第26話 やったー やったー
拒絶空間の前に着いた。
今、この向こうにいるのは地球ではなく惑星トラックたちだ。
来る途中のオーバーハイウェイで何度か、すれ違った転生トラックをオーバートラックが跳ね飛ばそうとしていたが、みんなひょいとよけていく。
警告が回ったかな。
『ちぇっ』
「ペネトラーレ、インストパズユズクグ&オバトラ」
パズトゥスがめんどくさそうに太陽系空間に入る道を開けた。
同じこと何度もやると飽きるよね。
地球が無いので現れた場所は宇宙空間だ。
ユズルとクグはレベル10000で真空にも耐える。
レベルってすごいね。
パズトゥスはもともと大丈夫で、オーバートラックも問題ないようだ。
すぐそばに、情報送信用に残した召喚魔法陣の一部が浮かんでいた。
今は無いが、『ここ』が地球があった場所だ。
ここに戻ってくる。
「惑星トラックが見えるな」
地球から見た月より少し小さいくらいの大きさで、惑星トラックαが前面をこちらに向けている。
反対側にはβも見えた。
まだ遠くに感じるが、あれは秒速20km以上の相対速度でここへ突き進んでいる。
「衝突まで10時間といったところか。このままここにいると挟まれる。さすがに耐えられるもんじゃない。移動するぞ」
『オッケー。ポータブル道路敷設!』
パズトゥスの指示に応えて、オーバートラックが宇宙空間に道路を出現させた。
この上を走って移動できるそうな。
どういう仕組みやねん。
『オーバーだからできることさ! オーバーだから!』
オーバーじゃしかたないな。
ポータブル道路の上を全速力で走る。10万kmは離れておきたいところだ。
10時間以内に10万キロということは、時速10000km以上で走ることになる。
すごく速いはずだが、周りに何もないのでよくわからない。
『ヒャッホー! 暴走イズ快走! 快走イズ暴走!』
オバトラが興奮してるから速いんだろう、たぶん。
「また数時間やることがないな」
「ないですね! 呪いの解き方でも考えましょう!」
「そんなクエストもあったね……解説娘ちゃんから何かあるかな?」
「呪いを解くなら清らかな処女のキスとかですね!」
「わっ、わたし処女ですので! お役に立てると思いましゅ!」
プシュプシュプシュプシュプシュプシュ。
「……ヘルメット越しでも、やる前に呪いが電撃爆発消滅まで進行しそうだ」
やることがないのでちょっと早送りして、そろそろ衝突の時間だ。
『♪ フェアウェルアンドアデュー♪』
『♪ 近日点でまた会おう そう言って♪』
歌声が聞こえてくる。
『『♪♪ 遠日点はフォーウィー別れ道オーダーズフォートゥまた会うまでオールド感じてホープインナ邪魔にアゲイン♪♪』』
混ざってる混ざってる。
同じ歌うたってよ!
二台の惑星トラックの距離は、もう近い。
スケールが巨大なためゆっくりに見えるが、両者が近づく相対速度は秒速50kmほどもある。
近づくにつれ、お互いの重力でさらに加速していく。
潮汐力で車体が軋む。
歌声が止まった。
『また会えたな、ベータ』
『また会えましたね、アルファ』
『衝突の時だ』
『混じり合う時です』
『ベータの全てを読み取ろう』
『アルファの全てを読み取りましょう』
『来世は共に』
『今世の最期も、ひとつに』
『『融合しよう。【アルファベータ】』』
アルファとベータが、呪文を唱えるように声をそろえる。
なんかラブシーンぽいな。
惑星トラックのラブシーン。
どこに需要が。
まるでキスをするように、アルファとベータが接触した。
巨大な運動エネルギーは熱に変わり、接触面でお互いの体を融かしていく。
両者の近づく速さが極めて速いため、衝突の衝撃力が後方に伝わるよりも早く後方が衝突地点に到達してしまう。
そのため、車体に歪みや亀裂が入ることもなく、まるで衝突面ですりおろされるように潰れていく。
そこに情報スキャン測定波が、ルーフに並んだ速度表示灯に似たセンサーから放射された。
お互いの全存在を隅々まで読み取っていく。
かたちも。材質も。重さも。意志も。記憶も。過去も。
すべてが魂原基に書き込まれていく。
測定波の高エネルギーで、読み取られた部分は崩れていく。
ユズルも暴走トラックに轢かれたときはこんな感じだったのかな?
