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第20話 遠い。 遠い。

 地球召喚作戦本部に帰還した。


 行ったり来たりと忙しいこったね。




「本部なんてあったっけ」

「勇者チェコの屋敷に設置してあるという設定だ」

「なんだかにぎやかですね!」


 以前は何もなかった勇者の家の庭にはたくさんのテントが設営してあり、あわただしく人やオーバートラックが出入りしていた。


 焼き鳥やたこ焼きの屋台も出ている。

 わたあめや射的や型抜きや風船釣りやお化け屋敷とかも並んでる。


「おかえり」


 勇者チェコが出迎える。


「召喚魔法陣ジェネレーター、設置完了だ」


「ああ、リンクも通ってる。お疲れ」


「庭がお祭りみたいですね」


「実際お祭りさ。スキあらば酒を飲みたい奴らが集まってくるもんだ」


「『召喚祭り』とか言って定着させたいね! 私の封印の前で毎年やるのはどう?」

 創造神エメルディアスも楽しそうだ。


「そんなら封印する時ゃ変なポーズで封印してやるよ」


「ひどーい」




「ぴー! ぴー!」

 財布がお祭りに行きたがっている。


「おやおや。クグ、連れて行ってやりな。おこづかいをやろう」

 勇者が財布の背中にお金を入れてくれた。


「はい! ユズルさんも行きましょう!」


「ちょと話があるからユズルは残ってくれ。先に行ってな、あとからやるよ」


「はい! あっ! 財布落とした! 待って! 私はこっちだよ! 財布!」


 クグは財布を追って走っていった。




「それでユズルに何の話だ? さてはストレスのかかる話だな?」

 パズトゥスもその場に残った。


「まあね。ユズルよ、あんた、クグをどうするつもりなんだい」


 うわー、真面目な話だ。

 つらい。童貞にはつらいよー。


「いい子じゃないか。シルクリング(あのババア)の孫とは思えないくらいに。あんな子がはっきりと好意を示してるんだよ」


 言葉に詰まるユズルに、勇者チェコが続ける。


「あんたの気持ちってやつをさ。それがどんなものであれ、クグに返してやるべきじゃないか。いや、返してやってほしいのさ」


 プシュプシュと、ヘルメットが鎮静剤を噴霧してくる。


 ユズルはヘルメットを脱いだ。


 これは普通の動揺だ。

 呪いが出ているわけではない。


「お、俺は、たぶんクグのことを」


「待て待て。私に言ってもしょうがない。言うならクグに直接言ってやっておくれ。ヘルメットがあれば話はできるんだろう?」


「話はできますけど……強制的に鎮静されるので言葉に気持ちがこもらないんですよね」


「そんなもんか……難儀だねえ」


「それでもクグなら喜びそうだけどな」

 パズトゥスが茶々を入れる。


「それに冷静になると、パズトゥスと交わした契約が、俺はパズトゥスの所有物だという意識が強くなって」


「そんな契約しちゃってるのかい。首輪が無いようだけど」


「こいつはお人好しだから強制されなくても約束を守るのさ。首輪はルビウスに徳政令された」


「はー、思ったより面倒な状態なんだねえ。それでその所有者のパズトゥスと来たら」


「ハーレムだ! ユズルにはハーレムだ! 存在理由とまでは言わないが、失くした記憶が導くのだ! ハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレムハーレム」


 ひょえ。

 やっぱりこんなんばっかりや。


「これだものねえ……」




「とにかく、まだちょっと何ができるかわかりませんけど、ちゃんと考えてみます。クグさんのこと」


 ユズルはまたヘルメットを装着した。


「たのむよ。シリアスなシーンにして悪かったね。ここはすっごく面白いジョークで場を温めてやろう」


「やめろ」


「やめてください」


 やめて!


「三丁目に住んでるフクロウが」


 やめろおおおおおおおおおおお!!!!!






 命からがら勇者ジョークから逃げ出したユズルとパズトゥスは屋台の並ぶ召喚祭りの中、クグを捜す。


「ユズルさん!」


 向こうのほうから見つけてきた。そういえばユズルのいる方向を示すマーカーを出してもらったままだね。


 走ってきたクグがつまづいて転んでちょうどそこにあった柱にぶつかりそうになった。


 寸前でユズルが抱き止める。


 ベテルギウス・クグになってもドジっ娘はドジっ娘みたいだね。


 抱き止められたクグは真っ赤になって黙り込んだ。


 ベテルギウス・クグになっても照れっ娘は照れっ娘みたいだね。


 ふだんは結婚結婚うるさいのにねえ。


「クグさん。話があります。いっしょに来てください」


 立たせてやりながら、ユズルが言った。


 プシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュ


 すごい勢いで鎮静してくる。

 これがヘルメットの存在理由(レーゾンデートル)か!


「ひゃ、ひゃい」


 クグは真っ赤なままうなずいた。






 ここはどこか、人のいない静かな場所。


 都合よくあったのだ。

 都合よく見つかったのだ。


 必要な時に必要なものを用意してやらなきゃね!




 ユズルとクグが向かい合っている。


 パズトゥスが横で見ている。


 財布がわたあめを食べている。




 ユズルがメルメットを脱いだ。




「ユズルさん!?」


 たちまち赤面、発汗、発熱、動悸頻脈息切れ震え吃音目眩が出る。




「わるりろったのすほしゃぽしゅしりすかわか!」


「ユズルさん! ヘルメットをつけてください!」


「らうあんらくるるすおっくしははりびゃびゃ!」


 毒が出た。火がついた。


 レベル10000で強引に耐える。


「なりふみくるっししそじゃびくふぁりりで!」


「ユズルさん……」


「ふぁるあびゃじゃじゃじゃじゃ……」




「…………はい! 分かりました!!!!」




 クグが、パッと笑った。


 花のように。太陽のように。


「何を言ってるのかは全然わかりませんでした! でも!」


 ユズルに歩み寄る。


「ユズルさんの本気が分かりました。ユズルさんの真剣さが分かりました。何の本気か、どんな真剣さかは分かりませんけど、伝わりました! 本気なことが! 真剣なことが!」


 燃えるユズルに触れるような距離に立った。


「……本気をくれて、ありがとうございます」


 ユズルの手からヘルメットを取ると、そっとかぶせた。




 プシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュプシュ


 すっごい勢いで鎮静してくる。




「早く火を消せ。ヘルメットは鎮静してくれるだけだぞ」

 パズトゥスが毒を消してくれた。


「ああ。(略)消火(エスティントーレ)!」


 火が消えた。


「ふう。変なこと聞かせてごめんね、クグさん。さっき言いたかったのは」


「いえ! 今はいいです! 呪いを解いたら、本気の内容を教えてくださいね!」


「……分かった。呪いを解いたら、必ず」






『真面目なシーンは、勇者ジョークでほぐしてやるー』


 どこからか禍々(まがまが)しい声が聞こえてきた。




「勇者ジョークがくるぞ! 逃げろ!」

 パズトゥスが叫んだ。


「ああ! 逃げよう、クグさん!」


「はい!」




 三人はそろって走り出す。


 逃げろ、どこまでも。


 進め、いつか呪いを解く日まで。




 きっと来る。呪いを解く日は。


 その日はきっと、














 遠い。




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