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日本最強の部隊⑥




 俺の液体化の能力は、決して無限じゃない。


 アルベリカさんにもらった制御バングルをつけるようになってから、まるで普通に体を動かすかのように再生・液体化を使えるようになったが、運動しすぎれば筋肉痛になるように、マギ・ウイルスも使い過ぎれば徐々に鈍くなっていく。


 極度の疲労状態では再生速度が低下し、液体化の能力に至っては使えなくなる。そうなればもう、俺はただ死なないだけの一般人だ......いや、それでもすごいけど。


 ーーだから、その前にケリをつけよう。


「アアアァァァアアア!!」

「横に広がるなよ」

「「「了解」」」


 威嚇を込めた大咆哮にも全く怖気付くことなく、SAT隊員たちは三列の蛇となって俺に迫る。その中腹を叩き潰そうとした俺の攻撃は、ここに来て初めて地面へと逸れた。


 ここで、近づいてくるのか。


 先ほどの盾を用意してその後ろから銃で撃ってくる防御優先の戦術ではなく、こちらに向かって突っ込んでくる攻撃的な動き。だが、まだ距離はある。中距離の段階で一方的に削り切ってやる。


「シャアアッッ!」

「怯むな」


 流石に、次は当てるぞ?


「ーーア?」


 が、今度は、何故か振り下ろす前に液体化した腕が弾け飛んだ。長さが無くなった腕は当然のように空を切り、またしても距離を詰められる。


 ーーそして、遅れてきた発砲音。


 狙撃された!? まさか、この一瞬を狙って!?


『朱羽さん!!』


 思わず矢倉の方に気を取られた俺に、ニコが注意の声をあげる。失敗だ。今の隙に、更に距離を詰められてしまった。


 もはや彼我の距離はゼロ。ここからは近接戦。


 一方的に殴れる距離を、俺はみすみす無駄にしてしまった。だが、まだだ。再生能力を持つ俺に銃弾は無意味。1発受けて、一人倒す。その間に再生を挟むことができれば、消耗戦になった時に勝つのは俺だ。問題は、液体化の能力がいつまで使えるか。消耗を抑えつつ、第二形態が維持できているうちに半壊はさせておきたい。

 そんな俺の皮算用を、



 ーーガシャン。



 日本最強の部隊は、いとも簡単に狂わせた。


「躊躇うなよ」

「......わかってます」


 ポンプアクション式のリロード。腹に押しつけられる大口径の銃身。すなわち、ショットガン。


 まずい。よけっーー!?

 

「命中」


 再生。再生。再生。早く!


「次」

「了解」


 ダメだ! 間に合わなーーッッ!?


「命中」


 単発の銃弾は貫通するか、体内に残っても直ぐに取り除いて再生できた。しかし、複数の銃弾と、圧倒的な破壊力で体を崩壊させるショットガンに対して、俺の再生能力は割と相性が悪い。そして、まだこの形態を完璧に使いこなせているとは言えない俺は、体の一部が崩れてしまっていては体幹が失われて上手く移動も攻撃も出来ない。


「次」

「命中」

「よし、撃ち続けろ」

「「「了解」」」


 やばい、これは詰んだか?

 撃ち込まれる銃弾は大体三秒置き。消耗度外視の全力で再生能力を回せば、ギリギリ間に合うか?


「次」

「命中」


 ーー今!!


 銃で打たれた箇所をまとめて液体化し、銃弾を体外に排出。次に、飛散した液体を集めて、欠損した箇所を再構成。


「次」


 駄目か。間に合わないーー。


『朱羽さんから! 離れてください!』

「ぐおっ!?」


 ナイスだ! ニコ!

 ニコの渾身の体当たりによって、銃身が逸れる。


「アアアアアァァァアアアアア!!」


 ギリギリ間に合った!


「......ちっ、撃てっ!」

「ーーシッ!!」


 今度こそ、撃ち込まれる銃弾を天井に跳躍して回避。

 最後の力を振り絞って、壁に大穴をぶち開けた。心の中で芦屋さんには謝罪をしておく。散々家を滅茶苦茶にした後で、今更かもしれないけど。


 でもこれで、もう第二形態を維持する力はない。


「逃げるぞ、ニコ!」

『はい!』


 そのまま、俺たち二人は駆け出そうとしてーー。


「逃すな!」


 下半身が崩れる。そしてまた、乾いた発砲音。

 駄目だ。あの矢倉と狙撃手をなんとかしない限り、逃げることすらできない。例えこの家から出たところで、逃げてる途中でニコを撃ち落とされたらアウト。


「ならーー」

『朱羽さん!? 一体、何を!?』

「ニコ、お前だけ逃げろ!」


 渾身の力を込めて、フリスビーのように掴んだニコを壁に開けた穴目がけて投げる。


『朱羽さんは!?』

「俺は自分でなんとかするから!」


 ーー多分無理だけど!


