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第33話 婚約破棄 婚約破棄

「悪役令嬢カーナ! 僕はそなたとの婚約を破棄する!  そして新たに、詐欺師令嬢ミリカと婚約する!」


「あらまあ」






 楽しげな雰囲気だった卒業パーティの最中に、一段高くなったお立ち台の上に登った皇太子がこんなことを言い出した。


 皇子の腕にはミリカと呼ばれた令嬢がぶら下がっている。




「何をおっしゃってるんですか、殿下! 前回(第32話)と話がつながっていません!」


 モブの一人が皇太子を(いさ)めた。


「これでは『投稿する回を間違えたのかな?』とか思われてしまいます!」




「未来のシーンを先にちょっと見せとく物語技法だよ!  よくあるだろ! フラッシュフォワードって言うらしいよ!」


「なるほど。でしたら手短かにお願いします。こういうものはあまり長いと長すぎる回想シーンと同じくらいウザがられますから」


「何を言う! せっかくの僕の見せ場なんだぞ! 長々と続けてやる!」




「むむ、なんという愚昧(ぐまい)な皇子だ。もしウザがられたら責任を取れるのか! しかたない、僕があるていど状況を説明しておこう。……ぐはっ!!!」


 説明を始めようとしたモブを、解説娘ちゃんが背後から刺した。


「私を差し置いて解説を企むとは、厚かましい野郎です。そいつは温泉に入れてカニ食わせて治してやりなさい」


 刺されたモブを解説娘ちゃんの手下の小人が運んでいった。




「では解説しましょう! 『5W1H』を意識して!」




 When(いつ)

前回(第32話)から8年後、帝国歴287年春三月」


 Where(どこで)

「この国、ザーストラルドランド帝国の帝都オリオンにある、貴族のご令息ご令嬢が通うペガサス学園の、卒業記念パーティーの会場で」


 Who(だれが)

「帝国皇太子ナバ皇子が」


 Whom(だれに)

「婚約者であるカーナ・ルヴォル侯爵爵令嬢に」


 Why(なぜ)

「ミリカ・パッケサギ男爵令嬢をいじめたと言う理由で」


 How(どのようにして)

「卒業生やその家族、多くの来賓の面前で」


 What(なにをした)

「婚約破棄を言い渡した」




 6W1Hになってるね!




 って前回から8年も経っちゃったのか。

 今度は間違ってなかった。


 ユズルが転生してから18年。

 パズトゥスたちと別れてから18年。

 ずいぶんと永い別れだったね。






「どうだ! 悔しいか! 悪役令嬢カーナ!」


「いえ、ぜんぜん」


「ミリカをいじめたお返しに、いじめ返してやる!」


「あらまあ」




「おバカな皇子さま、そこまでやらなくていいんですよ」


 皇太子ナバの腕にぶらさがった詐欺師令嬢ミリカが止める。


「大丈夫だミリカ、僕はやるぜ。僕はやるぜ」


「しかたないかー、バカじゃなきゃ婚約破棄とかしないしね」


「よしおまえたち、カーナに泥水をかけて転ばして教科書を破って悪い噂を流せ!」


「はっ! 殿下!」


 皇子の取り巻きたちがバケツを持って前に出てきた。


 卒業してから教科書破ってどうするんだろうね。

 悪い噂も流せと言ってるところをみんな聞いちゃってるし。


 でも泥水と転ばしはとりあえず効くかな。




「あらまあ。では身を守らなくてはいけませんね。レイミー!」


 カーナがバッと手を広げる。


「レイミー! わたしの危機だよー。おいでー」


「無駄だ! おまえの護衛は僕の私兵100人が足止めしている! ミリカから1000帝国ドルで買った転移阻害アイテムもしかけてあるから逃げることもできまい!」


「あらまあ、100人も。病院のベッドが足りるでしょうか。転移は普通にできそうですけど、インチキアイテムですか?」


「はい! 詐欺です! ぼったくりました!」


 ミリカが元気よく答えた。




「まずは泥水をくらえ!」


 バカなので目の前で詐欺だと言われても分かっていない皇子さまがカーナに(わめ)き立てた。


 皇子の取り巻きたちがカーナに詰め寄ろうとする。




「インフェルノ」




 どこからか声が聞こえた。




「エ!」




 気の利く人がパーティー会場の扉を閉めた。




「パラディーゾオオオオオオ!!!」




 閉じた扉を突き破って、レイミーが突入してきた。


 突き破った方がかっこいいもんね!

