第38話 あせらない あせらない
「きゃあああああ! 前回出てきた別ストーリーの主人公、笠原哲弘さんが地方領主の娘である私、エステル・カルボキシルキが招待した館の部屋で死んでるううう! 明らかに他殺です」
「そんな事件があったそうですよ」
いつものように勝手にトラックに乗り込んできた解説娘ちゃんが、そんなゴシップを聞かせてきた。
「ナイフで刺し殺されていたそうです」
「手口からすると、犯人は解説娘ちゃん?」
「違いますよ! なんでそうなるんですかユズルさん!」
「違うの? 笠原哲弘くんが何かを解説しようとして解説娘ちゃんに殺されたのかと思った」
「私がそんなことするはずがないでしょう!」
したじゃん!
地の文を刺し殺したじゃん!
「被害者の容態は?」
「浅い致命傷だったので温泉入ってカニ食って治りましたけど、犯人の顔は見ていないそうです。ただ、現場の壁に血文字で『地球人は皆殺しだ!』とのメッセージが残されていたとか」
「地球人に恨みを持った者の犯行か……っていうか、『地球人』って概念があるんだ、この世界」
「この世界はルビウスさんがトラック転生者のために創造した世界ですからね。転生者に都合がいいように世界観 やキャラやイベントなんかが配置されてます」
「そういうものに反発する現地人はいそうだね。あるいは傍若無人な外道転生者に被害を受けたか」
「オレたちも気をつけないとな。このパーティーには地球人が四人もいる。ユズルと菜月と工藤鈴とその妹と。狙われる可能性はある」
とパズトゥス。
「可能性というか、確実に狙われるんじゃ? でなきゃわざわざ話題に出されないだろう」
「どうかな。ただの無駄話かもしれんぞ」
ブッブー
運転席に座る妹ちゃんがクラクションを鳴らした。
「ぜんぽうに、『地球人は皆殺し』とかかれた のぼりをせおった おとこを はっけん! ナイフを てにしてる!」
「ほらね」
「早く邪神の島に行きたいんだがな……こんな感じでいらんイベントを挟んで先延ばしされるんだろうか」
「あせらないあせらない」
「あれをどうする。轢き殺していくか?」
「仮にも暴走トラックに立ち向かっていた俺たちがそんな事したらダメでしょ。まずは話し合いからだね。【ぬ2772】さん、止まって」
『はい。いちおう話し合いが決裂したとき轢き殺しやすいように手前で止めますね』
このお話に出てくるトラックってみんな暴走気味だね!
ユズルがトラックを降りて男に近づく。
「こんにちは! いい天気ですね!」
まずは当たり障りのない話題からだ。
「こんにちは! お前は地球人か?」
せっかく当たり障りのない話題から始めたのに!
「そうです」
「じゃあ死ねええええええええ!」
男がナイフを腰だめに構えて走ってきた。
『轢きますか?』
「いやいい。しょうがないな、インフェルノエパラディーゾ!」
「ぎゃあああああああ!」
地球人殺人犯の男はユズルの必殺技で吹っ飛んでいった。
「オレもやろっと。インフェルノエパラディーゾ!」
菜月がトラックから降りてきて必殺技を放つ。
「ぎゃああああああ!」
地球人殺人犯が吹っ飛ぶ。
「私もやります! インフェルノエパラディーゾ!」
クグもやる。男が吹っ飛ぶ。
「私もやるぞ! インフェルノエパラディーゾ!」
レイミーも。
「わたしもやるー。インフェルノエパラディーゾ」
カーナも。
「敬徳さまのご利益で私も! インフェルノエパラディーゾ!」
工藤鈴も必殺技を使えた。
信仰の力ってすごいね!
あれ? そういえばクグってこの必殺技使えたっけ。
使ったシーンは無かった気がする……
よし、第14話でパニックを鎮静するのに協力したときに覚えたことにしよう。そうしよう。
ヒロイン全員この技が使えるって事で。
『じゃあ私も使える設定になりますね。インフェルノエパラディーゾ!』
ピックアップトラック【ぬ2772】も地球人殺人犯を吹っ飛ばした。
轢いたんじゃないよ。必殺技だよ。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃああああああああ!」
男が連続で吹っ飛ばされる。
どちゃ!