 回転しながら飛んでいくニコに心の中で本音をぶちまけながら、狙撃手に狙われない壁の影に隠れる。


「......どうする、これ」


 もたれかかって荒い息を吐く俺を、油断なく包囲してジリジリと距離を詰めてくるSAT隊員達。正直な話、ここから勝てるビジョンが思い浮かばない。

 メイリンさんの個としての圧倒的な強さとは違う、群としての最大限の効率を求めてくる動き。消耗していなければ、場所を変えればまた結果は違っていたのかもしれないが、徹底的に対策を積まれてやりたいことをさせてもらえない今の状況では、逆転の芽を探すのは困難だ。


「確保」

「そう簡単に、やられると思うのかね?」


 表面上は不遜を取り繕って、敢えて包囲網の中心に身を投げ出す。これだけ味方と近ければ、ショットガンも容易には打てないはず。

 とにかく時間を稼いで、チャンスを探さないと。


「ショータイムだ」


 ニコを逃す前に、ステッキだけでも渡して貰えばよかった。殴りも蹴りも、全く効く気がしない。


「無駄な抵抗はやめて、膝をつき、両手を上げなさい」

「断る」


 やられたままで、終われるかよ。


「ーーシッ!!」

「対象は消耗している。決めに行くぞ」

「「「了解」」」


 液体化、再構成。

 壁に寄りかかった体勢から、次の瞬間には、走り出す。体を液体化させ、攻撃に適した姿勢に変化させた後、再構成する速度重視のこの動き。今はこんな小手先の技でも消耗が気になるが、四の五の言ってる時間はない。


「まずは、お前からだ」


 速さと体重を乗せた膝蹴りを見舞う。 

 ーーが、あっさりと耐えられた。


「まだまだ行くぞ!」


 決して一人には固執せず、すぐさまもう一度液体化。

 飛び蹴りした後の不安定な着地姿勢から、しっかりと地に足をつけた体勢へと再構成し、横の隊員をアイアンクローで地面に引き倒そうと力を込めて、


「甘い」


 逆に、柔道のような投げ技で地面へと叩きつけられた。

 ロクな受身も取れず息を漏らす俺は、その一瞬だけ、能力の制御を手放してしまった。


 そして、その一瞬を見逃す相手ではない。


 ーーガシャン。


「液体化!」


 リロードの音を聞いて、反射的に体を再構成。

 寝転がった状態からノーモーションで立ち上がり、銃口を蹴り上げる。


「無駄な足掻きを......」

「そういうの、ワガハイのセリフではないか?」

 

 空中に向かって発砲し、反動でよろめいている内に今度こそ蹴り飛ばし、気絶させる。やっと、これで一人。

 決して倒せない相手ではないんだ。あと一つ、何か一つだけでも、状況が有利な方向に傾けば......。


 狙撃手、ショットガン、敵の連携。


 どれか一つだけでも崩すことができれば、途端に勝ちを狙える状況を作れるかもしれないというのに。


 ーーそんな時だった。


「隊長......あれ............」


 殺伐とした戦場には場違いの惚けた声。呆然と立ちすくむのは、今まさに俺を取り押さえようとしていたSAT隊員のうちの一人だった。

 思わずその隊員が指差す方向に目を向けようとしてーー別の方向から襲ってきた隊員に速攻で取り押さえられた。地面に引き倒され、背中にショットガンを突きつけられる。


「おい! それは卑怯ではないか!?」

「喋るな。抵抗するな」

「いや、これは流石に文句言うであろう! そんな小学生みたいな事して恥ずかしくないんか!?」

「勝手に気を抜いたのはお前だろう......」


 今の「あ、UHO」じゃん。

 こんなんで終わるの!? こんだけ頑張ったのに!?


「はーなーせー!」

「おい、マギ・ウイルス抑制剤を出せ。早く」


 そんなんあんの!?


「どうぞ」

「めっちゃ緑! それ大丈夫なやつ!? それ本当に大丈夫なやつ!?」


 アルベリカさんにいきなり注射打たれた時のことがトラウマになっているのか、体が勝手に震え出す。


「おい動くな!」

「隊長、私が押さえます!」


 じたばたじたばた。

 首筋に鉄の針を刺そうとしてくる隊長と呼ばれる男と、なんとか拒否しようと暴れる俺。加勢しようとさっき注射を出してた奴が手足を抑えてくるが、鍛冶場の馬鹿力というやつなのか、それともマギ・ウイルスの影響で身体能力が向上しているのか、必死の抵抗で時間を稼ぐ。


「......くそっ! 何をしているんだ! ぼさっとしていないで手伝ってくれ!」

「あれ......あれ............」

「隊長! やばいですよ!」


 ーーしかし、すぐそばで攻防を繰り広げていると言うのに、他の隊員達が加勢してくる様子はない。


 頑張って首をずらして見れば、なぜか全員揃って別の方向を向いてぼけっと突っ立っている。

 壁の穴から見えるあの方向は............矢倉?

 

「なんかあれ、傾いてないか?」


 あと気のせいだとは思うけど、何か黒い虫のようなものに群がられているような......。いや、あの大きさは虫よりずっとでかい。


「どこからともなく現れた暴徒達が、あのように引き倒して回っているんです!」


 そんなふざけているとしか思えない発言を肯定するかのように、重心がずれた矢倉がゆっくりと傾いていきーー砂埃を立てながら横転した。

 自身の体を全く顧みることのない、圧倒的な数の暴力。矢倉を倒した後も、暴徒達は黒い絨毯となって次の矢倉へと向かって走っていく。全員が全員、同じ格好で。それはまるで、B級のゾンビ映画のような光景だった。この場にいて幻覚を全く疑わなかった人間は存在しないだろう。


 しかし俺は、こんな馬鹿げた光景を作り出せる人間を一人だけ知っている。




「しゅーうさーん!」




 あんのバカ......!!

 倒壊する矢倉と混乱する警察達をバックに、我が組織のお姫様は喋るルンバに乗って飛んできた。


『なんかそこにいたんで連れてきました!』

「なんかそこにいたんで連れてきてもらいました!」


 

 

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