 気の利く人ありがとう。




 バケツを持った取り巻きたちがレイミーにぶっとばされる。


「ぎゃあああああ!」


 べちっと床に落ちた。




「きゃっ!」


 突入の勢いに驚いてモブ令嬢のひとりが転びそうになった。


「おっと」


 レイミーが一瞬でそばに移動して抱き止める。


「失礼、驚かせてすまない、レイディ。レディではなくレイディ」


「は、はい、ありがとうございます、レイミー様」




「きゃーっ! レイミーさまー!」

「かっこいいですー!」

「髪の毛ファサッてしてくださーい!」

「お美しいポーズ取ってくださーい!」

「モブ令嬢あざとーい」




 御令嬢たちがかしましく歓声をあげる。

 レイミーの学園での立場はこんな感じだ。


 レイミーは髪の毛をファサッとすると、皇太子ナバをキッとにらんだ。




「このバカ皇子め! カーナ様を害そうとするとは、天が許さん私も許さん! 如意宝珠(にょいほうじゅ)に宿りし高潔なる魂ジュールの薫陶(くんとう)を受け、かっこいい女騎士となったこのレイミーが成敗してくれる!」


 (ふところ)からユズル(ジュール)の魂が宿る如意宝珠を取り出し、カッコイイポーズで高く掲げる。




 おや? なんだかユズル(ジュール)の評価が高くなっているような。


 10歳の頃はへんたいとののしって弱らせてたのにね。




「あれは、私が12歳のときだった……」


 レイミーがなんか語り始めた。


「知ったのだ! あんしんフィルターの制限が一部解除され、ジュールの知識から知ったのだ! 私の加護は本来ジュールのものだったということを! ジュールがいなければ私は生まれてくることもできなかったということを!」




(教えるつもりはなかったんだけど、うっかり読み取られちまったい。てへ)




「私の忠誠はすべてカーナ様とジュールに捧げる! よわらせてすまなかった! へんたいでもどうていでもジュールはいいものだ!」




(ぐはっ)




 まだ18歳になってないので安心フィルターで意味までは伝わっていない日本語がユズルを弱らせる!






「まだ攻撃したらダメですよ、皇子さま」


「でも、スキだらけだよ? ミリカ」


「これだからバカ皇子さまは。空気を読んでください」


 ミリカ嬢がカーナに攻撃しようとするナバ皇子を止めていた。


「あ、セリフが終わったようです。攻撃オッケーですよ」




「よし! 僕の取り巻きの魔術師団長の息子! おまえはレイミーをやっつけろ!」


「おまかせください、殿下。ゆくぞ女騎士レイミー! 召喚、エレガントゴーレム!」


 皇子の背後に控えていた魔術師団長の息子さんがゴーレムを呼び出す。


 魔法陣が輝き、そこから天使のような翼を備えた女性の姿をした優美なゴーレムが現れた。


 神々しいほどに美しい。


「どうだ! ぼくのエレガントゴーレムはかっこいいだろう!」




 パチパチ、とレイミーが拍手した。


「確かにかっこいいな。実にかっこいい。——だがこの場じゃ二番目だ。召喚! フラワーゴーレム!」


 魔法陣が輝く。


 どんなかっこいいゴーレムが出てくるのかと周りの人たちが見守る中、そこに現れたのは、ずんぐりとして目も口もない、ただの棒人形のようなゴーレムだった。




「……なんだそのゴーレムは。そんなものがこのエレガントゴーレムよりカッコいいとでも言うつもりか! 騎士のくせにゴーレムとか召喚するからだ! やれ! エレガントゴーレム! その雑なゴーレムを破壊しろ!」




 エレガントゴーレムがフラワーゴーレムに襲いかかった。


 フラワーゴーレムも迎撃の体勢になる。


 両者の拳がぶつかり合った。




 フラワーゴーレムの拳があっさりと砕けた。


「ははは! 脆いじゃないか! ……なにっ!」




 砕けた拳が、大量のピンク色の花びらになって舞い散った。




「そのフラワーゴーレムは、薔薇の花びらを固めて作ってあるのさ! 壊れればそこから花びらが舞い踊るぞ!」




「そんな、そんな、かっこいいいいいいいい!!!」




 真面目な戦いになると思った?


 んなわけあるか!




「かっこいいですレイミーさまー!」

「華やかかっこいい!」

「お耽美(たんび)かっこいい!」




「なにをやってる魔法師団長の息子! 早くそのゴーレムを壊せ!」


「ダメです! 攻撃すればするほどあっちがカッコよくなります!」


「はっはっは、別に攻撃されなくても、パージ!」


 フラワーゴーレムの腕が切り離された。


 桃色の花弁が美しく舞い上がる。


「うわああああもうだめだあああああ!」




「さて勝ったところでトドメだ。インフェルノエパラディーゾ」


 魔法師団長の息子がぶっとばされた。


 ついでにエレガントゴーレムも粉々になった。


 エレガントゴーレムは壊れ方も優美だったよ。


 とっても美しい最期だった。


 この場じゃ二番目だけどな!