地面に落ちた。
ぴくぴくしている。まだ息があるな。
「よし話し合おう」
勝たなければ話し合いのテーブルにつくこともできないなんて、力の掟とはなんと厳しいものなんでしょう。
「ぐうう地球人めええ」
「地球人に何かされたのか? 非道な転生者に被害を受けた現地の人?」
「下等な現地人などではないわ! 私は高貴なるラアムンゲルよりの転生者である!」
「ん? 転生者? 地球人なの?」
「違う! 愚かな地球人呼ばわりするな!」
「ラアムンゲルは確か、惑星トラックηとθが転生させた星だな」
トラックの荷台で見物していた元惑星トラックのアルファが言った。
「え? 惑星トラックって君らだけじゃなかったの?」
「うむ、銀河系にあった知的生命体のいる星のほとんどに惑星トラックが派遣されている。いくつかは我々のように尊き抵抗にあって失敗したが、多くは成功し、星に魂を与えて転生させたのだ」
「そんな大規模な作戦だったのか……」
「先銀河文明の遺産を大いに活用させてもらったらしいぞ」
けっこう迷惑な遺産を残していったな、先銀河文明!
ただの雰囲気設定のくせに!
「愚昧なる地球人どもが転生トラックなどというものを生み出したせいで、偉大なるラアムンゲルは滅ぼされたのだ!」
「地球人が転生トラックを作ったわけじゃないんですけど」
「いーや、地球人のせいだ! そうに決まってる! 地球人は罰してやる! 皆殺しだ!」
「思い込みが激しいなあ」
第6話のフレーバー設定によれば、たしかに地球人がきっかけになってはいるけど、あれで地球人に責任を負わせるのは無理があるね。
「せめてルビウスを恨むべきでは?」
「あの赤いのを殺そうとしてボコボコにされたから地球人にターゲットを変えたのだ!」
「ダメな人なんだね」
「お前たちにも負けたから次はもっと弱そうな地球人を狙う!」
「とことんダメなやつだな」
「すみませーん、俺たちもそいつボコしていいすか?」
そんな話し合いをしているところに、数人の人が寄ってきてそんなことを言ってきた。
「あなたたちは? コレに刺された被害者とか?」
「いえ、俺らもラアムンゲルからの転生者っす。前世ではそいつの種族に支配されてた種族っす」
「へえ、星を丸ごと転生って、全部一つの魂に入るのかと思ってたけどそうでもないんだ」
「星全体の魂ってのもできたみたいっすけど、星に住んでた個体それぞれにも魂ができたみたいっす。前世が虫とか草とかポストとかってのもいるっすよ」
「それで、こいつをボコすって?」
「前世ではこいつの種族にかなり虐待されてたんで。俺らにとっては転生して人生は前より良くなったっすね。転生トラック万歳っす」
「転生を喜ぶひともいるか……」
地球にも、転生した方が幸せになれたというひとがいたのだろうか。
あるいは、もし地球が転生していたとしたら、地球環境を破壊してきた人類の魂は、動植物や地球そのものの魂から恨みを受けるようなこともあったのだろうか。
そんな真面目な疑問を深追いしたりはしない。
非シリアス、不シリアス、反シリアスがモットーさ!
「じゃあボコさせてもらうっす」
ラアムンゲルの元被支配種族さんたちが元支配種族さんをボコし始めた。
「きさまら(ぼぐっ)下等生物が(ぼぐっ)高貴なる支配者にむかって(ぼぐっ)なんたる狼藉を(ぼぐっ)」
「転生しても嫌なやつで助かるっす。ボコすのに遠慮がいらないっす」
「これも地球人のせいだ(ぼぐっ)この報い(ぼぐっ)絶対にうけさせてやる(ぼぐっ)」
「なかなかくたばらないっす。こいつもルビウスさんから加護をもらってるだけのことはあるっす」
「んー、このひとの人生はダメそうですね。アンケートを取る前にまた転生させてしまいましょう」
赤い光が揺らめいた。
「異世界転生えええええ!」
ルビウスが現れ、ボコボコにされていた元支配種族さんの胸に赤く光る貫手を突き刺した。
「痛でででででで!」
「魂を抜き取るときは痛いものです! がまん!」
ルビウスが引き抜いた手には、ラアムンゲルの元支配種族さんの魂がしっかりと握られていた。
「次はやっぱり貝ですかね」
(やだー、貝やだー、他人を虐げられる種族がいいー)
「なってみれば貝もいいものですよ」
(おのれー、地球人のせいだ、地球人の)
元支配種族さんの抗議を聞き流して、ルビウスは魂をアタッシュケースにしまった。
「転生後の人生がダメそうだったらまた転生! アフターケアもバッチリです!」
ルビウスがユズルを見る。
ユズルは思わず身構えた。
「そんなに怯えなくても、何もしませんよ。今は。今は」
「……惑星トラックでずいぶんたくさんの魂を転生させてたんだね、ルビウスさん」
ちょっとビビって、さん付けしてしまった。
「忙しかったですよー。あのときはユズルさんに構うヒマがないくらいでした」
「そういえば、いそがしいからルビウスは来ないとか解説娘ちゃんが解説してたときがあったっけ」
「何千億もの魂を色々な異世界に案内してましたからね! いい仕事しました!」
満足度は低いけどな!
