第36話 つまらん つまらん
「つまらない!」
「どうした菜月ちゃん」
「なにかがつまらない!」
「何かって何が」
「緊迫感がない。時間制限がない。失敗した時のリスクがない。切実さってもんが無いんだよ。鎧の記憶探しってイベントは!」
「まあ、確かに」
ユズルたちはパーティー会場を後にして、帝都の大通りをピックアップトラックに乗ってゆっくりと進んでいる。
道ゆく人々が立ち止まってしげしげと眺めたり、子供が後をついてきたりする。
レイミーとカーナも同乗していて、車内を物珍しげに眺めたり触ったりしている。
妹ちゃんは定位置の運転席に座っている。
今、キャビン内にいるのはこの三人だけだ。
パズトゥスはルーフの上に座って荷台を見下ろしている。
道交法がない異世界でよかったね!
荷台にはユズルとクグと菜月、そして正座してユズルを拝んでいる工藤鈴がいる。
多すぎるキャラを分断しとくのに便利だな、トラックって。
「地球の危機とかってデカすぎるイベントをこなした後だから余計にな。かっこよかった別離イベントもあっさり再会しちまったし」
ルーフの上でパズトゥスが言う。
「だいたいパズトゥス自身が、記憶探しにあまり熱心じゃないというか、真剣味が薄いんだよね」
とユズル。
「一億年もさすらってるといまさら焦る気にもならんさ。のんびり行こうぜ。スローライフ!」
「その記憶探しにオレらが付き合う意味も無いんだよな。おっさんが鎧についてくからしかたなくついてくけど」
と菜月。
「地球召喚作戦の時の私がそうでしたよ! 役立たずでしたけど、特に意味もなくついて行きました! ユズルさんのそばにいるために!」
とクグ。
「そんなんでいいのかよ」
「ストーリーに貢献するように配置された機能的ヒロインなんかじゃなくたって、やりたいようにやっていいんです! 『汝の意志することを行え。それが法の全てである』ってクロウリーも言ってます!」
「じゃあやりたいようにやろっと。おっさん! イチャイチャしようぜ! もうエロい話も大丈夫だからな! ネットで勉強した。ほれ! おっぱいでかいぞ! 好きだろ!」
ぷしゅぷしゅぷしゅぷしゅ
「いやいや、なんのことですかね。というか菜月ちゃん、なんで大人になってるの? と話を逸らすぜ!」
「第28話を読んでみな」
「じゃあ読んでくる。なんだこの副題……なるほど、小学生を連れ出す許可が出なかったから大人になった菜月ちゃんを召喚したのか。……ひー! ヘルメット越しにお胸を見てたことバレてるー!」
「バレバレでしたよ! ユズルさん!」
「バレバレだぜ、おっさん!」
「今も拝んでる私の胸元にチラチラ視線が来るのバレバレですよ! 敬徳さま!」
バレバレだったな!
ぷしゅぷしゅ
「ごめんなさい」
ぷしゅぷしゅ
「ユズルは普通に女好きだな。呪いがなければとっくにクグとくっついてただろ」
「おっさんと元気なねーちゃん、いい感じだったの!? 呪いグッジョブ!」
「むう、呪いさんめ! 解けるなら解きたいところですが、今解いてしまうとレイミーさんがリードしてそうです」
「ハーレムには都合がいい呪いだ。みんな一定の距離までしか近づけないでいるうちに、なし崩しにハーレムが定着するといいな!」
「無駄話はこれくらいにして、鎧の記憶を探すって、具体的にはどうすんだ? なんかアテがあんの?」
パズトゥスは鎧の胸部分にある窪みを指さす。
「ここに神成のトパーズが嵌まってた、はずなんだ。それを失くしたせいで、記憶がなくなっている」
という設定。
「失くした時の状況は?」
「記憶がないからはっきり分からないが、誰かがいたような気がする。そう、オレも言われた。『汝の意志することを行え』みたいなことを」
「おっさんのハーレム作りが意志することかよ」
「そうだな。第01話で失業してしょんぼり歩いてるユズルを見た時に、初めて感じたオレの『意志』だ。それまでは何がオレの意志かも分からずにさすらっていた」
「じゃあ鎧の記憶におっさんが関係あるのか。実は鎧とおっさんが同一人物とか?」
「その考察は前に出てきたけど違うっぽいな」
「違ったかー。この謎ってけっこう引っ張る感じかなー」
けっこうひっぱる感じだね。
「じゃあ今考えてもしかたないか。とりあえずその雷のトパーズだかを探せばいいんだな。ひっぱる感じならすぐには見つからんだろけど」
雷じゃなくて神成だよ!
