第40話 ガソリン ガソリン
高瀬菜月:
「なあ、携帯倉庫に入れてあるガソリンがそろそろ無くなりそうなんだけど」
主人公高橋譲敬徳:
「それは大変だ。近くにガソリンスタンドあるかな?」
放浪神パズトゥス:
「あるわきゃねーだろ」
ピックアップトラックぬ2772:
『ガソリンが無いとお腹が空きます』
ベテルギウス・クグ:
「セリフの前に名前が出てるのは何なんですかね?」
地の文:
誰がしゃべってるか分かりやすいようにという配慮だよ!
解説娘ちゃん:
「これは『台本形式』といって、これをやると小説の書き方に厳しい人からすっごく怒られますよ!」
地の文:
えー、分かりやすいのに。
パズトゥス:
「ダメなのさ。なぜダメなのかを理屈で説明できた人を見たことないけど、とにかくダメなのさ」
女騎士レイミー:
「カーナ様、名前が出ているうちに何か喋っておきましょう!」
悪役令嬢カーナ:
「あいうえお」
狂信者工藤鈴:
「敬徳さまーっ、けあーっけあー!」
工藤鈴の妹ちゃん:
「宵闇の迫る東京都中野区新井薬師はいつになく人影もまばらで、少女メリィは言い知れぬ不安を感じていた」
地の文:
ほら! 分かりやすいよ! 名前がなかったら誰のセリフかわかんないのがいくつかあったよ!
パズトゥス:
「ダメだ。普段『小説は自由に書いていい!』とか言ってるやつでもこれに関してはメチャクチャ叩いてくるからな。やめといた方が無難だ」
地の文:
ちぇっ。
「誰が話してるか明確にしたいなら、セリフの後に『と〇〇が言った』みたいにつければいいですよ!」
と、解説娘ちゃんが言った。
似たようなもんじゃん。
と、地の文が言った。
「似たようなもんだけどこっちはオッケーなのさ。なんでだろうね」
と、パズトゥスが言った。
「だから、ガソリン! ガソリンが無くなるって! このままだと『ぬ2772』が走れなくなるぞ!」
と、菜月が話を戻した。
えらいね!
まったく、みんな脱線ばっかするんだから。
「おまえもだろ」
「どうにかしてガソリンを手に入れないとだね」
またズレて行きそうになった話をユズルが戻す。
えらいね! さすが主人公。
《寄り道イベント ガソリンを確保せよ!》
こんな表示が画面に現れた。
「画面?」
「この世界にガソリンってあるか? 石ころに転生してここで18年間過ごしてきたユズル君や」
説明セリフを混ぜてパズトゥスが訊ねる。
「ガソリンスタンドは見たことないな」
「だろうね」
「アスファルトが産出するんだから地下に石油はあるんだろうけど、採掘できたとしても原油からガソリンを分離するのは無理かなー」
「けっこう高度な技術らしいからな」
「神域でポイント使って増やせませんか?」
と、クグからの提案。
「神域は今、ご都合主義を抑制するためのメンテナンス中で使えませんよ!」
解説娘ちゃんの解説。
便利すぎるもんね。
使いすぎはダメだよね。
「どうする? いったんオーバースペースに戻ってオーバーガソリンスタンドでオーバー給油してくるか?」
菜月の提案。
「拒絶空間を通り抜けるのにかなりガソリンを消費してしまうので、ちょっと効率が悪いですね」
ぬ2772が否定的見解を述べる。
「軽油なら提供できるのだが、必要なのはガソリンなのかな?」
アルファが相談に参加してきた。
「ピックアップトラックのサイズでガソリンエンジンって珍しいわね」
ベータも口を挟む。
アルファとベータって誰だっけ。
「地球を潰そうとしていた惑星トラックαβを前世に持つお二人ですよ! この世界に人間として生まれ変わっています! ヒッチハイクしてユズルさんたちに同行してるところです!」
