表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/44

第02話 口論 口論


「だーかーらー、こいつは契約で貯金もコレクションも親の形見もこいつの全てもオレがもらったんだからオレのなの! オレが連れてくの!」




「だーめーでーすー、ユズルさんは転生トラックに轢き殺してもらったんだから私が責任持って異世界に転生させてあげるんですー、そーゆー決まりですー、いっぱい加護(チート)与えて楽しい異世界ハーレムチートテンプレーション人生おくってもらうんですー」






 うっすらと目覚めかけたユズルの意識に、誰かが言い争う声が聞こえてくる。


 片方は前回怪しい取引を持ちかけてきたきた謎の声だ。

 もう片方は聞き覚えがない女の声だ。






「契約してるんだからこっちが優先! ユズルはオレの!」


「そんな契約は破棄です破棄! それー、契約破棄魔法徳政令(とくせいれい)ー! はい破棄したー! これでこっちが優先!」


「あっこら!」


 ユズルの首から契約の首輪が消えた。


(おや、あっさり)




「勝手なことを! ……だがそうはいかんぞ。きっとこいつはお人好しだ。見ず知らずの姉妹を助けるために何もかも差し出すようなやつだからな。契約の強制力が無くたって約束を守ろうとするはずさ」


「本人の意志など知ったこっちゃありません! 何がなんでも転生です! 魂さえ渡してくれればお金もフィギュアもオルゴールも死体もパズトゥスさんが持って行っていいですから! それで納得してくださいね!」


「だめ! 魂もオレの! 全部オレの!」


「欲張りですねえ、こんなおっさんに片足入りかけた凡俗さんを何でそんなに欲しがるんですか。せっかく死んでいたのにバラバラ死体をわざわざ修復して生き返らせるし。

 おかげで魂を引っこ抜く余計な手間がかかるじゃないですか。本来この神域には魂しか運ばれて来ないのに」


「おまえも面白そうなパズルだとか言っていっしょに組み立ててたろうが」


「面白そうだったので。上手く出来上がって良かったです。全身に傷痕が残っちゃいましたけど」


「それはわざと残した」


「ほほう、なぜです?」


「なぜなら!」


「「かっこいいから!」」




 言い争いをしていた二人が声を合わせて言い放つ。




 それからちょっと沈黙が流れた。


 青いビニールシートの上に寝かされたユズルの様子を伺う気配がする。


 注目されてちょっと緊張したユズルは、なんとなく寝たふりをした。




「……あれ? 目を覚ましたと思ったけどな」


「あらまあ、せっかく『わざとらしい会話で自然に状況説明』していたというのに。聞いてませんでしたか」


「おっ、今ピクッと動いたぞ! 今度こそ目を覚ましたんじゃないか?」


「では最初からやりなおしましょう! 会話で自然に状況説明!」




「だーかーらー、こいつとは契約で貯金もコレクションも」


「あ、大丈夫です、聞いてました、起きてます、大丈夫です、繰り返さなくていいです」


 謎の声の主のセリフをさえぎってユズルが起き上がる。




 そこは、真っ白な広い空間だった。


【13番窓口 トラック転生課】


 と書かれた看板が立っている。


 少し離れたところに、前回謎の声の主が破壊したトラックの残骸が転がっていた。

 おびただしい血痕が付着している。


(バラバラ死体とか言ってたけど、俺の体どういう状態だったんかな)






 「おはよう、ユズル。体の調子はどうだ? 修復はうまく行ったと思うが」


 謎の声の主が話しかけてくる。




 その姿は、一言で言えば『鎧』だった。


 黄色い金属光沢を放つ、西洋式の甲冑を着けた人物だ。

 全身を装甲で覆われていて、顔もわからない。


「俺の名はパズトゥス。さすらいのパズトゥスだ。よろしくな。ちなみに中身は無いぞ。からっぽ鎧だ」


 謎の声の主(パズトゥス)が頭部を首から外してみせると、そこには何もなかった。


「ひょえっ…… あ、ああ、体は大丈夫だ。治してくれたんだよね?」


「ああ。顔まで傷跡が残ってるけど良かったか? 嫌なら消してやるが」


 鏡を見せてきた。

 額から眉間を通って頬まで、傷跡が走っている。


「かっこいいからこのままでいいや。キャラも立つし」


「だよね!」






「おはようございます。ユズルさん。私はトラック転生担当女神のルビウスです。転生トラックさんたちがこの神域に運んできた魂を異世界に案内するのが仕事です。おとなしく転生してくださいね!」