「おのれカーナあ! こうなれば僕みずから罰してやるう!」


 ナバ皇子が剣を抜いてカーナ嬢に襲いかかった。

 持たされてた剣はたけみつだけどね。




「インフェルノエパラディーゾ!」




「ぎゃあああああ!」


 ナバ皇子がぶっとばされた。




 レイミーではない。


「レイミーといっしょに必殺技の練習を始めて」


 カーナが、必殺技のポーズを取っていた。


「先に使えるようになったのは私の方ですのよ」




「よいしょっと」


 詐欺師令嬢ミリカがとんできた皇子を受け止めた。


「あああ、ミリカぁ」


「かわいそうな皇子さま。ざまぁ展開のためにこんなバカに設定されてしまって。でも大丈夫! 私がついてますから! 廃嫡されても養ってあげます! 死ぬまでそばにいてあげます! だから早く死んでね」


「ありがとうミリカぁ、がんばって早く死ぬよう」




 なんか皇子様がかわいそうになってきたので実はミリカはいい人で本気でナバ皇子のことが好きだってことにしよっと。


『早く死んでね』ってのもちょっとした照れ隠しだったのさ!






 こんな騒ぎの中、居合わせた学園の卒業生やその家族、来賓の人たちは、確実に歴史に残る出来事が目の前で起きていることを察して、パーティー会場の壁や柱、果ては床にまで、自分の名前を彫り込み始めた。


 これはこの国の国民性で、歴史的な事件があった史跡には、当時の落書きだらけである。


 (いにしえ)の神話の時代、邪神を封印した英雄たちが封印の超越魔法を確実に当てるために邪神に撃ち込んだターゲットマーカーには、全国から寄せられた10万人分の署名が刻まれていたという。


 いつか自分の子供に、孫に、話して聞かせるのだ。


 あの事件の時、わたしはそこにいたんだよ、と。






「皇帝陛下がお出でになります」


 先触れの言葉にほとんど間を置かず、パーティー会場に帝国の皇帝が入ってきた。


 だいぶあわてた様子である。そりゃあね。


「カーナ嬢、愚息が申し訳ないことをした」


 腰の低い皇帝っすね。


「いえいえ、婚約破棄してしまいましょう」


 態度のでかいカーナ嬢っすね。




「それは困る。こんなバカではお飾りの皇帝すら務まらん。しっかりした皇妃についていてもらわぬと。皇妃教育をきわめて優秀な成績で修めたカーナ嬢にしかできぬことだ」


「私、皇妃教育はサボってたので、ぜんぜんできてませんよ?」


「ふぇ!? し、しかし教育係の報告では一度も休むことなく真面目に受けていたと」


「それ、ミリカさんが私に化けて受けてました」


「ほぁ!?」




「はいはい。詐欺師令嬢ミリカです! だますの得意なんです! 詐欺師令嬢ですから!」


 ミリカ嬢が口を挟んできた。


 皇帝の権威が無い国なのかな?




「では……ミリカ嬢は皇妃教育を完全に修めているのか?」


「はい! 最終試練の神虎対決もアゴを蹴飛ばしてやったらおとなしくなりましたよ!」


「外交の席で圧迫会見をしてきた王国の使者をけちょんけちょんにやり込めたのもミリカ嬢なのか?」


「はい! 弱みを突き刺して強みを砕いてやりました!」


「100年行方知れずだった国宝を発見したのも?」


「タンスの裏に落ちてました!」


「夜な夜な帝都に出没して悪者を懲らしめる皇子妃仮面も?」


「おっとそれは秘密です」


「ナバ皇子のことは好きかね?」


「愛してます!」


「ナバの(きさき)になってくれ!」


「なる!」


「これで帝国も安泰だ!」




 どうやら丸く収まったようだ。




「そもそもカーナ様を婚約者にしようと考えるとかどうかしてるんですよ。カーナ様に務まるはずがありません」


「そうよねえ。レイミー、ジュールさん貸して」


「どうぞ」


「苦い。ぺっ。苦い」




 出オチで婚約破棄がやりたかったんだよ!


 どこかの誰かがな!


 どんなに無駄でもやりたきゃやっていいんだ!






 とはいえ、やりたいことだけじゃなくて、やらなければならないことってあるよね。




 つまりそれは。






『インストオオォル! 菜月! クグ! 鈴! 舞! ぬ2772! アンド、パズトゥス!!!』






 ようやく再会だ。










 結局長々と続けてしまった。


 フラッシュフォワードでもなんでもなくこのまま話が進みそうだね。

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