表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/29

日本最強の部隊①




『準備は良いですか?』

「ちょっと待ってくれ、ニコ。あー。アー。ワガハイ。ワガハイ。んんっ、ご機嫌よう! 人類諸君!」


 少しずつテンションを上げ、悪魔男爵の役に入る。


「アー。アー。フハハ! フハハハハハッ!!」


 ............声、震えてんなあ。

 どうやら俺は、緊張しているらしい。まあ、それもそうか。今からやることは、ゴールデン男爵事件とは比べ物にならないくらい「悪いこと」だ。


 ニコがカメラを回せば、その時点でもう俺は完全に犯罪者。警察との戦いが始まる。

 そうしたらもう、後戻りはーーできない。


 無意識に、顔を覆い隠す仮面の輪郭をなぞった。

 この一枚のプラスチックは、いつまで俺を隠してくれるのだろうか。バレたら、どうなるのだろうか。


『いでよボブいでよボブいでよボブいでよボブ......ボブ、そろそろそのポーズやめてくれませんか? 同じ光景ばかりでなんだか目が疲れてきました』

『科学者ー。なんか変なボタン押しちったアル』

『それはマイクのボタンだね。良かったね、このアジトの自爆ボタンとかだったら僕たち死んでたよ』

『ゴクリ。軽い気持ちで命をベットしていタ......でもこのチープなスリルが......もう一つ押してみるネ』

『あ、それは......』

『ポチッとナ』

『わぎゃー!?』

『エヴィエラ君!?』

『金髪!?』


 ーーまあ、何も変わらないか。


 組織のみんなと、魔法少女を笑顔にする。その目的に変わりはない。多少生きづらくはなるかもしれないけど、それだけだ。


「ニコ、回したまえ」

『了解。3......2......1......GO』


 ニコのカメラが全国につながる。


「ご機嫌いかがかな? 人類諸君」


 長い口上は省略。作戦通りシリアスに。


「日本の警察よ。今日は一つ、ワガハイとゲームをしようではないか」


 俺は部屋を出て、館の廊下を歩き始めた。

 空中に浮かぶニコがカメラを持ちながら後に続く。


「諸君らは、かの有名な配管工が姫を救いに行くゲームをプレイしたことがあるかね? ワガハイはあれに感銘を受けてねーー」


 やがて、突き当たりの一室に到達。

 

「姫ではないが、ワガハイも人質を用意した」


 ここは荒々しく、扉を蹴破る。

 左足を軸に、回転気味に右足を叩き込めば、良い具合に斜め方向にドアが吹き飛んだ。


 部屋の中には、手足を拘束具され、猿轡をつけられた男が一人。


「紹介しようーーこの国の元総理、芦屋勘蔵氏だ」


 ちなみにアポ無しである。怒ってるかなあ。

 怒ってないと良いけど、怒ってるんだろうなあ。


「さあ、ゲームを始めようか」


 制限時間は一日。

 残念ながら、悪魔男爵のゲームにはセーブもロードもない。制限時間内に芦屋さんを奪還できなければ、芦屋さんの命は無い旨をカメラに向かって説明していく。もちろん命云々は嘘だけど、これまでのふざけた活動との帳尻を合わせるためには、このくらいバイオレンスで丁度いい。


「ではーー諸君らのケントウを祈る」


 そうカメラに向かって締める。

 撮影中のランプが消えたのを確認して、芦屋さんの猿轡を外した。

 

「さて、と。すみませんね、窮屈だったでしょう?」

「ーーこれは、どういうつもりかね?」


 怖いなあ。

 自分の家にいきなり襲撃をかけられてこの落ち着きよう、そしてこの覇気。味方にいてもただの孫バカおじいちゃんなのに、敵に回したらこれだからなあ。この作戦の成功を祈るしか無い。