と解説娘ちゃん。
そうだったそうだった。
「私は北米仕様ですから。へっ、ディーゼルどもは軽油飲んで満足してな! 私はおいしいガソリンを飲みますからね!」
ぬ2772さんがアルファとベータを罵る。
ぬ2772は転生トラックが嫌いだね。
昔バカにされてたからね。
「私たちは転生トラックの一種だったと言っても、木星生まれで君達をバカにしたことは無いのだがな」
「無いわね」
「うるせー! いっしょだ! 転トラどもは滅べ!」
「アルファさんたち、軽油持ってるの? この世界でどうやって軽油を?」
ユズルが訊ねた。
「私もベータも、この世界に生まれてきた時に軽油の入った小瓶を握り締めていたのだ。前世が惑星トラックだったからな」
「私もアルファも、スキル《ディーゼル機関》を持ってるのよ。軽油を飲んでパワーに変えられるの。前世が惑星トラックだったからね」
「《軽油の小瓶》に砕いた魔石を入れて『軽油よ軽油よ生まれておいで』と唱えながらシャカシャカすると小瓶に軽油が満タンになるのだ」
「私たちのレベルが上がるとともに《軽油の小瓶》は《軽油の一升瓶》→《軽油の一斗缶》→《軽油のドラム缶》と成長していったのよ」
「普段は小瓶の形をしているがな。これだ」
アルファが首から下げた小瓶を見せてくる。
けっこうかわいいデザインだな。
「それでガソリンも増やせないかな?」
とユズル。
「いや、軽油の小瓶はあくまでも軽油を生み出すものだからな。ガソリンは作れない」
「じゃあその軽油の小瓶を参考にして《ガソリンの小瓶》を作成する、って流れになるのかな?」
そういう流れになるね。
「俺たちの中にそういう解析系の能力を持ってる人っているかな?」
誰も手を上げない。
いないようだ。
解説娘ちゃんが解説しようとして『ご都合主義抑制拘束具』に口を塞がれて暴れている。
今回はけっこう解説したんだから黙っとれ。
「私の弟のカリーがそういうのが得意だぞ!」
と、レイミーが言った。
「そういえばカリフェルドントフォスコフォリオポリデステロプウフ君が解析系のスキル持ってたっけ」
とユズル。
「怠け者のカリー君がやってくれるかな?」
とカーナの疑問。
「『働かせるぞ』と脅せばやるでしょう!」
「じゃあまずメデュア家に向かいますか」
「ジュールが人間になったことも報告しなければならないしな!」
そんなわけでね。
レイミーの実家に向かうことになったのさ。
つづく!
「いやまだこの回終わってねーよ。港に行くのにメデュアトンネル通るルートだったからちょうどいいな」
ユズルのくせにツッコんで来やがった。
おまえはボケ役だろ!
「また脱線しそうだ。早く行こうすぐ行こう。案内頼むぞ、ユズル」
「まかされた! ぬ2772さん、とりあえずこのまましばらく道なりで」
『はい、このまま道なりですね、敬徳さん』
「4キロメートル先、左折です。そのあとすぐ、右方向です」
ユズルナビが経路を支持する。
便利だね!
「このピックアップトラックというのは一種のゴーレムなのかな? ゴーレム好きな家族が喜びそうだな!」
レイミーが雑談を始める。
『ゴーレムの定義にもよりますけど似たようなものかもしれませんね』
「中身のない鎧のパズトゥスさんもゴーレムなの?」
とカーナ。
「オレは神だっつったろ。神の定義にもよるが」
「ぴー! ぴー!」
「この財布ちゃんもゴーレム?」
「財布は財布ですよ!」
とりとめのないおしゃべりを続けるパズトゥスご一行様を乗せて、トラックはきれいに舗装された街道を快適に走っていく。
メデュアの町はもうすぐだ。
つづく!