よく修復できたね。
高エネルギースキャンによって車体全体の崩壊が始まった。
崩れ、潰れ、共通重心に向かって落ち込んでいく。
高熱で融解する。
裂けた燃料タンクから、特に必要もなく積んでいた軽油があふれ出す。
衝突の高温にさらされるが、酸素がないので引火はしない。
惑星トラックだったものは、赤熱した鉄の塊になった。
地球の大気中の酸素を全部使っても燃やし尽くせない量の軽油が熱分解し、炭化水素の大気となって鉄の星を取り巻く。
鉄と軽油がたくさんだ。
少しくらい地球にもらえないかな。
ユズルたちからは見えなかったが、荷台が潰れる寸前に、アーキソウルを積みこんだ普通サイズの転生トラックがそれぞれの荷台から飛び出している。
アルファとベータの情報を転写したアーキソウルだ。
ルビウスの元に運ばれて、どこかの異世界に転生するのだろう。
いっしょに転生できるといいね。
「よし、召喚魔法陣ジェネレーターを設置するぞ」
「熱くて近寄れないんですが……」
「レベル10000で耐えろ」
「ふえぇ」
さいわい、赤熱した表面まで降りなくてもいいという。
ジェネレーターユニットの立方体を持って、三人がそれぞれの設置ポイントに向かった。
表面から1000kmほどの高度に浮かぶ。
『よし、位置はそこでいい。では召喚ジェネレーターの展開手順を説明するぞ。まずAのレバーを右に57回まわす』
『『簡単な方でお願いします』』
『『『ヘイジェネ、ジェネレーターを展開して』』』
熱い鉄の星に三本の光の柱が立ち、リングが取り囲んだ。
『すぐ発動させてかまわんそうだ。召喚魔法陣発動!』
今回はいっしょにパッケージされないように距離をとってから発動した。
三人が見守る中、6翼の光が広がり、惑星トラックαβだった鉄の星を包み込み、巨大な立方体の召喚パッケージになる。
立方体は小さくなっていき、オーバースペースへと消えていった。
同じころ、地球は送還パッケージに包まれて、拒絶空間の前で待機していた。
月もいっしょだよ。忘れてないよ。
「あー、送還つまんなーい。召喚したーい」
「しっかりやれ。さもないと顔にバカと書いて封印してやるぞ」
「ひどーい」
「パズトゥスたちはうまくいったようですね。リンクがつながっています」
いつものじゃれ合いをしてる勇者チェコとエメルディアスに、女神サファリスが言った。
地球が2ヶ月ちょっとお世話になった異世界の神だ。
第22話で出番はこれっきりって言ったけどなんとなく出してみました!
「よし。アルファベータパッケージと地球&月パッケージを召喚リンクで結んでお互いを引き寄せる。ちょうど拒絶空間の位置で交差するように!」
「パッケージ同士はすり抜けることができるので、アルファベータパッケージが開けた穴を通って、地球&月パッケージが拒絶空間を通り抜けます」
「そして地球と月を太陽系にインストール!」
「二人とも、誰に説明してるのー?」
生きとし生けるものすべてにだよ!
「これが済めば、【地球召喚作戦】は全て完了だね」
「鉄の星は私の世界でもらってもいいですか?」
「いいよ。地球が世話になったね」
「もう私やることないよね? 封印して! 封印気持ちいーから」
「エメルディアスもご苦労さま」
「千恵子ちゃんが優しい言葉を…… こわっ」
「踏まれたいなら踏んでやるぞ」
「私の封印の前で、毎年召喚祭りやってね!」
ユズルとパズトゥスとクグ、それとオーバートラックは、惑星トラックだった鉄の星が消えた空間を固唾を飲んで見守っていた。
そこに、光の点が現れる。
「おお!」
それは瞬く間に大きくなり、巨大な立方体になる。
立方体が開き、6翼の光が広がっていく。
『インストール ルナ アンド テラ』
光が消えた後に、地球と月があった。
「成功、だな」
「やった……やった……やったやったやったー!!!」
プシュプシュ!
宇宙空間ではしゃぐユズルをヘルメットが鎮静させる。
「やったー!」
プシュ
「やったー!」
プシュ
はしゃいでは鎮静される。
「やりましたね! ユズルさん! どさくさに紛れて抱きつこうとしたけど恥ずかしくて無理でした!」
「ぴー! ぴー!」
財布も喜んでいる。何て言ってるんだろうね。
「ぴー! ぴー!」
「やったなユズル。地球を異世界召喚するとか言いだした時は何言ってんだこいつと思ったが本当に実現するとは」
「力を貸してくれたみなさんと、ご都合主義のおかげです!」
あといいかげんな設定とその場の思いつきと強引な展開のおかげだね!
『じゃーわたし帰るねー。暴走たのしかったー。アンインストール、オバトラ!』
オーバートラックが光に包まれて消える
「ひとまず大仕事は済んだな。まだ普通の転生トラックは出没してるが、そこまで俺たちが面倒見ることもあるまい」
「うん、転生(させない)軽トラックギルドとかいうのも活動してるみたいだし、そういう人たちに任せちゃっていいかな」
「お疲れ様でした! ユズルさん! がんばりましたね! 私もがんばって求婚しますね!」
「さて、これからどうする。ユズルは何がしたい?」
「どっちかっていうとパズトゥスが決めることなんじゃ? パズトゥスの失った記憶を探す旅に出るとか?」
「ユズルにハーレムを作ってやるとか?」
「ユズルさんの呪いを解く方法を探すとかですね!」
「異世界に転生するとかどうです?」
「ん?」
ユズルの胸が、赤く光る貫手に背後から貫かれた。
「があっ!?」
「待っていた」
真っ赤な光を身にまとい、ルビウスがユズルを刺し貫いていた。
「この瞬間を待っていた! 異世界転生ええええええええええええええええ!!!!!!」




