
かなえ「承知しました……
この場にいる動ける者は速やかに退避なさい!」
僅かに息をする命ある者を捨てる決断は容易ではない
それを難なく言ってのけ 罪悪を感じるこの場の者全てを躊躇わせず
キメラを使わせ 遙か北の大地へと飛ばした
その刹那 夜中はプリンの腕を引っ張り耳打ちする
高速移動が開始される寸前 プリンは彼女のその一言に対する反対の気持ちを
時間を与えない夜中を罵りたい複雑な気持ちを抱えさせ
相手に伝える島もなく一人残って場は静けさに襲われた
たこふらい〝 なんで一人残ったんだぁ? あぁ?! 〟
夜中「逃げ切れる世界ではない…… からかな?」
背中から触手 いや鮹の足が無数に生え
その巨脚に見合うよう自身の身体も肥大化していく
牙がフリルの如く彩る丸い口の中は 闇が続く円筒の空洞
自我が確認できないまでの獰猛さは夜中にプレッシャーを与えた
たこふらい〝 ニョキョキョキョ!!!! さぁ恐れをなせ!!!! 〟
しかし夜中は平静を装っている
それはけして やせ我慢などではない
彼女は懐から拵え付きの小太刀を取り出した
刀身を光らせた後は武闘着の襟を自ら開き
上半身丸見えで尚 気丈に構える姿はまさに文武極める百戦錬磨
たこふらい〝 この気迫……
さすが世俗の誘惑を断つ僧と言ったところか 〟
夜中「深層、帳駆く盲目の世は、蝕む欲すら忘れる夜中なり。」
たこふらい〝 あぁ?! 〟
夜中「私の母は旧地ラムダの予言者であった
平和が続いた世界では変人扱いされて亡くなったが
当時は母だけがこの絶望の未来を視ていたということになる
憂いて名付けられた私は今をどう生きれば良いのか……
まだ幼い狐猫には非人道的なことをやらせていたと悔いています」
たこふらい〝 いいからさっさとかかってきやがれ!! 〟
八本の蛸足は矢の如く
逃げ場を潰す四方八方からの鋭い乱撃
それでも彼女は余裕だった
夜中「勝負は既に着いている 私にこの小太刀を握らせた時からな」
上半身裸になったのは持っている刃で腹を掻き切る為だったのだ
たこふらい〝 なっ?!!! 〝切腹〟だと?!!! 〟
夜中「私怨指腹〝破邪顕正〟!!」
祈りを込めて腹を十字に裂いた夜中はその場に倒れる
大型の魔物をも包む 白い二本の真空刃が背後の壁を通り過ぎる頃には
魔王幹部の身体は四つ均等に割かれ 地面に同化しながら消滅した
死後の世界【冥府】
一箇所にポツンと浮遊する建物
未知の力が蠢く異界に夜中は辿り着いた
夜中「あぁあ…… 死んじゃった……」
???「全く情けないねぇ~~命を屠して最終奥義を使うだなんて……
せっかくドゥルダで生き残った唯一の女性の修行僧だと思っていたのに」
夜中「いやぁ~~すいあせん先々代大師殿…… 噂に聞いたおっぺぇで」
???「ハァ…… 百年に一度は才あるエロガキが生まれてくるのかねぇ~~
これも世界樹が未だ巡り 機能してる証拠
しかしまぁ命冥加にこんなとこに来てまったく……」
夜中「あの…… 勇者は結局…… 見つけられませんでした」
???「まぁいいさ…… 勇者と魔王は表裏一体とはよく言ったが
確証持てない事象に期待もクソも無いからねぇ
……それで? お前はこれからどうするんだい?」
夜中「命を代償に奥義を使いました
現世に戻れないことは覚悟しています」
???「よろしい では修行だ」
夜中「えっ?!!!」
先々代大師は背後より〝お尻叩き棒〟を取り出して構えた
夜中「それは勇者伝説にも登場する幻のアイテム!!
百年前に彼の〝スケベ大王〟が何万回もお尻を叩かれたという……
現在のドゥルダにもその逸話はカビの生えることなく伝承されてます!!」
???「大体何かあればすぐに切腹するその根性がまず気に食わないねぇ!!
郷の武僧なら死よりも生きる意地というものを説いてみせな!!
