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第32話 レディじゃない。レイディだ。 レディじゃない。レイディだ。

 侯爵令嬢カーナちゃんはそれからたびたびレイミーのもとに現れるようになった。




 あ、15年は経ちませんでした。


 まだレイミーは3歳です。


 私が間違っておりました。






 カーナは幼児性空間転移症という、子供によくある症状らしい。


 人と人との出会いを(つかさど)る神が、どうやって出会わせるかを考えるのがめんどくさくなったときに使う手法だ、などというデマが世間には広まっている。


 デマだよ。デマ。




 転移先が気にいるとその後はずっとそこを転移先にするという性質があるそうで、カーナちゃんはどうやらレイミーのそばが気に入ったようだ。




 二人はすぐ仲良くなった。


「ジュールかして」


「いーよー」


 レイミーがめったなことでは手放さない如意宝珠(ユズル)をカーナに持たせるほどだ。


 ぺろ


「ぺっ、ジュールにがい。ぺっ」


 ぺろ


「にがい。ぺっ、ぺっ」


「ジュールをなめられるなんて、カーナちゃんすごい!」


「ジュール、ぺっ」




 なんのプレイだよ。


 幼女になめられるとか、万死に値しますな!

 いつかこのツケを払わせてやる!


 ぺってされて地味にダメージ受けてるけどね。






 安定した転移先が侯爵家の家臣の家の、強い加護を持った同い年の令嬢のそばということで、侯爵家としてはだいぶ安心できる状況だ。


 このままレイミーをカーナの友人に、いずれは護衛を兼ねた側付きとする方向で話が進んでいる。


 転移してくるカーナのためにメデュア家周辺の環境は整えられ、護衛の女騎士も常駐することになった。




(女騎士の実物がいるとは、さすがは異世界)


「おんなきしさん、くっころってなに?」


(ちょ)


「くっころですか? すみません、わかりません、レイミー様」


「ジュールがいってたよ!」




 幼児に変な言葉を教えるなよな!


(お、教えてない! 冤罪だ!)




(聞こえますか……解説娘ちゃんです……ユズルさんの知識がダダ漏れです……年齢制限を設けるのです……あんしんフィルターをONにするのです……)


(ONにした! ありがとう解説娘ちゃん! いつもいらん解説ばっかりしてるとか思っててごめんね!)


(いいのです……事実です……いいのです……)




「(くっころですか。なにやら不健全な気配がしますね。(おんな)騎士(きし)という表現にもどこかいかがわしい響きがあります。あの宝石、大丈夫なのでしょうか)」


 女騎士さんが如意宝珠(ユズル)に不審な目を向けてきた。


(ごめんなさいごめんなさい、以後気をつけます)


 反省の意を如意宝珠から放射してみる。


「……反省しているということは、本当に不健全な意味なのですね」




 ヤブヘビだった!




「ジュール、ふけんぜんー?」


「不健全ですね。レイミー様の加護の一つだといいますから排除するわけにもいきませんが、もしカーナ様に変な言葉を教えたら、我が家に伝わる死ぬほどつまらないジョークを集めた禁書を音読し続けてやるからな、ジュール様!」


(それだけは! それだけは! 分かりました! 肝に命じておきます!)




「ジュールがよわってる。おんなきしさんつよい!」


「『おんな』は付けなくてけっこうですよ、レイミー様」


「きしさんつよい! わたしもつよくなって、ジュールをよわらせる!」


「レイミー様ならきっと私よりずっと強くなりますよ。ジュール様がいらないことをしないようにしっかり弱らせておいてください」


「まかせて!」


 レイミーがキラキラとした目で女騎士さんを見る。

 憧れを持ったようだ。


(しません、いらないことはしません)






 カーナはレイミーの元に転移してきたときは、だいたい寝て過ごしている。


 まず転移が起きるのは眠っている時なので、来た時はかならず寝ている。

 そのまま迎えが来るまで寝ていることも多い。


 まあ三歳児だし、それほどおかしいことでもない。


 目を覚ますとレイミーになでなでを要求し、なでられているうちにまた寝る。


 たまにユズル(ジュール)を借りて、ひとなめしてぺッてしたりする。


 苦いの好きなのかな?

