第11話 さくらんぼ さくらんぼ
「おはようございます、ユズルさん。昨夜は同じ屋根の下で寝てると思うとドキドキしてぐっすり眠れました!」
健康でよかったね。
「おはよう、クグさん。俺もヘルメットが睡眠導入剤を出してくれたからぐっすり眠れたよ」
健康で……健康かな?
「おはよう、ユズルとクグ」
「……」
「どうした?」
「何か面白いこと言って!」
「ムチャ言うな」
勇者の家で朝食をご馳走になる。
「さて、これがあんたらに訪問してもらう異世界だよ」
「あれ、二つだけですか?」
「ああ、その二つに話を通せばさらにそこから他のやつに話を通してくれるからね」
「ネズミ講みたいに?」
「言いかた!」
「てっきり尺稼ぎにいろんな異世界を訪問するパターンがしばらく続くのかと思いましたよ」
「尺稼ぎが必要になったら追加するからね。ひとまず二つでじゅうぶんですよ。ふたつでじゅうぶんですよ」
「それ、何かのネタなのか?」
「ええ! パズトゥス知らないの? おっくれてるう〜」
「遅れてるね、パズトゥス」
「よくわからないけど遅れてますよ! パズトゥスさん!」
「ぐぬぬ」
遅れてるどころかカビの生えまくったネタだろ!
「それじゃ行ってきます。お願いパズトゥス」
『おねがいぱずとぅす』ってなんか女児アニメのタイトルみたいだね!
「うるせーよ。じゃあ行くぞ。アンインストール、パズトゥス アンド ユズル アンド クグ」
英文法では『アンド』をつけるのは最後だけだぞ。
「うるせーよ!」
上位空間を三人がゆく。
「異世界に行くのは初めてです! こういう風になってるんですね!」
クグがキョロキョロと周りを見ている。
世界間輸送を担うオーバートラック協会が整備したオーバーハイウェイが、世界と世界を繋いでいる。
「こういう描写は初めてだね」
「前に神域から地球に戻った時はまだ設定がなかったのかもな」
そうです。
ときおり転生トラックらしい、速度表示灯を付けたトラックとすれ違う。
「魂を運んでるのかな。だれか轢き殺されたのか……」
「仕事熱心だな。やつらにしてみればもうすぐまとめて転生する予定だろうに」
オーバーハイウェイの右手の方に、混沌とした空間があった。
転生トラックはそこから出てくる。
「拒絶空間だ。あの中に地球がある世界がある」
「ユズルさんの故郷ですね! いつか行ってみたいです! ご両親に挨拶!」
「ああ、もう親は亡くなっててね。いないんだ」
「す、すみません」
「大丈夫。クグさんのご両親って……?」
「危険なかわいいモンスターに連れて行かれました!」
「そっか、大変だったね」
「大丈夫です! 三日に一度とお盆と正月と夏休みと冬休みと有給取った時にしか会えませんけど、おばあちゃんがいてくれたから寂しくありませんでした!」
「それならよかった」
普通に会話しているようでもヘルメットはプシュプシュと鎮静剤を吹き付けてくる。
「そろそろ目的地だ。あれだな」
先の方でオーバーハイウェイが途切れている。
その先に拒絶空間があった。
「地球世界ほどじゃないが侵入困難なやつだな」
「勇者さんって入れない世界の情報をどこから得たんだろ」
「私です!」
解説娘ちゃんが手を挙げた。
「へえ、役に立つこともあるんだね」
「たまには!」
「パズトゥス ユズル アンド クグ、インストール」
砕け散った光の中から三人が現れる。
「動きがカクカクします……」
「ぴー! ぴー!」
財布が鳴いている。なんて言ってるんだろうね。
「ぴー! ぴー!」
「きゃあ!」
ふりをするまでもなく、ドジっ娘属性が働いてクグが転んだ。
ユズルが受け止める。
プシュプシュプシュプシュ。
「さて、ここで訪問する相手はどんなやつかな」
「勇者さんからもらったプロファイルによれば」
「私が解説した情報ですよ!」
「トラック転生してきた日本人だそうだ」
【百姓と鳥さんの果樹園】
そんな看板が立っていた。
「ここみたいだ」
「また三顧の礼でもやるか?」
「あれはもういい」
「いらっしゃいませー、ようこそ百姓と鳥さんの果樹園にー、サクランボ狩りですかー、あちらへどうぞー」
頭に鳥を乗せた女性がユズルたちに話しかけてきた。
「あ、どうも、俺たち果樹園の客じゃなくて、ここに地球からトラック転生してきた人がいると聞いたんですけど」
「おやー、そうですかー、私ですねー、それと鳥さんもですねー、日本から転生してきましたねー、もしかしてあなたも日本人ですかー?」
「はい、今日はお願いがあって来ました」
「そうですかー、こちらへどうぞー、座って話しましょうかー」
椅子とテーブルのある四阿に案内された。
お茶を出してくれる。
「どうぞー。私の名前はサナギですー、鳥さんは鳥さんですー」
「俺は高橋譲敬徳です」
「オレはパズトゥスだ」
「私はクグです!」
「それでー、何用ですかー」
「地球が危ないです」
「なんとー」
「惑星サイズの転生トラックが2台、地球そのものを転生させるために地球を南北から挟み込む軌道で接近中です。それで地球そのものを勇者召喚で異世界に避難させようと考えて、ご協力を仰ぎに伺った次第です」
「よくまとまったいい説明ですねー、わかりましたー、協力しますよー」
「ありがとうございます!」
話が早いな!
