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世界征服推進連盟④




 やかましく鳴り響く目覚ましの音に睡眠を妨げられた俺は、まだまだ重い瞼を無理やりに開けながら時間を確認する。


「しちじ......」


 いつも起きてる時間。ということはつまり、学校が始まるまで二時間ある。ここで問題なのは、果たしてこっから二時間寝ただけで昨日の疲れが癒せるかということだ。いうまでもなく、答えはNO。結局昨日は半泣きで地下アジトから出てきたエヴィエラを宥めすかしながらどこからともなく現れたグラサン外国人のボブに車を出してもらい、家についた時にはもう朝日が登ろうかとしているところだった。睡眠時間は三時間程度。


「よし、サボるか」


 出席日数にはまだまだ余裕がある。今日くらいはいいだろう。

 普通だったら朝帰りで学校をサボる高校生とか親に説教されて家から叩き出されるのかもしれないが、幸い今の俺は一人暮らし。学校もそこまで厳しいわけじゃないし、昼くらいに電話をかければいいだろう。


 俺は布団を被り直し二度寝の体制に入った。


「ダメに決まってるじゃ無いですか! 朱羽さん!」


 起きた。


「え、なんでお前いるの......?」


 寝転がっている俺を上から見下ろすのは、金色の髪の上から寸胴鍋を被り、右手にお玉、左手にフライパンを持つ明らかに不審者にしか見えない女。俺を世界征服推進連盟とかいう色んな意味でヤバい組織に勧誘してきた張本人。


「あーさーかーらー全力全開! 全身全霊! 全力投球な朱羽さんの同僚! 健気で可愛いエヴィエラがあなたを起こしに参りました!」


 なんかリズミカルに叫んだエヴィエラはお玉とフライパンをしっちゃかめっちゃかにうちつける............頭の寸胴鍋に。



 ガンガンガンガン。




 ガンガンガンガン。




 ガンガンガンガン。



「やめて」

「あ、はい」


 疲れた。朝からどっと疲れた。こいつはなんだ、人を疲れさせる天才なのか? まだ起きたばかり、なんならこれからまた寝るつもりだったのにもう今日は何もしたくない気持ちでいっぱいだ。


「取り敢えず今日は帰ってくれない?」

「どうしてですか!?」


 顔のあらゆる表情筋を駆使して「何で!?」って顔をして絶叫するエヴィエラ。全世界の人間が急にモンスター化するウイルスが流行したらこいつは音波で攻撃する鳥類のモンスターになるだろうな、と思った。序盤にしては火力高いけど知能が低いやつ。


「なんで朝からそんなに声がでかいんだ......」

「いや、ですから......おほんっ。あーさーかーらー全力全開! 全身全れーー」

「やらんでいいやらんでいい」


 だめだ。すっかり目が覚めてしまった。ていうか、こいつの半径五メートル以内で寝れる気がしない。

 仕方がないので俺は体を起こし、昨日とは違って地味な色のジャージ......に、フライパンと鍋装備のエヴィエラに向き直った。今更だけど、すごいなその格好。


「まずは脱げよ」

「ええっ!?」

「すまん、今のは俺の言い方が悪かった。あー......」


 困った。日常で鍋を頭に装備してる人間に出会ったことがないから、こういう時なんて言えば良いのかわからないぞ。

 朱羽さんがそんな人だったなんて、とか言ってジャージの裾を握りしめるエヴィエラの心配は全く見当違いも甚だしいが、流石にさっきの発言は俺も決まりが悪い。


「鍋とかの話ね」

「あ、あー! なるほど。もう、それならそうと早く言ってくださいよ。私ったら変な勘違いをしてしまって......恥ずかしい」


 その格好の方が恥ずかしいだろ。ジャージはともかく、頭に鍋被るのなんて近くで火山が噴火して逃げ遅れた人の最終手段だぞ。


「そういえば、今日はなんでジャージなんだ?」

「決まってるじゃないですか! 朝特訓ですよ、朝特訓! 私たちはこれから悪の組織の戦闘員なんですから、体を鍛えておかないと!」

「なるほど、一理ある」


 いくら戦うフリのマッチポンプといえど、魔法少女たちはそれを知らないわけだし、俺たちが動けるに越したことはないだろう。映画の殺陣とかも運動神経良い人と悪い人で露骨に差が出るからな。俺も体を鍛えることに異論はない。

 それが今日じゃなければ。


「明日からじゃだめ? 今日すっごい眠いんだけど」

「だめですよ! そういう甘えが後になって後悔を生むんです。アインシュタイン博士が言ってました」

「へー、そんな名言あるんだ」


 アインシュタインってあの有名なベロ出してる写真くらいしか印象ないけど、結構ストイックな人なのかもな。


「あ、いや。違うんですよ。てへぺろの方じゃなくて。うちの組織にアルベリカ=アインシュタイン博士という方がいらっしゃるんですけど、その人の受け売りです。クールで、頭も良くて、私の憧れの女性なんですよ」

「それはちょっと会ってみたいな」

「そのうち会えると思いますよ。月末には組織の定例会議もありますし......って、話を逸らそうったってそうはいけませんよ! 特訓から逃げるな!」

「いや、別に話を逸らしたつもりはないんだけど」


 まあ、うがーと両手を上げて怒りを表すエヴィエラは引きそうにないし、その特訓とやらに付き合いますかね。今日は学校行かないし、寝るのは帰ってきてからでも良いだろう。

 でも、戦闘員の特訓って何やるんだろ。エヴィエラの体を見る限り、そんな本格的に鍛えるってわけじゃないんだろうけど。











「し............ぬ......」

「朱羽さーん!? 朱羽さんしっかりしてー!」


 数時間後。仮にも日本の全てを敵に回す予定の組織の訓練をなめてペース配分を誤った俺は、その報いを存分に味わったのであった。




次回は9月23日の11時です。

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