 安息香酸デナトニウムくらい苦いはずなんだけど。


 女騎士さんの視線が痛いが、カーナのすることに意見する気はないようだ。




「よちよち」


 レイミーの弟の、まだ赤ん坊のカリフェルドントフォスコフォリオポリデステロプウフを見てからは、ユズル(ジュール)を赤ちゃん扱いしてなでたりするようにもなった。


(ばぶ……)


 うっかりおぎゃあ気分になったユズルを女騎士さんが冷たくにらむ。


(し、しかたないのです、手も足もない今の俺には抵抗する(すべ)がないのです)


「ジュールはへんたい! よわらせる!」


 あんしんフィルターをONにする前に引き出されてしまった語彙(ごい)でレイミーがユズルをののしる。


「よちよち、いいのよ、ジュールしゃん」


 カーナが甘やかす。




 何? 拷問なの?








 そんな日々が過ぎていき、7年の月日が流れた。


 レイミーとカーナはともに10歳になった。




 3ヶ月ちょっとのできごとに10万文字使ったのに比べると、8000文字くらいで10年とは、ずいぶんすっとばしてますな。




(ユズルだよ。パズトゥス、クグさん、俺はここだよ。おいでよ。ここだよ)


 ユズルは今でも呼び続ける。




 10年と言えば長いけど、8000文字と言えば短いもんね!

 それくらいじゃあきらめないよ!




「向こうではまだひと月も経っていませんよ! ちなみにユズルさんを探してるのはパズトゥスさんとクグさんだけではなくてあと4人増えてますよ」


 仮釈放中の解説娘ちゃんが解説する。


(え、誰が増えたの?)


「菜月さん、鈴さん、舞さん、ぬ2772さん、です」


(菜月は分かるけど鈴とか舞とか2772とかって誰だよ)


「ハーレムメンバーですよ! 舞さん以外」


(理解は後回しにしてとりあえず受容してと。じゃあそのひとたちにも呼びかけないとダメだね)


「ですね」


(ユズルだよ。パズトゥス、クグさん、菜月さん、鈴さん、舞さん、ぬ2772さん、ここだよ、ユズルだよ)




 ユズルは呼びかけ直す。


 届くといいね。






「カリー! 外で必殺技の練習するよ!」


 レイミーが弟に言った。


「僕の名前を略さないでよ姉さん。僕の名はカリフェルドントフォスコフォリオポリデステロプウフだからね。僕は働かずに生きていく方法を考えるので忙しいから行かない」


「そんなことでは立派なレイディになれないよ!」


「レディになる予定なんかないよ」


「レディじゃなくレイディ! 発音は正確に!」


「ヘイレイディ、トゥーリップの花でも眺めながらトメィトゥとポティトゥのピッツァでも食べませんか?」


「トマトもポテトもそのままでいいの! でもレイディはレディじゃダメ!」


「そういうのを異世界中国の故事でダブルスタンダードっていうんだよ」




 姉弟仲はこんな感じである。




 寝てばかりのカーナを見て育ったカリー(略)は、(なま)けることが好きな子供に育ってしまった。


 あいかわらず夫婦仲のいいメデュア家には、この7年の間に男の子と女の子が生まれ、男の子は、クイセデスアドデクステラムパトリスミゼレレノビス、女の子は、シルベリス、と名付けられた。


 カリー(略)を反面教師にして今のところ真面目に育ってるようだ。


 家の未来はなんとかなるだろ。




 メデュア家が工事を任されていたトンネルは去年開通し、村は重要な宿場町として発展し始めている。

 この町はそのままメデュア家の領地となった。


 というフレーバー設定。






「レイミー、ジュールさん貸してー」


 カーナはレイミーのいるところならどこにでも転移してくることができるようになっていた。


 もう幼児性空間転移症ではなく、れっきとしたスキルだ。


 カーナはなぜかジュール(ユズル)にさん付けだ。




「はい! カーナ様! なめるんですか?」


「必殺技の練習するー。ジュールさんに教えてもらう」


「ではごいっしょに練習いたしましょう! ジュール! カーナ様にいかがわしい言葉を教えちゃだめだよ!」


「おしえてー」


「だめですよ!」


 レイミーは女騎士っぽい感じに育ってしまった。

 お手本が身近にいたからね。




 レイミーとカーナは庭に出る。


(はい拳を握って前に突き出して、インフェルノエパラディーゾ!)


