第24話 ドン引き ドン引き
「お姉ちゃん!」
「なあに? 妹ちゃん。私いま、高橋譲敬徳さまの等身大偶像を拝むのでいそがしいんだけど」
「ドン引き!」
「あら、『お姉ちゃん!』以外のセリフが言えるようになったのね」
「お姉ちゃんは、たすけてくれた恩人におれいをいう機会がないまま、かんしゃのおもいをつのらせて、とうとう信仰にかわった!」
「当然のことをしてるだけだよ? このあいだのありがたい演説も毎朝書経してるし」
「とうぜんとか、いいだした! でもお姉ちゃんはむかしから変だし、いつかこんなかんじになるとは思っていた!」
「ついに私は帰依すべきものを見つけたのよ!」
とある地球の、とある日本のとある地方都市のとある旧家の広大な敷地の一角に、建造されたばかりのお堂がある。
その中には、大小さまざまの高橋譲敬徳像が祭られていた。
「おどうも、ぐうぞうも、ぜんぶお姉ちゃんがじぶんでつくった! ドン引き!」
「ほら、妹だって助けられたんだから、拝みなさい」
「おれいは、ほんにんにするべき! ぐうぞうは、にせもの!」
「お礼じゃなくて、拝むの! 信仰の対象は自分の心の中にあるの。本物がどうだろうと知ったこっちゃないわ。でも本物はもっとすばらしいに違いない敬徳さま敬徳さま敬徳さま」
御堂の中のユズル像の中で一番大きいものが一番新しい。
小さく作られた暴走トラックを踏みつけて、キリッとした表情のユズルが必殺技のポーズを取っている。
この姉、ユズルの必殺技を見たことはないはずなんだけどね。
これが信仰の力か。
ユズル像の足元に鎧像がひざまづいて、ヘルメットをうやうやしく捧げ持っている。
この姉、鎮静ヘルメットのことも知らないはずなんだけどね。
これが信仰の力か。
現在、御堂の外で10メートル級のユズル像を建立中のようだ。
第一ヒロイン(登場順)ってこんなんだったんだな。
誰も知らなかったよ。
誰もな!
「お姉ちゃん! こっちきて!」
「はいはい。では敬徳さま、失礼します。今夜は私を前に緊張して固まる敬徳さまの姿を思い出してきゅんきゅんしますね!」
妹が姉の手を引いて歩き出す。
「こっち! ひろった!」
「何を拾ったの? こっちの世界のモンスターかな? かわいいスライムとかをこっそり飼ってハートフルな異種族ふれあいストーリーが始まるのかな?」
「ちがう! てんかいよそうするな!」
広い敷地の端にある、使われていないガレージに来た。
「ここ!」
「なにかなー……む?」
ガレージの中には一台の白い小さな軽トラックがあった。
前面が大きくへこみ、フロントガラスにもヒビが走っている。
歪んだ黄色いナンバープレートには、
【異世界 454 ぬ 27-72】
「転生トラック!?」
姉が身構える。
「だいじょうぶ! これはいい子!」
妹は軽トラックのそばに歩いていく。
「きた!」
『ああ、来たんですか、小さなレイディ。ごめんなさいね、迷惑はかけたくないけど、もう動くこともできないみたい』
軽トラックがしゃべった。
「なおって!」
『そうですね、治りたいですね。そちらのかたは?』
「お姉ちゃん!」
『そうですか。お邪魔しています、大きなレイディ。私は見ての通り、異世界で作られた転生軽トラックです。といっても、人を転生させる能力は、ありませんけど』
「こ、こんにちは。転生トラックなのに、転生能力がない……?」
『試作品なのです。私たちは。ルビウスが行っていた、対象の全情報を読み取って魂原基に転写する研究の、実験台』
なんだか急にルビウスに悪者感がでてきたぞ!
