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ないあるよ①



 

「朱羽さーん! お迎えに上がりましたよー!」


 放課後。家に帰った俺を待っていたのは、黒塗りの高級車の窓から顔を出してこちらに手を振るエヴィエラだった。どうやら、俺よりも先に学校が終わっていたらしい。


「おー......エヴィか............ちょっと待ってくれ。今準備する」

「はい! あれ? 朱羽さん、なんか疲れてます?」

「......まあ、ちょっとな」


 朝からハードな特訓やらされて、その後午後一杯お前と張り合えるんじゃないかというヤバいやつに振り回されたからな。まあでも、これから組織の活動もあるんだし、そんなことも言ってられないか。

 トイレと戸締りを済ませた俺は、後部座席のエヴィの隣に乗り込んだ。


「お待たせ。じゃあ頼むわ」

「りょーかいです。いでよ、ボブ!」


 エヴィが右手を前にかざすと、幾何学的な紋様の魔法陣が描かれ、その真ん中からグラサンにスキンヘッドの外国人がぬっと現れた。


「Yes, Master」


 うーん、何度見てもシュールだ。


「あ、よろしくお願いします。ボブさん」

「コニチワシューサン」


 俺の日本語の挨拶に対し、外国人独特のイントネーションで挨拶を返してくれるボブさん。

 初対面でおれんちのドアを破壊して俺を拉致してくれやがったこのボブさんではあるが、どうやら基本的にエヴィに従っているらしく、彼女が変な命令をしない限りはただの寡黙で礼儀正しい外国人だ。まあ、エヴィがかなり突飛な性格をしているから、必然的に彼にも注意を払わなければならないとも言えるけど。


 とはいえ、ここ数日エヴィと長い時間を過ごした俺にとって、もうボブさんも知らない仲ではない。未だその登場方法の謎には触れられていないものの、ひとまずの友好関係は築けている......と、思う。


「ボブ! アジトまで!」

「Yes, Master 」


 エヴィの軽快な声と共にボブさんが車にエンジンを入れる。スパイ映画に出ていそうな外見にも関わらず、ボブさんの運転は静かで丁寧だ。揺れもほとんどない広い車内で快適に目的地であるアジトを目指す。


 俺が目的地である地下アジトに行くのは今回で2回目。前回はあの狭い六畳間の空間でマギ・ウイルスの存在を知らされて、エヴィと芦屋さんに勧誘されたのは記憶に新しい。今回は戦闘指南役の人と会うと聞いているが、いったいどんな人なんだろうか。変な人じゃないと良いんだけれど。


 まあ、それはひとまず置いといて......。


「ごめん、俺ちょっと寝るわ。着いたら起こしてくれない?」

「えー!? それじゃあ私ずっと暇じゃないですか! 一緒にしりとりしましょうよ! しりとり!」


 しりとりって......子供か。


「いや、ごめん。眠い。ボブさんとやってて」

「ボブは絶対私に勝てないようにプログラミングされてるから一緒にやってもつまらないんです! ねー、朱羽さん、起きてくださいよー!」

「何その闇が深い話!? まあいいや。とにかく、俺は寝るから。おやすみ」


 文句を言いながら俺の体を揺するエヴィの声を強制的にシャットアウトして、目を閉じて腕を組む。小さい頃から、どこでも寝れるのが俺の特技の一つなのだ。流石に某テストでいつも0点の丸眼鏡くんのように3秒とはいかないが、早ければ一分もしないうちに眠れる。

 反応しなければエヴィもそのうち諦めるだろうし、アジトまでの約一時間。しっかり眠らせてもらおう。







 体を揺らされる感覚に目を覚ますと、ドアを開けた車の外から覗き込むボブさんと目があった。


「あ、おはようございます」

「ハヨザマース」


 窓の外にはつい先日来た地下基地の入り口が見えている。どうやら目的地に着いたようだ。

 そういえば、エヴィはーー?


「いや、お前も寝てるんかい」


 なんか肩の辺りが重いと思ったわ。


「おい起きろ。ついたぞ」

「んにゃ............ぞ、ぞ...............ぞろめ......」


 寝言のようなものを呟くエヴィを揺り動かす。それにしてもこいつ、すごい体勢で寝てるな。俺の肩に顔面から突っ込んでめり込もうとしてるような格好だ。肩に寄りかかるとかならまだしも、よくこんな体勢で寝れるな。


「あれ............しゅーさん?」

「おう。起きろエヴィ、着いたっぽいぞ」

「え? しりとりは?」


 起きてんのか寝てんのかわかんないような状態のエヴィを無理矢理立たせて車から出す。気づいたらボブさんはいなくなっていた。まあ、いつものことだ。


「ねえ朱羽さん、後でしりとりしましょうよ」

「お前まだ寝ぼけてんの?」

「いや、さっき朱羽さんとしりとりする夢見てたんですけど、すっごく楽しかったんですよね。きっと現実でも楽しいですよ!」

「お前しりとり好きすぎか。まあいいけどさ」


 うーん! と、大きく伸びをしたエヴィはどうやら完全に目が覚めたようで、いつも通りのやかましい雰囲気に戻っていた。


「おはようございます、朱羽さん! それじゃあ、組織の戦闘指南役の方に会いにいきましょうか!」

「おうよ」


 俺は誰かさんのヨダレで微妙に濡れてる肩の部分をパタパタと乾かしながら、元気よく金髪を振って歩くエヴィの後を追った。




今日中にもう1話投稿予定です。

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