断章/博士の手記
罪を犯した。
本当なら、懺悔室のような場所で罪を告白するべきなのだろう。
だが、この辺境の地ではそのようなものはなく、こんなとち狂った老ぼれの話を聞いてくれるような人もいない。なぜなら、人類がもはや消えつつあるからだ。人類は空前の灯火のようだ。
そも、私の罪は一生赦しなんて得られまい。そして、精神と肉体を蝕むドライオプティミズムによって、私は死という逃げの道に足を突っ込んでいる。
それでも、紙切れ一枚でも独白を書き残しておかなければ、死んでも死にきれないような気がするのだ。
私の罪は逃げたこと。さっき述べたことそのままだ。
人類が起こしたツケを、あの娘に押しつけて生涯を終えようとしていることだ。
これほどまでの重い罪は無い。
あの娘と同じ名を冠した星は、世界を救う方法を提示した。それに加えて、あらかじめ準備されていたかのようなあの隠された古代神殿。原因は人間が病みすぎたこと。
逃げられない。
それしか方法はないのだ。
しかし、だが、それは人間にとっては逃げではないのか?
考えるだけで死よりも恐ろしい。
だから、せめてもの報いとして、あるプログラムをセットしておこうと思う。
どうか私を憎んで欲しい。
どうか私を恨んで欲しい。
それが私のできる唯一の出来ること。
私がいなくなっても、自由の楽しく暮らしてほしかった。
この計画は成功しなくてはならない。
あの娘と同じ名の星は神殿の童話のように、あの娘を見ていてくれるだろうか。
祈りは絶えない。