表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/44

第37話 ぺろぺろ ぺろぺろ

「きゃああああああ! 地方領主の娘である私、エステル・カルボキシルキの乗った馬車が山賊[※1]に襲われてるううううう! 護衛ががんばって守ってくれてるけど敵が多くて負けそおおおおおお!」


「うわああああああ! ゲームやってて寝落ちした男子高校生である俺、笠原哲弘(カサハラテツヒロ)が気づいたら異世界にゲームのアバターの姿で転移したっぽいいいいいい! しかも目の前で救出イベントらしいのが起きてるけど自分のステータスがレベル1で敵に勝てそうもないいいいいいい!」




 ユズルたち御一行様がピックアップトラック【ぬ2772】に乗って帝都を離れてしばらく。

 人気(ひとけ)の無い山道に差し掛かったとき、こんな光景に出くわした。




「俺らとは別の物語の主人公とヒロインっぽいね。異世界ゲームキャラ転生ものの序盤のテンプレイベントかな?」


 ユズルがつぶやく。




 テンプレに飢えたなろう廃人たちに喜んでもらえるといいね!


「テンプレをおちょくってる感じだからむしろ怒らせるんじゃ?」




「負けそうな雰囲気だが助けるか? 別ストーリーにオレたちが手出しするのは良くないかもしれんが」


 とパズトゥス。


「こっそり支援するくらいはいいんじゃないかな。レベルを上げてやれるいいチートがあるといいのになー、そんなのないかなー」




「ユズルさん! 女神である私、ルビウスが加護(チート)の配達に来ましたよ! せっかくあげた加護を他の人に譲っちゃうユズルさんに再給付です! いいですか、他の人にあげちゃダメですよ、今度こそ自分で使ってくださいね! いいですね! ではレベルが100倍になるチート、受け取ってください! 加護注入拳!」


「チート禅譲おおお!!!」


 ユズルは受け取ったチートをそのまま笠原哲弘くんに譲り渡した。


 レベルアップのファンファーレが百回鳴り響く。




「おおっ、レベルが100になった! これなら勝つる! 助太刀します! ヒロインさん!」


「どこのどなた主人公か存じませんが、ありがとうございます! このお礼は後々何でもします!」


「何でもですか?」


「なんでもです! えっち!」


「楽しみ! ようし、覚悟しろ! ゴブリンどもめ!」




「ゴブッ!?」

 急に呼ばれたゴブリンがびっくりした。




「あれ? ゴブリン……山賊……ゴブリン……襲ってきてるのってどっちだっけ」


「[※1]によれば山賊です!」


 エステル・カルボキシルキから補足が入る。




「そうだった。ごめんね、ゴブリンさん、間違えた」


「いいゴブ。間違いは誰にでもあるゴブ。みんな、間違いだったみたいだから帰るゴブ。せっかくだから異世界ファミレスに寄ってくゴブ。ドリンクバー全員分頼んでやるゴブ」


「ちょこっと値上げしたけど計算しやすくなってかえっていいゴブ」

「今日は異世界風ドリアに異世界温玉のせるゴブ」

「間違い探しを交差法立体視で攻略するゴブ」


 ゴブリンさんたちが去っていく。

 間違えられて災難だったね!