「俺たちのやりたいことに、付き合ってもらいます」

「......なるほど? つまり、私を裏切ると?」

「それは、結果を見て判断していただくしかありませんね」


 鷹のような目で鋭く睨む日本の元首相に、内心の冷や汗は隠して肩をすくめてみせた。

 イメージは素の俺が5、悪魔男爵が5。この人に対しては明らかに役者が足りていないから、大胆不敵な悪魔男爵の像を憑依することで無理やり自分を誤魔化していく。


 もう隠している意味もないし、芦屋さんにも作戦内容を話しておこうかと思ったところで、インカムが振動した。


『朱羽君、聞こえるかい?』

「はい。聞こえます」

『今の所、事態は僕たちの思惑通りに進んでいる。事件は大々的に報道されているし、あと数時間もすれば警察が配置につくだろう。頼むぞ、朱羽君』

「了解です」

『あばば、お星様。キラキラ。とてもキレイ』

『金髪! しっかりしロ、金髪!』 

「......あの、エヴィは大丈夫なんですか?」

『ああ、心配ないよ。ちょっと......頭がアレになっちゃってるけど、そのうち治ると思う。うん。それに彼女はさっきから、君を助けに行くと言って聞かなかったからね。止める手間が省けたよ』

「そ、そうですか」


 今回の作戦は、俺一人で警察を圧倒するパフォーマンスを行う必要がある。

 ボブとエヴァの支援があればありがたいけど、今回は俺に任せてもらおう。後でお礼は言っておくとして。


『ワタシを忘れないでくださいね』

「ああ、そうだった。俺たち二人でーーだな」

「んんっ」


 と、そこで室内に響く咳払いの音。

 

「それで? 私にはその作戦とやらは説明してくれないのかね?」


 ここは少し悩むな。

 こうして芦屋さんを確保できた時点で、芦屋さんに内緒で行動を起こすメリットはほぼ得られた。黙っていた方がリアルな演出にはなるかもしれないけど、逆に芦屋さんに全てをバラされるリスクもあるわけで......ここは、大人しくニコに任せるか。


「ニコ」

『説明します』

「そうか、頼む」

「聞こうじゃないか」


 ニコは安定択を選んだわけか。


『作戦の第1フェーズは、この国の要人誘拐です』


 出だしは、この作戦を考えたあの日と同じだった。






◯ ◯ ◯ ◯ ◯






「『要人』というのは、具体的には?」

『なるべく有名で、警察がその威信をかけて取り返そうと試みてくる相手が好ましいです』


 アルベリカさんによるニコ分解騒動は一旦両者合意のNO分解(条件付き)で終了し、いよいよ俺たちは、ニコの提案を聞くことになった。


『今回の作戦の最終目標はSAT戦。今までの醜態を挽回するには、出来れば朱羽さんが単独でSATを撃破することが望ましいです』


 醜態言うな。


『前回までの朱羽さんの戦闘データを分析したところ、周囲に一定数以上の一般人がいる場合、パフォーマンスが低下することがわかりました。そしてシュミレーションの結果、その状態の朱羽さんがSATを無力化できる確率は61.8%です』

「意外と高いくないか?」

『まあ、パフォーマンスが下がるのは向こうも同じですからね。ちなみに、周囲に誰もいない更地の場合、朱羽さんの勝率は21.2%です』


 下がってるじゃねえか!

 パフォーマンスが低下の件はどこにいったんだよ......ああ、なるほど。向こうのほうが下がるってことか。それも大きく。


「......もしかして、ある程度の部外者は必要?」

『朱羽さんが人質をうまく利用できれば、勝率的にはそうなりますね』

「でもーー」

『もっともその場合、人質は99.9%で軽症、13.1%で重症、1.4%の確率で死亡します』

「じゃあ却下だ」


 人を救うために人を殺すわけにはいかない。

 

『そう言うと思いました』

 

 ニコの機体が上下に揺れる。

 これはもしかして、頷いているつもりなんだろうか?