この死にたがりの田吾作がぁ!!」
夜中「ヒョエ~~~~~~!!!!」
この世とあの世の狭間は活気と悲鳴に満ち
大師は冥府に留まったことに久方振りの縁を感じたという
そして時と場所はネルセン宿屋へ
キメラのつばさで退いた組長達は支部へと辿り着くが
遅れて飛んできた者達の目に映るは
とても一息吐けるような事態ではなかった
かなえ「これは一体……」
柵や施設は壊され
先に避難していた住民達は見る影もなく重症を負わされ
風車下の木陰にてガーデンテーブルに座る
如何にも虫けらを見る様子の女性を組長は睨んだ
かなえ「貴女が裏切り者ね?」
ひなかのん〝 ……住民を先に逃がすという事はねぇ
護る側が後手に回るんだってことを知りなさいよ
馬鹿な貴女達はそこまで気が回らないのかな?
裏切り者にも気付かないものねぇ?? キャハハ!! 〟
組長は周囲を見渡す
腕の立つギャル在月や縹までもが
目の前の敵に傷一つ負わせていない
ところを見ると彼女は
かなえ「……六軍王の一人ってとこかしら?」
ひなかのん〝 雑魚を過大評価しないで下さるひいては
この私の力を過小評価しないで下さりますぅ?!! 〟
かなえ「二人は雑魚モンスター相手ならこんな無様な姿は晒さないわ」
ひなかのん〝 力量を見誤ると後悔しましてよ?
それでは自己紹介 魔王軍幹部六軍王の一人
〝花風凜王ひなかのん〟って言います ……よしなに 〟
組長は斃れているギャル在月に耳打ちする
かなえ「隙を見つけて逃がせるだけ逃がしてあげて」
ギャル在月「すまん…… ウチがやられちまったばっかりに……」
かなえ「大丈夫…… どうせ不意打ちでもされたのでしょ?」
ギャル在月「……一人で闘うのはやめろよ?」
かなえ「……私がやられたって潰れる組織じゃないでしょ?」
聞こえない小言を待ってやる筋合いもない花風凜王は二人に刃先を突き立てる
しかし組長もまた視線をギャル在月に向けたまま剣を抜いてその勢いを防いだ
鉄が衝突する音が響き 静寂を迎えるまでのゆるやかな間
花風凜王を睨む組長の眼光に一滴の汗が
魔王軍らしからぬ歪んだ表情の額より地に落ちた
かなえ「フゥ……」
体勢を立て直し剣を構える
その一貫として敵に向ける姿勢と佇まいは
まさに騎士道を重んじる豪華絢爛
ひなかのん〝 同族嫌悪…… 腹が立ちますわね 〟
かなえ「……ふっ 過小評価はやめて下さります?」
ひなかのん〝 ククク…… ほざけ下等な人間風情が!!!! 〟
剣筋は疎らに
怒りのままに襲ってくる花風凜王の動きの真意は分かっていた
表では動転していようと内心冷静で 隙をあえて作り相手の隙を突く
組長は軽率にならず相手の剣をいなし お返しに突き返してやる
ひなかのん〝 剣の交じり合いはショボいわね 〟
かなえ「別に私は好きだけど? 勝てそうだから」
ひなかのん〝 私の勅命は〝殺す〟こと 遊んでなんかいられないのよ 〟
かなえ「そこは同感…… 仲間を傷つけられて黙っていられるほど
今は貴女ですら和ませて上げられやしないわ!!!!」
剣に魔力を流し 発火させた刀身は竜の形へ
並外れた跳躍力を活かして敵の頭上を支配し
重力の力を借りて一気に振り下ろした
かなえ「ドラゴン斬り!!」
斬りつけた箇所から火花の如く竜の炎が飛沫して散らす
だが怒れる感情は逆に利用されてしまった
ひなかのん〝 ふ~~ん アンタもマジじゃん?
