第35話 ピックアップトラック ピックアップトラック
「ユズルが無事復活したところで、状況処理だな。改めて確認するが、この場は婚約破棄イベント中ってことでいいんだな? 縦ロール」
「そうよー。私の名前はカーナ。この子は友達のレイミーよ」
「私はレイミー! 慈悲深き魂ジュールより人生と加護を譲り受けた者! 受けた大恩を石ころにどう返せばいいのか分からなかったが、人であるならば何かできることはあるだろう! 何でもするぞ! ジュール!」
ぷしゅぷしゅ
「むー、ユズルさんが意識してます」
女の子になんでもするとか言われたらね!
「なんだこっちでもお人好しムーブやってたのか。ユズルらしいな。よしレイミー、ハーレムに入ってやるとユズルは喜ぶぞ」
「喜んでもらえるのならば喜んで入ろう!」
「レイミーが入るなら私も入るー。いっしょにお風呂入った責任とってもらおうね」
「カーナもレイミーも真に受けないで。ハーレム作ろうとか考えてないから!」
「喜ぶか喜ばないかで言ったら?」
「…………」ぷしゅぷしゅ
「おっさんのくせに女を呼び捨てにしてる……生意気だぞ! おっさんのくせに!」
「んなことは置いといて今の状況だが、カーナは冤罪で婚約破棄されて実家からも見捨てられて国外追放されて暗殺者を差し向けられる予定ってことで合ってるか?」
「婚約破棄しか合ってないよー。それも円満に終わったから問題ないよ」
「ジュールの知識を元に作ったフラワーゴーレムが活躍したぞ! ジュールは物知り! ジュールはえらい! えらジュー!」
「意見が合いますな! 敬徳さまスゴイ! ともに崇拝しましょう! けあーっ!」
「こうだな! けあーっ」
うるさいのが増えた。
「なんだそうか。婚約破棄からのざまぁで王子が落ちぶれたり国が傾いたりする流れかと思ったが、平和的に解決したなら良かった良かった」
平和的だったかなー。
「私、皇妃としては無能だからこうなって良かったよー」
「カーナ様は確かに無能ですが私がついているので大丈夫です!」
「頼りにしてるよー」
「それで、お前たちはいったい何者かな? 会話を聞いててなんとなくの設定は把握したが、皇帝としていちおう訊いておかねばな」
壁におっきく自分の名前を彫り込んで金縁の額で囲い終えた皇帝が訊いてきた。
「オレたちは異世界よりの訪問者。オレはさすらいの放浪神パズトゥスだ。失った記憶を求めて旅をしている。こいつはオレの所有物のユズル。女たちは幼女を除いてユズルのハーレムメンバーだ」
「失った記憶を探してさすらう神か……かっこいいな! この世界にときおり生まれてくる転生者の知識から、異世界というものがあるらしいことは知られておるが、直接訪問してきたというのは聞いたことがない。これは歴史に残る」
皇帝は壁に彫った名前を満足そうに見る。
「それでパズトゥスとな。そこのユズルとやらに会いにきたようだが、我が国に来た目的はそれだけか?」
「それだけだったが、ついでにこの世界でオレの記憶を探してみるかな。この世界はまだ探してなかったからな。なに、迷惑はかけん。ちょっと山賊を討伐したり悪徳領主を成敗したりダンジョンをクリアしたり魔王を倒したりするかもしれんが」
「それくらいならよくある転生者ムーブだ。かまわぬ。しかしそなた、本当に神なのか? あまり神らしくは見えぬが」
「【神成の宝石】と融合して神格を得た宝石神というやつだ。ま、神なんてそれほどたいそうなもんじゃない」
「そんなものかの」
「パズトゥスさんは確かに神ですよ」
どこからか声がした。
この声は!
『赤いのが来ます。赤いのが来ます』
ルビウス警報が鳴った。
「神成のルビーと融合せし宝石神ルビウス! 降! 臨!」
赤い光が輝き、ルビウスが現れた。
いったい何しに来た!
「ユズルさんを殴りに来ました! 私がせっかくあげた加護を人に譲ってんじゃねーよ!」
殴りに来ただと! ユズルが何をしたっていうんだ!
いや、理由は今言ったか。
「ルビウス? 転生者を導く神、ルビウス神でありますか!?」
皇帝がルビウスにひざまずいた。
え、何? ここじゃルビウスって偉いの?
「我がザーストラルドランド皇家の始祖も転生者であったと伝えられております。ルビウスという神に導かれてこの地に参ったと」
「そんなこともありましたね。あの子はいま北の海で貝になってますよ。幸せだってアンケートに書いてた」
「我らが始祖の守護神に拝謁が叶いましたこと、まこと恐悦至極にございます」
「別に守ってませんけどね。加護はあげたけど。神なんてそれほどたいそうなもんじゃありませんよ。かしこまらなくてけっこう」
「そっか。じゃあルビウス! 先祖を案内してくれてあんがとよ!」
いきなり馴れ馴れしいな!
