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第31話 ジュール ジュール

 とある異世界の、とある帝国の、とある侯爵領の、とある村の、とある大きな家に、一人の赤ちゃんが生まれた。




「よーしよーし、よく頑張ったにゃあ、元気な女の子だで。腹を蹴る力が弱かったから心配してたが、出てくりゃ元気なもんだ。よく育ちそうだにゃあ。おやっ? これは何じゃろう?」


「ふう、どうしました? ふう、」


「赤子が何か握っとる。何じゃ、綺麗な石じゃのう。まあ抱きんしゃい」




 産婆さんが柔らかな産着に(くる)まれて泣く赤ん坊を若い母親に渡した。


 赤子を胸に抱くと、すぐに泣き止んだ。

 母親の疲れた顔に笑みが満ちていく。


 赤ん坊の右手には、しっかりと如意宝珠(ユズル)が握られていた。




(いっしょに来ちゃったよ。てか女の子かい。あのままだったらTS(性転換)転生しちゃってたのか)




「綺麗な石ですね……つまり、この子が歴史始まって以来最高にかわいい特別な存在だという証明ですね」


「親はみんなそう言うにゃあ」




 ここで脱獄してきた解説娘ちゃんが解説を始めた。


「にゃあにゃあ言ってる産婆さんですが、残念ながらネコミミではありません。そういう方言です。期待させてごめんね! あばよ! スタコラサッサ!」


「御用だ御用だ!」


 逃げ出す解説娘ちゃんを、捕まえに来た異世界八州廻りが追いかけていく。


 あ、捕まった。




「ふふ、この子にネコミミが生えてにゃあって言ったら可愛いでしょうね、天使みたいでしょうね、すでに天使ですね、天使ごとき足元にも及びませんね」


「親バカにつける薬はないにゃあ。旦那さん入れるで。入ってええよ」




 若い父親が入ってきた。


「よくやった、よくやった、ありがとう、体は大丈夫か? 元気に泣いてたなあ、女の子? 嫁にはやらんぞ!」


「あなたったら、気が早いですよ」


「そうだね、まずは近づく男を抹殺するぐらいにしておくか」




(すっごく近くに()がいるんですけどバレたらヤベー)




「おや? この握ってる石は?」


(びくびく)


「この子がゴッド天使アルティメットである証拠ですよ」


「この子がゴッド天使アルティメットインフィニットビクトリーであることに証拠などいらないだろう」


「はあ? インビンシブルゴッド天使アルティメットインフィニットビクトリーファイナルスイートでしょう!」


「おまえも体は大丈夫そうでよかった」


「出てくる直前にすっと楽になりましたね。きっとこの子のおかげね」


 ルビウスの加護は母体をも守ったようだ。




「そうだ名前! 名前はなんにする?」


「前から決めてたんです。女の子なら、レイミー、男の子なら、カリフェルドントフォスコフォリオポリデステロプウフ、と名付けようって」


「女の子でよかった!」




 レイミーは母の腕の中でキョロキョロと周りを見回している。


「おお、すごいな、小さいな、すごいな」


 右手には如意宝珠(ユズル)がぎゅっと握られていて、つられて左手も握り締められているので、赤ん坊に指を握らせる定番の楽しみは今はできない。




「この石、持たせておいて大丈夫かな? 飲み込んだり」


「飲み込める大きさではないですから、大丈夫でしょう」


 もっと大きなもの(経験値ボール)を飲み込まされたことがあるユズルはちょっと心配になった。




(聞こえますか……解説娘ちゃんです……牢屋の中から精神に直接解説しています……如意宝珠はすっごく苦いので誤飲の心配はありません……解説娘ちゃんです……)


 なら安心だね!


(ぺってされたらちょっとショックかも)




 母親が胸を開け始めた。




(ひえー! 授乳か!? あわわ、どうしてれば、ぷしゅぷしゅをくれ! ぷしゅぷしゅ! あ、目を閉じられるぞ)


 どういう仕組みか、如意宝珠状態でも目を閉じたり耳をふさいだりできた。

 ので目を閉じて耳をふさいでおきました。


(赤ちゃんプレイを自分で体験することにならなくて助かったぜ……転生の満足度が低いのってこれも原因じゃないかな)


 転生って大変だね!






 加護のおかげもあってか、レイミーはすくすくと育っていった。


 ハイハイを始めたのもかなり早い。


 いつも如意宝珠(ユズル)を放そうとしないので、紐で縛って手首に引っ掛けておかれるようになった。


 ちなみに一度なめられてぺってされた。




(♪ どんぶらこ どんぶらこ

 おわんにのって うみにでる

 もしも おわんが じょうぶだったら

 もっとこのうた ながかったのに ♪)




 夜は子守唄がわりに適当な歌を歌ってやる。


 聞こえてないだろうと思っていたが、歌ってやると寝つきがいい。

 聞こえてるのかな?