「実験台……」
『はい。ルビウスはオーバー軽トラックを拉致して改造し、情報スキャン機能や拒絶空間通過機能、アーキソウル書き込み機能などを付与する実験をしていました』
「じゃあく!」
「ずいぶん悪そうな人ですね」
『機能としては装備できたのですが、軽トラのサイズでは対象の全存在を読み取るための高エネルギー衝突が不可能だと判明して、私たち転生軽トラックは、オーバースペースに廃棄されました』
「かわいそう!」
「うん、ひどいね……」
『廃棄場で朽ちていく私たちの近くを通るオーバーハイウェイを、完成した転生トラックが通りすぎるたびにクラクションを鳴らしていくんです。バカにするように! チクショウ! あの軽油飲みどもめ! ガソリンの方がうまいんだよ!』
「あわれ!」
「う、うん、ひどいね?」
『少し前のこと、そんな私たちの元に、サナギさんというかたが来てくれました。大量のガソリンと修復資材を持って。そのかたは『軽トラは農家の味方ですからー』などと言って、私たちを動けるようにしてくれました』
「それは僥倖!(思いがけない幸運)」
「妹が難しい言葉を……!」
『そしてサナギさんは私たちにこう言いました。
『どうやら惑星トラックの地球転生は阻止できそうですけどー、その地球上に普通サイズの転生トラックはまだいるんですよねー。そいつら今でも人を轢き殺してますからー、あなたたちー、それを妨害してもらえませんかねー』
と。もちろん私たちは承諾しました』
「それは重畳!(よろこばしいこと)」
「また難しい言葉を……!」
『私たちは【転生させない軽トラックギルド】を設立。地球が異世界に落ち着くのを待って、地球に参入し、転生トラックの妨害を始めました』
「グランデ!」
「イタリア語まで!? えーと、素晴らしいって意味か」
『そんなわけで、さっきカモシカを轢き殺そうとしていた転生トラックをなんとか阻止したのですけど、軽が大型に対抗するのはさすがにキツくて、だいぶ破損してしまいました。今後は数で攻めた方がいいですね』
「よくやった!」
「転生トラックってカモシカとか狙うんだ」
『電柱とかポストとかをスキャンする転トラもいますよ。そういうのもちゃんと転生するそうです』
「じゃあ『前世はポスト』みたいな人が異世界にいたりするのね」
『いたりしますね』
「そして壊れてるところを妹に拾われて、ここに保護されたというわけか」
『はい。ここまでは自走できたのですけど、もう動けないようです』
「お姉ちゃん! なおして!」
「直せるなら直すけど、どうすればいい? 修理工とか呼べばいいのかな?」
『ガソリンさえあれば自己修復できます。それと少しの鉄クズが欲しいです』
「分かった。持ってくるね」
『ありがとうございます。お手数かけます』
「気にしないで。だって、」
姉は転生軽トラにいったん背を向ける演出を入れてから、さっと振り返ってバッと手を広げる。
「私が崇めるおかたは、お人好しだといいます。ならば私も見習いましょう! 他人を救うために走りだした敬徳さまに、私も続きましょう! 讃えよ! 高橋譲敬徳さま! 褒めよ! 高橋譲敬徳さま! じゃあ待っててね!」
「ドン引き! ドン引き!」
姉がガソリンなどを取りに走り去った。
『……お姉さんの異常な言動を妹さんのツッコミであるていど中和する感じですか?』
「そんなかんじ!」
姉はすぐにリヤカーを引いて戻って来た。
10リットルのガソリン携行缶を4つと、なぜか物置で見つけた乗用車のドアを一枚積んでいる。
「ドアって意外と軽いねー。これはどうすれば?」
『ドアは荷台においてください。吸収して材料にします。ガソリンの給油口は右側の後方にあります』
「ここだね。入れるよ。って、これ自動で止まらないよね、あふれないかな」
『ちょうどいいところで言いますので』
「そっか。じゃあ入れるね。」
ガソリンを注ぎ込む。
『そこまででいいです』
「はいよ」
『ありがとうございます。では、修復ううう!!!』
転生軽トラがカッと光を放つ。
一瞬で、ボディのへこみもガラスのヒビも直った。
「おー、すぐ直るのね」
「なおった!」
『助かりました! これでまたクソディーゼルどもを邪魔しに行けます! お礼に悪いモンスターを轢き殺して得た経験値ボールをさしあげますね』
助手席のグローブボックスが開いた。
中にはビー玉サイズの経験値ボールがぎっしり詰まっている。
ずいぶんと轢き殺したじゃねえか。
『全部どうぞ。飲みづらい時は経験値交換屋でドリンクに変えてもらうといいですよ。では私は行きますね。見てろよ転トラどもめ、こっちがクラクション鳴らす番だ!』
転生(させない)軽トラックは、ガレージを出て、屋敷の敷地から出ていった。
姉妹が見送る。
「……あのひとたちが公道を走っても捕まらないように法整備したほうがいいかな。おじいさまに言ってみよっと」
「うちに、そんなけんりょくない!」
「敬徳さまならきっとやるよ!」
「たかはしゆずるけいとくは、きっとわりと、てきとうなやつ! そのばしのぎで、いきているいんしょう!」
「敬徳さまがそうならそれは正しいのよ!」
「ての、ほどこしようがない狂信者! ドン引き!」
♢ ♢ ♢
そのころユズルたちは、月がどれくらい有能かを地球に向けて話していた。
万一月を追放してしまって、あとで地球がざまぁされるようなことがあってはならない。
地球は聞いてるんだかなんだか分からないが、とにかくやれることはやっておこうということだった。
いつも場当たりだね。
「月は潮汐力で潮の満ち引きとか潮流とかを生み出してるんだ! なくなったら困るよ!」
「月明かりが頼りになることもまだまだあるぞ。月は有能」
「お月さまはきれいだからいた方がいいと思いますよ!」
地球は、ただ静かにそこにいる。
うん、大丈夫。地球もきっと分かってくれたよ。
だいじょぶだいじょぶ。多分。
「最後の最後で、解説娘ちゃん! ここでようやくあの姉妹のお名前を発表します! お姉さんの方のお名前は『工藤鈴』 妹さんの方のお名前は『工藤舞』です! 次に出番がある頃には忘れているでしょう! それではみなさん、さようなら!」