『そこでワタシが提案するのが、要人に絞った誘拐です。つまり、人質は警察を誘き寄せるエサのためだけに使うということですね』


 なるほど。

 それなら人質は少ない人数で済みそうだし、なるべく有名な人を選べば世間に対してのインパクトも両立できる。


『一人なら戦闘中でもワタシが守り抜けます。また、屋内で戦闘を行えば、平地で戦う場合と比べて一度の接敵人数が少なくなるため、勝率も10〜20%ほど上昇します。つまり、要人誘拐からの立て篭もり。それがSAT戦を行うにおいてベストな作戦です』

「なるほど、一応は理に適っているように思えるね」


 アルベリカさんが顎に手を当てる。


「それで、誰を誘拐するつもりなんだい?」

『茨木総理です』


 ............は? いや、マジで?


『この国の最高権力者にして、全盛期の芦屋さんに並ぶ支持率の若きホープ。今回の作戦において、彼以上のターゲットはいないでしょう』

「おー、それは面白そうアルな」

「でも、そんなことしたら怒られませんか?」


 ワクワクした表情で目を輝かせるメイリンさんと、心配そうに顔を曇らせるエヴィ。二人それぞれ対照的な反応だけど、どちらかと言うと俺はエヴィ寄りだ。

 総理大臣の誘拐は流石にやりすぎな気がする。


『それが大きな犯罪であればある程、ワタシ達を倒す予定の魔法少女の株も上がります。多少の世間の混乱は見越して、ここはーー』

「駄目だよ」


 待ったをかけたのは、アルベリカさんだった。


『博士』

「茨木総理は駄目だね」

『どうしてですか?』

「理由は二つ。一つは、世間の混乱が大き過ぎること。現役の総理大臣を誘拐されたとあっては、流石に国家の信用にも関わってくるからね。僕たちのスポンサーも許してくれないと思う」


 まあ、そうだよな......ん?


「スポンサー?」

「流石に、いち政治家の資産だけじゃここまでの設備は用意できないさ」

「......どんな人がスポンサーになるんですか?」

「親族がマギ・ウイルスに感染した資産家とか、だまされ......良識的な企業の経営者とかだね。僕の技術を外国に売ったりもしてるから組織だけでもしばらくはやっていけると思うけど、長く活動していくなら、彼らの機嫌を損ねるのは下策だね」


 この組織の地下アジトとか、人工知能のニコとか、アルベリカさんの凄さで盲目になってたけど、明らかにお金かかってるもんな。芦屋さん以外のスポンサーがいるのは、考えてみれば当たり前のことか。

 ちょっと会ってみたいな。


「二つ目は、単純に不可能だということだね」

『総理はフットワークの軽さがセールスポイントの一つで、常に数名のSPと秘書だけで行動しています。むしろ狙い目では?』

「総理の秘書は、数少ない政府側の魔法少女だよ。あれ? これ、前に学習させたと思うんだけどな」

『............初耳です』


 俺も初耳だ。

 政府側の魔法少女なんて存在したのか。てっきり魔法少女は全員、人工島に閉じ込められているものだと思っていた。

 

 その人は、いったいどう言う考えで政府に味方しているんだろう。総理の秘書なら、まさか他の魔法少女の現状を知らないわけではないだろうに。


「あの子は魔法少女になってから長いし、かなり強いよ。はっきり言って、朱羽君じゃ勝てないだろうね」


 ......俺も最近じゃあそれなりに能力を使いこなしていると思うんだけど。


「安心するヨロシ。少年の仇討ち、私に任せるネ」

「いや、死んでないですから」

「彼女の能力は戦闘に適していて、厄介だ。メイリン君でも危ないんじゃないかな?」

「フッフッフ......科学者。お前、誤解してるネ。私にはまだ、第二第三の形態ガ............」


 この人また魔王みたいなこと言ってるよ。


「どちらにせよ、彼女と本気で戦えば周囲の被害は大きくなる。ターゲットも無事では済まないだろうね」


 たしかに。

 どうするんだろうとニコに目を向ければ、機体を斜めに傾けてきょとんとしていた。

 

『ワタシの作戦、もしかして崩れました?』

「他の候補はいないのかい?」

『ワタシの中では茨木総理でほぼ確定だったので、他の候補者の情報はまだ......』


 このAI、さてはポンコツか?


