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第05話 暗黒 暗黒

 ユズルと、ユズルを体の中に収めたパズトゥスとがぐんぐんと上昇していく。


 雲を突き抜ける。突き抜けた先にもまだ上層の雲が真っ青な空を背景に広がっている。やがてそれをも突き抜け、雲ひとつ無い広大な蒼穹が広がる。進むにつれて、空の青はだんだんと濃く、暗くなっていく。


星が見えてきた。




エネルギー(パズトゥス力)節約するためにひとまず周回軌道に乗っておくぞ」


 パズトゥスが水平方向に加速し始める。秒速7800メートルの速さに達するまで。

 達してしまえばあとは何もしなくても地球の周りを回り続ける。


「他の人工衛星と干渉しないように高度150000メートルの超低軌道を回っとく」


 さっき何もしなくてもって言ったけどあれ嘘。


 この高度だとわずかに存在する大気の抵抗を受けるので、ちょっとだけ進行方向へ力を加え続けなければならない。

 でもだいぶ節約できてるよ!




「解説するなら私を呼んでよ!」

 解説娘ちゃんが文句を言った。




「プラネットトラックの表示が見えたのは北の方の空だったが……あった。この高さから見ても上の方に見えるな。かなり遠くにいるみたいだ」


「この表示って何で見えてるんだ?」




「パズトゥスさんはもともと見られるという設定で、ユズルさんは暴走トラックに轢かれたときに転生トラックへの感受性が高まってそのあと神域がなんやかんややってくれて見えるようになったって設定ですよ! はー解説するの気持ちいー」




「おや、解説娘ちゃん。宇宙で生身で大丈夫なの?」


「眼鏡さえあれば、真空なんてへっちゃらです!」


「そっか。解説ありがとう」


「どういたしまして。ではまた解説が必要な時は勝手に出てきますね!」


 解説娘ちゃんが軌道を離脱して地球に向かって落ちていく。

 大気摩擦で赤熱し始めた。


「摩擦じゃなくて断熱圧縮ですよ! 解説解説!」


 そうでした。へっ、解説できて良かったな!






「なあ、プラネットトラックの名前にα(アルファ)ってついてるのが気になるんだが」


β(ベータ)もいるかもしれないってか? ありそうだな」


「自分が着てる鎧と会話するって変な感じだ」


「あ、いたぞ。β(ベータ)




 北極の上空を通りすぎる極軌道を飛び続け、南半球にさしかかって【プラネットトラックα】の表示が地球の向こうに見えなくなってしばらくして、進行方向の地平線から【プラネットトラックβ】の表示が昇ってきた。




【転生プラネットトラックβ(ベータ)

【木星103 こ 37-56】

【レベル 14090852730402】




「地球を挟んでアルファとベータがだいたい反対側にいるみたいだな」


「やっぱり地球に向かってきてるのかな? ご丁寧に惑星サイズのトラック二台で地球を挟み潰すつもりか」


「登録地名が木星になってるのは何なんだろな」


「どういう事情か知らんが木星から来たんだろうよ。そのうち解説があるんじゃないか?」


「アルファとベータだけかな? ガンマとかシグマとかいないだろうな」


「二つだけみたいだな。で、あとはどうする」


「プラネットトラックの近くまで行ってみたいけど……行けそう?」


「大丈夫だ。どっちからにする」


「アルファの方から行ってみよう」


「じゃあ行くぞ」




 パズトゥスが転生プラネットトラックα(アルファ)に向かって加速する。


 地球の周回軌道から外れる。


 地球が遠くなっていく。


 地球を振り返る。


 青い。


「守ってみせる! とまでは言えないけど」


 ユズルはつぶやく。


「守れるんなら守るからな!」


「そんくらいの心がまえでちょうどいいだろ」








『♪ フェアウェル アンド アデュー トゥ ユー スパニッシュ レイディス ♪ フェアウェル アンド アデュー トゥ ユー レイディス オブ スペイン ♪』




 漆黒の宇宙空間に歌声が流れている。


 著作権は切れてるから歌詞を載せても大丈夫!