 パズトゥスに続いて、言い争いをしていたもう片方が話しかけてくる。




 女神と名乗っているが、とりあえずの見た目は普通の人間とそう変わらない女性の姿だ。


 ただ、赤い。

 とっても赤い。

 髪は燃えるような赤で、瞳も赤く、着ている服も履物も赤、唇も爪も赤く塗られている。

 全身赤コーデだ。


「よろしく。高橋(たかはし)(ユズル)敬徳(けいとく)です。ルビウスさんは頭が取れたりしないんですか?」


「しませんよ!」


「体の修復を手伝ってもらったみたいで。ありがとうございました」


「転生トラックさんの残骸に食い込んでたせいで肉体も一緒に来ちゃったみたいですね。面白いパズルでした。これから魂を引っこ抜きますけど、痛いの我慢してくださいね! すごく痛いですけど」


「えっと、できればパズトゥス?との契約の方を優先したいんだけど」


「逆らいますか! 律儀な人ですねえ、もう契約の強制力はありませんよ? 踏み倒しましょうよ!」


「約束は約束だから。対立するならパズトゥスの方に付くかな。両立できる道はないんですかね」


「ないですよ! ならばムリヤリ転生ですね!」








『おはよう、ユズル。我は転生トラック【け 42-49】だ。これから三人とも轢き殺すからよろしくなァ!』




「ん?」




 また話しかけてくる者がいた。


 離れたところに転がっていた転生トラックの残骸が、()()




 周りを見回したユズルの目に飛び込んできたのは、大型トラックがこちらへ向かって突進してくる光景だった。




「あぶない!」

「きゃあ!」

「なんだ!?」


 あわててユズルはルビウスとパズトゥスを突き飛ばす。

 自分も必死に転がってトラックの突進を避けた。


 間一髪、トラックがすぐ脇を走り抜けていく。




「壊れてたのに! あれも修復したの!?」


「してない!  何でこいつ復活してるんだ?  誰か説明してくれよお!」


「解説娘ちゃん! 解説娘ちゃんは!?」






「はいはーい、いつでもどこでも解説娘ちゃんです!」


「解説娘ちゃんって神域にも出てくるのか」




「では解説します! 暴走トラックがなぜ復活しているのか? それは、【経験値フィードバックシステム】で大幅レベルアップしたからなのです!」


「ほほう」


「そんな感じであいづちをお願いします! セリフが長いと読みづらいですから! まず、敵を倒すと経験値が入る。それは敵が強いほど多くなる。ここまではいいですか?」


「いいでーす」


「倒した時点では弱かった敵が、生き延びていたり復活したりして、その後成長していき、ずっと強くなったりすることがありますね?」


「まあ、あるかな?」


「そうすると、『後で強くなったやつを以前倒したことがあるボーナス』で、敵の成長分だけ経験値が加算されていくのです!」


「そういう設定かー」


「今までたくさんの地球人が転生トラックさんに()き殺されては異世界に転生しましたが、その人たちの多くは転生チートで勇者とか魔王とか神とかに成り上がって行きました」


「ふむふむ」


「それで転生者さんたちが後で出世した分だけ、彼らを轢き殺した転生トラックさんに経験値が加算されていくのです! これが経験値フィードバックシステム!」




『プオーン』


 トラックがあいづち代わりにクラクションを鳴らした。

 解説中は攻撃を待っていてくれる、空気の読めるトラックだ。




「たくさんいる転生トラックの中でも【け 42-49】さんは轢殺(れきさつ)数が桁違いに多く、大量の経験値を溜めこんでいました」


『我は轢き殺すのが大好きなのだァ!』


「地球には経験値をレベルに変換するシステムはありませんが、ここ神域ではそれが可能です。溜まっていた経験値を、ついさっき全部レベルに換えたのです! レベルアップに伴うダメージ回復作用で壊れていた車体も元通り!」




