第39話 快適 快適
「ところで前回殺されたテツヒロ君ってトラック転生じゃないっぽいけど、どうやって拒絶空間に囲まれたこの世界に入ってきたのかな?」
やっべ、設定ミスだ。
「辻褄合わせは解説娘ちゃんにおまかせ! 存在しない設定でも解説してみせます! 実は拒絶空間に囲まれた世界同士は、ごく稀にリンクがつながることがあるのでーす!」
「へー、そんな設定が」
へー、そんな設定が。
「その設定に加えて、この前パズトゥスさんたちがこの世界に侵入した影響でリンクができやすくなってなんやかんやあってテツヒロさんが異世界転移したのでーす」
そうだったのか!
なんやかんやあったんだな!
「ゲームキャラの姿になっていたのは拒絶空間を通り抜けるときに持っていたゲーム機内のデータと混ざってしまったという設定!」
「この設定、あとで再利用したりするのかな?」
しないだろな。
その場をしのげりゃいいんだよ!
「閑話休題!」(無駄話をやめて本題に戻すという意味)
「妹がまた難しい言葉を……!」
『あ、道がよくなりましたね』
ユズルたちを乗せて街道を走るピックアップトラック【ぬ2772】さんが言った。
「ルヴォル侯爵領に入ったねー」
それを受けてカーナが言う。
「うちの家は街道整備に熱心だからー」
【ルヴォル侯爵領 ここから】
そう書かれた標識を境に、道幅が広くなり、路面がしっかり舗装された道に変わっていた。
「昭和のころの貧乏県と金持ち県との県境みたいだな」
大物総理大臣を出した県は道路にかける金も潤沢だったね!
「アスファルト舗装だ。異世界のくせにやるじゃん」
菜月が道路を見てつぶやいた。
「ジュールさんが教えてくれたんだよー。アスファルトが舗装に適してるって」
「へえ、ちゃんと現代知識チートをやってたんだな、ユズル」
「おかげで天然アスファルトを産出するお隣の伯爵領も儲かってるそうだぞ! 今まで接着剤や防腐剤くらいしか使い道がなかったものが大量需要でウハウハだそうだ!」
『走りやすいですー』
「揺れませんね!」
「文字だけだと誰がどのセリフを喋ってるかわからんな」
道がよくなって移動スピードがだいぶ速くなった。
快適快適。
「ん? あれって線路?」
道路に沿って工事が行われていた。
積み上げられたバラスト。
等間隔に並べられた枕木。
その上に敷かれた二本のレール。
「鉄道まで作ってんの? これもおっさんの知識チート?」
「そうだよー。ジュールさんのいーかげんな知識を侯爵家の家臣が現実化してくれてるんだー」
「優秀だな、縦ロールの実家」
工事現場を通り過ぎると、出来上がった線路が街道に沿って続く。
「ちゃんと線路だな。上を走る機関車はできてんの?」
「ゴーレム機関車を開発中だよー」
「今線路を走って来てるあれがそうかな?」
ぽーーーー
汽笛を鳴らしながら、線路の上を機関車が走ってきた。
「シュシュポポシュシュポポ」
蒸気機関というわけではないので、この汽笛としゅしゅぽぽは機関車の上に付いているゴーレムの頭が口で言っているようだ。
「あら、完成してたんだ」
機関車の窓から誰かが手を振っている。
ブレーキ音を鳴らしてゴーレム機関車が止まった。
こちらも車を止める。
初老の男性が機関車から降りてきた。
「カーナ!」
「おじいさまだー。やっほー」
「やっほー。元気そうだな。皇妃教育など受けさせられて弱ってるかと思ったが」
「サボってたから大丈夫だよー」
降りてきた男性は、カーナの祖父、現ルヴォル侯爵だった。
「婚約破棄されたそうだな。この国の将来を心配してたがこれで安心!」
「あんしんだね! 代わりに皇太子妃になるミリカさんは優秀だよ!」
「よかったよかった」