『♪ フォー ウィ レシーブ オーダーズ フォー トゥ セイル フォー オールド イングランド ♪』


『漆黒の』宇宙といってもそれは背景の話で、ここには大気に和らげられた地球の地表よりもずっと強い太陽光が満ちている。


 そんな太陽光を受けながらもまったく反射することのない暗黒の領域が、星の海に黒い輪郭を描いていた。


 巨大だ。


 地球より大きいかもしれない。




「なんだこの歌」


「あの暗黒の領域から聞こえてくるみたいだな」


「なんで真空中で声が伝わってくるんだ?」


「そこに突っ込んだら負けだぞ」


「負けた!」


「今まで何百回と使われてきただろう宇宙ネタあるあるをあえて持ち出すユズルさん勇気あるぅー」


「言わない勇気より言う勇気!」


「それで、あの暗黒の領域の中に転生プラネットトラックαがいて、ご機嫌に歌ってるってわけかね」


「表示も出てるし、そうなんだろう」


「しかし、こんな巨大な物なら地球から発見されて大騒ぎになってそうなもんだが」




「おやおや解説が要るようですね、アイム解説娘ちゃん! まずあの暗黒の領域はプラネットトラックαが展開する隠蔽フィールドです。効果は電磁波を全て吸収するという単純なもの」


「突然の解説娘ちゃんにも慣れたなー」


「それだけでもう光学的な観測は不可能で、あとは背後の星の光を遮るところを見つけるしかないわけですが、今の地球とプラネットトラックの距離は1億km以上! 巨大といっても視直径は点のようなもの。そうそう見つかりません」


「ほう」


「そして現在の位置関係だとプラネットトラックは地球の昼側の空に位置するので地上の望遠鏡では観測不可能! 宇宙望遠鏡は全天の監視には不向きです」


「事情通だなあ」


「そんなわけでまだ見つかってないのです! さよなら!」


「さよなら」




 解説を聞いている間にもユズルとパズトゥスは隠蔽フィールドに向かって高速で進んでいる。

 前方はもはや暗黒が視野いっぱいに広がっていて、ちゃんと近づいているかどうかも判然としない。


 唐突に、目の前に巨大なトラックの姿が現れた。

 隠蔽フィールドを抜けたようだ。

 目の前といってもまだ500km以上は離れていそうだが。


 惑星サイズの転生トラック。

 フロントガラスはオーストラリア大陸よりも大きい。

 幅2000kmはあろうかというナンバープレートには、




【木星102 う 44-99】




「でかいな」


「でかいな。とにかく着陸してみよう。この大きさだと重力もあるみたいだ。よく自重で潰れないな」


 広大なフロントガラスの上に降り立つ。




『♪ フロム アッシャント トゥ シリー イズ サーティファイブ リーグズ ♪』


 歌声が止まった。




『ようこそ。ようこそ尊き抵抗者よ』




 声が響いた。歌っていたのと同じ声だ。


「尊き抵抗者だと?」


『我々を止めに来たのであろう。地球を轢き殺させまいとして、か弱い、蟷螂(とうろう)よりも小さな斧で立ち向かうというのであろう。これを尊いと言わずして何と言う。健気(けなげ)な!』


「余裕だな。しかしやっぱり地球にぶつかってくるつもりなのか。全人類をまとめてトラック転生させようってのか」


『全人類とな?』


「ん? 違うのか?」


『正確ではないな。我々が転生させるのは、地球そのものだよ。人類も含まれてはおるが』


「地球そのもの……? どういう意味だ」


『そのままだとも。地球そのものの魂を、ルビウスの元へ運ぶ。それが我々の使命、転生トラックギルドによる地球転生作戦だ』


「地球の魂って……地球にも魂とかあるのか」


『もちろん、無いぞ』


「は?」


『ついでに言えば、お前たち人間にも、魂などは無い。魂無き物質世界、それがお前たちのこの世界だ。我々転生トラックによって殺される時、お前たちに魂が()()()のだよ』


