誰もが認める悪いこと①
遅くなりました。二章開始ということもあるので、軽く登場人物のおさらい。
早坂朱羽:本作品の主人公、元子役。能力は液体化。
エヴィエラ:本作のマスコット枠。愛称はエヴィ。スキンヘッドにサングラスの黒人男性「ボブ」を無限に呼び出せる能力を持つ。
メイリン:中国からやってきた天下無双流獣心拳の使い手。人外。胸はないあるよ。
アルベリカ:天才科学者。包帯で目を覆っているが視界は良好だ。
芦屋勘蔵:元総理大臣。孫バカ。
誰もが認める悪いこと。そう言われた時、世間一般の人々はどのような行為をイメージするだろうか。
詐欺。窃盗。暴行。殺人。
なんとなくだが、共通してこんな感じのイメージを思い浮かべると思う。俺たち世界征服推進連盟は、前回の電波ジャックを経て、かなりの知名度を得ることができた。ここで一発、誰もが認める悪い活動をかまして、名実ともに悪の組織として日本全国に認知される......それが俺たちの次の目標だ。
当初の予定では、それは銀行強盗。
殺人とかよりは心理的なハードルが低く、大きな銀行をターゲットにすればそれだけで話題になる。何年前かの三億円時間が未だにテレビで特集されているのはよく見るし......なにより、映画やドラマなどの悪役が銀行強盗しがちなのもいい。俺たち世界征服推進連盟のイメージづけにピッタリだろう。派手だしね。
アルベリカさんが考えた実行計画が発表され、あとはもう行動に移すだけかのように思われたその時ーー口を開いたのは、我らが空気読まない全一女ことエヴィエラだった。
「やっぱり、泥棒は良くないんじゃないですか?」
こいつは今更なにを言ってるんだろう。
「銀行には僕の作った預金システムと、評価の高い融資先を無償で提供する。盗んだ分以上の補填はするつもりだ。あくまでもこれはパフォーマンス。そう割り切って欲しい」
「うーん、でも......」
「不満かい?」
「いや、その......」
「金髪、ハッキリ言うが上策アルヨ」
アルベリカさんとメイリンさんの2人から促され、柄にもなく悩んだ様子で。大それた犯罪に躊躇しているのかとも思ったけど、どうやらそういう風でもない。
「その、あんまりやりすぎると、魔法少女の人たちが怖がっちゃいませんかね......?」
............なるほど。それはそうだ。
いくら魔法を使えるとはいえ、相手はなんの訓練も受けていない、そういう意味では普通の女の子。俺たちからすればやられる気満々でも、向こうが怖がって動いてくれなければ、そもそも戦いが成立しない。
有名になることだけに気を取られていて、その後のことはあまり考えていなかったな。アルベリカさんはどうなんだろう?
「懸念点の一つではある。しかしーー」
「そういえば、私の孫はアクション映画すら見れない怖がりだった」
何事かを反論しようとしたアルベリカさんが、何かを悟ったような無表情で天を見上げた。
「よし。すまないが、計画を練り直してくれたまえ。次はもう少し......あれだ。若者風の言葉でいう、マイルドなやつで頼む」
「そんな、僕の完璧な計画が......」
「朱羽さん、マイルドって別に若者の言葉じゃないですよね?」
「お前なあ。ボツになったのはお前のせいでもあるんだから、責任持ってしっかり手伝ってやれよ」
「えー!? なんで!?」
この時の俺は、「アルベリカさん大変だなあ」なんて、あくまでも他人事だった。それよりも、この後に提案する悪魔男爵改名及びキャラ変案の原稿の最終チェックの方が大切だったからだ。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ーーあの時、全力で止めておくべきだった。
『朱羽君、準備はいいかい?』
「ええ、まあ」
後悔してももう遅い。
後には戻れないところまで来てしまったのだから。
『これから1分後、君を東京第三区上空10メートルの地点まで降下する』
「はい」
インカムからアルベリカさんの確認が飛んでくる。
その言葉に釣られて思わず、今まで見ないようにしていた足元に目をやってしまった。
「......高い」
俺が立っているのは、アルベリカさんが開発したという乗用ドローンだ。縦横せいぜい2メートルの足場はこの上空1000メートルの地点ではかなり頼りないが、特殊な磁場を発しているため俺が落ちることはまずない......らしい。アルベリカさんを信じるのであれば。
訓練では激しい動きをしても立っていられたし、俺の液状化の魔法を使えば、この高さからでもわんちゃん............いや、無理か。
スカイツリーより高いんだぞ。いくら液体でも普通にべちゃってなって終わりだわ。
『降下後、例の作戦を実行に移す。先に待機しているエヴィエラ君にはこちらから合図を送るから、君はボブが行動している間場を持たせてくれたまえ。警察や自衛隊が出てくるようであれば指示書の通りに適時対応。とにかく君は、そこから落ちないようにだけ気をつけてくれればいい』
「ああ、うん。了解です」
『検討をーー』
『少年少年! ナア、今どんな気持ち? どんな気持ち? 自分で自分の像をーー』
『ーー検討を祈る! 降下!』
ブツッ。
そんな音を残して通信が途切れた。
「どんな気持ち、ねぇ」
