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第28話 けあーっ! けあーっ!

「はあ? おっさんが死んだ? 転生した? 何やってんだよ! え、鎧の中におっさんの死体って、趣味悪るっ! 生き返らせる? できるのか? できるんだな? なに、おっさんの魂を見つけるのにオレが必要? どうすりゃいいんだ?」






 パズトゥスとクグが山間の小さな町に高瀬家を訪問した。


 飛び出てきた菜月は、ユズルの姿がないのを見てガッカリしてみせる。




 事情を聞いて、激しく取り乱した。




「オレたちはユズルの魂を探す旅に出る。子供、おまえはユズルのことが好きだな?」


「にゃっ!? それは……言うならおっさんに直接だ。他人に聞かせることじゃないぜ!」


「言ってるようなもんだな。おまえのその気持ちが、ユズルを見つけ出す力になる。ユズルを求める想いが、ユズルへとつながる道になる」


 って設定。だ!


「……おまえらといっしょに来いってのか?」


「そうだ」


「戻って来れるのか?」


「保証はできないな」


「……」




「ちょっと菜月、行っちゃダメだからね。義務教育も終わってないのに」


 横で聞いていた母親が口を挟んだ。


「わかってる。オレは、行けない」


 手を握りしめながらも、菜月はキッパリと答える。


「行きたいけど、行かない。オレはまだ子供だ。レベルが2000あったって、まだ子供なんだ。戻れるか分からない旅には出られない。かーちゃんとか、ばーちゃんとかを、置いていけないんだ。分かってる」




 人には、大事なものがある。

 捨てられないものがある。


 そして。




「だから、大人のオレを連れて行け! 召喚! 【10年後のオレ】!!!」




 真面目な話は長続きしない。




 召喚魔法陣が輝き、一人の女性が現れた。


「あー、今日だったか。よう、10年前のオレ! ちっこいな!」


「よう! 10年後のオレ! でっかいな! おっぱい」


 身長もかなり高い。

 ユズルより高いくらいだ。


 髪は短く、化粧っ気は無いが美女と言っていい。


 女性らしい柔らかい体のラインの下には、しっかりとした筋肉があることを(うかが)わせる。




「10年後の大人(オレ)、まだおっさんのこと好きか?」


「それはおっさんに直接言うことだ。子供(オレ)に聞かせることじゃないぜ」


「言ってるようなもんじゃん」


「おまえもだろ」


「「HAHAHAHAHA!」」




 気が合うね!




「ちょっと菜月、10年後って、22歳? あなた二十歳(はたち)過ぎてまだ一人称が『オレ』なの?」


 母親が呆れたように言ってくる。


「いーじゃんべつに、ってかーちゃん、全然変わってないんだな」


「あら? わたし10年後も変わらないってこと? ご機嫌急上昇! 今夜は焼肉!」


「やったー」


「なあ子供(オレ)、大人になると分かるけどな、大人ってけっこう子供だぜ」


「それが分かったんならけっこう成長してるわよ」


 母親が苦笑した。




「そんなわけで、大人(オレ)がついていくぜ。鎧と元気なねーちゃん。おっさんの死体があるんだよな? 見せてくれよ」


 パズトゥスは頭部を外した。

 ユズルの頭が現れる。


 大人の菜月がユズルの前髪をそっと横にどけた。


「……やっぱり眉間の傷かっこいいな。今のオレなら呪いを発動させられるのにな。おっさんっておっぱい好きかな?」


「好きだと思うぞ」


「好きだと思います! ヘルメット越しでもなんとなく視線を感じました!」


「ときどきプシュプシュしてたしな」




 バレバレだ! ユズル!




「じゃー行こうぜ。親孝行しとけよ、子供(オレ)。時間の流れはわりとテキトーだ。おまえが10年後に同じ選択をするとは限らん。おまえがどうするかはおまえが決めな」


「もう決めてるけどな。おっさんを頼むぜ。餞別(せんべつ)くれてやるよ、大人(オレ)。レベルを1000持ってけ」




 なんやかんやして子供菜月から大人菜月に1000レベルが移った。


「気前がいいな。お返しだ。10倍返し」


 お返しボーナスで子供菜月のレベルが10000上がった。


「にゃっ!? レベル11000になっちゃった!」


 親切は何倍にもなって返ってくるんだね!