「ウェーイ」
「ウェーイ!」
パァン! と二人でハイタッチ。
「ところでカーナ。当事者であるお前のコネで、わしの名前を婚約破棄事件の現場に刻んでもらうわけにはいかないだろうか」
「だめだよー。名前を残すのはその場にいた人だけの権利だよ」
「むう、ベルタ侯爵のヤツが手紙で自慢してきてウザいんだよう、悔しいんだよう」
「耐えなきゃ!」
「パーティーに出席すればよかった!」
「ご無沙汰しております! 侯爵閣下!」
レイミーがトラックから降りてビシッと騎士の敬礼をする。
「カーナの側付き兼護衛、ご苦労だ。騎士レイミー」
「『おんな』を付けてください! 女騎士レイミーと!」
「なんか響きがいかがわしくないか、それ」
「ジュールがそう呼んでいますので!」
「そういえばジュールが人間になったそうだが、どいつかな?」
「こいつだよー」
「こいつです。侯爵閣下」
カーナとレイミーがユズルの首根っこをつかんでルヴォル侯爵の前に突き出した。
「どうも。この姿では初めまして。俺の名は譲、姓を高橋、字は敬徳といいます」
「ふむ、君があの石ころの中の人か」
「はい」
ユズルが鎮静ヘルメットを脱いで顔を見せた。
「む、眉間の傷がかっこいいな」
「かっこいいでしょう!」
「対抗して手袋を脱ぐぞ!」
「あ! 手の甲に魔法陣が! かっこいい!」
「かっこいいだろう!」
ユズルとルヴォル侯爵がしばし睨み合う。
ややあって、ユズルが口を開いた。
「『この鉄道は』」
「むっ」
「『日本国民の』」
「ぬぬ!」
「『叡智と努力によって完成された』!」
「うわああああかっこいいいいいいい!」
「『この鉄道は日本国民の叡智と努力によって完成された』!」
「かっこいいよおおおおお、日本ばっかずるい!」
東京駅にひっそりと掲げられた、東海道新幹線の完成を記念して設置された銘板に刻まれている言葉である。
これかっこいいよね!
ルヴォル侯爵がどっからか青銅でできたプレートを取り出して頭上に掲げた。
『この鉄道はルヴォル侯爵領民の叡智と努力によって完成された』
と刻まれている。
「わが領内に鉄道を開通させて、中央駅にこの銘板を飾ってやるんだ! ジスイズマイドリーム!」
「おじいさまはあのプレートを飾るためだけに、鉄道を作り始めたんだよー」
「ジュールから聞いた『にっぽんのしんかんせん』の話を侯爵閣下に話して聞かせたら、うらやましがってな!」
「そんな動機で作っちゃっていいんかな……」
動機はどうあれ、鉄道が出来れば役に立つよ! たぶん!
「機関車、完成したんですね。俺のいーかげんな知識からよくここまで」
「まだ完成とは言えんな。走ることは走るが、しょっちゅうどこか壊れるから耐久性が今後の課題だ」
「上についてるゴーレムの頭は要るんですかね?」
「なぜかわからんがあれを付けないと動かんのだ」
「なんで動くのかわからんシステムってこわいですね!」
「こわいな! HAHAHA!」
「HAHAHA!」
「おじいさま、レイミーがぶっ飛ばしたナバ皇子の私兵100人分の治療費、侯爵家にツケといたから払っといてー」
「もう払ってある。カーナはこれからどうするのだ? お前の実態が知れ渡れば結婚してくれる男など現れまい」
「レイミーといっしょにジュールさんのハーレムに参加するからだいじょうぶー」
「お前がそれでいいならいいが……レイミーがついていればどうにでもなるか。では高橋譲敬徳! 責任取れよ! 石ころ状態とはいえいっしょに風呂に入ってただろ!」
「おまかせください! 後先考えずに安請け合いするのは得意です!」
「これで貰い手がなさそうなのがかたづいたと。めでたしめでたし」
めでたいね!
