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日本最強の部隊④




『スタ......ネード! しっ......り......ぁい!』


 圧倒的な光量に白く染め上げられた世界。

 右も左もぼやけていて、今の自分がどこを向いているのかが分からないし、耳鳴りがひどい。


『......ぅせい! さ......いをため......て!』

「悪い! 聞こえない!」


 機体を何度もぶつけながら俺に何事かを訴えてくるニコに、大声でそう口に出す......口に出せているよな? それすらもわからない。スタングレネードか。

 くそっ、見事に嵌められた。銃の使用云々はブラフか。


『さ......うせい! さい......こ......い!』


 だから聞こえないって言ってんだろうが!

 何度も何度も同じことを繰り返して一体......確か、こういう時は......。あ、なるほど! さいこうせい、再構成か!


 ーー液体化、再構成。


「あー、あー。よし、治った。さんきゅーな、ニコ」

『そんなの良いですから! もう撃って来ますよ!!』


 俺の言葉を被せるように、再びニコが叫ぶ。

 促されるように顔を上げれば、


「............構え」


 目の前に広がる、一面の盾の壁。

 

 ーーなるほどね。こっちが隙を晒している間に、相手は準備万端ってわけ。


「......ククッ、やるではないか! 完全に騙されたわ!」


 先ほどまでの軽装の警官隊とは違う、完全に対テロリストを意識した重装備。ヘルメットにボディーアーマー、両手にしっかりとアサルトライフルを装備した警官隊が列を成し、前列の警官が構える盾の上から照準を定めていた。


「後ろに!」


 ニコの返事は待たない。

 俺は腰に下げた伸縮式ステッキのボタンを三度押すと、前方に構えた。一度目のボタンでステッキが伸び、二度目のボタンでステッキの先が傘のように広がる。


 三度目からは、高速回転。


「フハハ! フハハハハッ!」


 あまりにも絶望的な状況。完全にしてやられた。

 でも、このスリルがーー楽しい!!

 

「撃て」

「来い!!」


 ギギギギギギギギギガガガガガガガガ!

 悲鳴のような金属音を奏でながら、高速回転する傘が大量の銃弾を弾く。まるで一寸先で解体工事が行われているかのような音量。プロボクサーに繰り返し殴られているかのような衝撃。傘の外縁に当たった銃弾が火花を散らし、甲高い音をかき鳴らしながら逸れていく。


 これだけの量の銃弾。

 無防備に受ければ上手く再生できるかわからない。


『助かりました! 日本の警察も中々やりますね! 恐らくこの隙に気絶した仲間を撤退させるつもりですよ!』

「ああ! 楽しくなって来た!」

『奇遇ですね! ワタシもです!』


 そんな鉛の嵐を傘一つで凌ぎながらも、俺とニコは上機嫌で会話を続ける。


 傘で銃弾を防ぐ。

 

 こんな非現実的な光景を作り出せるアルベリカさんは、やっぱり天才だよ。なんというか、どれだけ撃たれても全く壊れる気がしない。

 しかもこれは、俺のステッキに組み込まれた、数多ある機能の内の一つでしかないらしいから、本当に驚きだ。


『もうすぐ気絶した隊員の回収が終わります。銃弾も無限ではありません。おそらくそこで一旦撃ち止めかと』

「なるほど?」

『つまりそこからがーー』

「第二ウェーブってわけか!」


 いいね、面白くなって来た。


『あと三人......一人............来ます!』

「包囲!」


 号令と共に、前列の盾持ち達が一斉に動き出す。遅れて、空の薬莢が地面に落ち、軽い音が反響した。

 統率の取れた部隊の動きは静かで、それでいて早い。


「こちらも反撃開始と行こうか!」


 間違いなく、今までと同じ戦い方では勝てない。

 ギアを上げていこう。


 

 



◯ ◯ ◯ ◯ ◯






「ふーん、なるほどにゃあ。椿ちゃんはあの元そーりを助けに行きたいのかあ。なんで?」

「そういう契約なんです! それに、あの人は芦屋さんのお祖父ちゃんなんですよ! 助けてあげないと!」


 芦屋さん......? ああ、あのお嬢様か!