「勇者チートの影響でこれから地球にはダンジョンとかが現れる。そのレベルで無双しな」


「やったー! 無双!」


「地球は太陽系に戻ったけど、異世界帰り効果でこっちでもレベルが上がるようになったからな。がんばって上げとけ」






「じゃーな、かーちゃん、ばーちゃん、とーちゃん、じーちゃん。もしオレが高価な茶碗を割っちゃってもあんまり怒らないでやってな」


 大人の菜月と、クグと、ユズル入りのパズトゥスが、高瀬家から去っていった。




「……まあ、10年後なら嫁に出すのに早すぎるってこともないかな」

「なっちゃん、元気そうでよかったわ」

「値上がりする株でも聞いとけばよかったかな」

「菜月が株価とか覚えてるとは思えんが」




 セリフのなかった高瀬家の面々もちゃんとこの場にいたのです。




「おっさんのレベルも超えちゃったぜ! これから無双して、もっとレベルを上げたる! 10年後のオレって、何レベルだったのかな?」


 菜月はなんとなく空を見上げる。


「オレもきっと10年後は。待ってろよ、おっさん」








「次は、第一ヒロインだな。たぶん高橋譲敬徳尊像を置きまくってるやつ」


「どんなひとでしょうね!」


「もしかして300メートルのおっさんの像をおったてたやつか?」


「ほんとに作ったんかい」


「10年後には敬徳(けいとく)(しゅう)って宗教がけっこう広まってたぜ」


「あまり未来の話をすると整合性がとれなくなるな。聞かないでおこう」




 整合性?

 なにそれ








「これはこれは。敬徳さまの脇侍をなさっている鎧のかた。お久しぶりです」


「誰が脇侍だ」


「敬徳さまはどちらに? ようやくお礼が言えます」


「こちらに」


 パズトゥスが頭部を外した。

 ユズルの頭が現れる。


「死んでるけど」


「きゃああああああああ!」




 


 なんやかんやと調べたりして高橋譲敬徳尊像の製作者を突き止めたパズトゥスとクグと大人菜月たちは、とある旧家を訪問した。


 狂喜して出迎えた第一ヒロイン(工藤鈴)は、キョロキョロとユズルの姿を探す。




 死んでるユズルを見て、激しく取り乱した。




「けけ敬徳さまがそんなバカなななななががががわわわぴょぴょぴょ」


「生き返るから大丈夫」


「ぴょぴょぴょ……生き返る?」


「魂を抜かれてこうなったけど、戻してやれば生き返るぞ」


「なるほど! さすがは敬徳さま! 考えてみれば一度入滅してから復活するのは聖者の定番ですね!」




「やめて。ふっかつなんかしたら、お姉ちゃんの信仰が、ますます てにおえなくなる!」


 いっしょにいた妹が苦言を呈する。




「敬徳さま! 復活の敬徳さま! 敬徳さまーっ! け、けあーっ! けぁーっ! ケァーッ!!!」


「すでに やばい!」




「落ち着け」


 尋常ではない様子の第一ヒロインに、パズトゥスは腰にぶら下げていた鎮静ヘルメットをかぶせた。




 プシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュ


 ピピピピピピピピピピ!


『鎮静効果の使用制限に達しました。機能をロックします。これ以上の使用は48時間の間隔をあけるか、医師の判断を仰いでください』




 こいつ、鎮静強度100000を使い切りやがった!




「ふう、落ち着きました。私は冷静です。敬徳さまってすばらしいですね」


「ほんとに冷静か?」


「冷静になってみてわかりましたけど、私はもう手遅れです。だから心配いらないよ、妹! 無駄だから!」


「ひげき!」


「ちなみにそのヘルメットはユズルがずっと使っていたものだ」


「けあーっ! けあーっ!」


「じごく!」




 しばらくして、地獄のような空気がなんとか落ち着いた。


 みんな良く耐えた。




「あらためて、私は工藤(くどう)(りん)。敬徳さまの敬虔な信徒です。こちらは妹の(まい)。そしてこちらはよく遊びにくる転生(させない)軽トラックの【ぬ 27-72】さんです」