「またかよ。まだ終わってないってば」
♢ ♢ ♢
「♪ 働きたくない 働かない ♪ ぜったい ぜったい 働かない ♪ 怠けろ 怠けろ 怠けろ 休め! ♪ 指一本でも 動かすもんか ♪」
「カリー! カリー! カリーカリーカリーイイイィ! 働け! 働け! 働くんだ!!」
ゴーレムマッサージチェアに身を預けたカリフェルドントフォスコフォリオポリデステロプウフ君がご機嫌に歌っている。
そこに、レイミーがドアを蹴破って入ってきた。
後に続いてユズルたちも入ってくる。
カリ(省略されました)君がジロリとレイミーに目を向ける。
「話が違うよ姉さん。フラワーゴーレムのレシピを渡したときに、これでしばらく働かなくていいって話になったはずだよ」
「そうだったな!」
「あれから1年しか経ってないのに、もう働けって言うの」
「話は変わるがジュールが人間になったぞ! これだ!」
レイミーがユズルの首根っこをつかんでカリ(省略されました)の前にぶら下げる。
「やっほー、ジュールこと高橋譲敬徳だよ。今後ともよろしく、カリフェルドントフォスコフォリオポリデステロプウフくん」
「へえ。なんで人間なんかに。貝になればいいのに。あくせく働くこともない、女房と子供を養う必要もない、貝になればいいのに」
「貝高評価だね。カリ(省略されました)君が来世で貝になれるようにルビウスと交渉してあげよっか?」
「ルビウスぅ? アレは転生者しか相手にしてくれないでしょ」
「俺、転生者。ルビウス、交渉、できる。そのかわり、カリー、こちらの頼み、きく」
なんでカタコト?
「うーん」
「働けカリー! さもないと知らない土地で飛び込みの営業50件周らせるぞ!」
レイミーが弟を脅迫する。
ひどいね!
「死んだ方がマシだ! 鬼! 鬼姉!」
「想像してみろ、知らない人に話しかけて売ってる方も何がいいのか分からん商品を売りつけようとする自分、相手の迷惑そうな表情」
「ああああ営業だけはいやだ営業だけは」
「ならばこの軽油の小瓶を解析するのだ! 人に会わなくていい仕事だぞ! さらに今なら? ジュールによるルビウスへの交渉もおまけで付いてきます! お得!」
「やる、やるから営業だけは」
カリ(省略されました)君が泣きながら軽油の小瓶を解析する。
ああ
労働とは、なんとつらいものなのだろう
人類を労働から解放せよ!
「できたよ。これレシピね。この中の『軽油』を『ガソリン』に置き変えれば《ガソリンの小瓶》ができるから。もう体が動かないから僕は寝る。来世は貝でお願いね」
「よくやった! もう用済みだ寝ろ!」
がんばったね。
つらかったね。
あわれな労働者よ
安らかに眠れ
カリ(省略されました)君のスキルで自動書記されたレシピブックをみんなで覗き込む。
「ふむ、必要な素材は、酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化ベリリウムと酸化ミスリルと酸化オリハルコンと酸化アダマンタイトと酸化ヒヒイロカネと酸化スライムと酸化ドラゴンか」
「だいたいメデュアダンジョンで採れそうだな」
レシピを読み上げるパズトゥスにユズルが言う。
「メデュアダンジョン?」
「メデュアトンネルを掘ってるときに掘り当てたダンジョンだぞ! 酸化物が多く採れるのが特徴!」
「別名、酸化ダンジョンだよー。メデュアの町の集客に貢献してるんだー」
レイミーの説明にカーナが補足を入れた。
「必要素材は全部メデュアダンジョンの最下層でまとまって採取できる、とレシピに書いてあるな。合成に必要な高温高圧環境もそこで得られると」
「そこまで分かるんだ。名前の長げー小僧の解析スキルってなかなかすげーじゃん」
菜月が感心している。
(私の解説のほうがすごいですよ!)
口を塞がれた解説娘ちゃんが脳内に語りかけてくる。
うっせーな。
「とにかくそのメデュアダンジョンとかに向かおう。近いんだよな?」
「そりゃまあ。メデュアの町はもともとトンネルを掘るために作られた村だったからね。すぐ近くだよ」
「最下層に行くなら町外れにある井戸から地下5階までショートカットできるぞ! 緑色のタコがいるけど私たちなら瞬殺!」
「されるの?」
「するの!」
ユズルのボケにレイミーのツッコミ。
やっぱりユズルはボケ役だよね!