周りが見えなくなって本当にそれでよかったの? 〟
かなえ「?!!」
周り一面が花畑に変貌する
花びらに血飛沫が降りかかった雪割草が
着地する組長の周りに不気味と咲いていた
ひなかのん〝 花言葉は自信と信頼 優雅に忍耐などなど
なんて私にピッタリだと思いませんこと? 〟
かなえ「残念だけどそれ…… 私にも似合う花言葉だと思ってます
なので汚い幻の血で汚さないで頂けます?」
ひなかのん〝 減らず口…… あぁそっか
貴女はまだこの幻術の真の恐ろしさを知らなかったわね 〟
そう言うと指を軽く鳴らした
すると何故か組長の後ろの肩が鋭い針に貫かれた
先端より流れ出る自分の流血に 堪らず跪いて苦痛に悶える
かなえ「あぁぁっ……!!」
ひなかのん「地面から攻撃も出来るし分身だってお手の物
この技の発動条件は私の香り 故に魅了による誘いよ
この疑似世界では全てが私の思い通りなの」
かなえ「っ……!!」
ひなかのん〝 貴女は既に死んでいる それではさようなら 〟
無数に生み出す花風凜王の分身は
彼女の軽い合図一つで軍隊を形勢し組長に押し寄せて来た
かなえ「終われない……」
痛みなんかに構ってられない
歯を食い縛り 立ち上がらなければならない
利き腕に持つ剣は微弱に震えながらも
目の前の群棲に飲まれまいと果敢に向き合わなければと
ひなかのん〝 キャハハ!! さぁさぁ盛大に気を血を水を花に注ぎなさい!! 〟
かなえ「フゥ…… フゥ……」
組長は覚悟を決めた
もしここで死のうとも〝私達〟はまだ負けてないと自分に鼓舞を奮う
託し 任せられる者達がまだいるからこそ
最後の力を振り絞って敵陣に踏み込める勇気が湧いてくる
かなえ「うぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!」
個に対しての多数の圧は計り知れない
嵐に飲み込まれる蟻の恐怖に負けず劣らず
気迫と数の暴力が衝突する瞬間
数の方を一掃する一筋の光とも言えるレーザーが空より放たれた
かなえ「なっ?!!」
そこに居たのは辺りをキョロキョロ見渡しているキラーマシーン
いや自分も知っている赤いメタルボディーの試作機だった
かなえ「なんで…… なんで貴方がここに……」
プリン「そいつも思い出を大事にしてたんじゃないですか?」
背後より現れるプリンともう一匹
組長の身体を癒やす緑のスライムに乗るアイツが
ピエール「無策に突っ走るのはよせ
外見はクールでも細やかな動揺は隠せちゃいない
苦楽を共にした仲間内が崩れて慟哭する気持ちも分かる
だが昨日今日とはいえ 僕達を忘れて貰っては早計だ」
プリン「奴との圧倒的な差は
数で負けようとも互いを補える頭脳が揃っている事にある
ここが幻惑の世界だろうと脳みそがクリアである限り
ゾーンで研ぎ澄まし 連携をフルに構築させよう」
かなえ「皆さん……」
試作機とピエールとプリンが
仲間になりたそうにこちらを見ている
是非もなし 組長は三人に手を差し伸べた
ひなかのん〝 四人一組のパーティー……
盛観ね だけど滑稽で涙が止まらない
それで私に勝てると鬨の声を荒ぶらせるのだから人間は大笑いよ 〟
眉間を手で覆って嘲笑う花風凜王を前にしても怯まず
四人は横並びにして一斉に武器を構えた
プリン「作戦はどうします?」
かなえ「長期戦は無謀と判断しました」
試作機『……』
ピエール「ならもう…… 一つだな!!」
全員「「「 ガンガンいこうぜ!!!! 」」」
組長が飛び出して一気に間合いを詰めた
先程と同じ剣の交じり合いになるが今回は一人ではない
横から試作機も片手剣で応戦し
その早業をいなすのは容易とは言い難い
疲れを待つだけの白兵戦で軽視していた花風凜王の策も浅はか
ひなかのん〝 フン…… どうせ大群を前には威勢も潰えるでしょう 〟
全方位から立ち上がる彼女の分身が三人に襲ってくる
しかしこちら側からすれば予想の範疇
後方より魔力を高めていたプリンは
プリン「爆裂奉行!!」
分身達の身体は弾け飛び
魔王幹部とあろう者がさらに追い詰められていた
どれだけ数を増やそうとも無意味だと悟る花風凜王は
ひなかのん〝 チッキショ~猪口才なぁ……!!
唐変木の癖して調子乗ってんじゃねぇよテメェラ!!!! 〟
彼女の身体は朱色に染まり
打ち上がる花火の様 仮想の空へと上昇した
ひなかのん〝 大地の肥料になって終いだぁ!! 花鳥風月本懐物語!!!! 〟
全ての魔力を解き放つ最強の呪文が
地上にいる四人に襲い掛かる
逃げ場は無し だが誰も目を背けず
プリン「組長さん!!」
ピエールとプリンはマホアゲルで魔力を組長へ
それは加えて組長を主軸とした連携技が発動される
かなえ「抹茶マゼマゼストリーム解放!!!!」
花畑を覆い隠す濃いめの暖水渦
台風の目の様な中心で操る組長は自分の持つ剣に力と
絶対負けないという願いを強く込めて呼応させた
かなえ「正しき世界に…… 和みを再び!!!!
