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悪の組織にも幕間を! 〜戦闘訓練〜

リハビリがてらの閑話です。

時系列的にはテレビ局ハイジャックの少し前になります。


「ピュイィィッッ!!」

「それは見えてる!」


 鳥の鳴くような奇声と共に頭上から襲ってくるのを防ぎ、反撃のステッキを振りかぶる。


「でもこれは見えてないアルな」

「ぐっーー」


 くそっ、この空間だけ慣性の法則働いてないだろ。どうなってんだよマジで。

 右足と左足の2連撃。空中で足踏みをするようなその離れ技に体制を崩され、さらに一回転。


「おしまいネ」


 踵を落とすその強力な一撃をーー耐える。


「ふーん、いいジャン」


 面白そうに笑みを浮かべるメイリンさんだが、対する俺の心は全く晴れていなかった。手加減されている。エヴィエラよりも、ずっと。エヴィエラと戦っている時のメイリンさんはもっと激しい。まるでアニメの登場人物のように瞬間移動しながら格ゲーのような動きで連続攻撃を繰り出し、当たり前のように空中を蹴り、空気を震わせる。

 今のだって、一度は見たことがある攻撃だった。しっかり考えていれば対応はできた。


 最近、バトル物のアニメ見るの辛いんだよなあ。「今の攻撃は一度見た」とか言って余裕綽々受け止めてる強キャラとか見ると俺には才能ないんじゃないかって気持ちにされる。いや、フィクションだってことはわかるんだけどさ。時を止める能力とか、重力を操る能力とか強すぎだろ。俺なんかスライムだぞ。


「戦いの最中に考え事とは、余裕アルな」


 やっば! 見失った!


「お仕置きーーネッ!」

「液体化っ!」


 間一髪。

 首のあたりを狙って放たれた手刀を、ゲル状になることで回避。鞭のようにしならせることで反撃。こうなった俺は、一種の無敵状態だ。


 最近になってようやく、なんとか戦闘中でも使えるようになってきた液体化。魔法少女の魔法に対抗するため......というよりは、目下最大の目標であるメイリンさんやエヴィに追いつくため、アルベリカさんの手も借りつつこの週末を利用して研究してきた。今まで使ってきた棒術は全く使えなくなるし、スライム人間がチャイナ服の美女を襲う「それなんてエロゲ?」な絵面は最悪だが、体を変化させることで攻撃を回避したり、物理攻撃の襲撃を吸収したりと応用次第で使い道はいくらでもありそうだ。


「届けっ!」


 攻撃面でも、この通り、10本の指をそれぞれ液体化することで鞭のように伸ばし、間合いを大幅に伸ばすことができる。

 そしてーー。


「あっちゃー。やってしまたネ」


 伸ばした指の一本が、メイリンさんの足を掴むことに成功した。この機会は逃さない! 

 

「あわわ、メイリンさんが朱羽さんの触手に捕まって......18禁です! 18禁ですよこれ! メイリンさんがやられちゃいます! 性的な意味で!」


 俺の指のこと触手って呼ぶのやめろマジで!

 失礼な外野に一瞬集中を乱されはしたがーー勝てる。勝てるぞこれ。掴んだ腕に力を込め、メイリンさんを宙に吊り上げ、引き寄せる。

 

「いける!」


 上空からメイリンさんが降ってくる。あとは、反対の手を実体化し......突き出すだけ。チェックメイト!


「無形」


 一瞬だった。まるで映画のフレームが切り替わったみたいに、メイリンさんの体勢が変わる。無防備に落ちてくる体勢から、踵を大きく振り上げた攻撃の体勢へと。

 あまりにも早いその動きについていけなかったのか、チャイナドレスが翻り、布面積が少ないサイドストリングの下着が無防備な状態で晒される。

 

「黒......」


 履いてたんだな、この人。いつも見えないからてっきりノーパンかと......まあいいや。どちらにせよ、踵落としはさっき受けたから覚えている。液体化した今の状態なら、衝撃をうまく受け流せば直撃でも余裕で耐えることができる。

 つまり、俺の勝ちは揺らがない。


「私のパンツは安くないアルヨ」


 振り下される処刑人の斧。

 肩にかかる衝撃は想定の範囲内。だった。


「犀ノ型ーー震脚」


 体内に流しこまれるナニカ。それは一瞬で許容量を超えて暴れ狂い。破壊し、突き進む。これっ、やばい。まるで水の中に重いものを投げ入れたかのように、俺の体は弾け飛んだ。



 



「............あー、死んだかと思った」


 見覚えのある壁。何度かお世話になったこともある医務室のベッド。うちのベッドなんかとは比べ物にならない寝心地の最高級品だ。もちろん掛け布団も海外から輸入した一点物の高級羽毛布団。エヴィが言ってた福利厚生がしっかりしているというのは嘘じゃなかったらしい。この分だと給料も期待できそうだ......まあ、土方も真っ青な運動量と、日常的に死にかける分の対価として釣り合っていると思うかは人によるだろうけど。

 でもなんか、枕だけいつもと比べて硬い気がする。こう......細いというか、芯があるというか。やっぱり寝具でも枕だけは別物なのかな。安物でも使い慣れたものを使った方がいいとか、そういうことなんだろうか。


「ゴッホン!」


 と、そこで背後から咳払い。エヴィの声で間違いない。起き上がるのもめんどくさいから、寝っ転がったまま、寝返りを打った。


「昨夜は激しかったですね、朱羽さん」

「............は?」


 一瞬だけ、本当に意味がわからなかった。

 どうやら俺はエヴィと同じベッドで寝ていて、それだけでなく、腕枕までされているようだ。そんな状況であるから、当然色々と近い。碧眼に映る自分自身がはっきりと認識できてしまいそうな距離だった。