てなわけでメデュアの屋敷から外に出ると、レイミーの両親たちがいた。
庭で待っててもらっていたピックアップトラック【ぬ2772】の周りをぐるぐる回りながら熱心に観察している。
「ゴーレムかい? これゴーレムなのかい? すごいね、ゴーレムすごい。かっこいい!」
『ゴーレムの定義にもよりますけど、似たようなものかもしれませんね』
「なんて精巧な作り。これがジュールの言う『自動車』の実物なのね。やっぱり本場のは違うわね」
『お褒めに預かり光栄です。さっき拝見したあなたがたのゴーレムもなかなかいいと思いますよ』
「父上! 母上! ただいま!」
「おかえり、レイミー。人間になったジュールってどれ?」
「これ!」
レイミーがユズルの首根っこをつかんで両親の前に突き出す。
それにしても異世界のくせに情報伝わるの速いね。
物語上の都合かな。
「娘に近づく男は抹殺! インフェルノエパラディーゾォ!」
レイミーのお父さんが必殺技でユズルに襲いかかってきた。
娘が男を連れてきたら男親はこうだよね。しかたないね。
「インフェルノエパラディーゾ フォンダトーレ!」
ユズルも必殺技で迎え撃つ。
両者の拳がぶつかり合った。
「ぬうう『元祖』がついててかっこいいい!」
「かっこいいだろおおお!」
ずどーん
レイミーのお父さんがぶっ飛ばされた。
元祖の方がかっこいいもんね。しかたないね。
「よいしょっと」
レイミーのお母さんがぶっ飛ばされたお父さんを抱き止めた。
お父さんをぶっ飛ばしたユズルがビシッとポーズを決める。
「娘さんはいただいていきます!」
「おのれえええ、ところで話は変わるが」
ユズルを睨みつけるお父さんが急に真面目な顔になった。
何だ? シリアスは禁止だぞ!
「ジュール。君のおかげで私たちの元にレイミーが生まれてきてくれた。……感謝する」
「どういたしまして。石ころ生活も悪くなかったですよ」
「私の大事なインビンシブルゴッド天使アルティメットインフィニットビクトリーファイナルスイートをよろしく頼むわね」
お母さんも微笑んで言う。
「まかせてください。安請け合いでもきっと果たして見せます」
「両親へのあいさつも済んだな! では父上、母上、私はお嫁に行きます! とんかつ! がんもどき! ドーナッツ!」
「レイミーも元気でな。ジュールにいっぱい迷惑をかけるんだぞ」
「元気でね、レイミー。あなたは強いけど、仮に弱くても負けても足手まといでも役立たずでも厄介者でも、気にせず生きていくのよ」
「はい!」
チャリラリラリラーン!
ファンファーレが鳴った。
『レイミーが18歳になりました。あんしんフィルターの制限が全て解除されます』
アナウンスが流れる。
「そういえば今日誕生日だった!」
「そういえば今日誕生日だったわね」
本人も家族も忘れてたみたいだ。
「でも大丈夫! いつ誕生日が来てもいいように、普段からバースデイケーキは時間凍結して持ち歩いてるからね! さっさとお誕生会を済ませましょう」
レイミーの母が携帯倉庫からケーキや鳥の丸焼きやシャンパンやらを取り出す。
だいぶ唐突だが、メデュア家の庭でレイミーとカーナのお誕生会が始まった。
誕生日が近いので毎年いっしょにやってるのだった。
また邪神の島に行くのが遅れるね。
ドンマイ、パズトゥス!
「母上、バースデイケーキにチョコで書いてあるやつが『17歳おめでとう』になってますが」
「去年の誕生日に間違えて『18歳おめでとう』のケーキを使っちゃったからね。今回はこっちを使いましょう」
「ヘイヘイ、ジュールさん、くっころくっころ!」
「ジュールはへんたいでどうていなんだな! もう私にも意味がわかるぞ!」
プシュプシュプシュプシュ
「へえ、おっさん、童貞なんだ。へえ。へえ」
「私も処女ですよ! ユズルさん!」
「敬徳さまが未だ清らかなお体! けあーっ!」
プシュプシュプシュプシュ
誰がどのセリフを喋っているかは、セリフ内の情報で判別してね。
ユズルの呼び方なんかは重要な判断材料だよ!
楽しいお誕生会も終わって、パズトゥスご一行はメデュアダンジョンへと向かう。
今度こそ、つづく!
♢ ♢ ♢
メデュアの町外れに、小さな石碑が草に埋もれて立っている。
そこには、こう刻まれていた。
『書き始めた時はこの回の内にダンジョンクリアまでもってくつもりだったんだって。見通しが甘いね。あきれたもんだ』
あきれたものだね!




