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誰もが認める悪いこと②




 こいつら全員、頭おかしいんじゃ無いだろうか。


「俺たちのハチ公を守れー!」

「「「うおおおおおお!!」」」

『やばいです、朱羽さん! やばいですって、これ!』


 インカムからは、エヴィの泣きそうな声がさっきからひっきりなしに届いている。

 そして、目の前ではーー。


「下がってください! 危ないですから、下がってください!」


 警察の人たちが荒ぶる一般人を静止し、


「行け行け行け行け!」

「あのグラサン達を止めろお!」

「......ちょっと待て、あいつら全員同じ顔じゃないか?」

「どうでもいいだろ、そんなこと! ほら行くぞ!」


 一般人がボブを止めようと押し寄せ、


『ボブ! 早く! 早く設置して!』

「「「Yes, sir!」」」

『半分はハチ公撤去係です!』

「「「Yes,sir!」」」

『違います! 全員じゃありません!』


 ここからだと正確な人数は分からないけど、50人近くのボブが悪魔男爵像 (ゴールデン仕様)を持ったり持たなかったりとオロオロして、中心からあぶれたボブ達は男爵像を囲むように守り、一般人とスクラムを組んで押し合っている。

 なんだこのカオス。何がどうしてこうなった。


「............醜い争いだ」

『何を現実逃避してるアルか』

『こうなるのも想定パターンの一つだろう。ほら、君の出番だ』


 ーー多分ここ10年で最大の三つ巴の争いですら作戦のうちって......改めてやばいな。うちの組織。


 初めは引き気味の一般人と数人の警察を相手にしているだけでよかったのが、ゴールデンな像を置いて設置作業に取り掛かった時点でおかしくなった。

 馬鹿な大学生と思しき奴らが奇声を上げながら突っ込んできて、その後にサラリーマンが続き、それを止めようと警官が増員され、人を傷つけてはいけない縛りのあるボブが困惑し、エヴィが狼狽え、まるでコントか何かのように事態はどんどん複雑化。


 この混乱を収集するのは、魔法の力を持ってしても至難の業だろう。


 ーーですがご安心を! 作戦指示書にはきちんとこうなった場合の対処法も書かれています!


 俺はマイクの音量を上げた。


「諸君、諸君らのワンコロにかける情熱は大いに理解した。その勇気、大いにケッコウ」


 声音を落として、


「だがしかし、ワガハイにも面子というものがある」

『............そーめん食べたくなってきました』

『金髪、それはめんつゆ』


 ねえ、今いいところなんだからやめてよ、ねえ。


「諸君らがこれ以上抗うというのなら、ワガハイにもーー」


 考えがある。

 台本通りそう続けようとした所、帰ってきたのは何十もの罵声の嵐だった。


「ふざけるな!」

「黙れ!」

「だいたいお前、さっきから卑怯なんだよ! さっさと降りてこい!」

「ちょっ、ちょっと! 犯人を刺激しないで......」


 警察の静止もなんのその、集団というのはここまで人の気持ちを大きくするのだろうか。それとも、普段馴染みのない暴力の気配に気が立ったのだろうか、中には届きもしないのにペットボトルを投げつけてくる輩もいる。

 あ、落ちたのがエヴィに当たった。


「ふむ、ならばよし」


 そんな群衆を尻目に、ドローンから飛び降りる。

 地上から見やすい高さまで降りているとはいえ、その高さは10メートル。建物でいえば4階の高さにもなるそこから、無防備に飛び降りーー


「お、おりてきた......」

「あの高さから!?」


 着地。

 ヒーローのような派手な着地でなければ、当然、腰が引けた無様な着地でもない。当たり前のように。なんでもないことのように、直立のまま降りる。衝撃は、一瞬だけ液体化することで逃して。

 そのまま、見せつけるようにステッキを回転して、地面に叩きつけた。


「諸君らの心を一人一人、テイネイに折っていくとしようか」

『おおー、すごい! 朱羽さん、すごいですよ! マントがはためいて............なんというか、その。今までになくカッコいいです!』

『地上の反応も悪くない』

『こっからこっから! 少年、やっちゃエ!』


 そこまで褒められるとテンション上がるな。

 よし! あんまり乗り気ではなかったけど、エヴィの書いてた決め台詞とやらもやってやるか。


 確か、こう、指を強く打ち鳴らして......そのまま手のひらを上に向けて、人差し指を向ける感じで!


「さあ、ショータイムだ」


 ............決まったのでは?