「え……」


『転生トラックの荷台には、魂原基(アーキソウル)が積まれておる。転生トラックの高エネルギー衝突による破壊的スキャンによって対象の全存在を読み取り、アーキソウルに転写するのだ』


「……」


『魂無き者は死ねば消滅するのみ。そのような者たちに不滅の魂を与え、永遠の輪廻に導くこと、物質世界の救済こそが我ら転生トラックの役目』


「それじゃ……俺にも魂は無いのか……? でも」

「いや、それはな、ユズル、」




「なんで私を呼ばずに解説するのよおおおおお!!!」




「うわ!」


 解説娘ちゃんが泣き喚いた。


「解説! 解説させて! ヒュー……ヒュー……解説を……解説を……」


「解説娘ちゃんって、解説しないと死ぬの?」


「死にますよ。今まで何人の解説娘ちゃんが解説できずに死んでいったことか!」


「いっぱいいるのかよ」


「さて解説です! ユズルさん! 魂の件ですがー、ユズルさんにー、魂はー…… ありまあす!」


「あるんだ」


「一度ユズルさんを殺した暴走トラックも一応転生トラックですからね。しっかり魂原基(アーキソウル)に読み込まれていますよ!」


「それで修復したユズルの肉体を甦らせるために、オレが魂をインストールしてやったってわけさ。ルビウスはパズルは手伝ったくせに魂突っ込むのは邪魔してきてめんどかったぜ」


「そんなことになっていたのかあ」


「いたのだあ」


「あらためて、生き返らせてくれて、ありがとう、パズトゥス!」


「へっ、よせやい。所有物の世話は所有者の責任だぜ」


 握手をしたいような雰囲気になったが、ユズルは今パズトゥスの中にいるのでできなかった。




『解説は終わったかな? では君たちの尊い抵抗を見せてくれ。か弱き抵抗を! 無駄な抵抗を!』


「舐めてやがるな……やるだけやってやらあ! パズトゥスもいっしょに頼む!」


「おう!」


「インフェルノ エ パラディーゾ レベル565!!!」


 神域で編み出した必殺技は、しっかりとユズルの身に定着していた。

 565のレベルを上乗せして、足元に広がるプラネットトラックのフロントガラスに撃ち込む!


 ユズルを包むパズトゥスのパズトゥス(ちから)も加算された。




 凄まじい爆発。閃光。爆音。衝撃。熱。




 ガラスが溶け、後には直径100メートルほどのクレーターができた。


「……どう?」


 『よくやった。頑張ったな。すまないが、まるで効いていない。だが尊いぞ。尊い』


 惑星サイズの転生トラックにとっては、100メートルの傷もかすり傷にすら達しない。


「どうすれば死にますか!」


『仮に私を殺せるとしても、やめておけ。今、私が地球へと向かう運動は、この世界の物理法則に従って地球と交差する軌道に乗っているに過ぎん』




 解説が始まったけど解説娘ちゃん来ないな。さっきの解説で満足したかな?




『私を殺したところでその動きは止まらない。そのまま地球にぶつかることになる。その時に私が死んでいれば、地球は転生することもなく滅ぶことになるぞ』


「うむむ、八方塞がり! いったいどうすれば」


『頑張れ。もがけ。あがけ。尊く、尊くな』






「タイム、タイム!」


 ユズルとパズトゥスは休憩を取った。


「強えーなこいつ」


「パズトゥスの勘は何か伝えてきませんかね」


「明日の自分を信じろと」


「そうか、よし! 第06話までに何か考えておこう! 何とかなるだろ!」


「なるなる。きっとなる」






 そうだ! 自分を信じろ!


 なんとかなる! なんとかなるさ!




 続く!




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