 うん。それは大変だ!


「私も協力するよ、椿ちゃん!」

「お願いします!」


 ............でも、私はどうすれば良いんだろう。

 私、戦うのは向いてないと思うんだけど。


「では早速、音夢花さんの能力であそこまで跳んでください! 私を連れて!」

「それは無理だよ?」

「......え?」

「だって私、あの場所知らないし」


 なるほど。椿ちゃんは私の能力を当てにしてたのか。

 うーん、期待には応えてあげたい。でも、私の移動能力は決して万能ではないのだ。知ってる場所にしか行けないし、遠い場所に行くには何度か跳ぶ必要がある。普通に迷うことだってあるし、そもそも、二人で飛んだことなんてない。


 うーん。困ったなぁ。んー?


「......まあ、なんとかなるか」

「いや、音夢花さんができないならヘリでーー」

「つかまって! 椿ちゃん!」


 何事かを言いかけた椿ちゃんの腕を掴んで、引っ張る。


「いっくにゃー!」


 悪魔男爵! 敗れたり!!






◯ ◯ ◯ ◯ ◯






「どうした! 奇策無しでは手も足も出ないか!?」


 10本の指をそれぞれ液体化。


 鞭のようにしならせて、盾に叩きつける。

 エヴィが「触手攻撃」なんて呼ぶ、この圧倒的な質量と速度から導き出された破壊の痕は凄まじく、一度に二人もの盾持ちを掬い上げるように宙に浮かせた。


「フハハッ! 脆い脆い!」


 すぐさま、地面に叩きつけるように追撃。


「A班負傷2! 脱落します!」

「C班! カバー!!」

「「「了解」」」


 戦況は、ある程度俺が押している状態にあった。

 警官達は銃撃で指鞭(触手と呼ぶのは嫌なのでこう呼ぶことにした)の質量を減らし、盾で受け止める防御戦術を取ってはいるが、今の所攻めにくさは感じていない。俺からしてみれば、この攻撃はかなり体力と集中力を消耗するから、逃げに徹されて消耗を狙われる方がしんどい。

 

 止まっているだけなら、いい的だ。


「斉射」

「液体化」


 対する向こうの攻撃は、ゲル状になって回避して仕舞えば俺にダメージはない。最悪当たっても再生すれば元通りだし、爆弾とかで再生許容量を超える攻撃をされるか、液体化していない時に脳震盪を起こされるかでもしない限り、俺に負けはない気がしてきた。

 多分、俺の能力は銃弾に対する相性がいいんだろうな。


「くっ......化け物が」

「ケッコウ! 十分に力の差を感じればヨロシイ!」


 また一人、液体化した脚をしならせて蹴飛ばす。

 大きな盾を持った隊員は、後ろで銃を構えていた隊員も巻き込んで転がっていく。


『頭を再生してた時にも思いましたけど、朱羽さんもだいぶ人外してますよね』

「いや、俺が一番実感してる」


 いつもはメイリンさんにボコボコにされてるからね。


 ちなみに、俺のこの液体化能力は公式設定(大衆向けの説明)では「狂気の科学者マッド・ドクター(アルベリカさん)による常軌を逸した人体実験の末に獲得した理外の力」ということになっている。いずれ魔法少女と戦うことになっても、俺は男だから「若い女性しか感染しない」というマギ・ウイルスの特徴には当てはまらないし、組織としては「悪の科学VS正義の魔法」という構図でやっていくつもりらしい。

 「悪の魔法VS正義の魔法」だと、どうしても魔法少女全体を化け物扱いする人も出てくるだろうし、そこは上手くこちらにだけヘイトが向くよう立ち回りたい。


『朱羽さん! 考え事をしている暇はありませんよ!』

「ああ。いやでも、キリがないからーーっさ!」


 言葉と共にまた数人をぶっ飛ばすが、ニコが電気ショックを合わせる間もなく、他所からやって来たカバーが入る。


 天井に張り付いてみたり、液体化ー再構成ーダッシュー液体化ー再構成ー攻撃のコンボなんかで角度や速度を変えて揺さぶってはいるのだが、いかんせん向こうの連携の精度も良いので、勝ち切ることができない。