『少年。それはダサい』

『えー! かっこいいじゃないですか!』

『............酔っているのかな? 自分に』


 アルベリカさんの口撃力ぱないっす。






◯ ◯ ◯ ◯ ◯






 地上に降りた俺の役目は簡単だ。


 ーー力を見せつけて、黙らせる。


 それだけ。それだけのことなのに......こうも人が多いと、なかなか思い通りにはいかない。


「こ、こっちくるぞ!」

「逃げろ! 逃げろー!」


 逃げる背中は無視して、前へ。


『黒い上着の男。その後ろ、青い眼鏡の男。その右隣、オレンジのパーカーの男』

「了解」


 インカムからのアルベリカさんの指示に従い、順に倒す。

 黒い上着の男は袖を引きつつ足をかけて転ばせ、眼鏡の男は杖で叩きつけ、突っ込んできたオレンジのパーカーを背中を起点に投げ飛ばす。そこまで力を入れていないにもかかわらず、大袈裟なくらい吹き飛んでいく3人を通り過ぎて前へ。


「俺だって! 俺だってええええ!」


 と、ここで横から入ってくる別の男。


『該当なし』


 ちっ、あーもう! めんどうだな!


 構えも何もなく、ただ真っ直ぐ突っ込んでくるだけのこいつに、格闘技経験はおそらくない。

 よって先程の3人......芦屋さんが用意したスタントマンのように吹き飛ばしても、受け身が取れずに怪我を負うかも知れない。一歩間違えば、頭を打って死ぬこともあるだろう。俺たちは犯罪者だけど、あくまでも目的は魔法少女を救うこと。その過程で無闇矢鱈に人を傷つけることはできない。


 だからーー。


「エヴィ!」

『了解です! ボブ!』


 吹き飛ばす。

 背負い投げの要領で勢いよく飛ばした男は、落下地点のボブともつれ込むように倒れた。ボブが下敷きになって男に怪我はない......はず。あとはボブに任せれば簡単に意識を奪ってくれるだろう。


『前から2人! いずれも該当なしだ!』


 計画段階では、乗り捨てたドローンに搭載されているカメラから、スタントマンのリストと顔を照合。その結果をアルベリカさんが俺に伝え、俺は優先的にそっちを狙う......予定だったのだが。

 思っていたより、一般人が多い。


「エヴィ、すまん。頼む」

『あいさー!』


 1人をボブに押し付けるように蹴り飛ばし、2人目をさっきと同じ要領で投げ飛ばす。 

 着地点にボブはいないが、


『召喚』


 そこは、エヴィとの連携でなんとかしてくれる。

 エヴィの召喚能力は人数不足の組織にとって生命線だ。よって少し離れた位置から、かけているサングラス型のモニターを通じてこちらをサポートしてくれている。目視できる範囲ならどこへでも、何人でも召喚できるとか、改めてチートだろ。


『朱羽君! 前から警官だ!』

「そこの君、止まりなさい!」

「囲むぞ」

「「はいっ!」」


 前から四人。

 今までで一番多い人数だが......今までで一番楽だ。


「抑えろっ!」

「フハハッ! ケッコウ! やってみるがいい!」


 陣形から見て、前三人が警棒と体術で動きを止めて、残りの一人が手錠をかける、おそらくはそう言う作戦なのだろう。発砲許可はまだ出てないのか? いや、まあ、これだけ人がいれば流れ弾が怖くてどっちにしろ撃てないか。

 でも、全て関係ない。何故なら。


「液体化」


 鞭のようにしなる右腕が、四人をまとめて吹き飛ばした。

 受け身を取れるよう意識は残しておいても、飛ばされた先にはボブがいて、アルベリカさんの開発したスタンガンで効率よく意識を奪ってくれる。よって死傷者はゼロだ。多少なりとも体術の心得がある警官なら派手に飛ばしても問題ない。

 もちろん細心の注意を払ってはいるけど............それでも怪我をしてしまったら、それはもう申し訳ないが仕事として割り切ってもらうしかない。


 だから、頼むからーー。


「どきたまえ」


 戦わないで済むなら、それに越したことはない。

 しかし、戦わなければ、力を見せつけるという目標が達成できなくなってしまう。本当に、ここら辺は加減が難しいのだ。相手はエヴィやメイリンさんのような超人ではなく、一般人も混ざっているのだ。できればきちんと訓練を受けた人間が三、四人ずつウェーブになって襲ってきてくれれば見栄えも良く、手加減もやりやすくて助かるのだが......。


『設置、完了しました!』


 と、そこでエヴィからの通信が入る。


『朱羽君、撤退だ』

『了解』


 やっとか。

 降りてきたドローンに飛び乗った。


「では諸君、ゴキゲンヨウ!」


 風を切る音と共に俺の体は上へ上へと浮かび、数秒もせずに、地上全体を見渡せる高さまで達した。

 パトカー、救急車、そして何故か消防車まで。ボブが消えた後も、下は右往左往の大混乱だ。そして、その中心には黄金に光る俺の像ーー。


「なんだこれ」


 いや、本当......なんなんだろうこれ。

 まるで悪い夢から覚めたような気分だった。人の目に届かない高さまで登ったことで脱力感と倦怠感が一気に襲ってきて、俺はたまらず膝をついた。


「こういうのじゃないだろ、こういうのじゃ」


 なんかもう、早く帰って寝たい。それだけだった。




次の更新も来週です。よろしくお願いします。

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