 でも時間が経てば、布団を被ったその肩が小刻みに震え、口の端が何かを堪えるようにピクピクと持ち上がっているのがわかる。


「...........お前な、心臓に悪いだろ」

「あは! ドッキリ大成功、ですね!」


 ばさり、と布団が持ち上がる。


「膝枕じゃあ芸がないかなと思いまして、腕枕してみました! どうです、ドキッとしました?」


 ドキドキ、ワクワク。そんな音が聞こえてきそうな表情になんかイラっとして、思わず頭に力を込めてグリグリと押し付ける。


「ちょっ、イタッ! いたいです、朱羽さん!」

「よかったじゃないか。ほら、もっとやってやろう」

「いたいっ! 今ゴリって言いましたよ、ゴリって! 乙女の体になんてことするんですか!?」

「少年。起きてるカー?」

「「ーーッッ!?」」

 

 弾かれたように距離が開き、二人同時に立ち上がる。ほとんど無意識の行動だった。

 

「............それ、なにしてる? 二人で」

「なんなんですかね」

「あ、あは?」


 意味もなくストレッチの真似事をする俺たちの間にはなんとなく気まずい雰囲気が流れていたが、気にしないことに決めたのか、メイリンさんが口を開く。


「少年、体はダイジョブか? ドイ・ムジー。ちょっとやりすぎたヨ」


 中国語はよくわからんけど、両手を合わせ、目を伏せている様子から見るに謝ってくれているのだろう。ここで俺がサムズアップしながらにこやかに「絶対許すか、バーカ」とヒンドゥー語で言ったらどんな反応が返ってくるのか気になったが、ヒンドゥー語も全くわからないのでやめた。


「なんともないです」

「ならよかたネ..................殺してしまたか思ったヨ」

「え、今なんて?」

「なんでもないアル」


 それは絶対なんかアルでしょ。

 

「そういえば、今日の朱羽さんはノリノリでしたね」

「たしかに」

「あー、まあな」


 なにやら腕をイカのようにクネクネさせたエヴィが、わざとらしいキメ顔を作る。


「行ける! 触手アターック!」

「おいこら、喧嘩売ってんなら買うぞ」


 何度も言ってるけど指だからな、あれ。ちょっと普通以上に伸びてクネクネしてあと地味にテカってるかもしれないけど、指だから。断じて触手じゃないから。あとそんな顔もしてない。


「でも金髪の言う通り、今日の少年は気合入ってたネ。何かあったアルか?」

「ちょっと、今日どうしてもやりたいことがあって」


 医務室送りにされた分際で「勝つつもりだった」は恥ずかしすぎるので、ぼかして伝える。

 それを受けたメイリンさんは、何故か顔を赤くして、チャイナドレスの裾を押さえるようにモジモジし出した。


「そ、そんなに見たかったアルか?」


 ............なにを?


「今日このあと定例会議でしょう? 模擬戦でいい結果出せれば、発言権も上がるかなと思ったんですよ」


 まあ、結果ボロボロだったわけだが。

 よかった、エヴィの魔法が『心を読む魔法』とかじゃなくて。よく考えたら、メイリンさんはいつも手加減して戦ってくれているのに、その状態のメイリンさんにちょっと有利とったからって『絶対勝てる!』とか思ってんの控えめに言ってめちゃくちゃダサいからな。しかも見事に負けてるし。

 魔法を使えるようになったからって調子に乗ってたかもしれない。この組織の人間は基本化け物。魔法が使えるようになってようやく背中が見え始めた辺りだ。今一度気を引き締め直さないと。


「発言権って......何か言いたいことがあるなら、遠慮なく言ってください。私たち、相棒でしょう?」

「いや、悪魔男爵があまりにもダサいから芦屋さんに言って設定変えてもらおうと思って」

「下っ端のくせに調子に乗らないでください」

「相棒はどこに行ったんだよ」


 ふーん。と、わざとらしく鼻を鳴らしたメイリンさんが、ニヤニヤした顔で近づいてくる。

 エヴィのいる方とは反対の耳に顔を寄せて。小声で。


「嘘ついても、私にはお見通しネ。少年のエッチ」


 そんな意味のわからないことを言った。確かに勝つつもりで内心ドヤ顔かましてたけど......エッチ? 微妙に噛み合ってない気がする。そういえばさっきのメイリンさんの発言も意味わからなかったな。そんなに見たかった、とかなんとか............。

 俺の困惑が伝わったのか、メイリンさんがどことなく焦り始める。その雰囲気は、自分では面白いと思ってた渾身のギャグの肝心なオチの部分が理解されず、面白さを自分で説明する人にどことなく似ていた。


「だって、私を釣り上げた時に「行ける!」って言って、蹴った時に「黒」って............」


 黒? そんなこと言ったっけ? あ、そういえばメイリンさんのパンツ。


「ーーえ、もしかしてメイリンさん、俺がパンツ見るために魔法使ったと思ってます?」

「あ、ウン」

 

 うわー。この人、うわー。それとも単に俺が相当エロいやつだって思われてるだけ? どっちにしろ、この勘違いは相当恥ずい。特に、思いっきり口に出しちゃってるところが。ちょっとエッチなお姉さんムーブで年下を揶揄いたかったんだろうな、きっと。

 冷や汗を垂らすメイリンさんにサムズアップしながら「自意識過剰ですよ」ってハングルで言ったらどう言う反応が返ってくるか気になったが、ハングルはわからないのでやめた。


「自意識過剰ですよ」


 かわりに、日本語で言った。さて、反応は?

 

「金髪。さっき少年にパンツ見られた」


 ーーそれは反則だろ。




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