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大罪ダンジョン教習所の反面教師~外れギフトの【案内人】が実は最強の探索者であることを、生徒たちはまだ知らない~【Web版】  作者: 御鷹穂積
第四章◇反面教師と子うさぎとダンジョン

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32◇落ちていく




「よかった! 無事だったのね……って――やっぱり」


 モネのところに辿りついたところで、巨狼が水に戻って消えた。


「やっぱり助けに行くと思ってたわよ」


「俺じゃない。子うさぎが勝手に飛び出したんだ」


「はいはい。とにかく行くわよ」


 ネズミ耳の少年はサハギンが背負い、彼が『蜘蛛の垂れ糸』に触れることで姿を消す。

 今頃地上に戻っている筈だ。


 フィールがそれに続き、アレテーの番になって、それは起きた。


「え」


 彼女の足元に黒が広がっていた。


 それは底が見えないほど深く、狙いすましたように彼女の真下に出現した。


 どこへ落ちるともしれない、突発的な転移ゲート――『落とし穴』だった。


「レティ……!!」


 モネが手を伸ばすが、アレテーを掴むことは出来ず空を切る。


「先生……」


 ――子うさぎは助からない。


 どの層に落ちるかは不明だが、今のアレテーは第一階層の安定空間が精々の能力しかない。


 ダンジョンは各層ごとにまったくの別物と化すこともあり、今の彼女で対応できるとはとても思えない。


 アレテーは死ぬ。死体はきっと見つからない。仮免許だけが、いつか誰かに拾われるかもしれない。


 これが、彼女を見る最後の瞬間だ。


 そこまで、頭が回っていたのに。


 ディルは気づけば、『落とし穴』に飛び込んでいた。


「ディル!!」


 落下しながら、モネに言伝を頼む。


「リギルを呼べ」


 次の瞬間、視界が黒に染まった。


 ◇


 なんだか、顔が温かい。

 温かい雨が降っているみたいだ。


 目を覚ますと、涙をボロボロ流すアレテーが視界いっぱいに広がった。


「ぜんぜぇ……!」


 どうやら、アレテーに膝枕されているようだった。

 ディルはすぐさま起き上がり、周囲を確認。


 薄暗いが、視界はなんとか確保できている。

 洞穴か何かのようで、高さは人が立てるほど、奥行きはそうない。見える位置に行き止まりが見える程度だ。触ってみる。岩のような質感。


「先生っ、ごめんなさいっ、わ、わたしの所為で!」


「うるさい泣くな。それよりお前、怪我は?」


「ありまぜぇん……!」


「俺もだ。落ちてどれくらい経った」


「わ、わたしは、先生が起きる十分くらい前に、目を覚ましました」


「外を見たか?」


 彼女は首を横に振った。

 涙の粒がぱらぱらと散る。


「見てくるからここで待ってろ」


 洞穴を出ると、そこは――地獄だった。


 いや、違う。


 第四階層・憤怒領域。


 表現世界(テクスチャ)は火山。

 眼下をマグマの河が流れ、頭上高くは赤茶色のごつごつとした火成岩で覆われている。

 赤く照らされた地下空間は、ここが安全でこれが観光なら、感動を覚えるほどに幻想的で、美しい。


 しかしここは危険地帯で、これはダンジョン探索だ。今となってはダンジョン遭難と言っていい。


 ディルは洞穴の中に戻る。

 アレテーは不安からか、震えていた。


「実は、俺は気休めを言うのが苦手なんだが」


「は、はい……」


「俺たちが生きて戻れる可能性は、かなり低い」


 じわり、と彼女の瞳が水気を帯びる。


「ごめんなさい、先生。ごめんなさい……」


「おい、低いと言ったんだ。ゼロじゃない」


 ぱちくり、と彼女が瞬きをする。


「まず、第四階層の安定空間を目指す。分かるか、安定空間」


「だ、ダンジョンは、たまに、地形が変わります。でも、何度変化が起きても、ずっと変わらないエリアがあって、それを安定空間と、言います」


 洟をすすりながら、涙声で説明するアレテー。


「そうだ。『蜘蛛の垂れ糸』も『黒い丸穴』も、変化の度に位置が変わる。だが安定空間にあるものだけは、ずっとそこにあるわけだ。自力で戻るにしろ助けを待つにしろ、そこを目指す」


「せ、先生も所長も、かつて通っていて馴染みのあるルートだから、でしょうか……」


「そうだ、頭が回ってきたみたいだな。一旦既知のルートに入れば、あとは俺の能力と経験でなんとか戻れる……可能性がある」


「かのうせい……」


「絶対死ぬって状況よかマシだろ。リギルのやつらも救出部隊を出す筈だしな」


「は、はいっ。そうではなくて、その……わたしを助けようとしなければ、先生は無事に戻れたのに、と……」


 彼女の顔が罪悪感に歪む。


「それはお前が考えることじゃない」


「そんなっ。だって、落ちたのはわたしで……」


「見捨てりゃいいのに、追ったのは俺だ。お前が責任を感じることじゃない。というか、鬱陶しい」


「うぅ……」


 ディルは彼女の白い頬を両手で挟んだ。


「むぎゅっ」


 彼女を正面から見据える。


「よく聞け、アレテー。二人で生還するには、まともな状態のお前が必要なんだよ。俺を助けるつもりがあるなら、うじうじしないで泣きやめ。水分の無駄だ」


「…………」


「出来るか?」


「……ます」


「あ?」


「で、出来ます! わたし、頑張ります!」


「それでいい」


 ディルは、ニッと笑った。


 それから、彼女を睨む。


「あと、うるせぇ」


「はっ、すみませんっ」


 慌てて口許を押さえるアレテー。


「じゃあ説明するぞ、よく聞け」


 生きて帰るべく、ディルは口を開く。




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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど。主人公とヒロインが2人っきりで大ピンチ。 良いですね。 2人には不謹慎ですけど、凄く見たいシチュエーションですね。続きが気になる。 主人公のサポート能力と、アレテーの万能水魔…
[良い点]  随分お人好しな反面教師もいたものだ。
[一言] ディルが格好良すぎる! 惚れる!
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