第09話 幕間 幕間
ボクは財布。クグの財布。
クグが小さい時からクグのお金を預かってきました。
クグはよく財布を落とします。
ボクは頑張ってクグの元まで帰るのですが、お金を持って帰れたことはありませんでした。
ゴロツキに取られたり、通行料を支払ったり、ボクもお金を落としたりと、帰り着いた時にはいつもすっからかんです。
ある日、クグと出かけるときにボクは決心しました。
今日こそ必ずお金を持って帰り着こうと。
避けられないことなら楽しまなくてはなりません。
そして森の中にボクは一人。
お腹が空きました。この間、最後のお金でホットドッグを買ったことを思い出します。
ダメです。今回は全額持ち帰ると決心したのです。
無理なら仕方ないですけど。今日は焼き鳥がいいですかね。何本買えるかな。
突然近くの木になにかがぶつかって、木がボクに向かって倒れてきました。
足を挟まれ、動くことができません。
何かが激しく争う音がしています。
こんなところで終わるわけにはいきません。
絶対にクグの元に帰るのです。
僕はじっと息を潜めます。
やがて、戦いが終わったようです。
「インフェルノエパラディーゾリパラツィオーネ」
荒れ果てた森が癒されていきます。
こんな森の奥をわざわざ回復させるなんて、これをやってるひとはお人好しのようです。
助けを求めた方がいいでしょう。
「ぴー! ぴー!」
すぐ気づいてもらえました。
やさしく持ち上げられます。
「ぴー! ぴー!」
顔に傷のある人間と変な鎧が何か話しています。
そしてすぐに。
「アンダレ ア カーサ」
優しい力がボクを包みます。
帰れる。
クグの元へ帰れる。
「ぴー! ぴー!」
気づくと、街にいました。
帰ってきた。
とはいえ、クグと会うまでは油断はできません。
ゴロツキの野良財布も辺りを歩き回っています。
やつらにお金を取られないようにしないと。
それには焼き鳥を買ってお金を使い切るのが一番です。
持っていないものは取られません。
「財布!」
クグです。クグがいます。会えました。
クグの向こうに焼き鳥の屋台が見えます。
横をすり抜けようと走るボクを、クグが捕まえました。
暴れるボクをクグが抱きしめます。
「私だよ、財布、安心して、私だよ。すごい、お金が入ってる、減ってない、頑張ったんだね、すごいよ、財布」
落ち着きました。
クグの様子が変です。
濡れていません。看板に当たったコブもないし、犬の噛み跡もないし下水の匂いもしません。
「今日はすごいんだよ、財布、だけど一番すごいのは財布だよ、よく帰ってきたね、異世界一の財布だよ」
悪い気はしません。なんと言ってもボク以外クグの財布が勤まるものはいないでしょう。なんとも迂闊なクグですから。
おばあさんも最近体が弱って、一日に1000kmも歩けなくなってきたし、誰かクグを任せられる人がいればいいのですが。
クグを受け止められるような、お人好しな人が。