「そんなことよりユズルさんです! クシティガルバ(仮)の口車に乗って加護を渡しちゃって! 泣いてる魂を抱いてユズルさんが通るところに立ってるとか、わざとらしいんですよ! あんなのに引っかかるなんて! なんなんですか? 人に譲っちゃうから譲って名前なんですか?」
そうだよ。
「予定外の石ころとはいえ、いちおう転生したことはしましたからそちらはクリアでいいでしょう。ですが加護はちゃんと自分で使わないとだめです! 今日は追加でユズルさん用の加護を持ってきました! いいですか、今度は自分で使ってくださいね、人に譲っちゃダメですよ! いいですね!」
「わかりました!」
絶対わかってないユズルが元気に答える。
「加護注入拳!!!」
「痛あ!」
ルビウスが拳に加護を込めてユズルを殴った。
ユズルに加護が注入される。
「今回お持ちした加護は、上位クラスにクラスチェンジするチートです。スーパーユズルさんがハイパーユズルさんになりますよ!」
「ところでユズル」
加護を受け取ったユズルにパズトゥスが話しかけてきた。
「これからオレの記憶を探してこの世界を旅する予定なわけだが、ここにいる【転生させない軽トラック ぬ2772】が移動の足になってくれる」
「そうなんだ。みんなが乗るには狭そうだね」
「それだよ。メンバーが増えたからな。このさい 【ぬ2772】がクラスチェンジしてサイズアップすると都合がいいんだけどなー、軽トラがクラスアップするいいチートを持ってる人がいるといいのになー、そんなチートを譲ってくれる人がいないかなー、チラッ、チラッ」
「チート禅譲ォ! インフェルノ(略)レガーロ!!!」
クラスチェンジチートがユズルから【ぬ2772】に移った。
ユズルだからね。譲っちゃうね。
軽トラックの形が変わり始める。大きく。無骨に。
丸っこかったフロントにボンネットが伸びていく。
キャビンに後席ができ、ドアが4つに増える。
タイヤが大きく、幅広くなる。
黄色かったナンバープレートが白くなり、登録地名と分類番号が変わった。
【オリオン100 ぬ 27-72】
クラスチェンジ
【軽トラック】→【フルサイズピックアップトラック】
『おお、なんと。当人の許可も取らずに勝手にクラスチェンジされてしまいました。まあいいですけど。しかしこれで私も憎悪していた軽油飲みの仲間ですか。ガソリンの方がおいしいんですけど』
大丈夫! 北米仕様のガソリン車だよ!
『それならなんの文句もありません。みなさんの移動の足としてお役に立ってみせましょう!』
これで旅も楽しくなるね!
「こらああああああ! なにやってんだあああああ!!!」
ルビウスが怒りだした。
いったいどうしたんだろう。
バシッ!
どこからか高威力ハリセンを取り出してユズルを叩く。
「自分で使えって言ったでしょ(バシッ!)なんで譲っちゃうんですか(バシッ!)このあんぽんたん(バシッ!)おたんこなす(バシッ!)お人好し(バシッ!)浪費家(バシッ!)変態(バシッ!)童貞(バシッ!)おっぱい好き(バシッ!)」
ところで高威力ハリセンとは、折り目が先端まで
「解説ううううう!」
ここで解説娘ちゃんがナイフを腰だめに構えて突っ込んできた。
地の文がヒラリとかわす。
「よけるな!」
よけるわい。
はいはいどうぞ解説してください。
「高威力ハリセンとは折り目が先端まで達していないハリセンのことです! 先端はゆるく曲げただけの状態で、全体の形は扇を広げたようになっています」
改行。
「これで目標を叩くと折り目が順番に潰れていくことで、ひと打ちで折り目の数だけの連打感を、打つ者、打たれる者、両方に感じさせるのです!」
改行。
「打った者には大きな達成感を、打たれた者には大きな屈辱を与える、優秀な攻性情報ランチャーなのです!」
はいご苦労様。
長いセリフを分割する工夫も雑になってきたね。
そんな高威力ハリセンと言葉責め(変態、童貞、おっぱい好き)の屈辱でユズルはガクリと膝をついた。
「いいですか! また加護を持ってきますからね! 次は人にあげちゃダメですよ! わかりましたね!」
「わかりました!」
ルビウスがプンスカ怒って去っていった。
ユズルも分かってくれただろう。
「次も譲るよ!」
分かってなかった。
「なるほど、ルビウスは今後こんな感じのネタキャラになるわけだな。シリアスに敵対していたころが嘘のようだぜ」
パズトゥスがつぶやく。
シリアスに敵対してたことなんてありましたっけ。
「とにかくユズルと合流はできた。オレたちの新たな目的はオレの記憶探し、だ。それでいいか?」
「いいよ。そういう流れだし。出会ってから俺の世話を焼いてばかりだったパズトゥスが、自分からやりたいことを言い出すのって初めてだしね」
「今までもやりたいようにやってきたけどな。この世界はまだ探してなかったから探してみるが、そうそう見つかるとも思えん。気楽に行くとしよう」
こんなわけで次からはパズトゥスの記憶探しだ。
目的がないとストーリーが締まらないよね。
地球召喚作戦と比べるとだいぶ平凡な目的だけど。
「ほっとけ」