「ユズルさん用の加護はまだ準備中なのでもう少し待ってくださいね。海に出るまでには配達します! ではさよなら!」
ゆらめく赤い光の中に、ルビウスは消えていった。
「……イベント終わりでいいかな? 出発しようか」
みんながまたトラックに乗り込む。
「菜月ちゃん、あの必殺技使えるんだね」
「スゲーだろ。練習したのさ。今オレ、レベルも86700あるぜ」
「はちまん!? すごいな」
「地球にできたダンジョンを攻略したりして10年かけてな」
「俺よりレベル高いのか……俺はまだレベル10000だ」
「私はユズルさんとおそろいでレベル10000です!」
とクグ。
「私はジュールから譲り受けた加護のおかげもあってレベル7400ほどだ」
とレイミー。
「私は1800くらいだねー」
とカーナ。
「私はレベル697です。低くてお恥ずかしい」
と工藤鈴。
『私のレベルはクラスチェンジ効果で9300になってますね』
と【ぬ2772】
「軽トラだったころに 【ぬ2772】がくれた 経験値ボールを お姉ちゃんと わけてのんで わたしも レベル697!」
と妹ちゃん。
何気にこのパーティー、めっちゃ強い。
加護を貰ってるはずの転生者を一方的にボコれるくらいには。
「パズトゥスのレベルって?」
「神格持ちにレベルは無い。あえて言えば無限だが、その場の都合で弱くなったり強くなったりだからな。何とも言えんよ」
「そんななんだ」
「レベルか……惑星トラックだった前世では14兆1479億5905万2906ほどあったのだがな。転生してからは加護があってもまだレベル5600ほどだ」
元惑星トラックのアルファがつぶやく。
「私も14兆908億5273万402だったのが5600です。アルファとおそろいで、嬉しいけど」
つぶやきにベータが応えた。
「嬉しいな、ベータ」
「嬉しいわ、アルファ」
「ベータ。呼んでみただけ」
「アルファ。呼んでみただけ」
アルファベータがイチャイチャし始めたぞ!
文字だと分かりにくいけど今の二人はどっちも少女だ。
唐突に百合シーンだ!
「そういえばお前らも邪神の島が目的地だと言っていたが、何しに行くんだ?」
空気なんか読まずにパズトゥスが質問した。
「ベータとひとつになるためだ」
「アルファとひとつになるためよ」
ハグハグしながらふたりが答える。
「邪神の前で結婚式でも挙げるのか?」
「いや、我々の目的は、かつて邪神が飲み込んだという『神成の宝石』だよ」
「それを使ってアルファと融合するの」
「ベータと融合するのだ」
「神成の宝石は複数の存在を合一してひとつの宝石神と成すことができる」
「私たちは永遠にひとつのアルファベータになるの」
「これが我々の目的だ。尊き願いだ」
「お前らもこの世界の神話に伝わる神の宝石が目当てだったか……」
「それが本当に『神成の宝石』かは分からないが、試しに行ってみるだけの価値はある」
「……少なくとも『神成のトパーズ』はあると占いで出ている。邪神が飲み込んだという他の宝石も『神成の宝石』である可能性はあるだろうよ。トパーズはオレがもらうが他にあればくれてやるさ」
「ではそれまで協力できるかな」
「できるな」
「ともに邪神に挑もうぞ」
アルファベータがけっこうストーリーにからんできたね。
どうなることやら。
どうすればいいのやら。