 倒しても倒しても直ぐに戦線復帰してくるし、殺す気がないことなんて、とっくのとうにバレてるんだろうな。


「仕方ない。ニコ、一気に決めるぞ」

『......もちますか?』

「じゃなかったらやらないって」


 範囲攻撃みたいなので一気に無力化できたらいいんだけど、あいにく俺はそんな便利な必殺技みたいなやつ持ってないし......そもそも、液体化の能力って範囲攻撃に向かない気がするんだよな。

 

 ーー俺にできることはただ、今までより早く、そして重い攻撃を繰り出すことだけ。


「フィナーレだ!!」


 肉体を変質させていく。

 必要に応じて腕や指、脚だけを液体化させる方式から、常に全身を液体化させる方式へ。人間的なシルエットから、無機物的な、のっぺりとしたバケモノの姿へ。

 今の俺に、鼻や口、爪や髪の毛といった部位は必要ない。使うのはただ目と耳だけ。まるで百貨店に飾ってあるマネキンを、ドロドロに溶かしたような俺の姿は。


「オオォアアアアアァァァアアアアア!!」


 メイリンさん的に言えば、第二形態に当たるのだろう。


『DANGER! DANGER! DANGER!』


 突然、ニコが赤いランプを光らせながら何やら電子音で騒ぎ始める。


 ーーどうしたどうした!?


「オア!?」


 あ、そうだった。この姿だと、口がないから喋れないんだった。もうなんか、マジで化け物じゃん。

 

『2nd Stageーmode: liquid!!』


 おどろおどろしい音楽と、低音の効いた電子音......どことなくテンションが上がるこの感じ。

 どこかで聞いたことあるなと思ったら、あれだ。仮面ライダーの悪役の変身シーンで流れるやつにそっくりだ。


 赤いランプを点滅させるニコの姿が、何故かこちらに向けてウインクでもしているように見えた。


 本人は気を利かせた演出なのかもしれないけど、結構恥ずかしいです。今度はやる前に言ってね?


「アアアァァァァァアアアアア!!」


 液体の表面を振動させて咆哮する。

 そのままーー跳躍。


「シャアアッッ!!」

「撃て! 撃てぇ!」


 天井に手と足を突き刺し、走って距離を詰める。

 常に液体化状態の今、銃弾を避ける必要などない。


 着地するのはもちろん、敵のど真ん中。


「ほ、包囲!」

「「「了解!!」」」


 無駄だね。

 

「オオォアアッッ!!」


 右の手で盾持ちの隊員を掴んで投げ、左手は牽制気味に地面に叩きつける。一歩進むごとに別の隊員を掴んでは投げ、掴んでは投げ、盾持ちが剥がれて無防備になった後ろの攻撃要員はまとめて薙ぎ払う。

 今まで散々粘ってくれよってからに。ちょっとは痛い目にあってもらうぞ!


「死角から攻撃するんだ!」


 確かに、後ろは見えないけど。


「ンググ......」

「ば、馬鹿な......」

「背中からも触手が!」


 ーーだから、触手じゃないって。

 

 残念ながら声は出せないので、手探りで掴んで適当にポイ捨て。今の形態の俺は、もはや人間的な姿形に捉われる必要もない。肉体という枷を捨て、効率的に敵を排除する。


「追い込めば、追い込めばまだ我々に勝ち目がーーがっ!?」


 こいつが指揮官かな?


「かっ......はな............せっ! かはっ!」


 パフォーマンスの一環として、首を絞めて持ち上げる。

 

「かっ......あっ............」


 あ。これ何も考えずに持ち上げたけど、手加減しながら首絞める方法とか教わってないんですけど。


 顔がどんどん赤くなっていく。

 これ、もしかして、やばいやつ?


 そんなに強く締めてるつもりはないんだけど、失神ゲームって確か死の危険もあるんだよね? どんくらいまでならオーケー!? 何秒くらいまで締めておくべき!? 一歩間違えれば......くらいが組織のイメージ的には理想なんだけど、それじゃあやりすぎ!? 