「まずはトパーズのありかを必殺技で占ってみようか。俺も役に立ってみせないとね」
ユズルが必殺技のポーズを取る。
「おっさんの必殺技って、んなこともできんの?」
「その場の都合でね! インフェルノエパラディーゾ トバーズを探せ!」
〈あっちにあるっすね〉
「え? あんの?」
〈あるっすね〉
「普通のトパーズってオチ?」
〈いえ、神成のトパーズで間違いないっす〉
「必殺技ってしゃべるんだ……」
パズトゥスがぽかんとしている。
「え? あんの?」
「必殺技はあるって言ってるけど……」
「さっそく意志することを行った結果がでましたね! パズトゥスさん!」
「ひっぱるんじゃなかったのかよ」
「さすがは敬徳さま、南無高橋譲敬徳尊」
「……オレも敬徳宗に入信しようかな」
「この世界には、むかし邪神がいたんだってー」
開く仕様になっているリアウィンドウを開けて車内から荷台の会話を聞いていたカーナが話しかけてきた。
「その邪神、【神の宝石】っていうのをたくさん食べて強くなったっていうよー。それかもねー」
「神話の時代の邪神伝説ですね……ジュール、必殺技の言うあっちってどっちだ?」
レイミーが訊いてきた。
「あっちはあっちだな」
「邪神封印の地もその方向だな……カーナ様の言う通りかもしれない」
「近いのか?」
「遠いな。海の真ん中にある島だ」
パズトゥスにレイミーが答える。
「立ち入り禁止になってる感じかな」
「いや、観光地になっていて毎年邪神封印祭りが行われているぞ」
「毎年レイミーと私と石ころだったジュールさんとで行ってるもんねー」
「行ってますね」
「温泉でジュールさんがこっそり目を開けて」
「はい!はい!(プシュ)温泉の話はやめ!(プシュ)やめよう!(プシュ)その邪神がパズトゥスのトパーズを食ってるかもって話ね! そうなのかもね! 行ってみよう! そうしよう!(プシュ)」
「まずは行ってみるか。しかし……もしかして邪神の封印とやらを解かないとトパーズが手に入らない流れか? なかなか厄介そうだな。こういう展開はどうだ? 菜月」
「ちょっと面白そうかも……記憶探しがつまらんとか言ってごめんよ」
「どうせご都合主義であっさり手に入ったりするかもだけどな!」
かもね!!!
「では行こうか。邪神封印の島へ」
「島に名前あんの?」
まだ決まってない。次話までに決まるだろ。
「港まではルヴォル侯爵領を通った方が早いよー。道がいいから」
「侯爵閣下に婚約破棄の報告もしませんと」
「そんなのあったねー」
忘れてたわ。
「レイミーが病院送りにした皇子の私兵百人の治療費を請求される前に逃げた方がいいねー」
「請求書っぽいのを持ってこっちに走ってくるやつがいるけどあれがそうなんじゃないか?」
「よし逃げよう! ピックアップトラックさんお願い」
『はい。誰も追いつけませんよ!』
【ぬ2772】がクラクションを鳴らして速度を上げた。
路上の人々があわてて道を開ける。
「騎士レイミー! ルヴォル侯爵令嬢カーナ殿! 皇帝陛下が治療費を払えと!」
請求書を掲げて使者が叫ぶ。
「侯爵家にツケといてー。ばいばーい」
カーナが手を振る。
『サムバディ ストップミー!』
【ぬ2772】が爆走する。
使者の姿がどんどん遠くなっていく。
「侯爵家にツケときますぞー」
使者の声が小さく聞こえた。
さあ! 邪神の島へ出発だ!
逃げてるんじゃないぞ!
進んでるんだ!
「ところでパズトゥス、【ぬ2772】をハーレムに入れてるけど、このトラックって女性なの?」
「解説娘ちゃんが解説しましょう! 乗り物系の性別はみんな女性ってことになってます! オーバートラックも転生トラックも転生させない軽トラックも全部女性ですよ!」
「ってことは、惑星トラックアルファとベータのラブシーンって、百合シーンだったのか」
「そうですよ!」




