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世界征服推進連盟⑤




「98......99......っしひゃくう!」


 腹筋の動作で起き上がり、そのままの勢いで立ち上がってジャンプ!


「しゃあ! どうじゃおらあ! もう運動音痴の朱羽さんとは呼ばせないぞああん!?」

「いいですね。じゃあそのままの勢いで背筋100回、やっちゃいましょうか」

「しゃあー。やってやるぞおらあー。もううんどうおんちのしゅうさんとはよばせないぞぉー」

「落差!!」


 エヴィエラとの特訓が始まり、はや5日。

 最初はそのメニューの密度とキツさから毎時間筋肉痛と呼吸困難だった俺も、小さい頃に運動をやっていた感覚を体が思い出してきたのか、今では結構ついていけるようになっていた。


 これは今日こそ遅刻せずに学校に行くことができるかもしれない。

 ここ最近は朝特訓して昼まで寝て夕方から学校行ってたからな。そろそろ担任から親に連絡が行くと思うし、流石にそうなったらうちの親も何かしらかは言ってくるだろう。それは避けたいし面倒くさい。


「あれ? てか、お前って学校行ってるの?」

「朱羽さん。前から思ってたんですけど、その『お前』っていうのやめてくれませんか? 私にはエヴィエラっていう名前があるんです。これから一緒に働くんですし、敬意を込めて名前で呼んでください」


 腰に手を当てて、頬をむくれさせるエヴィエラ。今日も出会った時のシスター服ではなく、俺と同じく運動用のジャージを身につけている。しかし、今にも倒れそうなヨボヨボおじいちゃん状態の俺とは違い、こいつはしっかり二足歩行の若者だ。

 特訓を初めて分かったのだが、エヴィエラはかなり運動ができる。結構動いているはずなのに、動く前と後で全く呼吸に変化がないし、単純に運動神経もいい。そして力も強い。この細っこい腕でなぜ俺より握力を出せるのか。こいつはニュータイプのゴリラなのかもしれん。


 そんな感じで現在進行形で敬意の欠片もないことを考えている俺だが、少なくともこの特訓においてリードしてもらっている立場なのは俺だ。今までは何となく呼びにくいから避けていたが、指摘された以上名前で呼ぶべきなのだろう。


「わかった。これから気をつけよう、エヴィエラ」

「んー、なんかちょっと硬いですね。やっぱり親しみを込めてエヴィって呼んでください。これから一緒に働くんですし」

「どっちだよ!」


 そーゆーとこだぞ。そーゆーとこ。


「ったくもう、これでいいか? エヴィ」

「えー............なんかもうちょっと恥じらったりないんですか? 朱羽さんってもしかして、プレイボーイなんですか?」

「ちげーよ!」


 もう、ほんとそーゆーとこだぞ! そーゆーとこ!


「それで? お前は学校行ってるの?」

「いや、だからエヴィってーー」

「お! ま! え! はちゃんと学校行ってんのかって聞いてんの!」

「あー、まあ、たまに」


 いつも元気で声がでかいエヴィらしからぬ歯切れの悪い答えだった。お前と呼んだことに対する当てつけ方も思ったが、どうやらそうではないようで。


「芦屋さんのご好意である程度欠席可能な高校に通わせてもらってるのですが......なんというか、その、あまり馴染めていないというか」


 しまった。地雷踏んだか。


「一応、話しかけるなというオーラを出して窓の外を眺めてはいるんですけどねえ......一体何がいけないんでしょうか」

「いや話しかけるなオーラ出してたらダメだろ!」

「え? でも、アニメの孤高のクール系美少女はそれで生涯の親友に出会っていましたよ?」

「それはアニメの話だ。現実は違う。それにお前はクール系美少女って柄じゃないだろ? ただでさえ外国人って話しかけづらいんだから、もっと積極的に行かないと」


 でも、なんか意外だ。こいつは初めて会った時からずっと自分のペースで話しかけてきたし、芦屋さんとも堂々と話してたから、てっきり人間関係とか全然苦労してないタイプだと思ってたのに。

 ためしに教室の隅で静かにしているエヴィを想像しようとしてみても、俺には全くイメージがわかない。一体どんな感じなんだろ。


「それにしても、お前がボッチねえ」

「ぼっち言うな! し、仕方ないんですよ。朱羽さんが言うように、私って金髪美少女ですし? 少し話しかけづらいんですよね、きっと。だ、だから、友達がいないのは普通っていうか!」