(聞こえますか……ユズルです……パズトゥス……クグさん……ユズルです……俺はここです……聞こえますか……ユズルです……)




 夜、周りが寝静まると、ユズルは如意宝珠から想いを発信する。


 届いているだろうか。


「あー」


 ときどきレイミーが声をあげる。


(もうパズトゥスと出会ってから別れるまでよりも長い時間をここで過ごしちゃってるな)




 3ヶ月ちょっとの間に失業して暴走トラックから姉妹を助けてパズトゥスの所有物になって神域で暴走トラックレベル1000と戦って惑星トラックに会って地球召喚作戦を企画してクグに求婚されて勇者チェコに依頼して菜月に懐かれて地球を異世界に避難させて地球で転生トラックを退治して有名人になって尊像を建てられて地球を太陽系に戻してルビウスに転生させられた。




 ずいぶん濃密な時間だったね。




 それに比べればゆっくりとした時を過ごしているはずたが、赤ん坊がどんどん育っていく様子を間近で見るのはまた別の濃密な体験だった。




「じゅー」


 ある日、レイミーがこんな声を出した。


(はいはい、バブバブ)


「うじゅー」


(なんでちゅかー)


「うじゅゆ」


(! まさかユズルって言ってるのか!?)


「じゅー」


 レイミーは如意宝珠を見つめて繰り返す。


「じゅー、じゅーりゅ」


(パズトゥスとクグさんに向けた発信が、レイミーにも聞こえてたのか……?)


「じゅーる」




 レイミーの最初の言葉は『ママ』だったが、その次がユズルを呼ぼうとするものになったようだ。


(パパより先に呼ばれちまったい。パパさんごめんちゃい)


 この家は割と裕福そうだが、パパさんは忙しいようで毎日帰りは遅く、レイミーと顔を合わせる時間は短い。




「じゅーる」


(ユズルだよ。ゆ、ず、る)


「じゅーる」


(なんだかジュールで定着しそうだな)




 のんきだな、ユズル。


 こいつきっとヒロインだぞ!


 だとするとレイミーがヒロインレースに参加できるくらい成長するまでパズトゥスたちは来ないってことだぞ!


(えー、まっさかー)


 そうやって油断してるといいよ。

 

 次の行では15年くらい経ってるかもしれないぞ!






 15年は経たなかったが3年経った。


(待たせるじゃないかパズトゥスとクグさん)


『あちらではまだひと月も経っていませんよ!』


 解説娘ちゃんが獄中から手紙を送ってきた。

 生きるためだ。


(じゃあ()かすわけにもいかないな)




 レイミーは元気に成長し、如意宝珠(ユズル)を握りしめて村を走り回っている。


 レイミーの家、メデュア家はこの村の村長の立場にあるらしい。


 領内に街道を整備することに熱心な侯爵家が、山にトンネルを掘る工事のために新しく作った村だという。


 侯爵家の家臣だったメデュア家が工事の責任者として赴任したかたちだった。


 パパさん忙しいはずだね。


 現在の村長はママさんの父親で、パパさんは入り婿でいずれは村長職を引き継ぐ予定だとか。


 このへんはあれだな。


 特に重要でもないフレーバー設定だな。




 忙しいながらにママさんとパパさんの夫婦仲は良好で、今年はレイミーの弟も生まれて、カリフェルドントフォスコフォリオポリデステロプウフと名付けられた。




「それでね、ももたろーはおにをみなごろしにしたの! わるいことはぜんぶ、おにのせいなの!」


「そうなんだ、モモタローはえらいね」




 ユズルが語り聞かせたお話をレイミーはお茶の席で家族に話す。


「そのお話もジュールが教えてくれたの?」


「そう! ジュールはものしりなの!」




 ユズルの呼び方はジュールで定着した。


 レイミーに強い加護があることはもう知られていて、如意宝珠(ジュール)もそのひとつだという認識になっていた。






 そんなある日のある朝のこと。


 自分のベッドで目を覚ましたレイミーの横に、同じくらいの歳の女の子がいっしょに寝ていた。


「だれー?」


「カーナ」


 女の子は寝ぼけ声で答えると、また寝始めた。


「カーナちゃん? わたしはレイミー! これはジュール!」


「レイミー、うたって」


「いいよー。♪ おわんがもっとじょうぶなら♪」


 カーナちゃんはすやすや眠る。


 つられてレイミーも眠ってしまった。




 そのころ、この土地を治める侯爵家のまだ幼い娘が行方不明になっていた。


 いつものことなので、それほど大きな騒ぎにはなっていない。


 3歳になるカーナ嬢が姿をくらまして、どこかで眠っているところを発見される。


 そんなことが何度も繰り返されていた。




 とはいえ、孫娘のベッドで主家の御令嬢が寝ている光景を見た村長さんはだいぶ肝を冷やした。


 すぐに侯爵家に使いを出す。






(幼女が仲良くねんねしてる光景は尊いね!)


 ユズルは微笑ましく眺めている。




 のんきだな、ユズル。こいつもきっとヒロインだぞ!




(えー、まっさかー)




 油断してやがる。




 次の回では15年くらい経ってるかもしれないぞ!




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