「もったいぶる気はないですからー。ただー、どっちにしても協力はしますけどー、ちょっとあなたたちを試させてもらいますー」
そう言ってサナギはテーブルの上に赤いサクランボの実を置いた。
二つの実が軸でつながって並んでいる、いかにもサクランボ、と言った風情だ。
「どうですかー?」
「かわいい実ですね! 私もこんなふうにユズルさんと仲良く寄り添いたいです!」
「品種は佐藤錦だな? どうだ、当たりだろう」
ユズルは黙ってサクランボをつまみあげると、つながった軸をぶちっと千切って実を一個ずつに分けた。
「合格ですー」
「えー!」
「わきまえてますねー、経験者ですかー?」
「昔に選果作業のバイトをやったことがあったんで」
「解説しましょう!」
解説娘ちゃんがしゃしゃり出て来た。
いつものことだね。
「『さくらんぼ』と聞けば誰もが思い浮かべる二つの実が軸でつながってぶら下がる、となりどうしなサクランボの姿は、実はサクランボ農家にとっては憎悪の対象なのです!(言い過ぎ)」
なんと!
「それは選果作業のジャマになるからです。サクランボはひとつひとつサイズ分けして出荷します。自動選果機がない場合はぜんぶ手作業なのですが、つながった実がそれぞれサイズが違うなんてことはザラにあります。選果中にそれをいちいち切り離すのは想像以上にめんどくさい!」
そうなのか!
「それに、つながった軸はからまりやすく、実を一つだけ持ち上げたつもりが5、6個ついて来た、なんてこともよく起こります。これがまたイライラ!」
なんてこった!
「軸がつながってると自動選果機にかけることもできません。なので収穫した実は最初に憎しみを込めて(言い過ぎ)軸を切り離してぜんぶ一個ずつに分けるのです」
たいへんなんだね!
「『サクランボの軸の自動切り離し機』なんてものが特許取られているほどなんですよ!」
「そういうわけですー。異世界ではもうそんなことやってないんですけどねー、地球での記憶が今も私を苦しめますー。つながったサクランボなんて見たくもないですー」
そうか……なんという、なんという無駄な知識だ!
ストーリーの本筋に1ミリも関係ない。
「脱線こそが本線ですよ!」
解説娘ちゃんは解説できれば満足だろうね!
「では合格したところでー、くわしい話を聞きましょうー」
「詳細はこちらの資料に。地球召喚作戦は勇者チェコという人が監督してます」
「なるほどー、なるほどなるほどー、こんな感じですかー、わかりましたー、知り合いの異世界に話を通しておきますねー」
「あの……」
「なんですかー?」
「サナギさんはトラック転生して来たと聞きましたが」
「私はそうですねー」
「どんな感じなんでしょうか、トラック転生というのは」
「ふむー」
「今のサナギさんは不幸には見えませんけど、転生というのは、生まれ変わると言うのは、なんと言うか、いいのか、わるいのか」
「そうですねー、いいかわるいかを論じることはできませんけどー、今の私は幸せですよー。でもー、トラックに轢き殺された時は間違いなく不幸でしたー。その先に幸せがあるとしてもー、あんな恐怖は二度とごめんですー。あの時に戻れるならー、何がなんでも抵抗しますねー」
「そうですか……」
「だからー、地球転生を阻止しようとするあなたたちの行動にはー、賛同しますよー。地球には妹夫婦もいますしねー。あの子たちを轢き殺させはしませんー」
「はい。ご協力ありがとうございます!」
「協力ではありませんよー。もう私自身の戦いですー」
それからお茶と山盛りのサクランボをご馳走になった。
財布も嬉しそうに食べている。
「ぴー! ぴー!」
果樹園をあとにする。
「迷いがあったのか?」
「んー、ルビウスがあれほど転生転生うるさいからさ。もしかして割といいものなのかと」
「いいものとは言えなさそうだな」
「だなー。暴走トラックに向かっていった時の恐怖は俺も二度とごめんだ」
「……だが、同じ状況になったらおまえはまたやるだろうよ。お人好しさんだからな」
「買いかぶるない」
「私が知らない話題! 入り込めない会話! うらやましいです! さびしいです!」
「ごめんね」
ちょっとそっけないけど呪いのせいだからしかたないね!
「この世界ではどうやらうまく事が運んだかな。じゃあ次だ」
「どこまでもつきまといます!」
「行くか。アンインストール、パズトゥス ユズル アンド クグ」
光が三人を包み込み、小さくなって消える。
さて、次はどんな無駄話が語られるのかな。
続く!