 気にしていたんだろうか。ぼっちと言う言葉に過剰反応して顔を真っ赤にして手を振り回すエヴィ。正直ちょっと面白いからもう少し見ていたい気もするが......流石に趣味が悪いか。

 別に友達が沢山いるのが偉いってわけでも、いない奴がおかしいってわけでもない。こいつの面白さを知っているのが俺だけだと思えば、それはそれでなんかちょっと愉悦感?あるしな。


「最近はペアでなんかしろっていうのも減ってるらしいし、いないならいないでもいいんじゃないか? それにエヴィは面白いし、きっとそのうち生涯の親友ってやつにも出会えると思うぞ」


 うん。我ながら良いフォローなんじゃないか? こいつがテンション低いのは落ち着かないし、さっさと元の調子を取り戻してくれると良いんだけど。


「それは、そうかもしれませんけど......」


 やっぱり顔が赤いエヴィは、俯きがちに、上目遣いで。


「その......私としては、朱羽さんともっと仲良くなりたいなーって」















 え、可愛いんですけど。



 やばい。どうしたんだ俺は一体。なんでついさっきまでおかしな言動してた女がこんなに可愛く見えるの? この数十秒の間に何があったの? まじでこいつとの会話はジェットコースターすぎるから困る。

 なんというか、会ったその日の晩に「あいつはヒト亜科エヴィエラ属エヴィエラだから恋愛対象外だな」って一人で結論づけた俺の心臓がギュンッ!ってなるくらいには可愛かった。


「......顔が良いってやっぱすげえな」

「え? 私のことですか? 私のことですか?」

「うるさい。近寄るな」

「あれー? 照れてます? もしかして朱羽さん、照れてますか?」


 さっきまでのしおらしい態度とは一転、いつもみたいに騒がしく距離を詰めてくるエヴィエラ。こいつは本当になんでこんなに切り替えが早いんだよ。俺なんてまだ顔赤いぞ、多分。


「では朱羽さん。学校の時間もありますので、今日のトレーニングはこれくらいにしましょう。今日は組織の方達とのミーティングがありますので、放課後また迎えに行きますね。ではでは」


 さっきまで俺と筋トレしてたのに、一体どこにそんな体力が残っているのか。爆速で離れていくエヴィエラの背中に、俺は羞恥心で気が変わらないうちに呼びかけるのであった。


「これからもよろしくな!」














 久しぶりに学校で迎える昼食の時間。俺は小さな挑戦をしようとしていた。


「早坂、飯食おうぜ」

「あーごめん。今日はパスで」


 声をかけてくれる友人たちに軽く謝りながら、弁当を持った俺は教室を出て屋上へ向かう。




 基本的に使用禁止なこの場所をうちのクラスの彼女が使っていると言う噂は、前に少し聞いたことがあった。なんでも友達のいない彼女はここで一人で昼食を取り、いつの間にか教室に帰ってきているのだと。

 今までは変わっているらしいからという曖昧な理由で周りと同じように彼女を避けていたが、朝にエヴィとあんな会話をした以上、俺にも思うところがあった。


「なあ、俺もここで食べて良いか?」


 屋上のフェンスに背中を預けて座っているのは、一度も話したことのないクラスメイト。校則違反の赤メッシュにダボっとした黒いパーカーを制服の上から着こなす姿は、さすがは教師を困らせる問題児といったところ。学校では常に気だるそうにしていて、授業中も大体寝ている彼女は、今はその頬をパンパンに膨らませてこちらを見ていた。


「むぐむぐ......」

「あ、ごめん。ちょっとタイミング悪かった」


 顔も体も髪型も全体的に小さくまとまっている彼女が一生懸命に咀嚼している姿は、どことなく小動物的で可愛らしい。クラスメイトは何言ってるかよくわからないとか、共感性羞恥がどうとか言ってたけど、意外と話してみたら気が合うかもしれない。


「むぐっ、ん。ふぅ......お前」


 事前にクラスメイトから帰宅部だと聞いていた、その日焼けしていない白い喉がこくりと動き、彼女の左目と焦点があった。


「この忌々しい力のせいで祖国からも追放された妾と食事を取りたいとは、変わっておるな。気に入った。さあ、そこにかけるといい。血の晩餐を始めようじゃないか!」

「変わってるのはお前だし、それは昼飯のおにぎりだ」


 少なくとも変な奴なのは確かだった。




次回は9月27日の月曜日を予定しています。

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