「ようし、覚悟しろ、山賊どもめ! 石をも割る拳! ミスリルも砕く蹴り! 雷! 竜巻! カウンター攻撃!」


 笠原哲弘レベル100が馬車を襲っていた山賊の群れを蹴散らす。


「いいぞ助っ人! 守れお嬢をその腕で! ヘイヘイヘイヘイヘヘイ! ヘイヘイヘイヘイヘヘイ! ヘイヘイヘイヘイヘイヘヘイ! ヘイ! ヘイ!! ヘイ!!!」


 馬車の護衛たちが声援を送ってくる。


「とりゃーーーー!」




「ぬううう、ここは引け、引けい!」


 不利を悟った山賊の首領が命令を出すと、たちまち賊どもは森の中に消えていった。




「逃すか!」

「お待ちください、深追いは禁物。ここは私たちも引きましょう」

「エステルさんがそう言うのであれば」

「助かりました、テツヒロさん!」

「どういたしまして、エステルさん!」

「テツヒロさん!」

「エステルさん!」


「テツヒロさん! では危ないところを助けられて惚れてしまったので、ぜひ私の館にお立ち寄りください。そこでお礼に、イチャイチャしましょう!」


「チョロいんですね!」

「はい!」


 こうしてテンプレイベントは無事終わって、違う物語のキャラさんたちは去っていった。




「チョロいヒロインだなー」


 見ていた菜月がつぶやく。


「おまえもあれくらいチョロかったぞ」


「にゃんだとこの鎧め、そんなわけあるか!」


「助けられたくらいで惚れたのはいっしょだろ」


「ちがうし! いろいろな面で総合的に判断してだし! ていうか惚れたとか言うな! オレの気持ちを言っていいのはオレだけだ!」




「私はチョロいですよ! でもチョロいのはユズルさんにだけです! チョロくて一途!」

 とクグ。


「偉大なる敬徳さまを慕うのは当然のことです。敬徳さまの前では誰もがチョロい」

 と工藤鈴。


「私とジュール(ユズル)との絆は十数年の積み重ねがあってのこと! 私はチョロくないな!」

 とレイミー。


「私はチョロいかなー。ジュールさんは苦くて好きー。そうだ、ジュールさんの元の体はどんな味かなー?」


 ピックアップトラックの後席にいるカーナが、開けてあるリアウィンドウから手を伸ばして、荷台にいるユズルの手を車内に引っ張り込んだ。


 ぺろ


 ユズルの手のひらをなめる。


「ひゃ!」ぷしゅ


「苦くないなー。でもけっこうおいしい」




「あー! なにやってんだ縦ロール!」


「カーナさんずるいです!」


 菜月とクグが抗議した。




「レイミーもなめるー?」


「では失礼して。ぺろ。苦くないですね。如意宝珠だったころは苦くてとてもなめられませんでしたが、これならなめ放題ですね!」




「私たちもなめましょう! 菜月さん!」


 ユズルのもう一方の手をクグがガシッとつかんだ。


「ちょ」


「えっ、でも、恥ずかしいし」


「私も恥ずかしいですけど、みんなでなめれば大丈夫です!」


「恐れながら私も敬徳さまの玉手(ぎょくしゅ)をなめ(たまわ)らせていただきたく(そうろう)


 工藤鈴も参加してきた。


「よ、よし、なめるぞ、おっさん!」

「がんばってなめますね、ユズルさん!」

「敬徳さまなめなめ」


 ぺろ


 ぺろ


 ぺろ


「……とくに味しないな。もういっかい、ぺろ」


「そうですね、ぺろ」


「敬徳さまうまうま。ぺろ」


「いくらでもなめられるな! ぺろ」


「もうちょっと苦味がほしいね。ぺろ」




 なんていかがわしい光景なんでしょうね!




「いいぞヒロインども、その調子でユズルを誘惑しろ。落とせ。射止めろ。ハーレムってものは、お前たちがユズルのものになるんじゃない、ユズルをお前たちのものにするんだ」


 ちょっと正気を失っているヒロインたちをパズトゥスが激励した。




 そんな目に遭っているユズルは鎮静ヘルメットに勢いよくプシュプシュされている。


「ちょ、(プシュ)ひゃ!(プシュ)待っ(プシュ)あん!(プシュ)やめ、(プシュ)うひゃ!(プシュ)」




 それと、ルビウスに高威力ハリセンでべしべし叩かれている。


「また!(バシッ)せっかく!(バシッ)持ってきた加護を!(バシッ)人にあげて!(バシッ)あげるなって言ったでしょ!(バシッ)このボケ!(バシッ)タコ!(バシッ)スカタン!(バシッ)なめられて喜ぶ変態!(バシッ)」


「喜んどらんもん!」




 いーや、喜んでるね。

 大喜びだね。

 モテモテで良かったじゃねえか。

 ケッ!




