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第07話 存在理由 存在理由

 とある異世界の森の中に、曲がりくねった街道が通っている。


 その石畳の上の空中に、光の点が現れた。

 瞬く間に大きく広がり、砕ける。




「ユズル イン パズトゥス、インストール」




 砕けた光の中から人影がひとつ、現れる。

 黄色い金属光沢の鎧姿だ。


「ここが強力な異世界召喚術があるという異世界か」


「とりあえず出ろ」


 パズトゥスの体がガシャリと開く。


「よいしょ」


 中からユズルがごそごそと出てきた。

 伸びをしたり、腰をひねったりして体をほぐす。


 虹色のグルグルが回って少し処理落ちした。


「ユズルは初めて来る世界だ。最適化が長めにかかるかもしれないな」


「ささてて、誰に協力を頼めばいいのかななな」


「勇者召喚でこの世界に来て最強まで成り上がった地球人がいるはずだから、まずそいつに話をつけてみよう」


「なるほど。ここから近いのか?」


「前はこの近くに住んでたはずだ。あっちの方向だったかな。森を抜けると街があるはずだ」


 パズトゥスが街道の一方向を指差す。






 指さした先の街道に、赤い光がゆらめいた。






「地球の転生先候補の下見に来てみれば、獲物がかかったようですね、ユズルさん」




「ルビウスさん! なぜここに」


「そろそろさん付けやめないか? 敵だろこいつ」


「ルビウス! なぜここに」


「いい偶然です。さあ、転生しましょうね、ユズルさん。転生、転生、転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生転生」


「ひょえっ」


 ルビウスが赤い光を(まと)って襲いかかってきた。




 慌ててユズルが避けるが、ルビウスはユズルではなくパズトゥスに向かっていく。


「おっ?」


 パズトゥスが(かわ)そうとしたとき、虹色のグルグルが回って体が一瞬フリーズした。


 真っ赤に光る貫手(ぬきて)がパズトゥスの胸に突き刺さる。


「ぐっ……世界移動直後の処理落ちが……」


 パズトゥスが膝をついた。


「ふっふっふ、いいタイミングでしたね。しばらく動けないでしょう。あとはユズルさんの魂を引っこ抜くだけです。痛いけど我慢ですよ」




「くっ、俺なんぞどうにでもできるってか。だがか弱い抵抗は尊いんだとさ! インフェルノエパラディーゾ レベル565!」


 ユズルの必殺技がルビウスを襲う。


「あら、それ持ち技になったんですねえ。効きません」


 片手で止められた。


 そのまま軽く手をひねると、ユズルは吹っ飛ばされた。

 森の木々を薙ぎ倒して転がっていく。


「ユズル!」


「大丈夫だ!」


 パズトゥスの呼びかけに答える。

 いちおうは高レベルのため、ダメージは少ない。




「だが、強え。ルビウスってこんなに強かったのか。暴走トラックを相手にしたときは頼りにならなかったのに」


「そりゃあ、仮にも神の一角ですからね。徳政令で消耗していなければこんなものです。疲れるんですよ、契約破棄魔法って」




 ルビウスがバッと偉そうなポーズを取る。


「私はルビウス! トラック転生を(つかさど)る女神! ルビーの光を身に(まと)う者!」


「ルビーだからルビウスなのか」


「そうです」




「オレはパズトゥス! 失った記憶を求めてさすらう放浪神! トパーズの輝きを宿す者!」


 便乗してパズトゥスも名乗りを上げた。

 ルビウスの突きのダメージで膝をついたままだ。

 偉そうなポーズができなくて残念だね。


「え? トパーズをもじってパズトゥスなの? っていうかパズトゥスも神なの?」


「ちょっとひねってて分かりにくい名前だからな。いちおう神だ」


「ごめん、名前からして悪魔っぽいと思ってた。怪しい取り引きとか持ちかけてくるし」


「まあ、神も悪魔もあんまり変わらん」




「肝心のトパーズを失ってしまったパズトゥスさんは劣神といったところですね。そのせいで記憶もなくしてるんでしょう。説明セリフ!」


「そんな設定だったのか。説明とっちゃうと解説娘ちゃんに叱られるよ!」


「私のルビーは胸に埋め込んであるんですよ。見ますか?」


「いいの?」


「ダメです! えっち!」


「理不尽!」




 パズトゥスの胸のあたりを見てみると、確かに何も無いくぼみがある。


「ここにトパーズがはまってたのかな?」


「だろうな。ここは急所になっててな。さっきはルビウスにここを突かれて全身麻痺だ」


「まだ治らない?」


「まだだな」




「さあ! 会話中は攻撃しない戦闘マナーもここまでです。転生の時間ですよ、お覚悟!」


 ルビウスの纏うルビーの輝きが一段と強くなる。




「ユズル! 合体だ!」


「! おう!」


 パズトゥスが叫ぶと同時にその体がガシャンと開く。

 ユズルはカッコよくジャンプし、その中にすぽりと収まった。

 パズトゥスの体が閉じる。




「オレはまだ動けない。全部おまえに預けるぞ! 使え! オレの力を! ユーハブコントロール!」


「アイハブコントロール! イタリア語じゃなくていいのか?」


「これは技名じゃないから大丈夫」


 ユズルの神経にパズトゥスの回路が接続される。

 フッと、二人の間にあるものが何もなくなった。


(これが……パズトゥスの力)


 グッと拳を握り締める。


(……強い!)




