第16話 封印 封印
次の朝、勇者の屋敷の庭には、大勢の冒険者が集まっていた。
ユズルたちはその中をかき分けて勇者の元まで行く。
「おはようございます、チェコさん。この人たちは?」
「おはようさん。護衛を雇ったのさ。危険な森だからね。さ、すぐ出発するよ」
目的地は勇者の家よりもさらに深い森の奥にあるという。
道なき道をかき分け進む一行の心を和ませようと、勇者はお得意のジョークを披露しつつ歩いていく。
とてつもなくつまらない。
とてつもなくつまらないのだ。
「白鳥とシロクマがチェスをしました。それを見ていたシロヘビが、『白い方が勝つわ』だって。あははははは、おかしいね、おかしいね」
「?」
「?」
「?」
聞いた者はみな悲痛な表情で顔を伏せる。泣き出す者さえ現れた。
普段は朗らかな鳴き声で森を行く人の耳を楽しませるジャブジャブ鳥も、真顔になって黙り込む。目を固く閉じて小さくうずくまり、こんな悲しい時間が早く過ぎてくれるようにと祈る。
以前、勇者ジョークのあまりのつまらなさにニワトリが卵を産まなくなったという。
そんな地獄のような行程も特に危険な森の深奥に差し掛かるまでのことだった。
「ここからはジョークを言ってる余裕もないよ。みんな、気合を入れな!」
「ばんざーい! まかせてください、勇者さま!」
そう元気よく答えた女冒険者が、すぐに危険なかわいい森のねこさんに連れて行かれた。
「ふむ、一人目か」
森を先に進むにつれ、たくさんいた冒険者たちは次々に危険なかわいいモンスターに連れ去られて数を減らし、目的地に着いた時にはその数は半分ほどになっていた。
「よし、帰りの分も間に合うね」
森の中に、巨大な半球状の混沌とした空間があった。
さまざまな色が混じり合い、流れ、常に形を定めることがない。
「なるほど、拒絶空間の一種だな」
「昔は地球に帰りたくてね。拒絶空間を越えるための方法を研究してたんだが結局越えることは出来なかった。代わりに似たものを作ることができるようになってね」
「これだと中からは出て来れるんじゃないのか?」
「二重の封印なのさ。閉じ込める封印をほどこしたうえで、拒絶空間で囲んだ」
「閉じ込めた封印は外から壊すことはできるんですよ! 外の誰かがそんなことを企んだ時のために入れない封印で覆ったわけです!」
解説娘ちゃんがその辺の岩に向かって解説している。
誰でも生きようと必死だね。
「これくらいのサイズだと中に入ろうとしたら拒絶空間全体を消すことになるが、いいか?」
「かまわないよ。拒絶空間から出さなきゃ勇者召喚術も使えないしね。やっちまってくれ」
「よし、ユズル! 合体だ!」
「お、おう!?」
ちょっとびっくりしながらもユズルはパズトゥスの言葉に答えてかっこよくジャンプする。
空中でくるりと回転してからシュタッとかっこよく着地。ビシッとかっこよくポーズを決めた。
「撃着!!!」
パズトゥスの体がパーツに分かれて飛び上がり、ユズルに装着されていく。
打ち合わせもなしにノリが合うじゃねえか。
「鎮静ヘルメットがジャマだな」
「パズトゥスの顔部分が胸のとこに付くってのはどうかな?」
「なるほど、胸にライオンとかが付いてるあれか! かっこいいな! それで行こう」
かっこいいのは大事だ。
大事なんだ!
覚えておけ!
パズトゥスの頭が変形して胸部分に装着された。
「「パズ! ユズ! ダーッ!!!」」
適当に考えた名を名乗る。
今ここに、さすらいのお人好し、
【パズユズダー!!!】が誕生した……!
いや、合体は第04話でもうやってたけど。
「ウィーハブコントロール! 必殺! インフェルノエパラディーゾ、アープリティセサモ!」
合体技が、拒絶空間を吹き散らす。
混沌とした空間がかき消された。
「……ノリで最後までやっちゃったけど何でわざわざ合体を?」
「まず、かっこいいから。次に、特に意味はない。それから、主人公に活躍の場を持たせるため。そういうわけだ!」
「なるほど、かっこいいのは大事だね」
大事だぞ。
「パズトゥスさんの中にユズルさんが! なんだかうらやましいです!」
「クグもいずれユズルを入れてもらえるだろよ」
「にゃあっ! エロっぽい話をするな!」
「ひゃ、ひゃい」
ほらまたクグがヒロインレースで他を引き離してる。がんばれ! 他のヒロインたち! 出番がなくて大変だな!