「素直になれよ、ユズル。ハーレムを拒否するようなポーズをとっておきながら結局流されて『女の方から寄って来るからしかたなく』って態度でちゃっかりハーレムを受け入れてしまう主人公は蛇蝎(だかつ)のごとく嫌われるというぞ」




「……みんな、手を離して」


 勢いに乗って指をはむはむしていたヒロインたちが我に返り、恥ずかしそうにユズルの手を離した。


 一人だけはむはむを続けるカーナの口から指を引っこ抜く。




 ユズルは鎮静ヘルメットを脱いだ。


 たちまち呪いが発動して赤面発汗発熱動悸頻脈息切れ震え吃音目眩の状態異常になる。




正直(ひょうじき)言っひぇ、みんにゃ(しゅ)き!」




 それだけ言って急いでヘルメットをかぶった。


 ぷしゅぷしゅ!


 鎮静したところでまたヘルメットを脱ぐ。




「みんにゃきゃわいいし!」


 息継ぎするようにまたかぶる。

 プシュプシュ。

 そして脱ぐ。


異世界(いへふぁい)まで(ひゃが)しに来てくりぇるし!」


 かぶる。

 プシュプシュ。

 脱ぐ。


(おりぇ)なんきゃにプロポージュしてくれりゅし!」


「ユズルさん……結婚しましょう!」


 かぶる。

 プシュプシュ。

 脱ぐ。


小学生(ひょうがくふぇい)(おろ)から十年も想い続けてくれてうし!」


「おっさん……まだそれは言ってないだろ! あとでおっさんだけに言うからな!」


 かぶる。

 プシュプシュ。

 脱ぐ。


(おえ)の像を建てまくるのはドン引きらけど!」


「がーん! なぜですか敬徳さま! 信心が足りませんか!?」


 かぶる。

 プシュプシュ。

 脱ぐ。


「生まえた時から十八年、(しょば)で見ちぇきたし!」


「そうだな、ジュール。私たちはずっといっしょだった。これからも!」


 かぶる。

 プシュプシュ。

 脱ぐ。


「なめたりなでたりだっこしたりしてくりゅし!」


「ジュールさん、かわいーからー」


 かぶる。

 プシュプシュ。

 脱ぐ。


「【ぬ2772】さんは正直どう対応していいかわからない」


『私もです。トラックにハーレム入られても困りますよね、敬徳さん』




「だかりゃ、これかりゃもみんにゃと一緒(いっひょ)にいたい。全員(じぇんいん)とずっと一緒(いっひょ)に。つまり」


 長めにヘルメットをかぶり、脱いだ。




「ぶっちゃけハーレムを目指す!」




 急いでヘルメットをかぶる。


「よく言ったユズル!」


「……勝手なことを言ってるとは思うけど、これが今の俺の本音だよ。俺がやりたいことだ。みんなも、自分がやりたいようにやってくれ」




「ユズルさんから振られることはないってだけでも前進です! 結婚目指してがんばります!」


「そっかそっか、オレのことも好きか。おっさんもけっこうチョロいな。やっぱりおっぱいか?」


「すべては敬徳さまの御心(みこころ)のままに!」


「私はジュールに返しきれない恩がある。ハーレムでも何でも受け入れるぞ!」


「私はレイミーといっしょなら何でもいーよー。ジュールさんも好きだし」




「ユズルがその気になったところで、ヒロインどもにもそれほど拒否感はないようだな。このままハーレム推進だ! オレの勘もこれでいいと言っている!」


 パズトゥスが喜んでる。

 よかったね。






 ブッブー


 トラックの運転席に座って、後ろで行われているいかがわしい行為をひたすら無視していた妹ちゃんが、クラクションを鳴らした。


「へんたいども! ぜんぽうに、ヒッチハイカー はっけん! おんなが ふたり!」




 そう言われて進行方向を見ると、若い女性が二人、道の横で手を横に伸ばして親指を立てている。


 由緒正しいヒッチハイクのジェスチャーだ。




「女ぁ? 無視しようぜ! これ以上ハーレムが増えたら面倒だ」


 菜月が主張する。


「だがユズルは乗せてやりたいと思うだろ。お人好しだからな」


 とパズトゥス。


「うん、乗せてあげたいけど、みんな、いいかな」


「おっさんがそう言うならしゃーないな」


 他のみんなも賛同してくれた。