連携奥義!! 〝融実乃茶刃檢〟!!!!」
高く上空へと突き上がる新緑の巨塔
世界樹をも圧倒する水の大刀身は敵の魔力を貫き
花風凜王の半身をも貫いてさらに昇っていった
全部を出し切る皆はその場に跪き
幻術から解放された事実を確認した上で
やり切った笑顔で互いに見やる中
諦めていない奴は次の一手を画策していた
ひなかのん〝 ジネェェェェ!!!! 〟
肉塊が爛れ落ちてバランスの取れない体での
全ての勢いを剣先に乗せた全身全霊の一撃
食らったら一溜まりも無いその執拗な牙を背負ったのは
組長の前に立つ試作機だった
双方倒れ込む中で組長はキラーマシーンに駆け寄る
かなえ「モンスターなのに私を庇うなんて……」
ひなかのん〝 ヂギジョォ…… 出来損ないのくせして…… 〟
彼女は白目を剥いて意識を失うが
キラーマシーン試作機もまた朱い瞳が消えようとしていた
試作機『約……束……』
かなえ「え……?」
試作機『やく……ヤク……』
それ以降キラーマシーンが動くことは無く
組長は岩肌に彼をそっと寝かし
しばらく隣に座って和ます気持ちで見送った
しかし戦闘は終わりに向かうと思わせて新たな刺客が現れる
プリンとピエールがガクガクの足を上げて応対するが
敵にはまるで敵意が無く 花風凜王の亡骸を抱えて背を向けた
かなえ「〝魔軍指令〟…… 黄泉ヨーミ……」
ヨーミ「仮にも六軍王に選ばれた彼女をここまで……」
ヨーミはすぐにこの場を離れようとするが
去り際に組長の顔を横目に
ヨーミ「大分ご成長されたようですね かなえ姫」
かなえ「えっ……?」
彼はそのまま消えてしまった
それと同時に空を覆う黒雲は異様な流れを見せ始め
プリン「世界の終わり……」
ピエール「あれは…… 雲の中から何か出て来る」
三人の目線の先
この世の終わりとも思わせる文字で表面がびっしり帯びる球体
大きさからして小惑星が超高速で落下してくるではないか
空気を潰す勢いは圧巻の一言
底面が燃えながら落ちてくるそれは禍々しく
しかしその驚異は城のテラスで見ている魔王にとっては朗報
ウィズ〝 六軍王〝蛾眉叉王〟が帰還されました 〟
畔木鴎〝 おめでとうございます魔王様!!
素晴らしきかな さらなる強者への門出!!
生きて眼に焼き付けること光栄に思います 〟
魔王〝 フハハハハハ!! ヘラチョンペ計画始動だな……
かつて勇者の星に閉じ込められた邪心復活を想起させるではないか?
我こそはあの収まる処を知らない爆発的な力を吸収してみせようぞ 〟
三人は生き残った仲間達と合流すべく すぐさま行動に移っていた
道中に双眼鏡であの小惑星の正体を確認していたプリンは模索している
プリン「アサミカナエ……てゃん?
勇者伝説に出て来る邪神の名前と異なっているが一体……」
ピエール「それより仲間と合流して そこからどうするんだ?」
かなえ「故郷を出るしかなさそうですね
何かが起こっているから 安全な場所で情報を整理する必要があります
海を渡ってさらに北の世界【チュゴクチョーシュ】の国まで後退しましょう
あそこには〝谷下希〟という私と似た立場で纏めるリーダーがいます」
プリン「勿論船を持っている前提での決め事だと思うが……
私達は謂わば難民だろ?」
かなえ「えぇ…… どこも同じ貧しさに耐えているでしょうから
目的地に着くなり鹵獲部隊を結成する予定ではあります
けしてタダ飯など期待は出来ませんでしょうし」
ピエール「空に現れた追い打ちのような新たな驚異
六軍王もまだまだ残っている
魔王討伐に至るまでにしちゃぁ身内はバラバラ 前途多難だな」
かなえ「それでも私達は…… 進まなければなりません!!
どうして勇者の存在しない時代に魔が強く蔓延るのか
その真実を突き止めてそして…… 元在るべき世界を取り戻します!!」
生きる為に逃げる それは現状残された|苦痛ある唯一の退路
それでも勇敢に胸を張って進まなければならない
プリン「えぇ 一緒に逃げた狐猫も心配ですし
さっさと合流して向かいましょう新天地に!!」
ピエール「泣き言は言ってられねぇ…… 一つでも多く反撃の標へ」
かなえ「はい! 私達の戦いはこれからです」
ご愛読ありがとうございました。
滝翔先生の次回作にご期待下さい。