「キエエエエエ! 転生エエエエエ!」


 金切り声でルビウスが迫る。


 パズユズは突き出された貫手を掴んで止めた。


「美人が台無しだぜ」


 そのままルビウスを放り投げる。


「美人は美人だい!」


 投げられながらもルビウスは空中から赤い光線を連射してきた。


 難なく打ち落とす。


「強いな! パズトゥス!」

「不意打ちされなきゃトパーズがなくてもルビウスにゃ負けんよ。勝てもしないけど」




「転生しろ! 転生しろ! 転生転生転生転生転!」


「ルビウスって転生させてないと死ぬの?」


「死にませんけど! それが私の存在理由! 英語で言うとレーゾンデートル!」




 ルビウスの連続攻撃を、(かわ)す、()ける、()らす、(はじ)く。


「何を言ってるんだ、レーゾンデートルはフランス語だ!」




「えっ、マジ?」




「マジ」




「ウソおおお! 恥ずかしいいいいいい!」


 ルビウスが地面でのたうち回り始めた。




 今までいろんな人に『英語で言うとレーゾンデートル』と言ってきたことを思い出す。

 あの人にもあの人にもあの人にも。


「道理で変な反応が! 言ってよ! みんな言ってよ!」


 ジタバタしてもう戦いどころではない。




「なんだかかわいそうだけど、チャンスかな」


「チャンスだな。やっちゃえ」


「おう! 神域に帰れ! インフェルノエパラディーゾ……アンダレアカーサ(家に帰れ)!」




 みっともなく地面に転がるルビウスのそばに、神域につながるゲートが現れた。

 ルビウスが吸い込まれていく。


「おお? 必殺技にこんな効果が」


「なんか使えた」


「オプションでいろいろできそうだな、その技」


「便利ぃ!」


「お得ぅ!」




「きゃあああああ!!!」


 ルビウスが抵抗している。

 抵抗は尊いね。


「おのれ、おのれえ! 恥をかかせた上に強制送還とは! いじわる! エゴイスト! えっち! 女子高生の前で緊張する童貞! いい歳して美少女フィギュアを集める変態!」


 ユズルの心にけっこうなダメージを与えてきた。

 なんで知ってんだ。


「戻ってくるからな! 私はまたユズルさんの前に現れて、必ず、転生、させてやるからなあああああああ」


 ルビウスを飲み込んでゲートが閉じる。


 森に静けさが戻った。




「ぐすっ」


「泣くなよ」


「泣いてない! これはただの涙だ!」


「泣いてんじゃねえか。ええやん。童貞でも変態でも」


 トドメを刺してきた。


「うえーん」


「もう泣け。泣き疲れるまで泣け。放っておいてやるから」


 優しいのか冷たいのか。

 ユズルは少しの間、パズトゥスの中で泣いた。






「さて」


 動けるようになったパズトゥスから出て、ユズルは森を見回す。


「荒らしちゃったな」


 戦いで森の木々は倒され、地面はえぐられていた。


「直せるかな? インフェルノエパラディーゾ、リパラツィオーネ( 修 復 )


 えぐれた地面が平らになり、倒れた木の根本から若芽が伸びてきた。


「できた」


「やるじゃん」


「ご都合」


「主義!」




「ぴー! ぴー!」




「ん? この声は」


「あっちからだな」


 倒れた木にはさまれて、何かがジタバタもがいている。


「大丈夫か? 今どかすからね」


 木の下にいたのは、手のひらに乗るくらいの小さなものだ。


 それは四つ足で短い尻尾があり、つぶらな目と丸い耳がついている。

 手触りは布っぽく、見た目はだいぶぬいぐるみだが、動いている。鳴いている。




「ぴー! ぴー!」




「これは財布だな」


「財布」


「ああ。この世界の財布だ。背中のところにお金を入れておけるんだよ」


「背中にお金」


「こいつは迷子かな? 持ち主が落としてはぐれたんだろう」


「迷子」




 理解するのにしばらくかかり、受容するのにもしばらくかかった。




「つまりこの子はこの世界の財布で、持ち主とはぐれて迷子なんだな」


 受け止められたね。よかったね。


「かわいそうに、持ち主も困ってるだろう。帰してやらなきゃ。アレが使えるかな?」


「やってみるといい」


「インフェルノエパラディーゾ アンダレアカーサ( おうちにおかえり )




 小さなゲートが現れた。

 財布が吸い込まれていく。


「ぴー! ぴー!」


 なんとなく財布が嬉しそうだ。

 なんて言ってるんだろうね。


 財布を通して、ゲートが閉じる。


「帰れたかな?」


「きっと大丈さ! 信じるんだ! 幸せな結末を!」


「まあできることはやった」


「じゃあ本来の目的に戻るか」


「なんだっけ」


「えーとアレだ、勇者に会って地球を召喚してもらうんだ」


「そうだった。もしかしてさっきの財布が勇者ので感謝されてすぐ協力してもらえるみたいな流れかな?」




 それはどうかな。




「え、違った?」




 それはどうかな。




「どうなんだよ」




 うるせー! 展開予想するな!




「あ、ごめんね」


「めんご」








「じゃあ行くか。街はどっちだっけ」


「あっちですよ!」


「あれ、解説娘ちゃん」


「死ぬかと思いましたよ! 今回なかなか解説が無いんですもん!」


「あぶなかったね」


「ちなみに勇者は今街に住んでいませんよ! どこにいるかは街で聞き込みしてくださいね!」


「そうなんだ。解説娘ちゃんは教えてくれないの?」


「そこは流れです!」


「そっか。聞き込み中に何かイベントが起きるのかな」




 展開予想するなって!




「めんご」







 ユズルとパズトゥスは街を目指して森を歩いていく。


 ユズルにとっては初めての異世界の街だ。




 どんなことが待ってるんだろうね。




「ぴー!」




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