 いちおう罠を警戒して、二人を少し通り過ぎたところで車を止める。

 山賊とか出るからね。


「どうぞー。どこまで?」


「邪神の島まで行きたいのだが、この車は港の方に行くかな? ……む? そなたは尊き抵抗者どのではないか?」


 話しかけたユズルに、ヒッチハイカーの少女がそう答えた。


「え?」


「あら、お久しぶりですね。小さな抵抗者さん」


 もう一人の少女も言った。




「では聞いてください。『近日点で会いましょう』」


「聞いてくれ。『スペインの淑女たち』」


 ヒッチハイカーの少女二人が歌い始める。




「♪♪ フェアウェル近日点でアデューそう言ってスパニッシュ出たわね ♪♪」




 混ざってる混ざってる。


 同じ歌うたえって言ってるだろ!




「君たちはまさか……?」


「私の前世は惑星トラックα(アルファ)

「私の前世は惑星トラックβ(ベータ)


「「お互いにお互いを魂原基(アーキソウル)に転写し、ルビウスの導きでこの世界に転生したのだ」のよ」




「つまり……君らやっぱり百合関係(ガールズラブ)だったんだな!」


「そうとも。ガチ百合だ」

「ええ、ガチ百合よ」




「まさか同じ世界に転生してるとは」


「この世界に生まれる前、ソウルユニバースを漂っていたとき、泣いてる魂を抱いた地蔵がわざとらしく立っていたがスルーしてやったぞ」


「わざとらしくチラチラ見てたわね。あんなのに引っかかるやつがいるわけないわよね!」


「あんなのに引っかかるやつはよほどのアレだな!」


「よほどのアレよね!」




「ぐすん」


 あんなのに引っかかったよほどのアレなユズルが少し泣いた。


 泣いてるユズルがちょっとかわいいと、ヒロインたちは思った。




「アルファさんベータさん、転生満足度アンケート早く出してください」


 ルビウスが言った。


 まだいたんだな。

 退場させるの忘れてたわ。


「まだ人生終わってないのだが……まあいいか。『どちらかと言えば満足』、と」


(ベータ)もそんなとこですね」




「はい受けとりました。それでユズルさん! また加護(チート)を配達しに来ますけど、次こそ他人に譲らず自分で使ってもらいますよ! どんな加護なら使いますか!」


「それじゃあ、これから海を渡らないといけないので、ピックアップトラックを積み込めるような船をもらえると助かります」


「じゃあ船召喚チートを持ってきます! さよなら!」


 ルビウスは去っていった。




「それで、我々は乗せてもらえるのかな。かつては敵だったわけだが」


「基本馴れ合いストーリーだし、別にいいよ。どうぞ乗って」


「そうか。助かる」

「ありがとう、おじゃまするわね」


 荷台が手狭(てぜま)になったので、クグと工藤鈴が車内に移った。




「君らも目的地は同じみたいだね」


「そなたらも邪神の島へ行くのかね? 船にも乗れそうだし、都合がいいな」

「なにかお礼をしないとね。パンツ見る?」


「おっさんを誘惑すんな! がるる!」


 菜月が威嚇する。


「大丈夫そうだぞ、菜月。ユズルの呪いが発動していない」


「あれ、ほんとだ。えらいぞおっさん。鎧はどうなんだ? こいつらもハーレムに入れようとか思ってるのか?」


「こいつらはいらないな」


「勘で?」


「勘で」






 こうして思わぬ旅の道連れができた。


 何かこいつら関連のイベントでもあるのだろうか。


 あるかもしれない。

 ないかもしれない。


 特にストーリーに関係しないキャラだって、登場していいんじゃ。


 この物語から無駄を省いたら、一文字も残らんしね。






 そうそう、邪神の島の名称だけど、お願い解説娘ちゃん!


「神話の邪神の名は【ベルエゼラー】に決定しました! 島の名前も同じく『ベルエゼラー島』となりますが、単に『邪神の島』とか『封印の島』とか呼ばれることが多いという設定です!」


 そんなわけだ!


 重要じゃないから忘れても大丈夫だよ!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