正直に言うなら不安しかない。果たしてうまくいくのだろうか、絶対に上手くいかない気がする。
「まあ、やるしかないんですけど」
心臓がふわりと浮くような感覚の後、遊園地のフリーフォールなんか目じゃないスピードで体が落ち始めた。これだけは、何度経験しても慣れない。
耳元でびゅうびゅうと風を切る音が聞こえる。
最初は風の勢いで目も開けられないほどだったが、目標地点に近づくにつれ少しずつ速度が落ちてきて、ようやく地上を確認できる程度の余裕は出てきた。
目下に映るのは、この大都会東京でも有数の人口密集地帯ーー東京第三ステーション。またの名を、旧渋谷駅。
10円玉くらいの大きさの人々は皆ソワソワしていて、どこか落ち着きがない。どうやら、今のところうまく行っているようだ。
『............におかれましては、階級社会に支配され、今日も死んだ目で箱詰めされているようでーー』
「よし、こっちも間に合った」
地上では今、事前に録音した俺の音声を、駅構内に設置されているスピーカーや放送車を利用して周辺一帯に響き渡る大音量で流している。作戦の第一段階は、とにかく人の目を集めること。この場合は、耳だけど。とにかく注目されればそれでいい。
『ーーにより。実にキンベンですな!』
地上から遠いせいかうっすらとしか聞こえないが、出番のタイミングはわかる。後はなんとかして気持ちを高めないと......。
そう。地上から流れてくる音声は、電波ジャックの時の奇怪な口調のままである。悪魔男爵改名案及びキャラ変案は一応原作者と呼ばなくもないエヴィと、以前の黒パンツ事件(エヴィ命名)を根に持って最近、事あるごとに嫌がらせをしてくるメイリンさんからの激しい反対にあい、却下されてしまった。
「フハハハ......ワガハイ、ワガハイ! フハハハハ! このキャラに入ると言うのも、なかなか大変なのだぞ? ワガハイ。ワガハイ、ワガハイ」
ーーよし。
いよいよ。いよいよだ。
全国民を観客にしたヒーローショー。CGなんじゃない魔法と、最高の科学力でつくりあげる、いずれ魔法少女たちを救うことになる物語。
その前日譚が今日、始まるのだ。
『諸君、上を見ろ!』
バラバラと、見当外れの方向を見る人もいれば、真っ直ぐにこちらを見つけ、指差す人もいる。
やがて、目下全ての人の視線を集めたその時。
『朱羽君、始めたまえ』
「了解」
電子音とともに、俺のマイクに電源が入った。
ここからは、俺の生の演技を流すことになる。
「フーッハッハッハ! 諸君、改めてご機嫌よう」
頭は下げない。事前にエヴァに言われた通り、あくまでも自信満々に、己の存在を誇示するかのように両手を広げる。
「世界征服推進連盟幹部! 崇高にして高貴なる、恐怖の伝道師!」
全てのスピーカーが、一斉に不穏な音楽を流し始める。まるで安いヒーローショーのようなチープな演出だが、これくらいわかりやすい方が丁度いい。
「カツモクせよ! ワガハイこそ、悪魔男爵その人である!」
ステッキを強く打ち付ければ、マントがはためく。
反応は上々。こちらを指差して叫び声を上げる者、スマホを取り出して呑気に撮影を始める者、とにかくこの場から離れようと背を向けて逃げ出す者。これだけ人が集まっていると反応もそれぞれで結構面白い。人がゴミのようってこういうことか。
とにかく、注目を浴びているのは間違いない。
俺はマイクを押さえて声が拡散されないようにしつつ、インカムのアルベリカさんに問いかけた。
「............もう、ここで終わりで良くないですか? 十分注目は集めましたし。目標は半分達成ですよね?」
『だめだ。気持ちは僕もわかる、ものすごくわかる。でも、作戦に従ってくれ』
『そうだゾ! 少年、さっさとやるヨロシ!』
ああー、もう! やり切るしかないか!
「ではまず、諸君らにとって記念すべき世界征服推進連盟の活動開始の証として............」
俺は腕を天高く突き上げ、高らかに宣言した。
「ーー忠犬なんたらとか呼ばれているこのワンコロの石像を、ワガハイのゴールデンな像に変えてやろうではないか!」
............要するに、ハチ公像のことである。
『ひっ、ひーっひっ! 言った! 少年マジで言ったアル! ワガハイのゴールデンな像! ひひっ!』
『笑うなっ! 僕だって、こんな馬鹿馬鹿しいことやりたくなかったんだ!』
外野だけどインカムがうるさい。
『朱羽さん、朱羽さん。おかしいです、大都会とは思えないほど静かになっちゃいました! そんなに怖がらせちゃいましたかね? やっぱり交換はやめにして、ハチ公の隣に設置とかに妥協しましょうか?』
そして、わかってはいたけど世間の反応は薄い。
マジでこのバカを手伝わせたのは失敗だった。
というか、徹夜続きで疲れていたアルベリカさんはともかく、これにゴーサイン出した芦屋さんは一体どうしたんだ。あの人、孫が絡むとIQが低下する傾向があるんじゃないだろうか。
こんな仕事、さっさと終わらせてしまおう。
「我が忠実なる僕達よ、現れよ!」
『あ、ちょっ、ちょっ! まだ準備できてないんですって。もうちょっとかかりますよ! ボブ! ボブ! 早く出てきて!』
もうやだ。
銀行強盗の方が絶対よかっただろ、これ。
次話は5月25日に投稿予定です。