「インフェルノ エ パラディーゾ!」

「インフェルノ エ パラディーゾ!」




 二人の教育にはユズルもけっこう関わっている。


 地球の現代知識や戦いのイメージ、パクった物語などを如意宝珠から発信する。


 あんしんフィルターのレーティングでまだPG12より上の情報は伝えられないが、必殺技はこの世界では全年齢対応だそうな。




 基本寝てばかりのカーナだが、必殺技には興味を示してきた。


 レイミーといっしょに練習を続けている。


 まだ技は出ない。


 まだ二人とも10歳だしね。




「ちぇっ、いつも寝てるのを尊敬してたのに、がっかりだ」


 練習しているカーナを見てカリフェルドントフォスコフォリオポリデステロプウフ君がつぶやいた。


「僕は怠けるもんね!」


 なんでこうなっちゃったかな。




「よしよし、ジュールさん、おつかれですかー」


 練習が終わってお茶の席。


 カーナはあいかわらずユズルを甘やかそうとする。


(ば……ばぶ……)


 女騎士さんの冷たい眼差しにも慣れた。


(くっ、鎮静ヘルメットさえあれば……!)




 あれば何だってんだよ。




 ま、ユズルの方はこんな日々なのさ。






 ♢ ♢ ♢






 こちらはオーバーハイウェイを走るパズトゥス御一行様。




「あ! 敬徳さまに呼ばれた気がします! 敬徳さまーっ! けぁーっ! けぁーっ!」

 工藤鈴が叫ぶ。


「オレも呼ばれた。おっさん! どこだ!」

 と菜月。


『なんで私も呼ばれたんでしょう。私のことは知らないはずですが』

 と転生させない軽トラック。


「わたしのことも よびやがった! うざい!」

 と妹ちゃん。




 ゆらゆらしていたユズルの居場所を示す矢印が決まった方向を指し示した。




「あっちか。オーバーハイウェイが通ってないな。行けるか?」


『行けます。昔は道なきオーバー原野を走り抜いていたんですから』


 パズトゥスにぬ2772が答える。


「ユズルさん! 結婚です! 結婚です!」


 クグがどこか遠くにいるユズルに求婚する。




「呼びかけてきてくれているか。ユズルの方も、俺たちを忘れてしまうほどの時間は経ってないようだな」


 8000文字くらいだよ!






 やがて、全てを拒絶するような混沌とした空間が広がる場所に着いた。




「ここか……」とパズトゥスがつぶやく。


「知ってるんですか?」とクグ。


「記憶を探してさすらってるときにな。中に入ろうとしたが、地球より強固な拒絶空間で入れなかった」


「入れないのかよ鎧、どーすんだ?」

 と菜月。




『私と力を合わせれば、入れるかもしれませんね』


 転生させない軽トラック【ぬ2772】が提案する。


「ああ。オレの中のユズルの肉体にも働いてもらおう。合体技だ! 求めろユズル! お前の魂を!」




『インフェルノ エ パラディーゾ ペネトラーレ トリプリカーレ!!!』




 その場の都合でなんとでもなるさ!




 パズトゥスと【ぬ2772】とユズルの肉体の合わせ技で拒絶空間に道が通った。




「よっしゃあ! 行くぜ! おっさーん!」


「ユズルさん! 今行きます!」


「敬徳さまー! おそばにまいりますー! けあー!」


『みなさん、たかぶってますね。では発進します』


「いっぽひいて ながめる!」




「待たせたなユズル、今行くぞ!」








 さあ、ちゃんと再会できるかな?




 また数年経ってたりしないかな?




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