ユズルとパズトゥスが分離して二つに分かれる。
「3分しか合体してられないって設定はどうだろう」
「いや、宇宙服代わりに着てプラネットトラックのとこまで行ったことがあるだろ。あれは3分どころじゃない」
「あーそっか、そのシーンと整合性がとれないね」
「整合性とか気にしてるか知らんけど」
してません。
拒絶空間が消え去った後に、封印結界が残る。
透明な球体の中に、一人の女性がいた。
全身緑コーデの美しい女性だ。
真っ直ぐ立ち、目を閉じて胸の前で手を組んでいる。
いかにも『封印されてますよー』ってなポーズだ。
「この世界の創造神、エメルディアスだよ。私を召喚した迷惑ヤローさ。おらァ! 死ね!」
勇者チェコが封印を蹴飛ばした。
球体はあっさり粉々になり、中の女性はぶっ飛ばされて転がっていった。
「ぐげェーーーー!」
見てる分には楽しそうにゴロゴロと転がっていき、岩に激突して止まる。岩さんかわいそう。
「第08話でクグさんがチョロっと言ってた黒幕の創造神ってやつか」
神だけあって大したダメージもないようで、エメルディアスさんとやらはむくりと起き上がった。
「えー、なにー? せっかく美しく封印されてたのにー。あれ、千恵子ちゃん、どうしたのそんなにカッカして」
「死ね! 死ね! 私のギャグがウケないのもおまえのせいだ! 蹴り! 蹴り!」
「いたいなもー。あれー、パズトゥスだ。久しぶりー。記憶もどったー?」
「あれ? 知り合い?」
「昔々、まだこの世界も無かったころのことだな」
「パズトゥスってどれくらいさすらってるの?」
「一億年くらいになるかな」
「そんなにか」
「そんなにだ」
「封印から50年くらいかなー? 千恵子ちゃん若作りー。まさか逆ハーとか作ってたりしてー?」
「うるせー! 悪いか! 踏み! 踏み!」
「それでなんで外に出したのー。正直封印気持ちよかったんだけど」
「勇者召喚を頼みたい」
勇者チェコが真面目な顔になった。
「どういう風の吹き回しー? 『こんなものがあるから争いが起きるんだ』とか言って封印したくせにー」
勇者がユズルをチラリと見る。
「はい、惑星サイズの転生トラックが2台、地球そのものを転生させるために地球を南北から挟み込む軌道で接近中です。それで地球そのものを勇者召喚で異世界に避難させようと考えて、ご協力を仰ぎに伺がった次第です」
ユズルがよくまとまった説明をする。
「ほー、星をひとつ、勇者として召喚かー。面白そう。それにしてもトラック転生って。ダサ。トラック転生ダサ。ダサ。プププ。やっぱり勇者召喚のほうがかっこいいよねー」
どっちもオワコンだぞ! 今は追放ざまあだ!
「それもオワコンだろ」
え……? じゃあ今は何が?
「『今』を追う者は必然的に『今』よりも後ろにいるものだ。追うな! ひとりで走れ!」
みんなで走るのも楽しいだろ!
「わかったー、やるよー。面白そうだし召喚大好きだしー。久しぶりに召喚できるなー、楽しみー、召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚召喚」
ひょえ。
こんなんばっかりや。
「でもさすがに星ひとつは私だけじゃ無理だよー。どーするの」
「他の世界の召喚術者にも協力を頼んでる。承諾の返事ももう10000件くらい来てるよ」
「直列召喚かー。確かに今は位置がいいねー。なんとかなりそーだねー」
「オーバートラック協会も割り込んできたからね。今オーバースペースに地球専用のオーバー道路を急ピッチで作ってくれてるってさ」
「お祭りだー。これはいけるねー。でもこれだけ大規模だと召喚引力を拒絶空間に通すのが……ああ、ここでパズトゥスかー」
「そういうことさ。地球へのリンクを繋げてもらう」
全然考えてなかった設定がつながっていく不思議!
「じゃー終わったらまた封印してねー。封印気持ちいー」
「そんときゃ何か嫌いなものといっしょに封印してやらあ」
「ひどーい」
そんなわけで召喚術も確保できたようだ。
封印の地を後にして危険な森の中を帰り道につく。
帰りの分の冒険者たちが危険なかわいいモンスターに連れ去られていく。
「きゃー、もふもふー!」
「持ち帰られ! 持ち帰られ!」
「森を抜けたところの海岸で一生いっしょに過ごすぅー!」
最後の一人が連れ去られたところで、勇者の家にたどり着いた。
「よし、間に合ったね」
危険だったね!
「あとは準備が整うまであんたらの仕事はないよ。ちょっとの間ゆっくりしてな。ウロチョロされてもジャマだしね」
「はい、ありがとうございます。全部終わったら、何か礼をしますね」
「いらんよ。持ち込んできたのがあんたでも、もう私自身の戦いさ。むしろありがとうよ。地球を救う機会をくれてさ」
少しの休息みたいだね。
何をしてるといいかね。
まあ、休んでればいいか。
またね。