「芦屋さんはどうですか? 頑張って謝れば、ぎりぎり許してくれなくもなさそうですよ?」

「..................お前、天才か?」


 むしろなんで最初に思いつかなかったんだろう。

 芦屋さんなら茨木総理程では無いにしろ知名度はあるし、それでいてもう引退してるから政治的な混乱は少ない。どうせ作戦は説明しなきゃいけないんだから、最初から全部説明して、協力を求めれば誘拐もスムーズに進む。


 懸念点は芦屋さんは組織の「醜態」を演出していた張本人だと言うことだけど、そこはまあ、しっかり説明すればわかってくれるだろう。なんてったって、芦屋さんはこの組織を作った張本人。誰よりも魔法少女の解放を望んでいるはずだ。


 考えれば考えるほど、良い作戦に思える。


『確かに。知名度を妥協するなら、芦屋氏はかなり太い択かもしれませんね』

「それなら早速、芦屋さんも含めてーー」

「いや、待ってくれ」


 良い感じに着地しそうになったところを、またもアルベリカさんが止めた。


「僕も芦屋さんをターゲットにするのは賛成だ。でも、彼に伝えるのはやめよう」


 どうしてそんなことを?

 一見、なんのメリットもなさそうだけど......。


「そして朱羽君、君は『警察が芦屋元総理を救出できなければ、元総理を殺す』と予告しよう」

「ええ!? やめましょう! そんなことしたら、芦屋さんきっとすっごい怒りますよ!」

「俺もエヴィに賛成です。殺すって......無理ですよ?」

「当然、言うだけだ」

『反対です。予告して殺害できなければ、例えSATを下しても作戦に瑕疵が生まれます。素直に説明して、協力を仰ぐ方が効率的です』


 みんなの大反対の声を浴びてもなお、アルベリカさんは顔色を変えない。どころか、何かを考えながら笑みを深める始末だ。

 

 この人はいつも何を考えてるのか分かりにくいけど、今回のは、いつにも増して意味不明だ。


 まさか、何も考えてないわけじゃないだろうし。


「これは......これは、上手くやればーー魔法少女に倒されるところまで、持っていけるぞ!」






◯ ◯ ◯ ◯ ◯






『ーーと、言うわけです』


 都内。芦屋さんの自宅。

 広い庭園の中央に屋敷が位置するこの家は、The日本式お金持ちの家って感じだ。芦屋家は長い歴史のある家で、古くはあの陰陽師の蘆屋道満を子孫に持つとか持たないとか。


 この綺麗なお屋敷を戦場にするのはかなり抵抗があったが、ここで移動しても芦屋さんが疑われるだけだと言うことで、このままここに立て篭もらせていただくことにする。


「なるほど。アルベリカくんは、椿をここに呼び寄せるつもりだね?」


 驚いた。まだ作戦の第一段階の説明しかしてないのに、そこまでわかるのか。


『はい。それでーー』

「もういいよ。もう大体わかった。早坂朱羽君」


 説明を続けようとするニコを遮って、芦屋さんは俺の名前を読んだ。鋭い眼力で俺を射抜く。

 

 続く言葉は、「腑抜けた私の背中を押してくれてありがとう」とかだったらいいな。芦屋さんは物分かりもいいし、この作戦が成功した時のメリットもわかってくれるはず。

 いやでも、流石に黙って自宅に襲撃はまずいよな。いくら芦屋さんでも、やっぱり許してはくれないか。


 戦々恐々として待つ俺にかけられた言葉は、


「君がまだ子役をやっていた頃、空港で会った時のことを覚えているかい?」


 この状況では、全く予想外なものだった。




アクションシーンは出来れば一気にやりたいので、次週はお休みするかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