石造りのオアシス
少しずつ書き足していきます
久しぶりに太陽が差し込んだ早朝、ベットから体を起こす。眠気に伴って下がる眉を上げて、準備をする。最近はずっとこうだ。
「ふわぁぁ…眠いなぁ、まったく…」
そう愚痴を呟きながら洗面台へ向かい、顔を洗う。まだ眠く温かい顔に冷たい水は気持ちが良い。外では蝉が鬱陶しいくらい鳴いている。ある意味、朝を告げる鐘とも言えるだろう。そんな鳴き声を聞きながら私は服を着替えたが、途中で重大な事実に気づいた。
「そういえば…クビになったのか…。何をしようか…。」
元々仕事人間だった私は仕事以外のことをほとんど知らない。慣れとは恐ろしいことである。ふと、窓から顔を出すと家の塀を黒猫が歩いていた。いつも通り何かやろうとツナ缶を持ってくると猫は私の手の匂いを嗅いだ後、フシャーッ!と威嚇して逃げてしまった。お腹がいっぱいだったのだろうか?そんなことをしていると家のポストにチラシを入れる青白い肌をした少女がいた。ポストの中身が多いのか入れるのに苦戦しているようだ。特に気にせず私は家の片付けを始めた。
1週間掃除をしてないからかゴミの量が多い、朝早くから掃除を始めたのに気づいたら昼頃になっていた。折角の休みなので何をしようか考えていた頃、早朝ポストに入れることに苦戦していた少女のことを思い出しチラシを見てみることにした。そのチラシはどうやら喫茶店の宣伝のようだ。丁度小腹が空く時間だ、折角の休みだから行ってみようか…。
雲一つない昼下がり、私は街の繁華街を歩いていた。繁華街には店が色々あり人の往来が多い。その人の多さから色々な人が見える。そして繁華街から離れ、路地裏に入り目的の店を探す。目的は先ほどのチラシの店で、石造りであるということだ。情報はそれだけしか知らないので少し楽しみではあった。一体どんな店なのだろうか?何を頼もうか?そう心を弾ませながらまるで何かに手招きされるように向かっていた。
「ここか…?」
周りの店とは造りが違い、石造りである。この店は初めてのはずなのにこの店だ、という不思議な確信に、導かれるようにその店のドアを開けた。
開けた瞬間ベルが狭い店内に鳴り響く。だがうるさいと言うわけではなく、むしろ滑らかで、染み込むような音だった。そしてそのベルの音に反応したのか店の奥から少女が出てきた。
「いらっしゃいませ。」
と、声が聞こえてきた。その声の主は青白い肌をした少女だった。間違いない、今朝私の家のポストにチラシを入れていた子だ。やはりこの店で間違いはなかった。一種の安堵を覚えた私は思わず頬が緩んでしまった。すると少女が少し申し訳なさげに聞いてきた。
「えっと…一名様、ですね。」
何人か聞かず、言い切られてしまった。実際私は一人だがもし、後から人が来る予定だったら気まずくならないだろうかと私が疑問に思っていると、席へと案内された。席に座ると少女がメニュー表を持ってきた。そして少女が注文がお決まりでしたらお呼びくださいと言い、店の奥へ消えていった。一体どんなメニューがあるのだろう。そうワクワクしてメニューを見ると私は1つ気になるメニューを見つけた。
「すみませーん」
「はい、ご注文はお決まりですか?」
「このお客様おすすめメニューをください」
「お客様おすすめメニューですね、かしこまりました。おすすめメニューひとつお願いします。」
即決だった。メニュー表には他にも色々なものがあったのに選んでしまった…。私は少し後悔しながらまた次に来る時に頼もうと切り替えていた。
そしてしばらく店内を見回しながら待っていると…。
「お待たせしました、お客様おすすめメニューです。」
そこに現れたのはチョコレートパフェだった。1番上にチョコソースがかけられたチョコアイス。そしてクランキーが刺さっている。そしてその下にはチョコクリームの中にコーンフレークが入っておりとても美味しそうだ。偶然にも私はチョコが大好物なのでいただきますと心の中で唱え、私はパフェをスプーンですくい、口に運んだ。口の中に入れると同時に、しつこくなくあっさりとしたチョコの味が口に広がった。
「美味い…とても美味い…!」
そのチョコの味がまた絶妙で、胃にもたれない程度の絶妙な甘さでまるで雲を食べているようにすぐ口の中で溶ける。これなら無限に食べることが出来るくらいだ。だが食べている時に私の体に異変が起こった。
「あれ…何で涙が…?手も止まらない…。」
何故か目から涙が溢れてきてパフェを食べる手が止まらないのだ。このパフェを食べたいという衝動が抑えられず、私はいつの間にかパフェを全て食べ終わっていた。そして、私の体をふわふわとした感覚が包み込んだ。まるで空に飛んでいるような…。ふと机の方を見ると
「えっ…!?えっ…えぇぇっ…!?」
私の体は椅子に座り込んでいるが私はその上を飛んでいたのだ!私は何もわけがわからず空中をジタバタしていた。だがいくらジタバタしても私が体へと戻るわけでもなく時間が過ぎていった。すると、店の奥から注文をとった少女が出てきて私の体ではなく浮いてる私と目が合った。そして口をゆっくりと開いた。
「貴方は薬を飲んで自殺したんですよ。私がチラシを持っていく前日に。」
その言葉は私がパニックになるには充分な内容だった。続けて少女は淡々と語り続ける。
「ここは死んだことに気づいていない人をあの世へ導く喫茶店なんです。すぐにでもあの世へ行く人はおすすめメニューを頼むんです。あなたの場合…その思い出のチョコパフェですね。せめてあの世へ行く前に思い出の味を食べれるように…と。」
そうだ、私は昨日…。全てを思い出した私は自分の状況を理解した。
「さて、あなたはこれから完全に死にますが…何かご注文はございますか?」
数秒間私は考え、彼女にこう答えた。
「そうですね…じゃあ、最後の言葉を言っても良いですか?」
「かしこまりました、どうぞ言ってくださいませ。」
「チョコパフェ…美味しかったです。ありがとうございます。
その答えに少女は少し嬉しそうに笑みを浮かべながら
「それは良かったです。それでは…おやすみなさいませ。」
刹那、私の体は暖かい光に包まれた。その感覚は嫌なものではなかった。むしろ心地よいものだった。その心地よさにどんどん眠気が広がって行き…。
「さて、今日のお客様はこれくらいかな。」
そう少女が呟いた瞬間、ドアにつけているベルの音が鳴り響いた。
「いらっしゃいませ。一名様、ですね。」
ーおわりー