「はっ......なっ、せ......」


 ーー望み通り、離してやろう。


 あ、そうだった。声出ないんだった。


「ジャアアァァッ!!」


 とにかく、あんまりやりすぎるのも怖いので、玄関のほうに向かって投げ捨てておく。もっのすごい咳き込んでるし、多分生きてるはず。危なかったら外の救急車で治療してもらってください。


 駄目だ。演技ならともかく、戦闘でアドリブを入れるのはなかなか難しい。殺す気で向かってくる武器を装備した相手に、こっちは殺人NGで手加減しながら戦わないといけないから、そもそもの難易度が高いんだよな。初めから分かってはいたことだけど。


 ーーっと、こんな愚痴みたいなこと言ってたら、後でメイリンさんにどやされるな。


「オオォアアアアアァァァアアアアア!!」


 集中!!


 いつも見てる、メイリンさんのあの動き。初速が最高速なあの動きを、足をカンガルーのように曲げて反発を利用することで無理やりに再現する。


 そしてーー。


「た、隊長!?」

「指揮権は私が引き継ぐ! 包囲網を崩すな!」


 ーーまずは、お前から。


「ァアアアァッッ!」

「くっーー!?」


 体当たり。

 圧倒的な速度でぶつかりさえすれば、大柄な成人男性でも余裕で吹き飛ばされる。


 そして、包囲の綻びの部分からちぎっては投げ。ちぎっては投げ。盾役が急速に数を減らしている今、攻撃役も射線上に味方が被ってしまっては引き金を引くことができない。

 

 あともう、蹂躙するだけだった。


『朱羽さん、ラストです!』

「オオォ!」


 最後くらいは、悪魔男爵の姿で。


「アァー。アー。あー。よし、戻ったか。さてとーー」


 人間の輪郭に戻すと共に、とてつもない疲労感が襲って来たが、そこは役者の根性で耐える。出来るだけ華麗に、なんでもないように最後の一人をステッキで仕留めた。


 そして、


「諸君、見てくれていたかな?」


 ニコのカメラに向けて、自信満々なドヤ顔を披露する。


「これが、我ら世界征服推進連盟の力だ」


 あ......だめだ。しんどい。

 つらい。立ってるのがつらい。もう、早く締めよ。


「ケンメイな諸君はもう、諸君らが妄信してきた安全とやらがいかに儚く、薄氷の上に成り立っていたのかがお分かりいただけたと思う。そして、ワガハイらにはそれを容易に打ち破る力があることも」


 何でこのキャラは、こんな回りくどい話し方しかしないんだろう。すっげーイライラする。

 あー、関節が痛い! 特に関節が痛い! だってさっきまで無かったんだもん! 更年期障害の老人より関節が痛い自信がある。


「今こそ考えてほしい。諸君らを支配するのはーー」

『あ、すみません。マイクの音切ってました』


 ............は?


『いや、戦闘中に私たち色々話してたので。声が入ったら不味いかなと思って』


 ............は?


『今入れますね。3......2......1......どうぞ』

 

 俺は不敵な笑みを浮かべると、最後の力を振り絞ってマントをバサリと翻した。


「これがワガハイの力だ! 以上!」

『はい。OKです』


 いや、少しもOKじゃねえよ。

 お前あの変身の時余計な気を聞かせてる暇があったら、撮影っていう自分の仕事を全うしろよ。


『いやー、それにしても、すごかったですね。朱羽さんの第二形態! なんというか、こう......こう、エロゲーに出て来そうな感じで!』

「お前、言葉を選んでそれなの?」

『主に壮丁が興じる「性的な表現」を含むコンピューターゲームに出て来そうな感じでしたね!』

「そうてい?」

『成人を迎えた男性のこと......らしいです』

「いや、そこにボキャブラリーを費やすのは間違ってるから」


 前々から思ってたけど、ニコはポンコツAIかもしれない。


『あ、博士から通信です』

「了解」


 戦闘中だからニコに預かってもらっていたインカムを受け取った。


『朱羽君、残念なお知らせがある。作戦は失敗だ』


 ーーうそやん。






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