「なるほど、安い時に株を買ったら後でどんどん値上がりして売ったら大金が手に入った、みたいな感じかな、経験値フィードバックシステムって」


「そんな感じです」


『そんな感じだァ! 我の今のレベルはァ〜?』




 シャキーン! とトラックの上にカウンターが現れ、数字がどんどん増えていく。


 ダダダダダダダとどこからかドラムが盛り上げ、ジャーン! と現在レベルが発表された。




『なんと!  レベル1011だァ!  四捨五入して1000! 』




 暴走トラックの上に、


《転生トラック【異世界109 け 42-49】レベル1011》


 という表示が表れた。




「レベル1000か、すごいね。それでキミ、何で襲ってくるん? 俺だけじゃなくパズトゥスやルビウスさんまで轢き殺そうとしてたけど」


『言っただろうがァ! 我は轢き殺すのが大好きなのだァ! もともと我は魂とか転生とかどうでもいいのだァ! 全身の骨が砕ける感触が心地いいィ!』




「これは暴走してますなあ」


 タイトル通りだね!




「レベルが上がって気が大きくなってるみたいですね、私まで轢き殺そうとするとは」


「ルビウスさん、あれ何とかならないの? 一応アレの上司なんでしょ?」


「担当箇所が違うだけで別に上司というわけでもないですよ。もともと轢き殺した魂をろくに運んでこない不良転生トラックさんですから、言うことを聞かないでしょう」


「女神の力でやっつけるとかは?」


「さっき契約解除魔法(徳政令)を使った時に今日の分の神力を使い切っちゃいまして。レベル1000の暴走トラックにはちょっと対抗できないですね」


 割と使えない女神様だ。




「じゃあパズトゥスは? 一度は破壊したわけだし」


「地球から神域に移動するときにユズルの肉体を保護するために今日の分のパズトゥス(ちから)を使い切ったって設定だよ。悪いな」


「設定じゃしょうがないな」


 解説娘ちゃんはいつの間にか消えていた。




『戦闘中に何をのんびり相談してるかアァ! だが我は空気が読めるから待つぞオォ!』


 不意打ちとかしてきた割に話が分かるトラックさんだね!




 パズトゥスとルビウスがユズルを見つめた。


「おまえがやれ、ユズル」

「あなたがやるんです、ユズルさん」




「何で俺が?」


 なぜなら!


「「主人公だから!」」




「主人公ならしょうがないな。……やってやらあ!」


「「がんばれー」」




『相談は終わったかァ! 申請すればまだまだ待つぞォ!』




「ああ言ってるし、せっかくだからもうちょっと待っててもらおうか」

「じゃああと2時間くらい」

「お茶しながら相談しましょうか」




『よかろオォ! それまで庭を作るゲームでもやって時間を潰してるぞオオォ!』


 助かるね。




 真剣味というものがぜんぜん無いのはこのお話の仕様ですので今後ともよろしく!








 らんらんららんらん、お茶の時間です




 三人で座って紅茶を飲む。


「パズトゥス、中身が無いのに飲めるん?」

「どこかに入ってくるぞ。どこだか知らんが」

「あんまり美味しくないですねこのお茶」


 飲み終わった。




「さて。どうしよう」

「どうするかね」


「ユズルさん。異世界でチートしてもらうための加護は、もうユズルさんの魂に注入してあります。それをパーっと使っちゃいましょう!」


「おお、そんな設定が」


「ぜんぶ使い切らないとたぶんレベル1000の転生トラックは倒せません。あとで追加でチートを配達しますので、ここは景気良く使い切っちゃってください」


「おっけー。どう使えばいいかな?」


「何か必殺技を編み出して全力でぶつかってく感じがかっこいいとおもいますよ」


「かっこいいんならそれで行くかな。技を考えないと。2時間で足りるかな」


「もうすぐ第02話が終わるから、第03話が始まるまでに考えておけばいいだろ」


「じゃあなんとかなるか。よし、それで行こう」

「相談はもういいかな?」

「いいですね。すみませーん、お茶終わりましたー」





『ぬううゥ、このゲームゥ、パズルパートはただの運ゲーだァ! ハゲ執事めェ!』




「おわりましたー」




『おっと終わったかァ! では改めて、轢き殺すぞォ!』


「やってみろお! この身ひとつとチート全部、賭けてやらあ!」






 馴れ合いの時間は終わった。


 いよいよ戦闘……




 開始だ!




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