 いたのね。転生させない軽トラックさん。




「よろしく! そして うせろ!」


『よろしくー、あなたたちが地球転生作戦を阻止してくれた英雄ですね。ぷぷぷ、転トラども、ざまぁ』




「オレはさすらいの放浪神パズトゥス。ユズルの所有者だ」


「私はベテルギウス・クグです! ユズルさんと結婚します!」


「オレは高瀬(たかせ)菜月(なつき)。おっさんとの関係は、他人に言うことじゃない」




「よろしく。それで敬徳さまの魂を取り戻すにはどうすれば? ここに来たということは私に何かできるんですか? 心臓の肉を1ポンド捧げればいいですか?」


「いらんわ。ここにいるのはユズルを求める者たちだ。オレはユズルの所有者。クグと菜月とあんたはユズルのハーレムメンバーだ」


「ハーレム! 敬徳さまにふさわしい! その一員となれるとは身に余る光栄!」


「ほう、気が合うな」


「合いますな! さあごいっしょに、ケァーッ!」


「そこは合わない」


「なるほど我々の敬徳さまを慕う想いを、敬徳さまの御許(みもと)へと続く(しるべ)と為すんですね!」


「理解が早いね」


「では行きましょう! 今すぐ! 即座に! 間を置かず! あっという間に!」




「まずは魂の在処(ありか)を占うぞ。ユズルの体をそこに置いてくれ」


「こんなこともあろうかと祭壇を用意してあります!」




 パズトゥスの鎧が開く。


 工藤鈴と菜月とクグは、三人でユズルの体を持ち上げ、豪華な祭壇にそっと置いた。


 眠るように横たわるユズルを見つめる。




「ユズルさん……」


「おっさん……」


「敬徳さま……」




 三人ともユズルの呼び方が違うな。


 主人公をどう呼ぶかはヒロインの大事なキャラ立ち要素だね!




「祈れ。求めろ。願え。全身全霊で、ユズルを想え」




 三人が祭壇の前で手を合わせる。


 ユズルを想う。




「そしてユズル! おまえも求めろ! 自分自身を! おまえの魂を、おまえの体に取り戻せ! おまえは、どこにいる!」




 パズトゥスが歌い始めた。




『かんかんのう きうれんす


 きゅうはきゅうれんす


 さんしょならえ さあいほう


 にいかんさんいんぴんたい


 やめあんろ


 めんこんふほうて


 しいかんさん


 もえもんとわえ


 ぴいほう ぴいほう』

 



 ユズルの死体が起き上がった。


 祭壇の上で、歌に合わせて踊り始める。




「ユズルさんが……楽しそうです!」


「ダンスへただな!」


「なんと神々しいお姿か!」




 歌が終わると同時に、ユズルの手が一点を指差した。


 そしてまた力を失い、倒れる。


 三人が抱きとめた。




 ユズルの指し示した場所に、光の矢印が浮かんでいる。




「これがユズルの居場所への案内だ。消えないようにユズルを想い続けていろよ」


「では早速行きましょう! 敬徳さまの御霊(みたま)のもとへ!」


(りん)は、いいんだな? オレたちといっしょに行っても。戻れるかわからん旅だ」


「もちろんです!」




「わたしも ついてく! お姉ちゃんを、野放しに できない!」


 妹が言った。


「いいよー。いってらっしゃーい」


 姉妹の母親が来て気軽に許可を出し、去った。




「いいのかよ。小学生のオレはダメだったのに……」


「いえの ほうしんは それぞれ!」


「姉の私が保護者としていっしょですしね」




『僭越ながら、わたしもご一緒していいでしょうか。道中の移動をお助けできると思いますよ』


 こんどは転生させない軽トラックが申し出た。




「いいの? 【ぬ2772】さん」


『鈴さんにはご恩がありますから。私なら拒絶空間を通りぬけることもできます。役立つこともあるかと』


「よし、来てもらおう。あんたもユズルハーレムに加入だ」




「えー!?」とクグ。


「人外までハーレムにスカウトかよ。てか女なの?」と菜月。


「敬徳さまなら何も問題ないですね」と鈴。




「まさか妹さんまでハーレムに……?」


「ことわる!」


「そいつは要らん」


「どういう基準で選んでるんだよ」


「勘だ!」




「300メートル敬徳さま尊像の建立は制作委員会に委任しました! さあ! 敬徳さまの元へ! けぁーっ! けぁーっ!」


「早く48時間たたないかな」


 鎮静ヘルメットは工藤鈴に持たせておくことになった。


 必要そうだしね!






 全員が転生させない軽トラックに乗り込む。


 妹ちゃんが運転席、姉が助手席に。


 パズトゥスとクグと菜月は荷台に乗った。




「では行こう。やっぱり割とすぐ会えそうだな。オレたちにとっては、だが」


「私たちにとって、ですか?」


「時間の流れはわりとテキトーだ。ユズルの方では長い時間が経ってるかもしれない」


「ありそうだな。おっさんがじっさんになってるかな?」


「女に生まれ変わってるかもしれんぞ」


「うぇ!? おっさんが女か……わりとアリだな!」




『出発します。アンインストール、工藤鈴、工藤舞、高瀬菜月、ベテルギウス・クグ、パズトゥス、高橋譲敬徳さんの死体、アンド転生させない軽トラックぬ2772』




 みんなが乗った軽トラックが光に包まれて消える。




 ユズルの魂を探す旅の始まりだ。




 きっとすぐに会える。




 彼女らにとっては、だが。




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