「ではわしはもう行くぞ。積もる話はあるが、この先の工事現場に昼食を届けなければならんのでな。またいつか話そう」
ルヴォル侯爵が機関車に乗り込んだ。
「出せ」
「閣下! 機関車のこの辺が壊れました! 壊れたのになぜか動きます!」
機関車に乗っていた技師が報告してくる。
「こわっ! なんで動くかわからないシステム怖っ!」
ゴーレム機関車が食堂車を引いて走り始めた。
「ぽー。しゅしゅぽぽ!」
ゴーレムの頭が口でしゅしゅぽぽ言って機関車っぽい雰囲気を醸し出す。
カタンコトン、と小気味良い音をたてながら、列車は走り去っていった。
「あ、忘れてた。カーナ、18歳の誕生日おめでとう」
去っていったはずの侯爵がまた現れてカーナに誕生プレゼントの抱き枕を渡した。
(書き忘れたことがあったのでまだ列車は出発してないことにします)
「そういえば今日だねー。わすれてたー」
「私も忘れてました、カーナ様!」
「それと伝えておくことがあったのだった。最近、『地球人を皆殺しにする団』と言う組織が活動しているそうだ。ジュールが狙われるかもしれん。気をつけなさい」
「あれひとりだけじゃなかったんだ……気をつけます」
「けっこう重要な情報を言い忘れるおっちゃんだな……」
「ではわしはもう行くぞ。昼食を届けなければならんのでな」
「閣下! 機関車が壊れたけどなぜか動きます!」
「こわいな!」
カタンコトン、と小気味良い音をたてながら、列車は走り去っていった。
今度こそちゃんと去っていったよ!
「18歳になったよー。これであんしんフィルターの18禁制限も全解除だね。なるほど、『くっころ』ってこういう意味かー」
「どういう意味なのですか? カーナ様」
「えっちな意味だよー。もうすぐレイミーも誕生日だから、そしたら分かるよー」
「楽しみですね! 『どうてい』や『へんたい』とかの日本語もいかがわしい意味なのでしょうか」
「それはあとのおたのしみー」
「それはそうと、侯爵閣下に認めていただけて良かったですね、カーナ様。これで心置きなくジュールのハーレムに加われます」
「アレの時はいっしょにしてもらおうねー」
「アレとは何でしょうか」
「誕生日になったら分かるよー」
「……もう出発していいか?」
今回出番のなかったパズトゥスが言った。
「いいよー、お待たせー」
「はあ……次の回で邪神の島に到着できるといいが」
無理そうな気はするね!
♢ ♢ ♢
*とある女性騎士の独白*
私は、ルヴォル侯爵家に仕える騎士だ。
幼きカーナ様の護衛を務める栄誉を授かった。
幼児性空間転移症にかかったカーナ様を転移先で護るため、メデュア家へと派遣されることになる。
メデュア家には、カーナ様と同い年の令嬢であるレイミー様がいた。
カーナ様の転移先はレイミー様のいるところに固定されたようだ。
レイミー様には生まれつき強力な加護が備わっており、そのひとつが生まれたときに手に握っていた如意宝珠という宝石だ。
如意宝珠にはレイミー様がジュールと呼ぶ人格が宿っており、レイミー様はそこから様々な知識を引き出すことができる。
ジュールの知識をくわしく読み取ることができるのはレイミー様だけだが、カーナ様もある程度ジュールが語ることを聞き取れるらしい。
私もジュールが発する雰囲気をぼんやりと感じ取ることくらいはできる。
ジュールがもたらす知識は高度な技術や学問、面白い物語、そして必殺技などだ。
おおむね怠惰に寝てばかりのカーナ様だが、ジュールに教わった必殺技の練習だけは熱心に行っていた。
ジュールの知識はレイミー様を通じて領内に広がり、ともなって必殺技も広まっていった。
「インフェルノ エ パラディーゾ!」
そのうちに、領民のほとんどが、朝起きてすぐ『ひっさつわざ体操』を行うのが習慣になった。
私も毎朝やっている。
美容にいいのだ。
毎日ぐーたらしているカーナ様が太らないのも必殺技ダイエットのおかげだ。
私もおかげで結婚相手をつかまえることができた。
色々と有用なジュールの知識だが、中にはいかがわしい情報もある。
意味ははっきりとは分からないが、『くっころ』とか『ぬれすけ』『ぽろり』『ぱいすらっしゅ』など、やらしい雰囲気のある言葉だ。
レイミー様に意味を聞かれて困ったが、あんしんフィルターとやらが設定されてからはそのような言葉がレイミー様に伝わることはなくなった。
だがすでに成人している私にはときおりふわっと意味が伝わってくることがある。
なるほどこういう意味か。
えっちだな!
今の夫を捕まえるのにとっても役に立ちました。
ちなみに夜、夫に試しに『くっ、殺せ!』って言ってみたらめっちゃ喜ばれた。
ありがとうごさいました。




